第48話 気になるあの子
ハンターリカオンを仲間にしたチームアライは現在さばくちほーへ来ている、はてさて
その理由は…?
少し前のことだった。
「正直自分達だけではまだ不安です、前に見たセルリアンは三人でやっと倒しきった数でしたから?」
「わざわざ戦わなくても~バギーだけ持って逃げればいいんじゃないの~?」
「その通り、でもせめてあと一人物知りな仲間がほしいとこです、火山は変なこともしょっちゅうあるので知識でカバーです!」
リカオンは今回の任を決して甘く見たり楽な仕事とは考えなかった、先日のシロの重症とセルリアンの群れ… 今回なにも起こらないのが逆に不自然なのだ。
「でも博士たちには言えないのだ!」
「シロちゃんには内緒だもんねぇ?」
「はい、かばんも今はどこにいるのかわからないし… 誰かいないですか?」
「それじゃあさぁ~?ツチノコがいいんじゃない?」
「「それだ!」」
口の悪い物知りUMAを求め、四人は砂漠の地下迷宮を目指すことになった。
…
そう言えば…。
「アライさん、最近来ないなぁ…」
特に約束をしてたわけじゃない、ただ彼女は結構な頻度で顔を見せていたので数日顔を見せないとどこか不安な気持ちになるのも確かだ。
単に飽きたんだろうか?あぁいう性格だしありえないとも言い切れない、それまで夢中だったのに他に目を引くものを見つけたらそっちばかりでそれまでのことに興味を無くしてしまうんだ。
スナネコちゃんじゃないけど、熱しやすく冷めやすいとこが彼女にもあるのかもしれない。
ちょっと寂しいけど、まぁ別に強制してたわけじゃないし、怪我をして動けないとか風邪を引いたとかでなく、単に飽きただけなら問題は無い。
まあ今度遊びに来たらクッキーでも焼いてあげようかな?とそう思う。
でも… “来ない”のではなく“来れない”のだとしたら?
「シロ?」
「シロ…?」
「…」
「シロ!無視するなですよ!」
「お昼は何を作るのです?」
博士達に軽く怒鳴られハッと意識を取り戻した。
考えすぎは良くない、俺には俺のやることがあるんだから。
「あぁごめん、なんも考えてなかったよ… リクエストはある?」
「なんでもいいですが…」
「ボーッとしてどうしたのです?」
「なんでもないよ?ちょっと考え事、じゃあオムライスでいいかな?」
「オムライス…じゅるり」
「久しぶりですね?じゅるり」
まぁ大丈夫だろう、ごこくエリアまで行って帰ってきた子だもの。
そう考えすぎだ、みんな基本的に自由に過ごしてるだけだし、しっかり者のフェネックちゃんだっているんだ、そのうち気が向いたら顔見せてくれるさ。
でも…。
その晩俺はどうしても気になってしまい夜も眠れなかった、俺はいつのまにかラッキーに一人言のように話していた。
「最近さぁ?アライさん達が来ないんだよ?立派な料理人になるのだ~って言ってたし、ずっと来るもんだと思ってたからなんか気になっちゃってさー?やっぱり飽きただけなのかな~?」
「理由ハ分カラナイケド 最後ニココデ見タノハ 10日程前ニナルヨ」
10日前だって?そんなに経つんだ、毎日のように来てた子達がもう一週間以上来てない、そりゃ気にもなるか?
そう考えたらアライさんに限らずしばらく会ってない子達も多い気がする。
サバンナ、ジャングル、高山、そして砂漠に湖畔… この辺にはあまり顔を出せていない、特にサバンナちほーなんか遠いしこれと言った用がない。
今度また歩き回ったほうがいいかな?挨拶がてら。
ツチノコちゃんにもお礼できてないし…。
…
ある日、たまたま地下室に用があって降りた時のことだった。
「ん?なにあれ?」
キラリと光るなにかが本同士の間に挟まっているのを見付けた、気になったので手にとってみるとそれがコイン状の物であることがわかった、見覚えがある。
「あ~… なんだっけかこれ?どっかでみたんだよなぁ」
コイン… コイン… コイン…。
そうコイン、その時記憶の隅にある言葉がふと甦る。
“ジャパリコインだ!”
そうだジャパリコイン!ツチノコちゃんが楽しそうに教えてくれたっけ?集めてるんだったよね?
大変珍しい物だから…「見付けたら譲ってくれないか!?頼む!なぁ頼む!?」って迫られたんだよ確か、いや参った参った。
へぇ~こんなところで見つけるなんてねぇ?次会うときにあげよう、喜んでくれるかな?
