第53話 やきもち
木造の倉庫を港に設置、運び込まれた物騒な無機物たち、調査として定期的に山を巡回するハンターの皆さん
これでしばらくパークは平和だね、また厄介なことが起きるまではだけど…。
でもとりあえず今はこれだ。
\おつかれさまー!/
パーティータイム!みんなお疲れ様!俺は料理だから休めないけどね!
「僕もお手伝いさせてください」
「かばんちゃん!でもいいの?疲れてない?」
「多分、シロさんほどではないと思いますよ?って… ふふっ、こんなこと前も話しましたよね?」
確かに、そういえば始めて会ったときもそうどったかも。
じゃあ甘えちゃおうかな?正直かばんちゃんが入れば百人力だからね、それからもう二人ゲストをお呼びしました。
「じゃあヒグマさん、お願いします!」
「まぁ、また無理されても困るしな?」
ハンターからヒグママさんに来ていただきました!それから今回は特別なお手伝いさんをゲストとしてお呼びしましたよ~?こちら!
「アライさんなのだ!」
「おいおい、お前料理なんかできるのか?」
「シロさんに習っているから大丈夫なのだ!うどん作りならすでにお墨付きなのだ!」
我が優秀なる生徒のアライさん、うどんばかり作り過ぎてうどんだけは追い付かれつつある。
「うどんって… あの太いやつですね?」
「うん、せっかくだからみんなでうどん作ろうか?力自慢のヒグマさんもいることだし」
「力なら、自信あるぞ!」
まずはみんなでうどんを打って、それから出汁をとりスープを作りという感じで進められていく。
そうして出来上がったうどんをみんなに食わせている間に別のものも作っていくとそういう算段なのだ。
「んしょ!ふぅ… 大変ですねこれ?」
「あ、大丈夫?そうだ、かばんちゃんスープ作ってくれる?なんかヒグマさんが五人ぶんくらい働いてくれるからそろそろ作らないと」
「ごめんなさい… じゃあそっちをがんばりますね?」
失念気味ではあったけどみんな女の子だから本来はかばんちゃんみたいに非力なのが普通だ、そりゃこんなに細い腕でうどんバシバシ打てないよね?ヒグマさんはできるけど。
「なぁ、その… それなんだ?打ってる時にボソボソ言ってるのは?」
「美味しくなる魔法の言葉なのだ!ヒグマもやってみるのだ!」
「そうなのか?それじゃあそうするか」
「じゃいくのだ!せーの!」
「「イットキノマヨイ…」」
よしよし順調だな、アライさんもヒグマさんも仲良くうどんをコネクリ回している。
これからあっという間に全員分出来上がる、みんなで作るから前よりずっと楽だし。
火山ではかばんちゃん様子が変だったけど今は元気そうだ、むしろ上機嫌に見える。
料理しながら楽しそうに歌なんか口ずさんでるもの。
「ほら何回だって♪何回だって♪フンフンフンフンフーンフフン♪」
リズムに乗って少しだけ体を揺らしながら鍋の中身をかき混ぜている、見ているこちらまで楽しい気分になってくるというものだ。
「上手だね?」
「え?そうですか?シロさんのほうが上手に作るじゃないですか?僕なんてまだまだですよ?」
「そっちもだけど上手だけど歌のことだよ?声も綺麗だし楽しそうだなー?って、山では浮かない表情だったから心配だったけど、なにかいいことでもあった?」
「ふぇ!?」
まさか聞かれていないとでも思っていたのか、突如肩がピクンと跳ね上がり驚きの表情のまま見る見る赤面していく。
「あわわ!?聞いてたんですか?いえその… パーティーって楽しいなって!」
「そうだね、パーティーだもんね!」
「あの… はい///」
そっかそんなに楽しかったのか、そんなこと言われたら気合い入っちゃう、パーティーで浮かない顔してたら損だものね?
