第51話 おくのて

 地面をピョンピョン跳ねてるヤツは知ってる、フワフワと浮いてるヤツも何回も見たことがある。


 でもあんなヤツ知らない。


 鳥みたいに高く、そして自由に空を飛び回るるやつなんて見たことはない。


 リカオンは混乱していた、さっきまで地面に生えていた不恰好なセルリアンが今は空高く飛び上がり自分達の頭上を覆っているのだ。


 その大きさは、一瞬空が見えなくなるほどだ。


「全員散れぇぇぇえ!!!」


 ツチノコの掛け声と共に散り散りになる4人、リカオンはそれを見て我に返る。


「ッ!?ダメだ!みんなを守らないと!」


 そう意気込んだはいいがあんなに高くては自分のジャンプでは届かない、即ち飛んでいる限り攻撃方法はない。


 そんななにもできない自分に酷く嫌気が差した。


「あれはなんだ!なぜあんな風に空を飛べるんだ!?」


 ツチノコも同様に混乱していた、あんなに大きな物が空を飛ぶところを初めて見たのだ、ヒトの遺物を依り代に誕生した何か…

かばんやシロなら答えが出せるのかもしれない。


 しかし、今やるべきことははあれの正体を探ることではない。


「ダメだ冷静になれ!あれがなにとか今はいい!どうすれば突破できる!?」


 彼女は考えるがあれが空高く飛びたってしまった今どこにも隠れるところは無い、戦うにもその術はない。


 がむしゃらに逃げるしかないのだ。


 今ヤツは散り散りになった彼女達のいずれかをターゲットに絞ろうとしている。


 囮になることを選んだリカオンからは生憎離れている。 


 ではツチノコか?アルパカか?あるいはフェネックかアライグマか?


 そうして品定めをしているのか、あるいはより強い“輝き”を持つ者から狙いを定めているのか。


 その答えは…。





「かばんちゃん!あれ!」


 バスで火山に向かう四人にもハッキリと見えていた、頂上を飛び回る大型セルリアンだ


「うわぁ!?大きい!?でもあの形、どこかで…」


「どうした! …おいおい、なんだあれは!?」


「大きい上に空を自由に… 厄介ですね」


 かばんは考えた。


 あれは… 図書館でもカコさんのとこでも見た、あれは…。


 “飛行機”!


 そう、紙で作った物ではない、正真正銘の飛行機の形をしたセルリアンだ。


 もしかして… 火山の頂上にあった“アレ”?あの時はあまり気にしていなかったけど、確かに飛行機のようなものが地面に突き刺さっていたように思う、あれの形を奪ったということ?


 これまで経験した様々な記憶がかばんの頭を巡った、その中で導きだした答え。

 

 火山に現れた飛行機セルリアン、そして以前シロやハンター達の前に現れた大群。


 即ち原因とは。


 “無機物”に当たったサンドスター。


 これがしばしばサンドスターロウというものに変質し、その無機物を媒体にセルリアンとなることがあるのだ。


 まさかあれほど大きな物に変わるとは誰も思わなかっただろう。


 何かがきっかけで飛行機に当たったサンドスターがセルリアンに変わった?特性を引き継いで空を自由に飛べるセルリアンに?


 非常にまずいことだった、かばんは前に自分が食べられてしまった時のことを思い出し、無意識に冷や汗を流した。


 

 もし… もしあの時の僕みたいなことに誰かがなってしまったら…?


 いや、そんなことはさせない!


 

「ラッキーさん?お願いがあります」


「任セテ」






 

 俺達が山に近づくと何かが飛び上がるのが見えた、それはでかくって緑色で、特徴的なその形のそいつも俺にはすぐになんなのかわかった。


 あれは戦闘機だ、火山に墜ちてたヤツ。


「あれは…」

「予想よりまずいことになっていますね」


「戦闘機のセルリアン!?急いで博士達!」


「わかっているのです」

「しかし、どうするのです?」


 どうするって?そんなの決まってるだろ!


