第43話 ごきげんななめ

 どーも、図書館の料理人のシロです、俺は料理人です… もうあえて名乗ります、俺は

料理人です。


 先日、うちの賢いを自称する困ったちゃん達のせいでバタバタしたものの、かばんちゃんとの対談を経て更なる料理の発展を決意しました、そうしてついに完成させた叡知の結集がこちら。


「かけうどんでございます、熱いのでお気をつけください」


「「おぉ~!」」


 思わず関心をせずにいられない長達、それは作った俺も同じこと。


「これが熱心に調べていた完全なるうどんなのですね?」

「汁に浸っていて熱々で… まるで温泉の中を白蛇が泳いでいるようですね?」


 白蛇ってあんた… でもまぁそうだね、麺が太いもんね?ミミズじゃないだけましか。


 ん?ましか?


「しかし何を悩んでいたのか知りませんが」

「あれからいい面構えと顔になったのです」


「いやちょっと行き詰まってただけなんだよ、心配かけたね?さぁそれより、箸は上手に使えるかな?ほっとくと伸びてくるから熱いうちにどーぞ?」


「「いただきますッ!」」パンッ!


 かばんちゃんが言うには、この手を合わせた挨拶も感謝をより意識したものらしい。

 たしかにやり始めたのは二人がケチャップがぶ飲み事件を起こしたあとくらいだ、食べ物のありがたみがあの時に身にしみたのかもしれない。





「それじゃちょっと姉さんのとこにいくけど、ちゃんといい子にできるかな?」


「我々をポンコツのように扱うのはやめるのです!」

「心外なのです!」


 でも心配だなぁ… あんまり疑り深いのは良くないけど。

 でもそうか、こうして自分も心配とかする身になってみたらわかる。

 よく考えたら俺も出掛ける度に遅くなったり怪我したりするから二人に心配かけてるのかな?それで前回のケチャップ事件のような暴挙に走ったのかもしれない、その思いやりはやはり長の風格か…。


「ライオンとは久しぶりでしょう?」

「かなり絡まれると思いますが、晩ごはんまでにもどるのですよ?」


「うん、お昼はさっき多目に作ったアップルパイがあるから食べてね?じゃあいってきまーす」


「「いってらっしゃいです」」


 なんか俺だんだん保護者みたいになってきたなぁ… 料理人というかお母さんだねこれじゃあ。

 でも向こうは逆に飽くまで保護者は自分達と思ってるんだろう、まぁ置いてもらってる以上それは間違いではないし、生活面以外でも二人にはお世話になりっぱなしだもの。





「おや弟さん?怪我はもういいのかい?」


「おはようオリックスさん、もうすっかり元気だよ!その節はお世話になりました…」ペコリ


「よしてくれ!?ところで今日はどうしたんだい?」


 着くなり出迎えてくれたのはライオン勢の二柱が一人アラビアオリックスさんだ。

 久しくても変わらず接してくれる姉御な彼女はオーロックスさん同様勇ましい口調だが、実は非常に優しい一面を持っているのだ、俺は知っている。


「姉さんが御守り代わりに牙を引っこ抜いてくれたから… お礼にこちら、アップルパイというものを献上しに参った次第なのです」


「頼むから普通に話してくれ… しかし弟さん、もう少し早く来てほしかったよ?」


「え?なにかあったの?」


 まさか、姉さん怪我をしたとか?師匠と派手に喧嘩してゆだんしてしまったみたいな。


 なんだろうか?なんにせよ心配だな…。


「いや、なにかあったというかなにも起きなくなったというか…」


「ちょっとなに言ってんのかわかんない」


 ほう… 哲学かな?哲学ならつい最近まで俺も考えてたよ、まぁ今となっては頭空っぽのほうが夢詰め込めるって感じだけどね。


 なので、そんな先駆者である俺からアドバイスだ。


「考えても疲れるだけだよオリックスさん!」


「すまない、私もちょっとよくわからない… って!そうではなく!大将が動かなくなったんだよ!」


 動かない?姉さんが?


 そんな!まさか俺のせいで…!?


