第40話 おんせんたまご

 うどんという実に単純なことに気付いてかれ数日、研究を重ねている俺は麺類ばかり作ったいた。


 しかし今朝「米を食わせろなのです」と言われたので、今日は久々に炒飯なんて作ってる次第である。


「「いただきますッ!」」パンッ!


「ど~ぞ~」


 最近いただきますの勢いが凄まじい二人を見ていると、ガツガツムシャムシャとまるで大食らい系主人公の漫画を見てるような、そんな気持ちになってしまう。

 そんなに米が恋しかったのか、正直すまんかった…。



「ごちそうさまでした」「でしたのです」


「はい、お粗末様」


「ところでシロ、これを見てほしいのです」


 と博士から渡されたのはとあるページが開いてある本だった、そこに写るは茹で玉子… のようだがしかし、トロトロとして半熟具合が絶妙に食欲をそそるものだ。


「これは…」


「これはなんなのです?」

「玉子ではないのですか?」


「うん、これは温泉玉子だね」


「「おんせんたまご?」」


 温泉玉子… 黄身は半熟、白身は半凝固状態の玉子料理?である、一部では温度卵とも言われている。


 イメージとして温泉の湯や蒸気で蒸したりして作ってる物が多いが、温泉を利用した温泉玉子は状態に関わらず温泉玉子だ… というのはややこしいかもしれないが、つまり温泉で作られた物はガチガチのゆで卵だろうがほぼ生卵のものだろうが温泉玉子ということである。


「なんの冗談ですかシロ?」

「騙そうとしてもそうはいかないのです」


「え?」


 あらやだこの子たちどうしたのかしら… 反抗期かしら?


「何を言うかと思えば温泉玉子?」

「温泉はお湯です、卵を産むなんておかしなことがありますか?」


 マジか… こっちがなんの冗談ですかって感じだよ、そうきたかちょっとなに言ってんのかわかんないっす。


「我々賢いのでそれくらいお見通しですよ?」

「バカにされては困るのです」


「じゃなくて、ゆで卵と生卵の中間みたいなものを温泉玉子って言うんだよ、温泉のお湯で茹でたり蒸したりするからそう呼ぶんだけど」


「「…」」


 その一瞬、場が凍りつき静寂が支配した。

 恥ずかしいよね長達よ?いいよ、黙っててあげゆ~?←煽り


「し、知ってましたよ!ほんのジョークですよ!」

「そそ、そうです!冗談に本気になってシロはまだまだ子供ですね!」 


「あぁはいはい…」


 でその温泉玉子がどうした?という話だ。


「興味があるのです」

「でも温泉玉子というくらいだから温泉でしか食べられないのでしょうか?」


「そんなことないよ?ただ茹で加減が難しいみたいだね…」パラパラ


 本をめくり詳細を調べて見たところ… 温度は70℃~75℃を保ち、30分から40分で出来上がる…  簡単に言ってくれるが温度計もないのにそんな正確な作業が俺にできるだろうか?単純なようで複雑だ。


「とりあえず作ってみようか?卵とお湯で作れるし」


「待つのですよシロ」

「我々思うのですよ」


 なに?

 そうと決まればとお鍋に水を汲みに行こうかと思っていた時だ、二人には何か考えがあるそうでせっかくワガママに答えようとする俺を止めるのだ。


「せっかくだから温泉で作るべきではと…」「温泉は様々な成分があり体にいいのです」


「つまり温泉で温泉玉子を堪能したいと」


「「そうです」」


 どんな理由かと思えばまったく。

 でもたしかに言い分は正しい、温泉玉子なんだから温泉で食べれば雰囲気でプラス10点と言っても過言ではないと俺も正直そう思う。


「じゃあ温泉に?」


「レッツ!」「ゴーです!」


 よし!直行便だ!ここからみずべちほーを越えてまっすぐ、真っ白な雪の積もる山へひとっ飛び。

 中々顔も出せてないしキタキツネちゃんはゲームの相手を欲しがってるし丁度良い、しかも温泉玉子を宿で出せばさらに賑わうのではないだろうか?ギンギツネさんにも聞いてみよう。


 ところで。


「さっむ!」


 雪山で、尚且つ空を移動してるからキツいこと… 天候が荒れる前に宿の前まで到着した俺たちは体をガタガタと震わせながら屋内まで進んだ、卵が割れないように注意しましょうね?


