第35話 かざん

 本日、修行の仕上げにサンドスター火山に登りますシロと申します。

 なぜ登るかって?まぁ身を清めに滝に打たれに行くようなものさ。

 

 火山からは噴火の度にサンドスターが吹き出しフレンズ達を生み出す、話に聞くと髪の毛一本あればフレンズ化可能らしいし、化石からフレンズになった子もいるとか。


 そんなサンドスター火山は博士たちも言う通り神聖な場所だ、身を清め今後の安泰を願うにはうってつけと言えるだろう。


 母さん見てますか?あなたの故郷で俺はこんなに成長しましたよ?母さんより料理もできます、友達もたくさんいます、姉もできました、師匠もいます、なんだか結構カオスですね?でも幸せです。


 あとは恋でもすればもう少し大人になるのかなー?なんて… 母さんたちの出会いはどんな感じだったんだろうか?いややめとこう、両親の情事を想像するものではない。



「じゃあ博士?助手?行ってくるね?」


「気を付けるのですよ?」

「本当に一人で良いのですか?」


「そりゃ不安はあるし飛んで行けば早いだろうけど、これは俺個人の問題だしね?それにラッキーも連れてくから寂しくないよ?

 あ、博士達も!あんまり食べすぎないでよ?賢いなら配分くらい考えてよ?」


 お互い、あれは大丈夫か?これは大丈夫か?というのを繰り返していた。

 二人は俺を心配して何度も同じことで確認を取るし、俺も二人がまたご飯のことで倒れたりしたら大変だと確認を取った。


「見くびるなですよ」

「我々二度も同じ失敗はしないのですよ」


「フリシアンさんがヨーグルトをくれたし、ジャムも何種類か作ったから、これなら火を使わなくてもジャパリマンにつけて食べたらまだ楽しめるはずだから…」


「わかってるのですよ!」

「その話は三回目です!」


 これなら大丈夫そうだね、なんかあったらまたかばんちゃんが顔だしてくれるだろうし、俺だって何日も留守にする訳じゃない。


 調子よく進めば今日中に、遅くても明日には帰れるはずだ。  

 仮にハプニングが起きたとして、どんなに長く見ても三日以内に帰れるはずだ、バギーの燃料も入れたしラッキーもいるからいざとなれば通信ができる。


「シロ バギーハ問題ナイヨ」


「ありがとうラッキー、じゃあ行こうか?」


「イツデモイイヨ」


「そうだ!待つのです!」

「これを持っていくのです!」


 二人から思い出したように手渡されたのはアクセサリーのようなものだった。

 白と茶色の羽が一枚ずつに… 牙かな?それに綺麗な石がいくつかつけられたものだ、イメージはインディアンの御守りみたいな。


「これは?」


「羽は我々の物で、かばんに作ってもらったのです」

「“御守り”と言うのでしょう?ヒトのなかでは?」


 二人から御守りをもらえるとは、そっか羽は二人の物なのか… かばんちゃんも器用だなぁこんなの作れちゃうなんて。


「そっかありがとう!あ、でも牙は?」


「それはライオンの牙です」

「いきなりきて我々の前で引っこ抜いたのですよ」


「えぇ!?」


 牙を…!?抜いた!?姉さんが!?


「ヘラジカがお前に槍をあげてズルいから自分もなにか渡したいと突然現れたのです」

「過保護なやつです、せっかくなので御守りにしてやりました」

   

「そっか、姉さんが…」


 バギーの燃料を探しに行った時に来たそうだ、目頭が熱いが泣くのは後だ、全部終わってからこっそり一人で泣こう。

 帰ったら姉さんにお礼を言いに行かないと、アップルパイを焼けるようになったしね?歯大丈夫かな…?