「なんだって!?姉さんまさか牙を引っこ抜いた副作用かなにかで寝たきりになったってことなの!?姉さぁぁぁん!!」野生解放 


「いや、違う弟さん!待って!…すごい!?あんなに素早く上の階へ!?」


 説明しよう、獅子奥義アクロバティック壁登りはあらゆる地の利を生かしあっという間にお宅の部屋にお邪魔するのだ。


 またの名を不法侵入と呼ぶのはご愛嬌。


「姉さん大丈夫!?」


 俺が部屋に降り立ったその時、姉は確かにそこにいた。


 いるにはいるのだが。


「ん?あぁシロ… ずいぶん久しぶりじゃないか?忘れられたのかと思ったよ」グデクデ


 素っ気なくそう返してきた姉さんにかつての元気はなく、ゴロンと横になり俺には背を向けていた。


「どうしたのさ?どこか悪いの?」


「ぜぇーんぜん、絶好調だよぉ~?」


 ふむ… これもしかしてあれこな?いや、俺が言うとなんか変に聞こえるけど敢えて尋ねよう。


「姉さんもしかして拗ねてるの?」


「そんなことありませぇ~ん、全然顔も見せに来ないからってそんなこと全然ありませぇ~ん」


 いや、完全に拗ねてますやんか。


 傷が治るまでバタバタしてたからなぁ、忘れてわけじゃないよ?大事な姉さんのこと俺が忘れてるわけないじゃないか?


 嘘ですごめんなさい忘れてました。


「来てくれたらよかったのに?」


「だってさぁーあ?あんまりそうやっていくのも迷惑かな~?とか思ってさぁ~あ?傷に障るから遠慮しててさぁ?」


 この時、姉さんってやっぱり色々考えてんだなぁとそう思った。 

 途端に申し訳なくて仕方なくなってきてしまった。


「あの… ごめんね姉さん?怒ってる?本当にごめんなさい」


「別にぃ~いいですよー」


 困ったなぁどうしたら許してくれるのかなぁ?


 いや違うな。


 そもそも許してもらおうとするのが間違いなんだ、素直に謝罪してこちらが伝えたいことを伝えたうえで許してくれなかったらそれはもう姉さんの気が済むまで待つしかない。


 謝罪とは、許してもらう為の都合のいい手段ではない。

 間違いがあったのならその己の非を認め、相手の心を尊重するということだ。


 だから俺ができることはただ一つ、誠心誠意姉さんに謝ること。


「ごめんなさい姉さん、姉さんの牙は御守りにして肌身離さず今も持ってるんだ、この御守りのおかげで辛くても痛みに耐えられたし勇気をもらったんだよ?だから今日は遅くなったけどお礼を言いに来ました、俺の為にありがとう姉さん… 痛かったでしょ?」