なんて思いながら一人コインを弾いて飛ばす。
ピィン… パシッ…。
「表…!あれ?どっちが表だ?どっちでもいいか… はぁ~あ」
俺は地下室の椅子に座ってランタンの火に照らされながら一人でコイントスなんかして遊んでた。
今、退屈な訳ではないし暇なわけでもない、探せばいくらでもやることはあるんだ。
でもコインを見てると彼女のことを思い出す… そんな風に物思いにふけりたいこともあるんだ。
会いたいな…。
なんて不意にそう思った。
元気かな?とか怪我してないかな?とか… アライさんだけでなくみんなに言えることだが、ただ今はツチノコちゃんのことを思い出してしまった。
“本命の子”
母にはお見通しなのでもう今更隠さないが、これはツチノコちゃんかかばんちゃんのことだろう。
最近はよくかばんちゃんといることが多かったからその時には俺もどういう気持ちで彼女を見てるのか考えたんだ。
フレンズは大抵の子が整った顔立ちをしている、彼女の場合もボーッと眺めて見とれちゃうくらいに可愛いと思ってる。
彼女には一度相談を聞いてもらったせいか、俺が誰かに知恵を借りたいときつい頼ってしまう傾向がある… というのは、俺が一方的にかばんちゃんなら任せられるという信頼をしているとこがあるからだろう。
ただ彼女も逆に困って助けを求めてくるときがあって、そんな時はつい張り切ってしまう… 頼られてまんざらでもないという感じだ、いいとこを見せたいってやつかもしれないし。
か弱くって臆病だけど、しっかりしてて自分より他人を優先する、そんな彼女を守ってあげたいと思うと同時に…。
甘えたいんだ。
なんでもできる彼女に母親みたいなところを求めてるのかもしれない、かばんちゃんなら大丈夫、流石がかばんちゃん、かばんちゃんなんとかしてー?って感じ。
照れた笑顔も困った顔も、優しいところも真面目なとこも… 見てて温かくなるのが彼女、かばんちゃん。
これが恋愛感情とハッキリ言い切れるのか俺には分からない…。
ツチノコちゃんは… パークに来て初めて会った子だった、口や態度はキツいけど最初に仲良くしてくれたのも彼女。
短かったけど二人で旅をしたこともある、お互い協力しあって信頼関係を築けた、よい経験だったと思う。
俺が困ってると「手伝ってやる!」ってよく助けてくれた、自分の苦手なことでもなにか力になれることはないかとよく世話を焼いてくれた、優しい彼女といると安心したしなんでも話せたんだ。
親友… と俺個人は思っている。
ただ女の子として意識していない訳ではなく、顔は整ってるしなんでも知りたがるとこが可愛らしいとも思う、嬉しそうに尻尾を振るとこをみると俺も嬉しくなる。
青い髪は綺麗で、フードを被りっぱなしなんて勿体ない、一度くしゃくしゃに撫でてみたいなんて思う。
それからドキっとすることもあって、俺が怪我をしたとき残ると言ってくれたのも嬉しかったし、一緒に料理をしたときはつい意識してた。
彼女が帰るときは追いかけて抱き締めるべきか迷ったほどだ、無論そんなことはしない。
それをしなかったのは軽はずみにやるべきことではないと思い止まったから、どういうつもりでそんなことをしようとしてるのか俺のなかでハッキリしないからだ。
世話を焼いていろいろしてくれた彼女に対し、かばんちゃんみたいに甘えたくなっただけなのかもしれない。
よくないねこういうの…。
こんなこと無かったから、ハッキリ恋してるって分からないんだ、でも二人に対してこう思うってことは、これは恋ではないのかもしれない。
でも二人に対する気持ちが他の子と違うのは分かる…。
「難しい… 母さん俺どうしたらいいの?」
お守りの“ガンバレ”を見ながらそう呟いた。
恋か…。
見ているだけで胸が高まるのがそうなの?あの子に気に入られたい、あの子の為ならなんだってって思うのがそうなの?それともどちらも行き着くとこは同じなの?
「こういうの… 誰に相談したらいいんだろう?」
参ったな、博士達は暴走するし… 姉さんはどんな反応するかな?恋の悩みなんて聞いたらまた拗ねるだろうか?それとも興味ありげに聞きたがるのかな?
いや、結局は自分で決めなくてはならないことだ… だからとりあえず今日は…。
ピィン…。
俺はもう一度ジャパリコインをコイントスで高く打ち上げた、そして。
パシッ!
「仮に肉球の方を裏、パークのシンボルを表として…」
表ならツチノコちゃんに会いに行こう、お菓子でも作ってこのコインもプレゼントだ、裏なら… かばんちゃんとゆっくり話をしよう、答えが出るかもしれない。
もっともどこにいるか知らないんだが。
さぁ、どっちだ?