「あら?珍しいお客さんね?」


「どーもギンギツネさん、元気?」


「ご覧の通りよ、シロも調子良さそうね?酷い怪我だったけど安心したわ?ところで三人でどうしたの?温泉旅行かしら?」


「あえて説明するなら」

「探求心ですね」


「そ、そうなのね…」


 そうだね、ギンギツネさんが少し引くのもわからんでもない、だって温泉さいこー!って皆足を運ぶはずなのに探求心ときたらそりゃ意味不明だろう。

 まぁ温泉旅行という表現も探究心という表現もあながち間違いではないのだが。


「でも博士達?ちょっと問題があるんだよ実は…」


「なんです?」

「聞きましょう」


「ここの温泉の温度では温泉玉子ができないよ、ぬるすぎる」


「ほぅ?しかしだとしたらおかしいのです」

「熱すぎると我々が温泉に入ることができないのです」


 つまりは人… まぁこの場合はフレンズが入れるためだが。

 それくらいの温度のため調理には向かない、高くて45℃くらいだろうか?まぁ当たり前のことだ、というか温泉は浸かるものだろう、調理用温泉なんて聞いたことない。


「ねぇなんの話?卵?」


「ちょっとね… ギンギツネさん?とんでもなく熱いお湯のでてるパイプはあるかな?」


「ん~… どうだったかしら?」


 もし無かった場合は頂上の源泉まで行かなければならない、温泉玉子の為だけにだ、それは普通にツライのだ、イヤだ行きたくない。←トラウマ


「ちょっとわからないわね… ごめんなさいね?」


 そうか、ならばよし… まずは宿中のパイプをしらみつぶしにしてくれる、頂上の機械がどういうものかいまいちわからないが… もしかしたらこちらに流す仮定で温度を下げる機能があるとかでは?源泉というのは熱いものだと思ってる、あるいはここは雪山だ、いくらでも冷却ができるのだから。


「へぇ?温泉玉子?… 不思議ね、温泉に玉子だなんて!それでその、卵を沢山持ってるのね?」


「うん、うまいこといったら食べてみて?そうだ、キタキツネちゃんは?」


「あの子なら今はお風呂に…」

「ギンギツネー!タオルが無いよー!」スタタタ


「「あ…」」 


 そうそれは、沈黙と静寂。


「シロのバカ…」


 その時おキツネのお姉さんササッと腕をクロス、そして赤面して涙目。


「は!?いやごめんなさい!」クルリと反転


「い、今持ってくからとりあえず戻ってなさい!?」押し戻し



 キタキツネはですねぇ、基本的にはゲームしてダラダラ過ごしてまして、若干や温泉が沸いてるところなので、そういったところで温まりやすいように、あの、服を脱いで…。

 であと磁場を感じるので、見えないものも感じ取りやすいように…。

 スタイルの良さぁですかねぇ… スレンダーでくびれも綺麗な動物でして、結構大分顔も可愛いので、軽々と男性の一人や二人、余裕で誘惑してくれますね。


 じゃぱりとしょかん しろおにいさん (じゃぱりぱーく)



「シ、シロ?あの… 大丈夫よ?いきなり出てきたあの子が悪い!あなたは悪くないわ!」


「うん、大丈夫…」


「ねぇ?その… なんで膝をついて壁に向かっているの?」


 知らないのかい?こうしておかないとあなたにも嫌われるんじゃないかと思っての拝領なんですよこれは?年頃だからね?


