第55話 たべちゃうぞ

 二日目、時間はもうすぐ夜。

 

 「Zzz… んぁ…?」


 どうやら瞑想してたのに寝てしまったか、らしい蝋燭の火はとっくに消えて溶けきっていて地下室は闇に包まれている。


 寝落ちするなんて住職がいたら喝が入ってるな。

 

 今何時だろうか?こう暗いんじゃ朝か夜かもわからない、あとどれくらいで出られるかわからないのが少し不安な気持ちにはなる


 でも… 今はかなり気分がいい、心も体も落ち着いてるし熱もない、外界のシャットアウトが実を結んだようだ。


 ただしフレンズ化は解けていない、油断ならない状況だ。


 ならばこのまま運動してサンドスターを使いきるのが得策か、あるいは落ち着いてる時間を有効に使って書物を読み漁り時間がくるのを待つべきか。


 約束の三日までどれくらいだろう?不安と同時に退屈であることにも変わりない。





「博士、シロはおとなしいですね?」


「アライグマ以外は誰も通っていないですからね、単に状態に馴れたのか時間が解決しているのか… と言ったところでしょうか?」


 初日こそ何かがぶつかるような音や叫び声のようなものが聞こえたが、二日目の今はアライさん以降の干渉はなく大変落ち着いているシロ。


 長の二人もそんな静かな彼が逆に心配ではあるがあの閉じ込めるという行為が無駄ではないことに少し安堵しているのも事実、だが二人とて監禁しまうなど本来は不本意なのだ。


「アライグマにはシロの尊厳に関わるのでなにも言いませんでしたが…」


「えぇ、あれはあとでちゃんと説明したほうがいいのです、並んで料理をする姿は端から見れば仲の良い兄妹のようにも見えますからね?このような事で関係が悪くなるのは流石に見てて心が痛むのです…」


 「それに…」と付け加えると、博士はあの料理のおいての師弟関係に今後の期待を込めて言う。


「これから今のようにシロが動けない時が来た時、料理ができる者がいると我々もいただきますに事欠かないのです!」


「かばんは毎日来れないしヒグマはハンターですからね… 暇なやつが必要なのです」


 そう、忙しい彼女達と比べた時、その点アライグマとフェネックは自由にやりたいことをやって生きてるタイプなので適任である。


 さらにアライグマのようなタイプは頼られていると認識させればいい気になってやってくれると長は考える。


 自分達は腹が満たされ、彼女は承認欲求が満たされるのだと。


「しかも!アイツの作るうどんも、なかなかどうしてクセになるのです!じゅるり…」


「確かに!うどんだけは一人前なのです、じゅるり…」 


 ともあれ明日の朝にはシロも復活予定である。

 

 このまま干渉せずにいればきっとシロならコツを掴むとかで発情期を終わらせることができるだろう、長達は今夜でジャパリマンは終わりだと夕日が沈むのを眺めながらニヤリと笑っていた。


「それにしても、かばんがシロに冷たい… みたいな話は結局なんなのでしょうね?助手?」


「なんにせよ、かばんも顔を出さないので理由がわかりませんね?」


 シロが発情期に苦しむ寸前の悩みだった。

 彼は既にかばん嫌われているだろうと落ち込んでいるが、それは違う。


 かばんにはかばんの考えがある…。


 しかし二人もシロもそれを知る由がない、それどころかいつも隣にいるサーバルでさえその理由がわらないのだ。

 あるいは頭のいいフェネックやタイリクオオカミ、ツチノコが常に隣にいればそれにも気付いていたかもしれない、もちろん長の二人もだ。


「ヒトの思考は複雑過ぎて我々にも計り知れないのです」


「ですね、世話の焼ける生き物なのです」





 そして、二人が夕食を簡単に済ませ日が沈みきった頃、そこに強めの光が2つ図書館に近寄ってくるのが見えた。


「博士、あれは?」


「…バス?」


 光はジャパリバスのヘッドライトだった、そしてそこに乗っているのは四人。


 かばん、サーバル、アライグマ、フェネック… ゴコクエリア帰還組である。

 

