第50話 みたことないやつ

「パークの危機なの…モゴゴ!?」


「騒ぐな!全員岩影に隠れるぞ!」


 5人は一旦バギーを手放して岩影に身を潜めた。

 幸い向こうは気付いていないようで、目玉をギョロギョロと動かし辺りを見回している、5人を探しているのかもしれない。


「よがったよぉ、見付かってないみたいだよぉ?」


「それにしても、大きいですね?あのときのアイツほどじゃないにせよ…」


 巨大セルリアン、一度かばんすら補食してしまった奴は頑丈でとても大きなやつだった。

 奴程でないにせよあの戦闘機に寄生したセルリアンは大きい、質が悪いことに違いはないだろう。


「あんなのがまたでるなんてねぇ?これからどうするー?」


「決まってるだろ、作戦通り一旦出直すぞ?なんとかここを突破するんだ!」


 作戦… 危険な時は一度下山して体勢を立て直す。


 5人はなんとか見付からずに山を降りたいところだが動くとヤツの目が姿を捉える、今まで見たこともない形のヤツはどんな動きをするかわからない、上手く身を潜めたものの実質八方塞がりであった。


「ダメなのだ!」


 しかし5人の内のただ一人、リーダーはこの仕事を諦めていなかった。


「必ずバギーをもって帰るのだ!」


 自分から始めた本来の目的、シロのバギーの回収は必ずや成し遂げる。

 アライグマからはそんな確固たる意志が感じられた。


 しかし、それは同時に自分の身をさらに危険にさらすこと、もしヤツに捕捉されたその時は…。


「バカなことを言うな!食われるぞ!」


「すぐそこにあるのに諦める事なんてできないのだ!」


「やめなよアライさん?みんなで決めたじゃないかぁ?」


「フェネックまで何を言うのだ!」


 皆彼女を止めた。

 結果が見えている、ただ走って回収して… それだけで済むはずがないのだ。


 間違いなく餌食になる。


「諦めるんじゃないです、体勢を立て直して出直すんです!」


「死んじゃったらなんにもならないよぉ?」


「どうしたのだみんな!もういいのだ!アライさん一人でもやってみせるのだ!」


 だがこれは彼女の意地だった。

 あるいは自分がやり始めたことに責任を感じてどうしても結果を出したかったのかもしれない… が、誰がどう考えても無謀。


 相手は何倍も大きなサイズ、見たこともない形、前回の異変ほどでないにせよかなり危険な相手だ、アライグマには到底勝ち目はない。

 それどころか、5人が束になっても勝てる見込みは少ないのだ… 故に一時撤退、腕利きを揃えて全力で迎え撃つ必要がある。


 それでも行くと言って聞かないアライグマ、みんなはそんな彼女が心配でならなかった、見捨てることはできないしどうか思いとどまってほしいと願った。


 そしてとうとうアライグマが立ち上がり岩影から飛び出すところで…。


「やめろと言ってるだろ!」グイッ


「ぐぇッ!?離すのだ!」


「おい!コイツをなんとかしろ!」


 ツチノコはそんな彼女を引き戻した、そしてそれをリカオンとアルパカが取り押さえてフェネックが諭す。


「アライさん?さっきも言ったじゃないか?話を聞きなよー?」


「わかってるのだ!でもここまで来たのに悔しいのだ!」


「それはみんなも同じだよー?でも無理して誰か食べられたりでもしたらシロさんはどう思うかなー?」


 これは彼、シロの為に始めたこと。

 ここにいる5人全てが同じ心で火山に登っている。

 

 だがもし、もしも一人でも犠牲が出てしまったとしたら?


「シロさんは優しいのだ、きっと悲しむのだ…」


「そうさー?それだけじゃないよ?自分の為に私達の誰かがそうなったと知ったら、シロさんはきっと自分を責め続けるよー?悲しそうに料理を作るところを見ても美味しく食べられるのかい?」