「冷却期間と言っておこうかな」


「…?なんだかわからないけど落ち込んでたりしてるんじゃないのね?」


「大丈夫、むしろ元気だよ、いやかなり元気、でも今はそっとして?お願いだから」


「わ、わかったわ… 私、タオル持ってくわね?後で謝るように言っとくから…!」スタタタ


 足早に去っていくギンギツネお姉さん、壁に向かって硬直するシロお兄さん、浴室から出られないキタキツネお姉さん。

 まぁお風呂屋さんだしこういうこともあるよね?やれやれまーた夜眠れなくなっちゃうよ、男の子って不便~… 困った困った。


 なんて実にくだらん考え事をするうちに落ち着いた俺は立ち上がった、同時にタオルを手に入れたキタキツネちゃんがちゃんと服を着て現れて「ゴメンね…」と謝ってきた。

 でもそんな表情で言われるとさっきの出来事を思い出してしまいそうだから、俺は目を合わせない秘策として深々とお辞儀をすることにした。


「誠に、申し訳ありません…」平謝り


「えぇ~頭あげてよぉ?これじゃあボクが悪者みたいじゃん」



 さて気を取り直して本来の仕事を思い出したぞ、熱いお湯の出るパイプね… 無いってことは無いと思うんだ


「これは…?」


 いろいろ探すうちに宿の外、入り口のすぐ横の辺りだ… ここにはお湯が流れる設備がある、俺にはわかる。


 雪をどかすと石垣みたいなものの真ん中に穴がある、そしてすぐしたには足湯くらいの深さで幅は直径にして1メートルほどの広さの囲い?のような物がある、つまりここにお湯がたまる


「キタキツネちゃんこれなにかわかる?」


「ここからもお湯が出るはずなんだけど足湯にしては狭いし、そもそもここでお湯に入るなら中でお風呂に入る方がいい」


 うん、まさにその通り… ということはここではなにか別のことをやってたってことだろう、温泉本来の目的で使われていない温泉。

 それは即ち…?


「シロにはこれがわかるの?」


「いや、どうかな…」


 これのすぐ裏、壁が密着して隙間が見えない… つまり室内に何かあるはずだ。


「ここだね、丁度真裏に当たる」


 ドアを開けると思った通りパイプが通っていた、当然そこにはお湯を止めるバルブがあるわけだ。


 注意書がある。


「“高温注意”か…」


「どういう意味なの?」


「すごく熱いから気を付けてって意味だよ?じゃあ開けてみるね?」グググ


 固ッ!?負けてたまるか!野生解放だ!


「ガルァーッ!!」グググ!


「わぁ!?ビックリした…」


 気合いを入れた甲斐もありグルグルと回るバルブ、向こう側でお湯の出る音がする


「おー… 出てるね?どれくらい熱いの?」


「待って、危ないから触らないでよ? …うわあっつ!?」


「だ、大丈夫?」


「平気、これは温泉玉子用の高温温泉で間違い無い気がする、昔はここで実演販売でもしてたのかな?」


 間違いなくとは言ったが結構適当だ、でもとりあえずお湯が溜まってきたら卵を入れて試してみよう、なんか楽しくなってきたぞ。



「ザルを用意して、上から釣れるように取っ手を付ける… お湯から引き出せるように長めの紐かロープを結んでっと…」


「ここに卵を入れればいいの?」


「うん、とりあえず入るだけ入れてみようか?」


 10個ほどの卵が入った、これを湯に沈めて数十分待ちます


「後は待つだけ!」


「ねえシロ、久しぶりにやろうよ?」


「あれだね?いいよ~?いざ!勝負だ!」


「フフ… かかってくるがいいよ?」


 久々に格闘ゲーム大会と洒落こんだ俺たちは10点先取制での戦いを始めるのであった。



「よし!勝ちぃー!」


「えぇ~!ウソぉ~!?押してたのぃ!」


 大振りの技に頼りすぎたねキタキツネちゃん、スキだらけだったよ?初めは翻弄されたが慣れればお手のもの、10対7で俺の勝ちだ!