 みずべちほーからシロのことを知ったかばんは彼のことが心配になり図書館に駆け付けたのだ。


「丁度良くかばんの登場ですか、しかしこのタイミングは…」


「まずいですね…」


 バスが図書館前に止まると博士と助手も出迎えるようにその場に降り立った。

 それを見て慌てた様子で降りてきた四人、そしてかばんは挨拶もなしに二人に用件だけを伝えた。


「シロさんに会わせてください」


 長は予定通りの対応に移る。


「「ダメです」」


 しかし、かばんとて強い意思を持ってここに足を運んだ、引き下がる訳がない。


「理由を教えてください」


「後ろの二人に話したのです」

「せーしんしゅぎょーです」


「シロちゃんはそんな理由で酷いこと言わないよ!」


 そう、本来ならばそんなことなない。

 しかし今はそうはいかない状況なのだ、彼女達を守るために。


「言えない理由なんですか?」


「「…」」


 やれやれまったく、大事になってきたのです…。 


 そう、まさに言えない理由。

 

 博士達だってこの際「発情してます」とハッキリ言ってやりたかったが、それだとあまりにもシロが可哀想だしアイアンクローが飛んでくる可能性も否めない、故にに黙り混んでいる。


 そんな二人の様子を見て、表情に不安の色を出したかばんが続けて言った。


「やっぱり… 病気なんですね?」


「「えっ!?」」


 お、大事になってきたのです…。


 そう、勘違いである。



 いや、若いオスには当然の事態なのかもしれない。


 言うことはできないとは言え長の二人も早とちりでかばんを暴走させないために必死になった。


「いや、むしろ健康なのです!」

「健康故の悩みなのです!」


「えー!わかんないよ!ちゃんと教えてよ!」


「そ、それは言えないのです…」

「言いたいのは山々なのですが…」


 言えない、言うわけにはいかない。

 理由とは裏腹にだんだんとサーバル達がヒートアップしてくる。


「わたしたちシロちゃんが心配なだけだよ!理由くらい聞かせてよ!」


「これもシロのためなのです!」

「今日はおとなしく引き下がるのです、明日の朝には出てくる予定なので…」


 サーバルをなだめ、なんとか引き下がるように言い続けた。

 しかしサーバルだけではない、彼の監禁を知り皆カリカリしてるのだ。


 そして助手が明日の朝まで待てと言ったその時だった、それは起きた。


「いい加減にしてください!シロさんに会わせてください!なにか困ってるなら助けてあげたいのが当たり前じゃないですか!」


 その気迫に全員が気圧された、温厚で気の弱いかばんが声を荒げて怒鳴ったのだ。


「かばんさんが怒ったのだ…」


「初めて見たね~?」


「それだけ心配なんだよ!ねえお願い博士達!話くらいさせてよ!」


「「…」」


 驚いた長はまた黙り混んだ、博士にいたってはシュッと細くなっていた程だ、しかし負けてはいられない、気を強く持ち言い返す。


「な、何度言われてもダメなものはダメなのです!お前たちの為でもあるのですよ?」

「それにしてもかばん?お前は最近シロを避けていましたね?なのになぜそこまでして会いたがるのです?」


「そ、それは…」


 僕達の為でもある?

 と博士の言葉に疑問を感じつつ、同時に助手の言葉に弱気になるかばん。


 そう避けてなどいない、今のかばんにはそういうデリケートな悩みがある。

 しかしその反応を見て二人はここぞとばかりにそこを攻める、続く言葉はかばんの胸を締め付けていく。


「先日シロは“嫌われてしまった”と落ち込んでいたのです」

「なにか気に触ることをしたのか?と気にしていましたが、わからないと悩んでいたのです」


「ちが… 僕はそんなつもりじゃ…」


「おまえとシロの間に何があったのか知りませんが、今のシロに会うのはやめておくことです」

「事実が現実と違うものだとしても、シロの中でお前は“自分を嫌ってる子”という認識なのです」


 その言葉は彼女の胸に重くのしかかった。


 好き故の行動だった、傷つけるなんてつもりは少しもなかった。


 ただ迷惑がかからないように少し距離をとっているつもりだったのだから。


「嫌いなんかじゃ… 僕はそんなつもりは… だって、だって僕はシロさんが…」


 ボロボロと涙をこぼし自分のしたことの愚かさを感じるかばん、彼に迷惑が… と言いつつ、この時自分が傷つかない為に逃げていたんだと知ったのだ。


「ん~!うみゃー!」ガバッ!


