第38話 頼り頼られ

 あれから無事生還し、俺は図書館での生活に戻ることになった。

 ただすこ~し怪我が酷かったものだからちゃんと治るまで安静にすることを義務付けられている、これが少々退屈ではある。


 のたが…。


「もう大丈夫なんだけどな~」


「言ってろ、ほら杖」


「ありがとうツチノコちゃん」


 側にはツチノコちゃんがいる。


 俺が死にかけるまで事実を何も知らなかったことに責任を感じたのか、ツチノコちゃんは俺の身の周りの世話をするために図書館に残ってくれた、でもなんか悪いし帰らなくていいのかと聞いたんだけど…。


「地下迷宮は大体調べ尽くしたし、スナネコのやつは連れてきてもすぐ飽きるだろうからな、構いやしない」


 だそうで。


 俺は俺で杖が必要とは言えもうほとんど痛みもないし後は野生解放健康法ですぐにシロ100%になるので無理しなくていいよ?とは言ったんだけど…。


「お前が迷惑なら帰る」


 こんなこと言われてはさすがに帰れなどとは言えない、いてくれるのは普通に嬉しいし助かるのだけど、俺としてはツチノコちゃんはこっちの生活が合わないんじゃないかって心配なんだ。


 この体では何もしてあげられることもないし、もどかしい限りだ。


 そしてそんな何もできない日々では博士たちにも我慢を貫かせている。

 たまにかばん様御一行がお見舞いに来てくれては料理をしていってくれるけど、それも毎日じゃないし。

 俺の両手の爪が剥がれてなければ料理なんてちょいちょいなんだけど、まださすがにジンジンと痛む。

 ってなわけで二人にはとりあえずジャパリマンと簡単なもので料理に準ずることをして凌いでもらってるわけだ。


 この指じゃ包丁も握れやしない、悔しいがもう少ししたら痛みが消えそうなんだ、我慢してもらおう。


 博士達も、俺自身も。



「シロ、具合はどうですか?」

「痛みはまだありますか?」


「指が少しね、足は少し引きずるけど痛くないよ?あぁごめん、何か作ってあげたいんだけど…」


「い、いいのです!無理するものではないのです!」

「お前が元気になったらこれまでの分こき使ってやるのです!覚悟しとくのです!」


「あぁ… そう?ありがとう」


 なんかこう絶妙に気を使われてるんだよね、ムズムズする…。

 いつもの偉そうにしてる二人はどうした?まぁこれも二人なりの優しさとして潔く受けとることにしている、実質今の俺では何もできやしない。


 そういうわけなので。


「ねぇツチノコちゃん?なにかいい考えないかな?」


「世話好きなやつだなお前も、今は治すことだけ考えろよ?」


 そうは言いますが、何もしないでいるのと何もできないとではまた違うのだ。

 求められている以上何かできることがあればやっておきたい。


「いっつも料理してたからさぁ~?なんか落ち着かないんだよなにもしないのって… 変かな?」


「はぁ… ったく仕方ないヤツだな」


 彼女はポケットに手を突っ込み気だるそうな声を出すが、足取りは軽くフードの奥に不適な笑みを浮かべている、そんな彼女は俺の前に来るとこう言った。


「指示をくれ!オレが手足になって動いてやる!」


 するってーと君が料理をすると?

 こう言っちゃなんだけど、できるの?例えば…。


「でも火が…」


 そう、彼女達フレンズには火を恐れるという困った壁があるのだ。

 しかし知ったことかと言わんばかりに彼女は俺に言う。


「少し近いくらいなら直接見なければ平気だ、わかんなかったり危なかったりしたら教えてくれ!」


 それは決意の固い目だった。


 俺には無茶をするとか一人でなんでもやろうとするクセがあるのはもう何度も言われたのでわかっている、パークの掟は自分の力で生きること… それを馬鹿正直に真に受けすぎてしまったのかもしれない。

 彼女は力を貸してくれると言っている、この際せっかく頼れと言われてるならお言葉に甘えよう、群れの力はよく知っているんだ、難しいことだって協力すればできることも。


 だから。


「わかったよ、ありがとう!」


「ったく… 素直に頼ってくれたらオレは…」


「ん?なに?」


「な、なんでもない!さぁやるぞ!まずはなんだ?」


 というわけで始まりました、今日の料理は伝家の宝刀カレーライス!ツチノコちゃん上手にできるかな?