「まぁただの登山みたいなものです、そんなに心配はしてないですが…」

「それはきっと、お前を守ってくれるのですよ?」 


「ありがとう!じゃあ行ってきます!すぐ戻るから!」

 

「「いってらっしゃいです」」





 二人は軽く手を振り彼を見送った。


 シロを乗せたバギーは土煙をあげながら走りだし、みるみる遠くなり小さくなっていく。


「不思議ですね助手」


「何がです?博士?」


「いえ、なぜか雛の巣立ちを見てるような気分なのですよ…」


「今なら私にもわかります“可愛い子には旅をさせろ”ですね?」


「では可愛い助手も旅をしてみますか?」


「可愛い博士が一緒ならどこへでもいきます」





 山の麓に着いたとき、たまたまハンターの皆さんに会った、ヒグマさん達から「着いていくよ?」と言われたのだが、丁重にお断りした。

 だってハンター三人も引き連れて、もしどこかでセルリアンがでたら「オーダーキツいですよ~!」になるかも、守るべきは他にもあるはずだ。


 第一これは俺の修行だ、例え親切でも人の力を頼りにはできない。


 でも一応、三日後に図書館に居なかったらなにかあったと思ってほしいと保険は掛けておいた、こういうこと言うとフラグとかいうのになって大抵良くないことが… というのもへし折ってくスタイルで山に登る。

 




 登り始めると、いつかの雪山と違いバギーだと楽チンだ。

 おや?噂をすればゆきやまちほーが見えるぞ?バギーなら雪山だって登れそうだ。


 ところで雪山と言えば、ライオンって寒さに強いの?俺はなんであの時あんな勢いで雪山を登れたのかな?ライオンは暑いとこにいるイメージなんだけど…。

 

 聞くと「ホワイトライオンハ…」と解説に入るラッキー。


 ラッキー曰く、ホワイトライオンとは他の動物の白変種と違い所謂アルビノの類いではなく、氷河期に主に生息していた白いライオンの先祖帰り、覚醒遺伝というやつだろうか?それに当たるらしい。


 氷河期はどこもかしこも一面雪と氷に覆われて白いほうが狩りに有利だった、故に当時のライオンは白いが、氷河期が終わると今もよく見る黄土色に変わっていった。


 それがたま~に遺伝して白いライオンが今でも生まれる、だがホワイトライオンは個体数が少なく長生きもできない。

 というのは、単になかなか生まれないのと今の環境だと白くて狩りの時見つかってしまうからだそうだ。


 即ち餓死が多い。


 思えば母さんはよく「パパのおかげで白くてもご飯に困らないねー?」とか言ってた気がする。

 そういうことだったんだね?よく食べる人だったけどそんなハングリーな理由がフレンズ化に影響をだしたか、俺は普通だけど。

 




 俺を乗せてどんどん山を登るバギーは岩を何度も越えて頂上を目指す。

 やがてゴールが近づくと明らかにその場には不自然な物体を俺は見つけた。


 さっきから違和感は感じていたが…。


「これは…」


 鉄の塊、だがただの鉄の残骸ではない。

 俺の見立てが正しければ、これは“砲弾”じゃないのか?よく見るといくつも落ちている上に錆びている、長い間この数がここにあったことを匂わせている。


 それにあれは…。


「戦闘機… か?墜落したのか?」


 なぜ?


 よくわからないが戦闘機なのは分かる、それは横向きになって地面に突き刺さっている。

 これが意味するのはこいつが落とされるようなことが過去にあり、やはりその時から長い間誰の手もつけられていないということだ。


 あれが戦闘機ということは、散らばっているこれらはやはり砲弾でここで起きた異変というのがより壮絶だったことを物語っているということだろう。


「ラッキー、これについてなにか知ってる?」


「…」 

 

 話しかけたが返事が無い、聞こえなかったのだろうか?


