第49話 すれちがい

「よーいせっ… とぉ~」


「アライさんまたやってしまったねぇ?」


 崖からアライグマを連れて上まで上がってきたのは他でもない、ジャパリカフェ店主アルパカである。


「大丈夫ですか!?結構高さありましたよ?」


「先走ってしまったのだ…」


「お前なぁ!」


 5人はサンドスター火山を登り始めていた、山に強いアルパカにハンターのリカオン、豊富な知識と鋭い洞察眼を持つツチノコ、そし切れ者のフェネックにどこか人を惹き付けるアライグマのアライさん。


 だが、リーダーのアライグマは同時に無鉄砲でもある。


「オレやリカオンがいるのに先頭突っ走ってなにやってんだぁッ!」


「偵察も兼ねて自分が先頭を歩きますからって言ったじゃないですかぁ…?」


「アライさぁん?お話ちゃんと聞かないとダメだよー?」


 チームには作戦があった、不確かな現場で安全性をより高くするためにとツチノコとリカオンが考えたものだ。

 しかし当チームのリーダーアライグマはこともあろうにそれを聞き流していたようだ。


「悪かったのだ… でもアルパカが居てくれてよかったのだ!」


「シロちゃんみたいに麓まで落ちなくてよがったねぇ?途中でひっかかってたからぁ?すぐ担いでもってこれたよぉ」


 山に着くなり作戦を忘れたチームアライのリーダーアライグマは神聖なるサンドスター火山を前にテンションをぶち上げて言ったそうな。


「止まるんじゃねぇなのだ!みんなが進む先にアライさんはいるのだ!」


 そんなこと言い残しまっすぐ突っ走ってしまったのである。


「おぉい!?作戦を忘れたのかぁ!?」


「あ~!どうします?い、いや!とりあえず追いかけます!自分がしっかりしないと…」


「気楽に行こうよ~?」


「まぁ平坦な道だしぃ?楽勝でしょぉ?」


 結果アライグマはキョロキョロとよそ見をしながら走っていた為に明後日の方向に走り崖っぷちで足を踏み外し落下してしまった。

 

 シロのときはほとんど頂上だったが、彼女の場合はまだ半分もいかないところだったので大事には至らなかった。

 しかも幸運なことにうまいこと服が木の枝に引っ掛かり地面まで着かなかった、そこを山に強いアルパカが担ぎ上げて登ってきたのだ… 現在に至る


 そして、本日二度目の作戦会議に入った。


「いいか?次はないからしっかり聞いとけよ?」


「ハイなのだ!」


 作戦。

 それは隊列のようなものを作り進むこと。


 リカオンが先導して同時に偵察を行う、即ち先頭を歩き何かあれば一度待機させ自分だけ先を見に行く。


 二番手をツチノコが進み見落としなどないかピット気管を使い周りに気を配る、同時に気付いたことがあればリカオンと後列に伝えることができる。

 これはサンドスター火山という場所が神聖な場所でありフレンズたちにも未知数な為である。


 そしてアライグマとフェネックは二人の後ろを歩きその状況の変化に迅速に対応する。

 

 最後尾はアルパカに任せて全員を見えるようにしておき、何かあったら対応してもらう… 例えば“誰かさん”が突っ走って崖から落ちた時とかのことだ。


「なるほど!むてきのふじんなのだ!」


「本当にわかったんだろうなぁ?」


「まぁまぁ~アライさんは私も注意しとくからさぁー?」


「チッ!頼むぞ…!」


 若干のハプニングにも負けることなく、5人はバギーを探して上へ上へと突き進む。


 