でも女の子って不思議、落ち込んでたり元気になったり大変そうだ。
「そういえばシロさん?お耳と尻尾がそのままですよね?たしかその姿だと疲れるって」
「あぁこれ?実はね…」
そう、実は今フレンズ状態なのだ。
そしてこれは戻らないのではない、戻れないんだ。
山に長くいてサンドスターを取り込みすぎた為か降りてからでもフレンズ100%な状態、この症状を博士たちに聞いてみたけど俺みたいなやつは前例がないのでわからないんだそうだ。
「大丈夫なんですか?どこか痛かったりしないですか?」
「平気、むしろ元気だよ?元気ハツラツ!」
「それならよかったです」ニッコリ
「うん、ありがとう!」
そんな彼女の眩しい笑顔についドキッとしてしまったのは内緒。
まぁこの状態で困ることはない、耳と鼻が強くなるから少し馴れないというだけ、肉体のスペックは上がるから力も強いし足も早い。
フライパン折り畳めるんだぜ?やらないけどな!
「ほっとけばサンドスターが切れて元に戻るさ、でもほら!触るなら今だよー?」
期間限定なことに代わりはない、ラジオネームけも要素大好きさんであるかばんちゃんの前に俺が耳をピョコピョコ尻尾をフリフリしながらそう言うと彼女は…。
「え?い、いいんですか!?」
とワクワクした表情で俺を見た、目がキラキラして本当に動物の特徴が好きなんだなと思います。
よし… と・く・べ・つ… だぜ?キラッ☆
「いいよいいよ~!ほら撫でて撫でて~!」
というわけで、頭を突きだして少し甘えてみる。
こんな気持ちになるのはやっぱりかばんちゃんと母をダブらせているのかもしれない、なぜか今は特になる、これもサンドスターの不思議だ…。 ハッ ハッ ハッ… ナデテナデテ?
でもそんな衝動に耐えるべきだったのだ。
俺も正直者満更でもないのだが時と場所が悪かった、既に遅いが激しく後悔した。
…
「じゃあ失礼します…」
始めはなんでもなかった、ベンチに並んで座り耳を撫でてもらっていたんだが、これがだんだん妙な感じになりやがて…。
「えへへ、よしよーし?」ナデナデ
「ウニャ~!?テクニシャ~ン!?」
「へぇ~?ここがいいんですか?なんか可愛いですね?」ナデナデ
「あーダメダメダメ!?ニャ~ン!」
な、なんだこれは!?なんか前に触られた時と違う!なんか!クソ!気持ちがいい!
並んで座っていただけのはずが今となってはゴロんと横になり頭をかばんちゃんの膝に任せている、つまり膝枕なのだ。
「なになにー?シロちゃんすっごく気持ち良さそう!いいなぁ~?かばんちゃん!わたしもわたしも~!」
「ちょっと待っててね~?順番だよ~?」ナデナデ
「いいよ!代わろうよサーバルちゃ…!?ニャ~!尻尾らめぇ~!?」
うぅ… みんなが… みんなが集まってくる。
今俺ができることと言えば開き直ってかばんちゃんの膝枕に甘えることだけだ… くっそ情けないが
しかしだ!みんながそんな俺を見ている!今俺は子猫みたいにかばんちゃんの膝枕でゴロニャーゴしているという醜態を晒しているんだ!みんなに見られてんだぞ!こんなことありますか!?
「あーっはっは!なんだぁシロぉ?姉ちゃんにもやらせろよ~!」
「どーしたシロ!情けないぞ!シャキッとしないか!」
「見てください博士、シロの弱点をみつけました」
「今度試してみましょう助手!」
姉さんも師匠も博士たちも勝手だよ!なぜ!なぜ俺がこんな目に!クソ!せめて誰も見てないときにしてほしい!気持ちいいのは否めない!
「意外な姿だね~?シロさぁん?」
「あのときはかっこよかったヒーローのシロさんがふにゃふにゃなのだ!」
「お願い今は見にゃいで…」クタァ
そうして一通り撫でくりまわされ公開ニャンニャンショーを披露し尽くした後ようやく俺は解放された。
「はぁ… はぁ… 満足… できた?」
「ご、ごめんなさい… 毛並みが気持ちくてつい」ナデナデ
\ウミャ~!カバンチャンソコイイヨ~!/
はぁ… 二度と人前ではできない経験だった、でも俺を見て興味を引いたのか猫科のフレンズが列になっている、ジャガーちゃんが恥ずかしそうに並んでるのが大変シュールだ。
「かばんちゃんにあんな特技があるとは…」
「へっ!ずいぶん嬉しそうなマヌケ面だったな?」ムス
クタクタになった俺のところに仏頂面したツチノコちゃんが現れた、きっと俺の醜態を笑いに来たんだ… 悔しい!