「ぐぬぬぅ… そんなシロさん見たくないのだ、いつもみたいに楽しくりょーりしてほしいのだ」


 そう、自分だけが無理をすればいいというものではない。

 良くも悪くもまっすぐなアライさんを諭すのはフェネックの役目だ、彼女は一歩引き、視野を広くみて、そして冷静にアライさんの気を静めていった。


「そのために~?“困難は群で分け合え”でしょー?」


「そうですよ?だから一度下りて仲間を増やしましょう?アイツを倒すんです!」


「みんなでやればあんなのすぐやっつけられるよぉ!」


「アイツさえいなければバギーの回収なんて楽勝だ、さぁどうするリーダー?」


 アライグマだけではない、皆諦めてなどいないのである。


「わかったのだ!ここは“せんりゃくてきてったい”なのだ! …でもどうやって気付かれずにここを逃げるのだ?」


 そう、まず最初の問題はそこである。


 一同「それな…」と言ったところだ、5人はそれぞれ頭を悩ませることになった。





 その頃、図書館にジャパリバス、かばんとサーバルである。


 二人はアライグマ達とは別方面から情報を聞き付け、急ぎで図書館まで出向いたのだ。


「あれー?博士達どこ行ったのかなー?」


「シロさんもいないね?もしかしてもう話を聞いていて火山に向かったのかも…」


 生憎の留守、長達は砂漠からまだ帰っていないようだった。


 そしてかばん達の他に二人バスから降りるフレンズがいた。


 それはハンター、ヒグマとキンシコウだ。


「だとしたら、早く行ってやりたいところだな、リカオンのことも気になる!無理するなとは伝えてあるが…」


「あの子は強いけど… もし前みたいに沢山のセルリアンに襲われたらみんなを守りきれませんもの… 逃げることも難しくなります」

 

 四人が行動を共にしているのは、かばん達がたまたま温泉にいたところにセルリアン退治を終えたヒグマ達が登場したからだ。

 話しているとリカオンがいないことが気になり二人が尋ねてみたところ、火山への護衛で着いていったことを知った。

 

 その時にかばんたちもしばらく姿を見ていないアライグマ達がシロの為に動いていることも知ったのだ。


 ヒグマ達のやや不安そうな空気を感じたかばんとサーバルは、率直に疑問を投げ掛ける。


「火山って今そんなに危険なんですか?」


「わたしたちが登ったときはセルリアンはいなかったよ?」


「その頃から一年以上経つし、たまたまだったのかもしれないぞ?」


「あの異変からそんなに過ぎたんですね… あれからセルリアンの出現も減りました、確か四神というので黒いものを防いだんでしたね?」


 そう、かばんもその時ツチノコと同様の疑問に辿り着いた。


 どうして?サンドスターロウは四神のフィルターで塞がれているのに…。


 しかしかばんは以前シロと地下室で見た映像でのミライの言葉を思い出す。


 “光るあるところに闇がある”


 サンドスターの突然変異、変質… それがあるので塞いだところでゼロにはならない。


 故に発生は減ったがセルリアンは存在する、しかし大量発生?火山にピンポイントで?


 それはなぜ?


 かばんが顔をしかめて悩んでいた時だ、音もなく二つの影が地上に降り立った。


「お前たち、揃ってなにかようですか?」「珍しい四人ですね」


「あ、博士達帰ってきたよ!」


 ここでさばくちほーから帰ってきた長達、四人はすぐに事情を説明した。


「博士、まさかあのときのことを?」

「えぇ、聞いていたのかもしれませんね助手?」


「「あのとき?」」


 シロのバギー回収の提案を心配から無理に却下した時である、それはラッキービーストの計算でおおよそ10日前。

 二度とあんな目には逢わせまいと二人はシロが火山に向かうことを禁じた時のことだ。


「そんなことがあったんですか?」


「えぇ、アライグマ達は料理を習いによく顔をだしていました」

「たまたまあの時の話を聞いていてシロが行けないのならば日頃の礼にと自分達で回収に行ったのかもしれません」


「えぇ~!?でも今って火山は危ないんでしょ?」


 その時、かばんの中でも情報が全て繋がった。


「まぁその辺りも承知で行くことを決めていたんだろうな、ワタシたちのとこにきて同行を求めていたくらいだ」


「私たちは雪山のセルリアン退治に行く途中でしたから、偵察の上手いリカオンに任せたんです」


 ヒグマ達が見た時点でチームアライは3人、いつもの二人にアルパカが同行していた… そしてそこでリカオンが仲間に入り3人を護衛することになる。


 この時点で4人となるが、もう一人知識が豊富なフレンズを連れていくべきだと話していたこともヒグマ達は知っていた。


「知識が豊富と言えば、博士達かかばん… あるいはシロもか?」


「我々確かに賢いですが」

「この通り声すら掛かっていないのです」


「多分博士さんたちには内緒だったんです、言えば止められるだろうし… きっとこっそり持って帰ってきてビックリさせようとしたんですよ?」


 予定通りなら5人揃っているはず、アライグマ、フェネック、アルパカ、そしてリカオン… 残りの一人である知恵の回るフレンズは誰なのか?