 

 よーいスタート!


「とりあえず米から用意しようか?」


「それなら何度も見たからわかる、水で何回か洗うんだろ?」


「そう、正確にはそれを“米を研ぐ”って言うんだよ」


「ほぅ?なぜだ?」←好奇心


「説明しよう!」


 米の表面には糠(ぬか)というのがある、それは油分を含んでいて、しっかり落とさないと臭みが出たり美味しくなかったりとにかくなんかムカつくことになる、食えたもんじゃない。

 というわけで糠を落とすには米を擦り合わせるように水を入れてかき混ぜる、まさに研ぐようにして落とすことから“米を研ぐ”と昔の人が言ったそうな。


「なるほど!ところでその“研ぐ”ってのは他にどういうときに使われるんだ?」←好奇心


「説明しよう!」


 “研ぐ”または“磨ぐ”と書く。


 よく使われる物の例として包丁をあげると、刃物というのは使い続けると次第に切れ味が悪くなる、これはまぁ当然だ。

 野菜も切れないようじゃ包丁としておしまい… でも大丈夫、砥石やそれに準ずるものを使い刃の部分を擦るとまた美しい切れ味になるのです、つまり削って綺麗にすることを研ぐまたは磨ぐ言うのである。


「そういうことかぁ!」


「そうだよ~」


「じゃあじゃあ!この刃物ってのは他にもいろいろあるってことなのか!?」←好奇心


 おっと、俺にはわかるよ… これは次々と質問が来て俺が答えられなくなるまで終わらないやつだ、なのでシロぺディアもここまでにしてもらおう。


「説明しない」


「なんでだよ!」


「料理しないの?」


「はッ!?すまない、つい…」


 まったく… 夢中になっちゃって可愛いんだから、尻尾ブンブン振ってたなぁワンちゃんじゃああるまいし。←ブーメラン


 というわけで。


「はい、それじゃ次は野菜を切りましょー」


「こんな感じだったな?」ターン!ターン!ターン!


「はいストーップ!」


 ブッブー! これでは、いけませんね?


「そんなに勢いよく振り落とさなくてもいいよ?前指切ったでしょ?」


「そ、そうか!確かに…」


 さて止めたはいいが、しかしこれはどう教えたものか?俺は手がこれだからなぁ、お手本を見せてあげたいのだけど…。


「な、なぁ!その手じゃお手本は無理そうだな?」


「うんごめんね?どうしようかな~…」


「あ、あの… 前やってただろ?あの…」


「ん?」


 彼女にはなにか名案があるらしい、前になにしたっけ?教えるのにそんな画期的な方法あったかな?ツチノコちゃん妙に汐らしいけどどうかしたのだろうか?


「ほら?う、後ろからこうくっつくやつ…」


 真っ赤な顔で下を向きもじもじとしている、口調も弱くなりボソボソとと声が小さくなっていく。


 くっつくやつ?って… あ… あれか?


 思い出した、かばんちゃんとオムライス作った時のやつか!なるほどあれをやれと言うのか!確かにそれならできそうだ!なるほど!よし!


「あ、あれね?」


「あ、あれなら… ほら?できるんじゃないか?」


 まぁ確かにできる。


 とは言ったものの、俺はあの時もかなり緊張したんだが、まさか要求されるとは。

 これは猛烈に恥ずかしいなぁ… そんな時、あの時の母の言葉が脳裏に響く。


 “ほらあのヘビの子は?”


 く、くそ!あぁもう!母さんのせいで意識してきちゃったじゃん!

 

 そんな照れて固まっている俺を見てなにか感じ取ったのか、ツチノコちゃんは急に冷静になると俺に言い放った。


「…イヤならいいぞ」


「え!?」 


 そ、そんなんじゃないけど…。


 “本命の子には嫌われないようにするのよ?”

 

 ッ!?… クッ!だぁー!もう!