「…」


 俺にできることはやった。

 姉さんは俺の謝罪の後少し黙ると、今だ横になり背を向けたまま答えた。


「なに… お前の痛みに比べればなんてことはないさ、怪我はもういいのかい?」


「おかげさまで元気です… 姉さんこそ牙が片方じゃご飯食べ難かったりしない?まだ痛む?」


「あれくらいグッスリ眠れば平気さ、すぐに生えたよ?」


「本当に?」


「もちろん」


 あんなの、痛いに決まっている。

 牙を抜くなんて簡単にスコッとできるもんじゃあないんだ。


 だから大丈夫なら安心した。

 強がりだとしても、そう聞いて安心した。


「そっか、ならよかった…」


 姉さんは最後まで向こうを向いたまま顔を見せてはくれなかったが、声は優しかった… 許してもらえないのかと不安ではあったが、少しホッとした。


「今日は姉さんにお礼でアップルパイというのを作ってきたんだけど、先にみんなと食べてるから気が向いたら降りてきてほしいな?」


「あぁ、わかったよ…」


 姉さんはそう言いながらプラプラと手を振っている、だから俺はゆっくりと立ち上がり部屋を出たんだ。

 こんな反応は結構寂しいのだけど、姉さんはいつも通り姉さんには違いなかったのがわかっただけで満足さ、よかったよ。





 ライオンはシロが部屋を出たのを確認すると体を起こして少し目を閉じた。


「まったく来るなり私の心配ばっかりして… あんな大怪我しといてお前は大丈夫なのか?っつー話だよね?フッフッ!可愛い弟だよ本当に」


 ライオンは少し照れくさくなったのか、顔がニヤケなくなるまではゴロゴロすることを続けることにした。





「そっか、弟さんでもダメだったか」


「なんか拗ねちゃってるみたいで… ごめんねみんな?俺がさっさと顔出してればこんなことには…」


「大丈夫だよ弟さん!!大将も子供じゃないしすぐいつもの大将に戻るよ!」


「そうだぜおとーとさん!おとーとさんは悪くねぇよ!」


 ツキノワさんとオーロックスさんも集まり、俺はみんなにも謝っておいた。

 だってこうしてみんな励ましてくれるけも、実質俺が悪いことには変わりないのだから。


「これみんなで食べて?本当は姉さんも一緒がよかったけど、なかなか機嫌が直るまでは無理そうだし… でも姉さんの分も残しといてあげて?」


「りょーかいっす!いい匂いっすね!前もらったリンゴを思い出すぜ!」


「へぇ~リンゴがこんな形に変わるんだ?不思議ぃ…」


「そっちの腕も健在のようだね弟さんは!」


 三人にはアップルパイを渡して先に食べてもらうことにした。


 さて… 俺がいると姉さん降りて来づらいかもしれないし、この辺で失礼しようかな?帰って晩飯作らないといけないしさ。


 そう思って城の外に出た時、これもまた久しぶりに聞く声が響いたのだ。



「たのもー!!!」



 うわなんだ今の!いや、今の大声は!?


「チッ!大将がこんなときに!」


「懲りずにまた来やがったか!ヘラジカ!」


「やっぱり師匠か… ツキノワさんどうしたのあれ?」


「大将が全然遊んでくれないからああして強行突破をしようとしてくるんだよ」


 強行突破てあんた… もう師匠はまったく、やり方が直線的過ぎるよ。

 いやこれも俺のせいか?平原の王二人はどうしてこう俺が絡むとこじれるのかねぇ?仕方ない、ここは弟として俺が対応するとしますか。


「師匠、お久しぶりです」


「おぉシロ!元気そうだなぁ?一緒にライオンを倒そう!」


「倒さないよ!姉さんなんか乗り気じゃないみたいだから遊んでほしいなら俺が相手するよ?どう?」


「ほう… いいだろう!なにで勝負する?」


 これも弟の勤めというやつだ、心配かけたのだから代わりに師匠の相手くらいやってやるさ。


「いつもはどうしてるの?」


「最後にやったのはお前が教えてくれたケイドロだな」


「じゃ、今日はサッカーでどう?」


「よし決まりだ!」


 ってなわけで…。



「「いざ!勝負だ!」」



 さぁ今回も始まりました、平原の戦い!今宵はサッカーで勝負!さぁどーなる!

 

 チームヘラジカはリーダーの師匠を筆頭にキーパーは鉄壁のお嬢様シロサイさん、残りのメンバーはヤマアラシちゃんとアルマジロちゃんがいるようだ。


 一方こちらチームライオンは姉さんに代わり今日だけは俺がリーダーだ、俺だってライオンだってとこ見せてやる。


「ポジションは?」


「私がキーパー、二人と大将が攻めだね」


「了解、じゃあみんな今日は俺についてきてくれる?」


「もちろんだ!」


「弟さんがリーダーなら大将の代わりも十分勤まるよ!」


「ゴールは任しといて!」


 よーし正直死ぬほどプレッシャーなことを言われたが姉さんの為にも俺がしっかりせねばならない、さぁいくぞ!


「よーし!しまっていこー!」


「「オーッ!」」


 試合開始!


 さぁホイッスルが鳴りました!(幻聴)


 先にボールをとったのはキャプテンのヘラジカだ!


「おぉぉぉぉお!」


 おーっとすごい突撃だ!チームプレーも何もあったものではないワンマンプレーだ!


「行かせねぇぞ!」「私たちが相手だ!」


 オーロックス&オリックスのコンビがヘラジカを止めに入る!一旦突撃は止まるがぁー… おーっと?キャプテンヘラジカここでたまらずパスだ!ワンマンかと思いきや意外と考えてるぞー!


「よーし!チャンスだよ!」


 ここでアルマジロだー!アルマジロがライオンチームの二人が離れた隙にボールをキープしてゴールへまっしぐらだ!実はヘラジカは陽動に使う作戦だったのかー!荒削りだがなかなかうまいぞー!


「俺もいるよ!」


 ここでリーダー代理!私シロが止めに入ったー!おやぁ?アルマジロ怖じ気づいたか!?足が止まるー!


「やっばー!?と見せかけてパース!」


「はいですぅ!」


「いつのまに!?」


 ここでヤマアラシにパスが渡ったー!キャプテン代理の私シロ!不馴れな為か反応が遅れしまった!追いかけるが後ろはヤマアラシの針があって迂闊に近づけなーい!


「任せて!」


 キーパーのツキノワグマがシュートを警戒している!ヤマアラシこの壁を破れるか!?


「シュート!と見せかけてパース!ですぅ!」


 おーっと?ゴール前でまたパスだー!ボールを受けたのは…?


「任せておけぇー!でぇぇぇいッ!」ドシュウ!


 キャプテンヘラジカだぁー!強烈なシュートがツキノワを襲うー!


「受けとめ… れなーい!?無理ー!?」ドーン! 