「ぐぇ!?何をするのですサーバル!」


「かばんちゃん泣かすなんてたとえ博士でも許さないんだから!」


 かばんの涙を見たとき、親友サーバルは長に立ち向かった。


「博士を離すのです!サーバrぐへぁ!?」


「アライさんも同感なのだ!」


「この島の長だからって~?やっていいことと悪いことがあるよねー?」


「「離すのですよー!?」」


 サーバルに続き、二人もかばんの涙を見て博士と助手を取り押さえた。


 例え島の長だとしてもサーバルは親友を泣かすものを許さなかったのだ、そんなとっさの行動に二人は動けない。


「かばんちゃん!ここはわたしたちに任せて行って!」 


「シロさんを助けてほしいのだ!」


「きっとかばんさんならシロさんも話しをしてくれるよー?」


「みんな… わかったよ!ありがとうみんな!」タタタ


 ゴシゴシと涙をぬぐい図書館へ走るかばん、彼女にはもう迷いはない。


「かばん!行ってはダメなのです!」

「綺麗なままではいられなくなるのですよ!?」


「うみゃみゃー!ちょっとじっとしてて!」


「邪魔はさせないのだ!」


「理由を言いなよー?それ次第で離すか決めるからさー?」





 待っててシロさん、今行きますから!



 かばんは荷物からランタンを取り出し火を灯す。


 パァっと辺りを火が照らしつけ階段の向こうにある扉が見た、何重にも鍵が掛けられている。




 前にこの階段を降りた時、怖がる僕の為にシロさんは手を握ってくれましたね?自分は夜目が利くからと前を歩いてくれて、優しくてとても頼りになって…。


 思えばあのときシロさんは僕を抱き抱えて階段を上がってくれましたね?とっさのことで急いでそうしたのかもしれないけど、思い出すとなんだか照れくさいです。


 いつからこういう気持ちだったのかわかりません、もしかしたら最初に出会ったときからそうだったのかもしれません。


 僕はシロさんが好きです。


 だからもし苦しんでいるシロさんを放ってはおけない!彼の為に僕ができることをしたい!




 階段を降りきった時、かばんはドアを止めている物をすべてどかし鍵もすぐに外した。


 後は開くだけ。







 タンタンタン


 そんな足音に俺は驚いて飛び起きた。



 誰!?もう約束の時間?博士か?


 いや違う、この匂い… 慎重な足音… まさか、そんなはずはない。


 かばんちゃんか?


 どうして?彼女は俺を避けていたはず… とにかくまずい、大分慣れたから今は少しドキドキするだけだが、面と向かうと流石に自信がない。


 ガチャン ドン ガチャガチャ 


 手際よくドアを開けようとしている、博士達は何をしてるんだ?顔を見たらどうなってしまうか俺にもわからないんたぞ!


 あぁ… かばんちゃんの顔を思い出しただけで体が熱くなってきた… 早く止めないと!




 

 僕がドアに手をかけたその時でした。


「開けちゃダメだ!」


「!?」ビクッ


 ドア越しシロさんが叫びました、強め声で、それだけはやめてという感じです。


「シロさん?お話をしに来たんです、どうか顔を見せてください?」


「そ、それはできない!とても危険なんだよ!」


「どうしてですか?なにか困っているなら僕が力になります、きっとなんとかして見せます!だからシロさん?どうか部屋に入れてください!」


 彼の必死の反対を押しきり、僕はとうとう部屋の扉を開けて中に入ることができた。







 ダメだダメだダメだ!