…
「ツチノコにお客さんですよ、たくさんいて楽しそうですね?」
「面倒な中でも特にめんどそうなのが来たなぁおい…!」
無事に砂漠に着いたチームアライは、スナネコの案内で地下迷宮のツチノコのもとへ訪れていた。
四人は予定通り最後の仲間としてツチノコに誘いを掛ける。
「ツチノコにお願いがあるのだ!」
「イヤだね」
「うぇぇぇ!?」
即答!ツチノコは騒がしいのが苦手なのである、こんなにたくさんのフレンズ達が押し掛けて気を悪くしていた。
「まだなにも言ってないですよぉ…」
「話だけでもぉ?聞いてくれると嬉しぃゆぉ?」
「ハンターまで連れて何をしたいのか知らんが、面倒はゴメンだ!他を当たれ」
あまり大勢でいるのが慣れないツチノコは話を聞いてくれる隙もなく、飽くまで断るスタンスでツンとした態度をとってくる。
この気難しい子をどうすれば仲間に引き入れられるのか?四人は一度作戦会議に入る。
「どうするんです?話も聞いてくれないなんて予想外ですよぉ…」コソコソ
「紅茶でもだしてゆっくりしたら聞いてくれるかなぁ?でもお湯がないよぉ、はっぽーふさがり?って言うやつだにぇ?」コソコソ
「なんとか聞くだけ聞いてほしいのだ!大事なことなのだ!」
リーダーアライグマ、決死の説得を試みる… がしかしツチノコ、その態度を変えるつもりはないようだ。
「ふん… どーせありもしない宝探しとかで厄介なとこに行こうとしてるんだろ?おいリカオン?ハンターも楽じゃないな?」
「え?えぇまぁ…」
「ツチノコは最近カリカリしてるんですよぉる」
「おい!そんなじゃないぞ!コラァ!?」
その時だ、切れ者のフェネックはなにかに感づいたのだ。
カリカリしている?なぜ?
「なんでかなー?教えてよスナネコ~?」
「しばらくシロと会っ…ンモゴモゴ!」
話を強引に遮り後ろからスナネコの口を塞ぐツチノコ、しかしフェネックの大きな耳はそれを決して聞き逃さなかった。
ははーん?なるほどねー?名前を出せば聞いてはくれそうだねぇ?
と言うわけで、フェネックはわざとらしく彼の名前をだして話すことにした。
「まぁ~聞いてもくれないんじゃ仕方ないねー?」
「そ、そうだ!わかったらもう行けよ!オレは協力できん!他を…」
「シロさんが困ってるから頼もうと思ったけどー… 四人で行くことにするよー?」
「ッ!? アイツ… なんかあったのか?」
やー?食いついたねー?凄い効果だねー?
フェネックの作戦勝ちである、四人はすぐにバギー回収の件をツチノコに伝えた。
「アイツが、そう言ったのか?」
「行かせてほしいと博士達に頼んでたのだ!でも博士達は火山に行くことを禁じているのだ!」
シロのジャパリバギー、ツチノコにとっても思い入れがあった。
突如地下迷宮に突入してきたり、それからスナネコも連れて一緒に図書館まで走ったりしたのだ。
そんなバギーの回収をシロは禁じられている。
「だから山に強いアルパカとー?ハンターのリカオンを誘っていたのさー?」
「はい、ツチノコは頭もいいしなんでも知ってますから、火山に行くならそういう仲間がほしかったんです」
「いいかなぁ?ツチノコもシロちゃん助けたいでしょぉ?」
「…」
ツチノコは少し黙るとどこか遠い目をして考えた。
まったく仕方のないヤツだ… だとか、あるいは長達のようにあの大怪我を近くで見てしばらく看病に付き合った者としてはあんな姿にはもうさせたくない… などの気持ちになったのかもしれない。
それを聞いたあとの彼女にはもう迷いなどはなかった。
「わかっと受けてやる… 火山には調査に行ったこともある、あそこは興味深いものも多いしな?」
「「「やったぁー!」」」
ツチノコが仲間に加わった。
…
「…よしっと、こんなもんでいいかな?あんまり作っても食べきれないだろうし」
「シロ、さっさとするのです」
「我々がこんなワガママを聞くなど、滅多にないことですよ?」
「うん、ありがとう?無理言ってごめんね二人とも」
アップルパイもできた、歯も磨いたし体も洗った… 必要な荷物もまとめた。
準備OKだ。
「まぁいいのです、それに前に言ったのです」
「そうです、どこへでも連れて言ってやると」
「でもありがとう、助かるよ?ほらこれ、一切れづつ食べてみて?」
「いただきましょう」
「味見役なのです」
二人から「うまい!」の一言を貰うとおれも満足した。
それじゃあ長二人を足に使う、いや羽に使うのは少し心苦しいが目的地に向かって飛び立ってもらうとしよう。
「じゃあ行こう!」
「向かうは砂漠…」
「地下迷宮…でしたね?」
「うん!」
そうさコインは表を出したのさ?
やっとお礼ができるよ、しばらく顔も見せずにいきなり行ったら君はまた怒るかな?
ま、いいか?すぐ謝れば許してくれるよね?お土産も用意したし、勘弁してもらおう。
元気にしてるかな?
ツチノコちゃん!
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