「嫌じゃない!全然嫌じゃない!」


「ゥエヘッ!?そ、そうか?」


「もちろん!それじゃ後ろ失礼しますよ!」


「ま、待てそんないきなり来るのか!?」


 半ばヤケクソになった俺は彼女の後ろに周りスッと両腕に手を伸ばした。

 彼女は触れた瞬間ビクッと震えていたのを俺は見逃さない、お互いに緊張を隠しきれていないようだ。


 ツチノコちゃんとも知り合って長いけど、この角度から見るのは初めてだ…。

 

 そう初めてだ、バギーで向こうからくっついていたことはあったがあれは不可抗力みたいなものだしお互いなんの意識もしていなかった、むしろ後ろからスナネコちゃん前から俺と圧迫され窮屈で怒っていた。


 しかし今回はどうだ?向こうからご要望ときた、でも言われてみれば実際この方法しかないだろうし開き直ってやりますよ… 腰が引けるかもしれないけどね?仕方ないよこれは怪我してても健全なところは健全なんだ。


「ツ、ツチノコちゃん?そそそそんなに震えたら危ないよ?」


「おおぉお前も震えてるぞ?ちゃ、ちゃんと頼むぞ!?もう指は切りたくないからな!」


 うむその通りだ、一旦深呼吸しよう。


 落ち着くんだ。


 すー… はぁー…。


 よし、いい匂いだ… じゃなくて、落ち着いたな?やるぞ?


「いい?まずは左手で野菜を押さえて?手の形はこう」


「わ、わかった!」


「じゃ、切るよ?ゆっくりでいいから、叩き下ろすんじゃなくこう スッ サクッ とやれば切れるよ?どう?」


「へぇなるほどな、こうか?」


 トン… トン… と非常にゆっくりではあるが確実に野菜が切り進められていく。

 そう急いではいけない、俺も慣れるまではこんな感じだった。


「そうそうその調子!形は大体揃えばいいよ?カレーとはそういうものだから!」


「わかった!」


 ふぅ… よし、落ち着けばざっとこんなもんよ?女の子なんか怖くないぞ。


 さておき、ツチノコちゃんは少し教えるとさくさくやってくれたので先生とても助かりました、じゃあ続いて煮込みに入ります。


「次はお鍋に油を少し入れて、切った野菜をを炒めるよ」


「いよいよ、火を使うんだな?」


 緊張してるのはわかる、さっきの緊張とはまた別のものだ。


「怖い?」


「いや、大丈夫だ!でも着けるときは頼むぞ?」


「わかった」


 返事はいいが、心配だな… 本当に大丈夫かな?

 

 獣… フレンズにとって火を克服するというのはどれ程のことなんだろうか?