 心や体はそう思っていた、しかし本能がそうはさせなかった。


 開くドア、そして人影… 本気で止めるつもりならドアを押さえることができた、なのにそれをせず、俺は火照る体抱き締めながら部屋の隅に逃げた。

 

 それは本能の部分が彼女を招き入れてしまえと体に指示しているからだろう。


 そして彼女は俺の側に歩み寄る、俺は角で丸くなり体を抑えていた。


「シロさん…?」


 すぐそこだ、目の前だ、顔をあげれば彼女はそこにいる。


 見てはダメ、まだ耐えてる、顔さえ見なければまだギリギリ…。


 そんな思考とは裏腹にゆっくりと顔をあげて前を向いたその時。


「かばんちゃん…」


 ランタンの灯りに照らされて数日ぶりの彼女の顔をこの目に焼き付けた、その時なにかこう… ぷっつりと張りつめていたものが切れてしまった感覚になり俺は…。


 俺は…。


「…ッ!」


「きゃあ!?」 



 彼女の腕を乱暴に掴みそのまま壁に押し付けた、その時驚きと怯えの混じったような声を出した彼女はそのままランタンを落としてしまった。


 灯りが消えて暗闇に二人だけが残される。


 夜目の利く俺は彼女の顔が暗くてもよく見えていた。


 驚き、困惑、恐怖… そんな目をしていた。


「ハァ…! ハァ…! ハァ…!」


「シロさん… どうしたんですか?苦しいんですか?」


「俺、俺は… 君が… ハァ… ハァ」


 欲しい欲しい欲しい欲しい!衣服を破り捨てて滅茶苦茶にしたい!俺だけのものにしたい!抱かせろ!抱かせろよ!


「欲しい!欲しいよかばんちゃん!君が欲しいんだ!」


「ひゃ!?シロさん…!?」



 強く強く彼女を抱きしめるのと共に、理性はサーッと黒板の文字みたいに消されていく。

 


… 




 “君が欲しい” そう言われてシロさんは僕の背中に手を回してグッと抱き締めました。


 その言葉がどういう意味かくらいわかります。


 “食べちゃうぞ”ってことです。

 もちろん本当に食べるのではなく、そういう意味かと。


 でもこの時すべて理解しました。


 博士さん達が嘘をついて止める理由、シロさんが地下室で一人籠ってみんなを避ける理由が…。


 これは“発情期”。


 シロさんは動物にある発情期というものに入ってしまったんだと思います。

 

 理由はいろいろあると思う、取り敢えず何かしらの理由で彼は性的興奮を抑えられない、恐らくサンドスターのイタズラです。


 ギュウと抱き締められ時彼の体の熱がよく伝わり、熱くて苦しそうにしているのもよくわかりました。


 息は荒く両の手は僕のシャツを背中からギュッと掴んでいます。


 僕は…。


 きっと僕はこのまま…。






 かばんちゃん!かばんちゃん!かばんちゃん!

 もう頭はかばんちゃんでいっぱいで、思考回路はショート寸前というやつだった。


 何も考えられない。


 衝動を抑えきれない俺は彼女の背中から乱暴にシャツを掴みそのまま思いきり服を…。


 ビリビリビリィ!


 破り捨ててしまった。


「きゃあぁ!?」


 とっさに彼女は両腕で前を隠していたが、白く張りのある綺麗な肌が露となり、それだけでどんどんと理性は消えていく。

 俺はやがて言葉も忘れて彼女を貪り尽くしてしまうのだろう。


 止めようが無い、怪我をさせないことを願うばかりだ。


 彼女は壁にぴったりと背中をくっつけて帽子で体を隠し始めた、暗くてもその姿はくっきりと見えている… そして俺は壁に手をついて逃げ道を塞いでいるんだ。


 とても悪いことをしているが、この時悪いことだとは少しも思っちゃいない。

 呼吸をするのくらい当たり前に彼女の服を剥ぎ、そのまま交わろうとしている。


 乱暴で目は血走って息は荒くて、まさに今の俺は野獣のそれと同じだ。


 でもそんな俺に、震えた声で彼女は言った。



「シロさん、辛いですよね?苦しいですよね?」


「ハァ…ハァ…」


「もし… 僕なんかでいいなら、それでシロさんが楽になるなら…」




「食べても… いいですよ…?」



 彼女は諦めて俺を受け入れると言った。


 理性が消える…。


 でも俺はその一瞬、理性が消える一瞬に…。






 僕が勇気を出してそう言った時、シロさんが動きました。

 

 あぁこのまま僕は滅茶苦茶にされちゃうんだな… って怖くもなったけど、相手がシロさんならと思うとほんの少し嬉しさと期待みたいなものを感じてしまいました、僕は悪い女の子ですね。


 でもシロさんがその時にしたことは…。



「…ッッッ!!!」


 来た!?