「さぁ着いたのです」


「しかし、砂漠はやはり暑いですね?」


「そうですね助手、さっさと帰って涼みたいのです」


 本当に二人に運んでもらったらすぐだ、空を渡れば全ての障害物を無視できる。


 というわけでツチノコちゃんに会いに地下迷宮のゴール地点まで飛んでもらいました。

 二人はこのまま待たせる訳にいかないし帰りは歩かないと、送り迎えの好意は嬉しいがやっぱり長不在の図書館は良くないと思う。


「ごめんね二人とも?あとは自分でも帰れるから先に戻ってて?」


「なるほど… 助手?」

「はい博士、野暮というやつですね?」


「またそうやって… 二人を訪ねるフレンズがたくさんいるんだからいつまでも留守にできないでしょ?」


「それはそうなのですが…」

「大丈夫なのですか?」 


 心配掛けてるようだ、すっかり保護者面しちゃってもう…。


 いつもありがとう、それとごめんなさい。


「平気だよ?山と違うし砂漠からどこに落ちるって言うのさ?暗いけどバイパスもあるし、少しかかるけど心配しないで?」


「わかったのです、ではシロ?」バサァ

「後はよろしくやってくるのです」バサァ


「だからそんなんじゃないって!」


 まったくなんでもかんでもそういう風に結びつけて… 相手がツチノコちゃんなだけに会う前から変に意識させないでほしいんだけどな。


 まぁいいさ?さぁ行くぞ、すぐに会えるかなー?



 久しぶりの地下迷宮にはツチノコちゃんが機転を利かせたからなのか出口までの目印が残っていた。

 俺が降りたのはゴール、なのでこの目印をを遡るように進むと彼女の寝床みたいなとこに案内されるのだ。


 そこは警備室だったのか、係員の休憩室なのか詰所のようなとこなのか… それはよく分からないが意外と快適な部屋である、こざっぱりしてるがソファーまであって背もたれ倒してベッドにまでなる優れものだ。


 ただ地下迷宮と言うくらいだから日も当たらなければ風通しも悪い… まぁツチノコちゃんの特性には合ってるのだろう。


「ここまではさくっと着いたけど…」


 誰もいない、お留守のようだ。

 どこか歩いているんだろうか?待つだけでは退屈だな…。


「よし、気配を探ってみよう!野性解放すれば耳もよく聞こえるし」


 思い立つとすぐにフレンズの姿になった俺は、部屋の入り口前で目を閉じて耳や鼻に意識を集中する。



 右… 足音が聞こえた…。



 その方向へ進み角を曲がると音が近くなった、これはセルリアンの音じゃない、なぜなら“足音”で間違いないから。


 近い、次の角を曲がれば… そこに!


「お?」「あ!」


「スナネコちゃん!」


「おぉ~シロぉ?本当に来ましたねぇ?」


 ツチノコちゃんではなかったがスナネコちゃんと会うことができた、俺たちは一旦部屋に戻って話すことにした。


 …本当に来たって?


「しばらく顔も出せなくてごめんね?元気にしてた?」


「ツチノコは見てて飽きないので楽しく過ごしていましたぁ、シロは怪我のわりに元気そうですね?」


「おかげさまですっかり治ったよ、心配かけたね?」


「いえ」


 「いえ」って… そこは社交辞令でもちょっと心配してた風の顔してほしいな、結構淡白なんだねスナネコちゃん?いやいいんだけどさ。


「冗談です」ニッコリ


「なんだ~!よかったありがとう!そっかそっか心配かけちゃったか~…」


 本当か!?


 で、でもいいさ!元気ならそれでいいよ!心配してないってことは大丈夫に決まってると信じてるってことさ?そうだろ?


 さておき。


「ここいいですよねぇ?ボクはツチノコがいなくてもよくここでお昼寝しています」


「そうだね?なんだかツチノコちゃんの匂いがするよ」


「えぇ… 」


「いや、ごめん引かないで?この姿だと鼻が利いちゃって…」


 まぁ確かに今のは変態の発言のそれと酷似していた、反省反省… それよりも本題に移らないと。


「さてと… 実はツチノコちゃんに渡したい物があって来たんだ」


「おー!プレゼントですかぁ?素敵ですねぇ?」


 ん?うんまぁプレゼントなんだけどさ… なんか最近フレンズの間で恋愛に結びつけるのが流行ってる気がするんですが?まぁプレゼントは素敵だよ、その通りだ。


「スナネコちゃんにもほら、アップルパイを焼いてきたから二人で食べてね?」


「ありがとうございます、でもツチノコは今いないんですよ」


 やはり、タイミングの悪いことに今は留守らしい。

 でも珍しいなぁ、興味を引く遺跡でも見つけたんだろうか?