 不安に思いながらも俺はマッチで火を着けて薪を足す、火力が十分になったら鍋を置かなくてはならない… がしかし。


「う…」


 ツチノコちゃんは鍋を持ったまま火の前に立ちすくしている、やはり見えていると怖いようだ、無理をさせているのだ。


 これはいけない、無茶はさせられない。


「ツチノコちゃん、俺が置くよ?」


「でもお前その手…!」


「たいして重いもんじゃないし、平気だよ?ありがとう、後は任せて?」


「ん~しかし…」


 怖がる彼女を見ていられないというのもあるが、正直これくらいできる… というかこれくらい持てなかったから本当になにもできない、本もめくれない。


 受け取ったとき少し痛かったが問題はない、これくらいは許容範囲だ。

 なので鍋も先程の米もそこにサクッと置いて見せた。


「すまない…」


「大丈夫だよ!ここまでやってくれないと俺はできなかったんだから?十分助かったよ?ありがとう!」


 ここからは俺がやろう。


 と厨房に立ち鍋を混ぜ始めようとすると、その時隣に立った彼女はそれを止められてしまった。

 ここまできて結局俺に任せるのが悔しいのかもしれない。


「やらせてくれ、頼む」


 そんなまっすぐ真剣な目でそこまでハッキリ言われたら俺も断りにくい、それにここで断るのは彼女の尊厳を傷つけることになる。


 確かに俺がやれば問題なく終わるのかもしれない、完成したらツチノコちゃんによそってもらえば良いのだから。


 だがそれでも時に意思を尊重することが大事なんだ。


「怖くない?」


「怖い、だから… 隣に… いてくれ…」


 頬は赤く目は潤んでいる… 手は俺の服の裾をぎゅっとつまみ、俺の返事を待ち顔をやや下に向けている


 なぜだかそんな彼女にドキッとしてしまった。


 なんだこれ、さっきから変に意識して。

 全部母さんのせいだ… 全部。


 本命の子なんて…。


「じゃあ、頼むよ… ここにいるね?」


「あぁ、任せておけ!」


 俺がそう答えると彼女も顔を上げて自信ありげな笑みを見せた、その表情に俺も安心感を覚えた。


 ただやっぱり強がってるようだ、順調に見えるが震えて見える… 当たり前だ、恐怖の対象が足元にありその熱を確かに伝えているのだから。


 そんな姿を隣で見ていると、全て俺の為にしてくれているんだと思うと… なんかこう…  とにかく俺もなにか彼女にしてやりたいってそう強く感じている。


 でも何もできやしない、そんな中怖がる彼女の為にできることと言えばこれくらいだ… 嫌がられるかもしれないけどその時はその時だ。


「え!?うぇっ!?シロ!お前…!?」


「ごめん、いきなり… 震えてるみたいだから」


 俺は再度後ろから密着して手をとった、彼女は大層驚いた様子だがその時同時に震えは止まっていたように思う。


「嫌だったら離れるから…」


「イヤ… じゃない、助かる… 」


 そのまま二人は身を寄せあったまま、料理は続いた…。





 そのあとは水を入れて沸騰させる、溜まった灰汁をとればお次はおまちかねのスパイスの登場だ。


「ようやくここまで来たな」


「うん、そして予め用意しておいたスパイスシロスペシャルがこちらです」


「これが噂に聞く“お袋の味”になるんだな?」


「それ誰から聞いたのさ?まぁいいや、これがちょうどこの鍋の一杯分、ざざざーっといっちゃって?」


「わかった」ザザザー


 遠慮なく投入される所謂カレー粉の役割を果たす者達、それわよーくかき混ぜてとろみがでたら、先程のお米と一緒にお皿によそいます。


 というわけで。


「完成!」


「ぃやったぞぉー!ハハハァーッ!」


 そんな風に、手放しで喜ぶツチノコちゃんを見てると心が和んだ。


 苦労したが、なんだか楽しい料理だったと思う自分がいる。

 怪我人でも協力すれば料理できるし火が苦手な子でも協力すれば火にも負けないということだ!見たか!これが協力プレイだ!


「やっとできたのですか?」

「待ちくたびれたのです」


「あぁ二人とも、今持ってくね?名付けて特製カレーWithツチノコちゃんスペシャル」


「なにスペシャルでも構わないのですが…」「まったくお前達、我々がいるのを忘れてたのではないですか?」


「「え?」」


 忘れてた?わけではないけど… まぁ確かにバタバタして二人のこと考えてる余裕なんか… ハッ!?まさか!?


「気付いていないのか、わざとなのか知らないですが」

「我々の前でベタベタイチャイチャと、恥ずかしくないのですか?」


「「…」」


 ベタベタイチャイチャだと?


 俺とツチノコちゃんは思い返してみるとたいへん… そう、たいへんその… はい、ベタベタしていました、身に覚えがあるのです。

 俺達は顔を見合わせて数秒黙ると、お互いに顔が熱くなるのがわかり汗をダラダラと流した。


 間もなくして、先にツチノコちゃんが臨界点を突破した。


「キィヤァァァァァア!?!?!?」←逃走


「あ、ちょっとまって!?置いていかな… アァ!?痛い!足捻ったぁッ!?」←転倒


 そ、そんな逃げることないじゃん!杖!杖とって!痛いの!




 …





「やれやれです」


「とりあえず博士、久しぶりにいただきますですよ?」


「そうですね助手、美味しい物を食べてこその人生なのです」


「では…」


「ええ、それでは…」


「「いただきますッ!」」パンッ!

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