「近付いたらアイツより高く飛んでほしいんだ!できるよね?」


「当たり前です」

「この島の長なので」


 落としてやるんだよ!


 グッと槍を握り締め皆の無事を願った。


 みんな頼むから無事でいてほしい、これも全部俺のせいだ… 俺の為に誰一人犠牲は出したくない。


 あそこにツチノコちゃんがいる… アライさんもフェネックちゃんもアルパカさんもリカオンちゃんもだ。


 どうか無事でいて、すぐに行くから!


 そしてアイツは仕留める!


 俺が!



 …




「アルパカ!誰でもいい!近くのやつ担いで崖を降りるんだよ!」


「残ったみんなはどうするのぉ!?」


「全員食われるよりはいい!助けを呼べ!」


 その時、セルリアンから先端がクチバシのようになった触手が伸びて5人を襲い始めた。


 一人ずつではなく、いっぺんに捕食するつもりなのだ。


「来たのだぁ!?」


「誰も逃がすつもりはないみたいだねぇ…!」


「みんななんとかやり過ごすんですよ!」


 間一髪5人はそれを回避、そこでリカオンはそれを好機と見た。


「そうだ!これを使えば!」ス


 地面まで伸びたセルリアンの触手を使いリカオンは駆け上がった、だが当然コアとなる石はヤツの背中にあるので決定打は与えられないだろう、しかし野生解放で少しでもダメージを与え弱らせることはできる。


「石までは届かないけど… えぇい!!」


 リカオンの輝く拳、その渾身の一撃がセルリアンの羽を抉る。


 一撃入れてやったことで落下しながらもニヤリと笑うリカオン、セルリアンは片方の翼にダメージを受け堪らずよろりと傾いた。

 

 「やった!アイツでかいけど前のヤツみたいに固くない!繰り返せば落とせるかもしれない!」


 ここに勝機を見出だすが、飛んでいる相手に対し陸生生物には部が悪いことには変わりない。


 華麗に着地したリカオンだったが… それは大きな隙を生む。


「リカオン来てるのだ!早く逃げるのだ!」


「え!?」


 攻撃したことでリカオンを集中的に狙い始めたのか、5本の触手は口を開きリカオンの目前まで迫っていた、着地を狙われたのだ。


「…!?」


 いやだ!?死にたくない…!?


 思わずギュッと体を縮めて目を閉じた。


 …が。


 まるでドヒューン!というような聞きなれない音が聞こえた、リカオンは目を開く。


 すると先程まで自分に向かい迫っていた触手の残骸が目の前に散らばってピクピクと動いていた。


「はぁ、無事… みたいだな?」


「これはツチノコがやったんですか?一瞬でどうやって?」


「奥の手だ、ただこれを使うとな… はぁ… 疲れる上に視界がぼやけるから使いたくないんだよ?ってそれはいい!さっさと立て!」


 具体的に何をしたかはわからない… だが無理をして自分を助けてくれたのはわかった、攻撃を加えたことであからさまに辛そうな彼女が次のターゲットに絞られた。


「は!?ツチノコ!一旦逃げましょう!」


「オレのことはいい!それより、お前の戦いかたを見てた!あれならいけるかもしれん!やれ!」


「でもツチノコが!」


「オレを囮にすればもう一度できる!今度はうまく石のとこまでいけ!心配すんなお前ならやれる!」


「そんなこと…!?」


 ツチノコと話しているが目が合わない、どうやら目がほとんど見えないのも本当らしい。

 

「アルパカ!ツチノコを連れて崖を降りてください!」


「わかったよぉ!」


「だめ… 間に合わない、そんな…」


「危機なのだぁー!?」





 クソッ… いよいよオレもおしまいか?まぁそんな都合よく助けなんてこないよな?単純に当たり前のことだ、タイリクオオカミの漫画じゃあるまいし、ヒーローなんてものは現実にはいやしない。


 リカオン、おまえはよくやってくれたよ?あんな戦い方するなんてさすがハンターだな、お前なら飛んでるセルリアンだって倒せるさ。


 アライグマ、お前のこと正直ポンコツだと思ってたが… 博士達の言う通り根性あるよな?紙飛行機飛ばすまでは感心したぞ?あとシロのこと教えてくれてありがとうな?