「でも、もしシロが来るようなら…って伝言があるんですよ?」


「伝言?」


 しかも俺が来るようならって随分ピンポイントの伝言だな。


 まぁ、聞きましょう?





 


「もう少しですよ!がんばりましょう!」


 先頭を進むリカオンが皆に声をかけ激励する。


 彼女は前にシロ捜索でここに登っているので大体の地形もバギーの場所も把握しているのである、かなり頂上へと近づいたのでバギーも目前だ。


「今のところは何もない… が、なんだ?嫌な予感がするな…」


 リカオンの背中を追いながらツチノコは妙な胸騒ぎを感じていた。


 辺りにも錆びた鉄の塊が増えてきたのだがツチノコにはそれがなんなのかわからない、シロやかばん、あるいは博士達ならわかるのかもしれない。

 そしてその正体の不明の物体が見える毎に不安のようなものが胸を過る。


 いつもならヒトの遺物に一喜一憂する彼女だが、今日は違った。


「アライさん達がかばんさんを追いかけて登ったときはセルリアンはいなかったのだ!」


「ししん?っていうので~黒いのを塞いだんだよ~?」


「そういえばぁ?セルリアンだいぶ減ったんだってぇ?カフェのお客さんから聞いたよぉ」

 

 そう、だからおかしいのである。


 ツチノコはずっと考えていた、なぜシロやリカオン達は大群に襲われたんだ?と。


 出るはずのない大量のセルリアン、現れたのはサンドスター火山… しかもフィルターが塞ぐはずの火口だ。


 こういうの、たしか“矛盾”って言うんだったよな?シロ?

 

 ツチノコは頭を悩ませていた、そもそもなぜ大元を塞いだのにセルリアンが出現するのか?この辺のこともシロやかばんなら知っているのか?このゴロゴロとした鉄の塊はなんなんだ?なにか関係があるのか?


 それに…。


 やがて見えて来た大きな何かを見てツチノコは顔をしかめた。


「こいつはなんなんだ?」


 大きな遺物ならいくつも見てきたがこれだけはどうも嫌な感じがしていた。


 以前からある、戦闘機の残骸とおぼしき大きな物体のことだ… 彼女は立ち止まりそれを意味深げに眺めていた。


 やがて、先頭のリカオンが声を挙げる。


「あった!みんな!その岩の影ですよ!」


 リカオンの一声で全員はその場に集合、そこには目的の物が静かに放置されていた。


「これなのだ!とうとう見付けたのだ!」


「よい… せっとぉ!少し重いけど、歩ける道もあるし大丈夫そうだねぇ?」


 アルパカは涼しい顔をしたまま横転していたバギーを軽々と戻して見せた、ここまで登ってきたのに顔色一つ変えないのは流石と言わざるを得ない。


「そういえばサーバルはバスを持ち上げてジャングルの川を渡ったらしいしー?5人もいればこれくらい楽勝だねぇ?」


「えぇ… サーバルのそれマジなんですか?オーダーキツいですよ…」


 ジャパリバギー、シロがパークを移動するために使っていた乗り物。

 それを見たツチノコは短期間とは言えこのバギーにスナネコと共にシロの後ろに乗ったことを思い出し、おもむろにそれに跨がった。

 

「ふむ、確かこうだったな…」ストン


「おぉ!ツチノコは乗り方がわかるのかぁ!?」


 じっと眺めてシロが乗ってる姿を思い出したツチノコは、シートに座りハンドルを握ると正面を向く… が、無論乗り方が分かる訳ではなく、こうして乗車姿勢を取ってはみたがどうもピンとこない。