 

 それはかばんでも、博士達でもましてやシロでもない。


「でもかばんちゃん!わたしたちのとこにも来てないよね?」


「オオカミさんとか?ん~…でもアルパカさんとリカオンさんを誘い入れた時点でロッジは遠すぎるし…」


「この中にいない賢い人物、ということですか?他に誰か… は!」


 会話のなかでキンシコウは気付く、知識が豊富でパークの歴史にも詳しい人物の存在。


「います!一人!」


「誰なんだ?」


「なるほど… これは厄介なことになりました」

「今しがたシロをそこに送り届けたばかりなのです」


 そう、二人は砂漠からの帰り。

 そこにいる頭の回転が早く知識も豊富のフレンズと言えば。


「博士達やかばんちゃん以外に頭のいいフレンズぅ?それってもしかして…」


「ツチノコさん… ですね?」


 答えはすぐにでた、


 しかし、確かにそれは厄介なことである。

 

 5人で火山にいるということは、今地下迷宮にはツチノコがいないことになる。

 即ち今ごろシロはフラフラと中をさ迷っているか諦めて帰ってるところかもしれない。


 だがもし、この事実を伝える人物がいればその時にはシロは…。


「その時は… 間違いなく5人を助けに火山を目指すでしょう」

「危険なのはシロも承知なので」


「まだ何かあると決まったわけではないが… かばん!サーバル!私達をバスで山に連れていってくれ!」


「やれやれ、助手?手遅れになる前にまた戻りますよ?」

「暑いのは嫌ですが、命には変えられないのです」


 図書館に集まる6人は二手に別れて動く。


「じゃあ僕たちは火山に向かいます!博士さんたちはシロさんを!」


「任せるのです」バサァ 

「これも長の…いえ“親”の務めですね」バサァ




 

 打開策の見付からない火山の5人、その時… リカオンはハンターとして皆を守るための一つの選択をした。


「こうなったら… 自分が囮をやります!みんなはその間に!」


「なに言ってんだおまえ!」


 4人がどう思っているかではない、これはリカオン個人の問題だった。


 自分はセルリアンハンター、セルリアンからフレンズを守りパークの平和を守るのが務め。


「ダメだよぉ!そんなのぉ!」


「それじゃあさっきのアライさんと同じだよー?」


「リカオンやめるのだ!誰一人欠けてはいけないのだ!」


 リカオンはこの仕事を任されたときからずっとプレッシャーと戦っていた。


 ハンターの中で、自分は二人よりまだ未熟だ…。

 