 フェネック、お前がさっきアライグマに言った言葉… まったくその通りだな、シロのバカはそういうことにすぐ責任を感じるから… まったく、今のオレにはさっきの言葉は耳が痛い。


 アルパカ、温厚なお前がここまで来てくれるとはな、アライグマに変わって礼を言っとくぜ… カフェはいいのか?お前を待ってる客が沢山いるだろ?紅茶、結構好きだったぞ?



 スナネコ?すぐ帰るって言ったのになぁ… ごめん…。



… 



 シロ…。




 最後に一度くらい会いたかった…。





 口を開いた触手がツチノコの手足に噛みついた、その時その痛みとは別の理由で彼女は涙を流していた。


 リカオンはツチノコを守ろうと爪を振るったが、手数に負けて弾かれてしまう… この時、彼女だけではない、皆がツチノコを救えないと己の無力さを呪った。


 ツチノコはそのまま引きずられ、宙づりになり、セルリアン本体に引き寄せられていく。

 彼女はこのままヤツの養分として輝きを根こそぎ奪われ、フレンズとしての生涯は終えることになるだろう。




「「「ツチノコォーッ!」」」




 4人の悲痛な叫びが、火山に響き渡る。




 じゃあな?まぁまたフレンズ化できたらその時は… まぁ仲良くしてやってくれよ?

 


 



 ズギャォォォン!!!



 彼女が諦めてしまったその時、轟音と共に何かがセルリアンの体を上から貫いた。


「なん… だ?」


 解放されたツチノコは目もよく見えぬまま空中に放り出される。


 すぐにガッと何かに受け止められると、自分が誰かに抱き抱えられたのがわかった。


 ツチノコは助けられたのだ。

 

 そして彼女を抱える腕は、温かく力強かった。

 


「よかった… 間一髪間に合った!」


 どうして?なんでお前がここに?


「大丈夫?助けにきたよ!」


 こんな… こんなタイミングで都合よくお前が来るわけないだろうが?


「なんで…」


「え?」


「なんでいるんだよぉ!このヤロぉ!?」


「えぇ… ツチノコちゃんが伝言残したんでしょ?」


 伝言?そうかスナネコから聞いたのか… いや適当に言ってみたが本当に来るとは思わなかった、まったく… まったくこの…。


「顔くらいすぐ見せろよ… ばかやろう…」


 シロ… 会いたかった…。


 無意識… とも言わないが、オレは抱き抱えられたままシロにグッとしがみき、そして泣いた。

 目がよく見えないからってのもあるし、単に怖かったからというのもある。


 死… とは厳密には違うのかもしれない、でも死ぬのがあれほど怖いと初めて知ることになった。

 

 でもそんな恐怖があっても、こいつの腕の中にいることでオレは安心感を覚えた。


 やがて恐怖も吹っ飛んだ。


「なかなか遊びに行けなくて… ごめんね?」


「仕方ない、許してやる… グスン」



 …


 

 セーフ、ツチノコちゃんを助けられたぞ!作戦は一応成功… だけど。


「ごめん、仕留め損なった… 石を砕くつもりだったのに」


「それはいい、助かったからな?ヤツはどうなった?」


 ツチノコちゃん、あれほど大きなものが目の前で派手によろけたのに状況が把握できていない。

 ってことはやっぱり、様子が変だと思ったら目が見えていないのか?でもなんで?セルリアンに視力を奪われたの?