「修行が足りんぞキタキツネよ」


「クッ!」


「はい、負けたほうは罰ゲームだったね?ギンギツネさんの耳に息を吹き掛けてきてください」


「うぐぐぐ… わかったよ、次は勝つからね?」


 いつでも君の挑戦を待っているぞ!


 部屋から出たキタキツネちゃんはギンギツネさんにしれっとした顔で近づいた、そして無表情でこう言うのだ。


「ねぇギンギツネ?ちょっとしゃがんでよ」


「え?どうして?」


「いいからいいから」


「もう、なに~?暇じゃないのよ?」


 しょうがないなぁ…って感じでしゃがみこんだギンギツネさん「これでいいの?」と確認を取るとすかさずキタキツネちゃんはそのピョン立つ耳に向かい…。


「フー…」


「ウッ!?ひぃやぁ!?何するのよ!?」


 なに今のすっげぇ面白かったんだけど。

 ウッ!?ひぃやぁ!?とかさすがに草。


「ゴメンねギンギツネ、罰ゲームなんだ」


「罰ゲームってなによ!はっ!?」


「アーハッハッアハハ!あ…」


 見つかってしまった。


 その後、なぜ二人の勝敗で自分に罰ゲームの被害が及ぶのかという件で軽く説教をくらい、再度深々と頭を下げてから玉子の確認に入ることにした。



「シロどうですか?」ポカポカ

「できたのですか?」ポカポカ


「二人とも温泉入ってたでしょ?」 


「ここは温泉宿ですよ?」

「入らないのが返って失礼なのです」


 うんまぁ確かに… でも 抜け駆けかよ。

 いいさ俺もゲームしてたし、それはさておき温泉玉子の経過を見ることにした。


「じゃ、いくよ?」


「「ごくり…」」


 緊張の瞬間だ… 俺は殻を割り中身を皿に出した。


「おぉ…」「これは…!」


「やったよみんな… 成功だ!」 


 トロンと皿に玉子が落ちる、その姿まさしく温泉玉子。


「これが温泉玉子?」


「なんかあんまり感動しないね」


  ひどいじゃないかせっかく作ったのに… まぁいいや完成だ!食べ方はシンプルに塩をかけてみた。


「さぁ食べてみてー?」


「「いただきます」」パンッ!


 二人は殻を剥くとじゅるりと音をたてて一口に玉子を食べてしまった。

 

 その時、長の目がカッと開く。


「単純ですが… これは!?」

「美味しいのです!」

「もうひとつもらうのです!」

「今度は少しづつ食べましょう博士!」


 やったぜ大成功だ、長も満足おキツネ印の温泉玉子はいかが?


「そんなに美味しいの?」


「私たちもいいかしら?」


「いいよいいよ!食べてみて?ど~ぞぉ!はいど~ぞぉ!」


 ひとしきり堪能するとキツネさんたちも気に入ってくれたようで、作り方も簡単だし玉子は置いていくことにした。

 まぁ、玉子は俺はすぐ調達できるしね?


 温泉からやっと出てきたカピバラちゃんも食べてみたところ「気に入ったヨヨヨ」と好評だ、温泉名物ができあがりそうだね?よかったよかった。



 さて、せっかく温泉に来たのだから俺もひとっ風呂浴びてから帰りますかね?ここまでやれば誰も文句は言うまい。


「ふぅー… 極楽極楽ぅ…」


 ガラガラ ザバー 


 え?今誰か入って…、


「ふぅ、やっと私もお風呂に…」


「「あ…」」


 白い肌に銀の髪… それからとても綺麗な体のラインでした。


「なんでいるのよーっ!?」


「すいません先に入っててすいません!?」


 今度はギンギツネさんか、なぜ向こうの風呂に入らなかったのか?これが噂の孤独な男の幻かな?


 その晩はおキツネ二人の柔肌が脳裏にチラつきしばらく眠れなかった。


 まったくラッキーなんだかアンラッキーなんだか。

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