 「荷が重いですよぉ…」と言いつつも、彼女は仕事を任されたことに認められたという感覚をを覚え嬉しくもあった。

 ただ同時に、未熟な自分がこのオーダーを完遂できるのか?と不安で仕方なかった。


 それでもしっかりしなくてはと危険な仕事は積極的に自分が前に出て務めていたのだ。


 みんなを守るのがハンターである自分の仕事だ… やってやる!どんなにキツいオーダーだって!そう思っていた。


 無論、彼女とてむざむざやられる気はない… 犠牲になるつもりなどない。


 生き残らねば、皆を守れないのだから。


「大丈夫です!みんなが逃げたら自分も逃げます!時間を稼ぐだけです!やられるつもりもありません!」


「早まるな!お前らなにか他にないのか?」


 冷静に最善の方法を選ぶべきだ、ツチノコはこういうときこそ落ち着きを持ち皆に意見を求めた。


「ぐぬぬぅ!フェネックが穴を掘って逃げれないのか?」


「さすがに固すぎるよー?地面というか岩だもの~」


「じゃあじゃあ!こっち側の崖から私がみんなを連れて降りるのはダメかなぁ?」


「四回も往復するのか?いくらお前が山の得意なフレンズでもそれは無理だろ、それにこれ以上動いたら見つからんとも限らん…」


 打開策は出ない「やっぱり自分が…」とリカオンが言いかけた時だった。


「そうなのだ!アライさんにいい考えがあるのだ!」


「なんだ?聞かせてくれ?」


「フェネック!紙を出すのだ!」


「あぁ~!名案だねー!すごいよアライさぁん!」


 そう言うとフェネックは懐からパークの地図を取り出してアライグマに手渡した。


「これで… 完成なのだ!」


「あ、紙飛行機… でしたね?」


「こんなこともあろうかとかばんさんから習っておいたのだ!」


 そう、アライグマはこの土壇場でかばん直伝の紙飛行機を囮に逃げる作戦を思い付いた。

 セルリアンの興味がそれに向けばその間に走り去ることができる、ほんの少しの間でいい、気を逸らすことができれば。


「やるもんだな?頼むぞ!」


「みんなでいつでも走れるように準備しとくゆぉ!」


「こっちはいつでもいいですよ!」


「アライさんに任せるよー?」

 

 仲間の想いを胸に、リーダーアライグマは紙飛行機を構えた。


「アライさんはやるときはやる子なのだ!アライさんに… お任せなのだぁー!!」シュバ


 自らが作った紙飛行機を勢いよく飛ばしたチームアライのリーダーであるアライグマ、これが成功すればみんなは助かる!


 しかし。



 ヒュン…ポトッ…。



 墜落!(飛距離 約1メートル地点)


「ほわぁぁぁぁ!?!?」


「なぁにやってんだぁーッ!?」


「アライさんまたやってしまったねぇ?」


「ヤバいよぉ!こっち見てるよぉ!?」


「見つかった!自分が引き付けます!みんな早く逃げて」






 その頃さばくちほー。


「外に出られた!スナネコちゃん!次は!」


「ここの穴を通ります」


 地下迷宮を出たとこだ、走って火山に行くとどれ程かかるかわならないが出し惜しみしてられない、野生解放でさっさと走り抜ければ間に合う!


「「待つのです!」」


 そこに降りるは島の長、様子を見るにどうやら何かしらの方法で火山の件を知ったようだ。


「博士達!?いや、戻ってきたということはどこかで事情を知ったんでしょ?止めないでくれ!」


 博士達のあの雰囲気、例えこの状況でもまだ俺を行かせない気だろう、危険なのは分かってる… でも俺の為にやってるんだぞみんなは!


「耳をおさめるのですよシロ?野生解放は後にとっておくのです」

「そしてこれは忘れ物です」ヒュン


 助手の手から投げられたもの、俺はそれに手を伸ばし掴みとる。


「え?わっ!?とと…」パシッ


 これは… 師匠の槍?


「博士達、これ…?」


「今のお前は止めても無駄です」

「だから協力してやるのです」


「ありがとう!今度ごちそう作るから!」


「何をやっているのです、掴まるのですよ」「ノロノロ走ってる余裕はないのです」


 こりゃ嬉しい展開だ!

 俺はこのまま二人に連れられて山を目指すことにする、飛べばすぐだ!


「少し重くなりますが… スナネコ?お前はどうしますか?」 


「シロを連れていってあげてください、ボクは下から行きます」


「そうですね、そのほうが我々は早く着くのです」

「まだ何か起きているとは限りません、残ってもいいのですよ?」


 彼女は飽きっぽいけど… こういうときにじゃあ残りますって寝に入るような子でもない、友達思いのいい子だ。


「シロがいれば安心だと思いますが… やっぱり気になるので」


「ごめんねスナネコちゃん!先に行くよ!」


「後で会いましょ?」




 

 山頂付近… みんなを逃がすため迎え撃つリカオンが見たのものは驚くべき敵の姿だった。


「最初から野生解放で…!」


 その目に野生の光を灯し、地面から生える巨大セルリアンに一人立ち向かう。


 しかしリカオンは敵の姿に思わず足を止めた…。


 ゴゴゴと轟音を鳴らし動き始めたそれがとった行動… それは。


「嘘… 飛ん…でる…?」


 戦闘機の姿を奪ったセルリアンは地面から抜け出し大空へ飛び立ち、リカオンを無視して残りの4人の方を目指した。


 それを見たツチノコが叫ぶ。


「全員散れぇぇぇえ!!!」

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