「目、見えないの?」


「少しぼやけてるだけだ、すぐに治る」


 治るならいいんだけど… 少し休ませないといけないな。


「シロさん!後ろから来てます!」


 今のはリカオンちゃんか、彼女も一人でよくやってくれたよ、遠いけどあの戦い方も見えた… ハンターの知恵だね。


 それにしても懲りずにまだ来るか?やっぱりでかいだけに羽に穴を開けただけじゃダメか…。

 

 まぁそれはそれとして。


「ツチノコちゃんにぃ…  手ぇ出してんじゃねぇよッ!」ブンッ


 抱き抱えたままだが、片手に槍を持ち力いっぱい振りかぶる。

 直撃するとなんだかよくわからないクチバシみたいなやつがそのまま弾け飛んだ。


パカーン!


「すごいですね?さすがです」


「火口が近いからかな、サンドスターがでてるせいでここにくると少しハイになるんだよ?」


「よくわかんないけど… でも頼もしいです!」


 そう、実は俺自身もよくわかってない。


 でも好都合だ。


 みんなを怖い目に逢わせたあの鉄屑スクラップ野郎を叩き落とす力になるんだからなッ!!!


「アライさんフェネックちゃんアルパカさん!ツチノコちゃんを見てあげて!博士助手!油断しないで!」


「ハイなのだぁ!」「はいよー!」「わかったよぉ!」


「まったく無茶をするのです」バサァ

「あのまま落ちたらまた大怪我するところです」バサァ


 あんなこと言ってるけど、落下地点をちゃんと計算してくれてるのも知っている。


 そりゃちょーっと高くて怖かったけどね?


「シロさん!」「シロちゃん!」


 あれはジャパリバス?かばんちゃんとサーバルちゃんか!それに後ろには…。


「ここからはハンターの仕事だ!」


「リカオン、一人でよくやりましたね!」


「やっときたぁ… 死ぬかと思いましたよぉ… オーダーキツいですよぉ」


 続々集まる仲間たち、さらにその後ろにはなんと…。


「ラッキーさんに頼んで皆さんにも駆けつけてもらいました!群れの力を見せてやりましょう!」


「かばんちゃんってすっごいでしょ!」


「島中のフレンズ!?すごい…」


 どんどん集まってくる、彼女の一声でこんなにもフレンズ達が?見たことない子もいるし。

 

 俺が寧ろいらなかったんじゃ?


 さておき。


 バギーの回収がこんなことになるとは、アライさんにもあとでよく言っておかないと。

 

 ま、とにかく今は!


「それじゃ、反撃開始だ!」


「「「おー!!」」」


 



 そこからはすぐさ。


 まずヤツは攻撃を加えた俺を集中狙いしてきた、その時また変な触手を伸ばしてきたが捕まえて逆にみんなで引っ張ってやった。


 飛んでるならまずは落ちてもらおうというわけだ。


「せーのッ!!!」


「「「えぇーい!!!」」」


 落とすまではいかないけど動きを封じることができた、別方向から触手が来ても周りの子が止めてくれる、そのままリカオン式で攻撃攻撃攻撃!


 どんどん弱る飛ブリアン、その時埒が明かないからトドメを刺させろと立ち上がる子がいた。


「ツチノコちゃん!?ダメだよ休んでなよ!」


「仕返しがまだなんだよ!もう目も見える!」


 気が強いんだからもう… でも俺も返してやらないと気が済まないな、よくもツチノコちゃんをいじめてくれたな鉄屑め?


「博士助手!オレを持って飛んでくれ!上から石を狙い撃ってやる!」


「やれやれですね助手?」

「シロといい… 少し長使いが荒いのではないですか?」


「すぐに済む!頼む!」


 狙い撃つと言ったのか?一体化何を?気功波でも撃つわけ?



 文句言いつつもツチノコちゃんを上空まで連れていく長、そしてヤツの真上に到着すると彼女は高らかに叫んだ。


「おい!よくも仕事の邪魔してくれたなデカブツ!オレの奥の手をもう一度味わえ!」


 言い終わると目がボウっと青く輝く… そして。




 ドヒュゥゥゥゥン!!!!




 \えぇぇぇぇぇ!?!?!?/一同唖然


 勢いよく彼女の両の目から出たのはそう… 紛れもなくビームだ。


 その光線は見事石を撃ち抜き、この騒動も幕を閉じた。

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