 ツチノコは一度だけだが、シロから何となくどう動くのか聞いたことがあった。

 だからもし走行可能ならこのまま下山できるのでは?と考えていた、しかしそれほど現実は甘くはない。

 彼女にもバギーの原理は複雑だし、そもそも何日も横転した状態でいろんなオイルが漏れているであろうこの車両が正位置になったところで動くことはないだろう。


「いや… ダメだな、一度シロに聞いたことはあるが見ての通りバスみたいに車輪が4つあるのに坂を下ろうとしない、ってことはやっぱり腕力に頼るしかないな」


「そうですか… どうしますか?見た感じセルリアンはでなさそうです、帰りは荷物もあるし少し休憩してからでも…」


「いやダメだ、キツいだろうがここからはすぐに離れた方がいい… 行くぞお前ら?」


 そうだ、シロも帰るときに囲まれたと言っていたからな… まだ何も無いなんて言い切れない。


「んん?あれぇ?」


「アルパカどうしたのだ?」


 バギーを皆で持ち上げようとしていたその時だった、肝心要のアルパカがあらぬ方向を向き手を貸そうとしないのだ。

 気になりアルパカの方に近寄り視線の先を見た四人の目に映るそれは…。


「なんかぁあれさっきと違くないかなぁ?もっとこう…」


「あぁーボロボロな感じだったよねー?」


「どうしました?」


「お、おい… 冗談キツいぞ!」


 それは戦闘機の残骸… のはずだったのだ、それをツチノコが見たときピット気管に反応が現れた。


 熱源がある… それはつまり。


「セルリアンだッ!離れろ!」



 残骸だったはずの大きな物体が、不気味に動き始めた。







「それ、本当なの?」


「はい、アライさん達が来てバギーを取りに行くと言ってました」


5人がまだ砂漠にいた頃のこと。





「ふぁ~… ボクはここまでにしておくですぅ」


「はぁ、やっぱりな… 帰って寝とけ?オレもすぐに帰る」


 始めはスナネコも同行していたが、砂漠から火山に続く道を案内したのちに飽きてしまったためそこで離脱、ここで本当に5人となったのだ。


「スナネコ、頼みがある」


「なんですかぁ?」


 この時ツチノコは考えていた… シロが一人で登ったときはハンターが三人係でやっと片付けられるほどの量のセルリアンがいた。

 前の異変から数こそ減ったがやはりワッと沸くことがたまにあるのだ、それしたって一ヶ所に狙ったようにそんな数が現れるのは妙だと感じていた。


 飽くまで彼女の勘ではあるが、無事にバギーだけ回収して帰ってこれるのだろうか?危なかったら一度撤退する手筈ではあるがそう上手くいくのだろうか?


 何かしらの方法で自分達の痕跡を残しておくべきだ。


 そう考えていた。


「いいか?もしもシロが… いやこの際誰でもいい、誰かがオレを訪ねてくるようなことがあればこの5人で火山に行ったことを伝えてくれないか?」


「シロが来るのが分かるのですかぁ?」


 シロが… というのは自然に出た言葉に過ぎない、しかし彼女は思っていた。


 来るとしたらきっとアイツだ… と。


「わからん… だから誰でもいい、でも前もそうだった、かばんとサーバルもそうだがアイツは急に現れる、何となくそろそろ来る気がする」


「おぉ~?愛の力ってやつですね?」 


「ッハァ!?アァー!!!違う!たぁだの!勘だ!とにかく頼んだぞ!またな!」


 そう言い残し、二人はそこで別れた。





 なるほどそういうことか!

 

 おかしいと思ったんだ、熱心に料理を習いに来てたアライさんたちが急に来なくなった… それは10日程前のことだ。

 

 そしてラッキーが戻ったのも大体10日前だ、多分アライさんは俺と博士達の話を聞いていたんだ。

 考えるより先に動く彼女のことだから単なる善意でそうしてくれたのかもしれない、そしてそれをアライさんから聞いたツチノコちゃんもまた善意で同行した。


 しかし、火山か…。


 胸騒ぎがするな… これから良くないことになる気がする。

 

 頂上にいたセルリアン、そして事故、その後の重症… それらを思い出すと手足の痛みが甦った気がした。


「何かあってからじゃ遅い、俺も行かないと!近道を教えてスナネコちゃん!」


「はい、こっちです」


 こんなことなら博士達にも居てもらえばよかった!クソ!たらればってやつだ!考えても仕方ない!


 まったく!みんなして俺の為に…!


 あぁそっか、みんなこんな風に俺を心配してくれたのか?


 心配ばっかりかけて、情けない男だな俺は!

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