 僕はギュッと目を閉じました。

 でも僕の体には指一本触れられた様子はなく、恐る恐る目を開けました。

 その頃は僕も暗さに目も慣れてきていて、シロさんが何をしたのかすぐにわかったんです。


 ゆっくりと目を開いた時、彼は…。


「フーッ… フーッ…!」


「…っぁ!?シロさん!?」


 自分の腕に噛みついていたんです、ぐっと牙が食い込むくらいに。


 血が滲み、ポタリポタリと下に落ちていく。


「シロさんダメ!すぐに離して!?」


 彼は腕から口を離したけれど、そのままフラフラと自分のシャツを僕に羽織らせて部屋から追い出しました。


 僕は守られた、彼から彼自身に守られた。


「あ…!シロさん!シロさん大丈夫ですか!?シロさん!」


 ドンドンと何度もドアを叩き名前を呼ぶとすぐに返事がありました。


「ごめんね?許してくれなくていいから… はぁ… はぁ… ッ!痛ッ!?」


 ドサッ… と倒れる音がして、すぐに僕がドアを開けるとシロさんは向こう側で倒れていました。


 血を止めないと!手当てしないと!


 それから博士さん達が飛んできて…。







 三日目の朝…。


 俺はいつもの寝床で目を覚ました。


 まぶし…。

 ほんの二日三日の話だけど、久しぶりの光が眩しくてしばらく目を開けられなかった。


 そして猫耳がない。


 頭に触れると猫耳が消えていた、サンドスターが切れたようだ、俺はヒトに戻った。


 そして右腕に包帯、あれだけ強く噛んでやったのに痛みは少ない。

 恐らくこの傷を消すのにサンドスターが使われたんだろう。


「あ…」


 かばんちゃん… 看病してくれたのだろうか?俺に向かい突っ伏している、俺のシャツを着て…。


 俺の気配に気付いたのか、彼女はゆっくりと目を覚ます。


「ん… あ、シロさん?起きたんですか?気分はどうですか?」


「ボーッとするよ… おはようかばんちゃん?」


「おはようございます!腕は痛みますか?」


「平気… かばんちゃん?あの…」


 全部覚えてるよ俺は、服を剥いだのもハッキリ覚えてるよ。


 謝って許されることなのか?あんなことが?君の体をもてあそんで滅茶苦茶にしてしまうところだったんだよ?


「あ、これお借りしてますね?流石に大きいです、えへへ… 似合いますか?」


 でも彼女は怒ったりとか怖がったりとかほんな素振りは一切見せず、立ち上がりクルっと一回転して俺にシャツ姿をよく見せてくれた。

 丈も袖も長いので短めのワンピースを着ているようだ。


 よく似合うよ?最高に可愛い、グッとくる… なんて言えるような立場ではない。


「ごめんね… 俺は取り返しのつかないことを…」


「いえ、僕が悪いんです… 博士さん達にもシロさんにも止められたのに部屋に入ったから…」


 違う、君が悪いなんてそんなことひとつもないんだ。


「心配してくれただけじゃない?ありがとう、嬉しかった」


 そうだ、そしてそんな君を俺は…。


「シロさんも僕を守ってくれました」


 彼女はそう言うと俺の腕を包帯越しに優しくて撫でてくれた、でもその手はまだ震えている。


「これは守ったとは言わないよ、最悪の事態を回避しただけ」


「でも僕は守ってくれたと思ったんです!あの、シロさん?」


「…?」


 呼ばれたので彼女の方を見た、すると彼女は身を乗り出しこちらに近づくと。


 チュッ 


 柔らかな唇の当たる感覚、優しく俺の頬にキスをした。


「え…!?」


「僕は… シロさんのこと嫌ったりしませんよ?だからその… それじゃあ失礼します!///」


「あ、ちょっと!?」


 そのまま走り去ってしまった。


 今のはどういうつもりで…。


 あぁ… どうしよう…。


 胸が苦しい、まだ発情期終わってないのかな?

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