 駄目だぁー!?ヘラジカのシュートが強すぎてツキノワ受けきれなかったー!ヘラジカチーム一点!


「ごめんね~」


「ツキノワさん大丈夫!?」


「平気だよ~!慣れてるから!」


 毎回あのシュート食らってんすかツキノワの姉御?ツラいっすね?


 しかし、油断した… 意外と撹乱してくるぞ師匠達。



 それからこちらも何度か点を取るも劣勢、どうやらやはり姉さんのようにはいかないようだ… 俺には姉さんのような指揮力が無い。


「ごめんよみんな?俺には姉さんの代わりは…」


「弱気になるな弟さん!」


「まだ終わってねーっすよ!」


「まぁまぁ、遊びなんだからそんなに気負わなくても…」


 そうだまだだ、まだ終わってない!


「ありがとう!よーっしやるぞやるぞ!」


 とは言ったものの… なんか悔しいんだよな、この作戦を立てたのは師匠ではないな?きっとハシビロちゃんだ、彼女はやけに頭がいいからな。

 しかし作戦通りに動く師匠たちもさすがと言わざるを得ない、俺の指揮では付け焼き刃に過ぎないということか…。


「どうしたシロ!あと一点で我らの勝ちだ!お前の力はそんなものか!ライオンが見たら呆れるぞ!」


「クッ!」


 悔しいがまったくその通りだ!


「待てぇいッ!」


 その時城からひとつの影が現れる、そう… 彼女こそこのプライドのリーダー、真の百獣の王、頼れるお姉ちゃん、血の繋がらない弟をこよなく愛するフレンズ!


「ヘラジカァ!弟をいじめるな!」テーテッテー!


「「大将!?」」


「ふっ… ようやく出てきたかライオン!」


「姉さん… どうして?」


 ゆっくりと俺のもとに来た姉さんは優しく頭を撫でて言った。


「よしよし、よく頑張ったね?アップルパイとかいうのを食べようと思ったんだけどみんないないじゃん?そしたら大事な弟が苦戦してるからお姉ちゃんほっとけなくって飛び出しちゃったのさ~!」ウィンク


 まったく心配かけてこの姉さんは… でもこうでないとね?味方にいるときのこの凄まじい安心感よ。


「もう~姉さん?もっと早く来てよあと一点で負けだよ!」


「めんごめんごぉ~!逆転すりゃいいじゃん!オリックス~?変わって~?」


「はい大将!」


 オリックスさんとチェンジすることでライオン種が二人揃ったこのチーム… 師匠?果たしてあなたは滅びずにいられるかな?←滅ぼすな


「ライオンが二人… 相手にとって不足なし!」


「キツいですよヘラジカ様!」

「大分無理があるですぅ!」


 試合再会!





 結果はまさに姉さんの予告通り逆転勝利、姉さんは人を使うのが上手く指示が的確、俺の動きも読んでフォローに回るのも早い、抜かれたと思えば姉さんが止めてくれる。


 交互に助け合えば師匠でも歯が立たないというわけだ、恐れ入ったかね?


「やりぃ!ウチらの勝ちぃー!」


「いい戦いだったぞ!ライオン二人と同時に戦えるなんてそうできるものじゃないからな、満足だ!」


 そうして白熱したサッカー大会は終わりを迎え勝利のアップルパイを食す、思いっきり動いたあとはオヤツが美味しい… 人でもフレンズでも共通の事実だ。


「シロぉ~?ねーちゃんに心配かけた罰として城までおんぶして~?」


「えぇ~… しょうがないなぁ、今日だけだからね?」


「さんきゅさんきゅ~♪」


 よいしょっと… あら?思ってたより軽い?ライオンだろうが女の子は女の子ってことかな。

 しかし背中が柔らかくて気が気じゃないねな、無にならなくては…。


 無に…。

 無に…。

 むに… むにむに…。


 あぁ無理だわこれ、しばらく前屈みだな。


 こうしてワガママを言って俺を困らせる姉さんには参ったが、また拗ねられても困るのでおとなしく聞いておかないと、正直これもそんなに嫌でもないのが本音だけど。


「ほらシロぉ!アーンってしてよアーンって!」


「はいはい… はいアーン?」


「あ~ん」バクッ!


「痛い痛い!姉さん指痛い!」


「大将が楽しそうでなによりです!」


「おとーとさんが来てくれたおかげだ!」


「こんな大将久しぶりだね~?」


 早めに帰ろうと思ったが少し遅くなるかも、助手が言ったように絡まれてしばらく離してくれなさそうだな?


 今度は長のご機嫌取りがまってそう…。

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