「ひどいなぁ… ツチノコちゃんの弱点も教えてよ?尻尾かな?そうでしょ?」
「知らん!」プイッ
「待ってよ~!なんで怒るのさ~!」
…
さっきはやり過ぎてしまったけど、なんだかとても触り心地が良くて僕としては満足です。
でもシロさんはここを離れるとすぐにツチノコさんと話し始めた…。
シロさん… やっぱりツチノコさんと…。
「…」ムス
「うみゃ!?」
「あ、ごめんねサーバルちゃん!?痛くなかった?」
「大丈夫、ビックリしただけだよ?」
二人の姿を見ていると何故だが無意識に力が入ってしまいサーバルちゃんの大事なお耳を握り絞めてしまった。
こんなの良くない、だってシロさんもツチノコさんも大事な友達なのに… どうして僕はこんな気持ちになるんだろう?
これも僕がヒトだから?ヒトってこういう生き物なの?
ゴコクにいるとき、一度だけカコさんに言われました…。
「君も女の子なんだし、いつか恋でもしてみるといいんじゃないかしら?… あ、パークでは難しいかな?フフ…」
恋をするのは難しい… いえ、そんなことありません、とても簡単でした。
この苦しくてモヤモヤしてしまうのが恋なら、僕はすごく簡単にそうなってしまいました。
僕はシロさんが好きです。
それはサーバルちゃんや他の子に対する好きとは違うんです… 見つめるだけでドキドキします、一緒にいると嬉しく楽しくなります、つい歌いたくなるくらいに。
でもそれと同時に。
他の子と仲良くしてるのを見たらついムッとしてしまいます、彼が自分以外の子と親密にしているのが辛く苦しい、ムカムカする。
これはやきもちと言うそうです。
でも… シロさんはきっとツチノコさんが好きなはず、だってあんなに仲がいいし助ける時は命懸けだったから。
もし…。
もし僕が同じようになってたら… あんな風に助けに来て抱き上げてくれたのかな?
なんて… えへへ…。
でもシロさんは僕とは難しい話ばかりしたがるし、きっと特別に想ってはくれない。
飽くまで友達、きっとそれ以上にはなれない。
だからお二人の邪魔はできません、それに仲を裂くようなこともしたくない。
そんなことをして二人に嫌われるほうが僕はずっと辛い。
距離… おかないとダメかな?気持ちが落ち着くまで。
その方がいい、時間が経てばきっとこの気持ちにも整理が付いて楽になる。
苦しいなぁ… でもそれまで我慢しないと…。
「はぁ…」
…
数日後の図書館。
「なぜかなぁ…?」
「わかりませんね」
「お前の体は特異なので」
戻らない… もう三日は経ったのにお耳も尻尾もご覧の通りだよ、いったい何が起きているんです?
「なにか変化はないのですか?」
「野生解放とも別のようですね?」
「いや特には… 少し体が熱い感じかな?野生解放みたいなザワザワはないよ?
あ、そうだ!話は換わるけど相談があるんだ」
「言ってみるのです」
「サクッと解決してやるのです」
自分の体の悩みもそうなのだけど… なんだかパーティーの日からかばんちゃんが俺に素っ気ない気がするのである。
次の日の朝挨拶をした時彼女は普通に返してくれたが、すぐに「じゃあ失礼します」とそれ以上話すことはないと言わんばかりに去っていく、前はそれから談笑があったのに。
数人で話してると目を合わせないようにしてる気がする… 向こうから話しかけてはこないしこちらから話を振ってもすぐに終わる。
なぜ?気のせい?
「お前… 何をしたのですか?」
「心当たりがあるでしょう?吐くのです」
「なにもしてないよ!パーティーの日までは猫耳を撫でられる関係だったんだよ!?」
「どさくさに紛れてなにかしたのでは?」「ヒトのメスはデリケートなのです、変なところを触ったのではないですか?」
「な!?してないよ人聞きの悪い!」
微妙に刺さる言葉だったがそれはかばんちゃんも悪いので膝枕の件は関係ない… 関係ないはずだ、俺は被害者だったそうだろう?←自業自得
「かばんは港の倉庫や火山の異変の件でちょこちょこ顔を出すのです、でも言われてみれば確かにシロが顔を出した時も長く話したりはしてませんね?」
「まぁその時にさりげなく聞いてやるのです、それまで自分のしたことを思い出して反省するのですよ?」
「ありがとう… ってだからなんもしてないって!」
…
さらに翌日のこと、とうとう俺の体に異変が起きた。
「はぁ…はぁ…」
「どうしたのです!」
「すごい汗ですよ?」
「いや、大丈夫… なんか今日は二人ともやけに可愛くない?」
「はぁ?いつもと変わらないですよ?」
「急に御世辞など… やはり妙ですね?」
いやいやいや… 謙遜しなさるな長よ?可愛いよ長?クソ、くりっとした可愛い目で見やがって、小さいわりにいい体しやがってこの… 何?まさかこれは!?
「は!?近づかないで!」
「なんなのですか!」
「人が心配してるというのに!」
「どういう状態かわかった…」
初めてのことなので混乱したが、女の子を見て過剰に反応し飛び掛かりたくなるこの衝動はまさかあれか!?
「はぁ…はぁ… 俺はしばらく地下室に籠る、絶対に扉を開けないで?いや寧ろ開かないように外から鍵を掛けたほうがいいかもしれない」
「そこまでするのですか?」
「いったい何が起きたのですか?」
い、言いたくない!できれば言いたくないけど二人に伝えておかないと取り返しのつかないことになる、仕方ない。
「その… 内緒にしてね?」
「いいから早く言うのです!」
「どうしたというのですか?」
「は、発情期… じゃないかな?」
「「あぁ…」」←納得
本来、フレンズになった瞬間そういうのはなくなるそうだ。
人間がそういう雰囲気にならないとそうならないように普通は見境なくメスに襲いかかることはない、そもそもフレンズはみんな女の子だ。
しかし俺は違う。
ハーフであり男として生まれた俺はフレンズよりも獣の特性が強く出てる場合がある。
獣がヒトの姿をとったのがフレンズだが。
俺の場合は人がフレンズの姿をとっているということなのかもしれない…。
故にこういうこともあるんだろう、初めてのことだから勝手がわからんがそれこそ見境なく襲いかかる訳にはいかない、いつまで続くかわからないけどサンドスターが悪さしてるに違いない、だが使いきれば治まるはずだ。
「ではシロ?辛いでしょうが静めるために適当なフレンズと一緒にさせるわけにもいきません」
「皆を守りたいというお前の気持ちを尊重するのです」
「うん… 絶対誰も近づけないでね?誰か来たら精神修行とでも言っておいて?」
「わかったのです」
「期間はどうするのです?」
「はぁ… とりあえず3日かな、3日後に話し掛けてくれる?」
何てこった、博士たち見てたら服をビリビリに破きたくなってきたぞ… 発情期怖い。
これはこのまま外にいたら何人の女の子に唾つけるかわかったものではない、早くしないと性豪ホワイトライオン丸が誕生してしまう、心を落ち着けてサンドスターの消費を待つんだ。
そうして火照る体を冷ますため地下室へと降りていく。
「シロ、耐えるのですよ?」
「三日後のこの時間に声をかけるのです」
ギイ… バタン! ガチャン!
ドアが閉まり硬く鍵が掛けられた。
中は暗い、真っ暗だ… でも夜目が効くのでどこになにがあるかはわかる。
数日分の食事としてジャパリマンもあるしとりあえず筋トレでもして心を無にするんだ、精神統一だ。
野生瞑想は無傷の今ムラムラして暴れたくなるだけだ、危険だ。
蝋燭に火を灯してひたすら体を鍛える地下生活が始まった、出た頃には結果にコミットしてるだろう。
あぁ~クソ!ムラムラする!
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