「ラッキー?」


 聞き直すが、やはり返事はない。 


 なんだよ、なんでなにも言わな… 


 「これは…!?」


 俺はその時、自分の手を見たときハッとした。


 爪だ… 野生解放はしていない、でもこの爪はフレンズ化の時の爪だ。


 頭に触れるといつもより髪が多いことに気付いた、ここまでくると予想通り猫耳も尻尾もあったがもう驚かなかった。


 これは間違いなく俺の体で、無意識のうちにフレンズ化している… そう、まったく気付かない間にだ。


「ラッキー!」


「…」

 

 再度呼び掛けるがじっとこっちを見るばかりで返事をくれることはない。


 そうかわかった… 今の俺はフレンズとしてカウントされているのか?返事がないのはその為だろう。

 それでも俺が“シロ”とは認識できてるのか、あるいは混乱しているからなのかはわからないが歩いた先にはしっかり着いてくる。


 とりあえず俺が空気になったわけではないことに安心しながらラッキーにはカバンに入っててもらうことにした、もし何かあったら警報を鳴らすはずだ。


 

 このフレンズ化… 変化にまったく気づかなかっただけに落ち着かないとかそういったことはない、本当にただフレンズ化しただけだ… 野生解放の時のざわざわした感覚が無いから単に姿だけがフレンズになってるということなのかもしれない。


 こういう変化が俺の体に起きるのはやっぱりサンドスターが濃いからなのか… そりゃ吹き出すとこにいるんだから影響もあるのかもしれないが。


 様々な俺の体に関する疑問があるが一旦それは置いといて、それにしてもこれはどういうことだろう?


「五合目?」


 石の看板みたいなものにそう書いてある。


 おかしな話だ、ここが五合?だってここはどう見ても…。


「頂上じゃないか…」

 

 墜落した戦闘機… 錆びた砲弾… 過去の異変…。


 教科書の中身を思い出してきた、“セルリアン殲滅作戦”だったかな?爆撃機まで出動させてセルリアンを… それでもパークを捨てて撤退せざるを得ないほどの異変。


 ここが五合目ということは、爆撃で山をえぐったってことなのか?


 まてよ、よく考えたらおかしい… なんで山を爆撃するんだ?セルリアンが山からでてきてるんじゃないだろ?山からでるのはサンドスターだ。

 まさか山のサンドスターをふさぐことが目的だったのか?

 セルリアンの発生源であるサンドスターロウを塞ぎたいために、フレンズの源でもあるサンドスターごと山を埋めようとしたってことな?そんなのってないよ!


 それに戦闘機は何に落とされた?まさかフレンズ?フレンズにそんな力があるのか?いやさすがにそれはない… 音速で飛び機銃や爆弾をもつ戦闘機に勝てるフレンズなんかいない。

 恐らくセルリアンだ、いろんなやつがいるらしいし、空を飛ぶでかいやつもいたのかもしれない。


 ミライさんはサンドスターロウだけを無くそうと動いていたが、フレンズとは切っても切れない関係なのかと悩んでいたようだった、映像だとそんな感じだったはず。

 教科書だとこの殲滅作戦はフレンズを守るためにみたいな書き方をしてたけどきっと違う、まるで腫れ物のような扱いだったんじゃないのか?国からすればフレンズだろうがセルリアンだろうが邪魔ならつぶしてしまおうと… サンドスターの奇跡は人の手に余ったんだ、だからジャパリパークは隔離という形を取ったんじゃないのか?


 深読みかもしれない… でもこんな物騒な物があったら嫌でも悪い方に考えた。


 いずれにせよ良くないことがあったんだ、だからジャパリパーク復興派と隔離派が今でもいがみ合ってるんだ。


 人間は汚い… なまじ頭がいいばっかりに。

 

 かばんちゃんもヒトの住むところを探して海に出たはずなのに帰ってきた… なぜかな?もしかして醜く汚い部分を知ってしまったんじゃないだろうか?


 まだ会ってからそんなに経ってないけど、どうか彼女には今のままでいてほしい… 優しくて純粋で頑張りやさんの彼女で。





 やがて先に進むと火口が見えてきた、熱くはない、むしろ心地よいほどだ。

 中だって覗くことができる、白いネットのような物があってキラキラしたものが隙間から出ている、黒くどんよりとしたものはネットに阻まれている。


「四神のフィルターってあれのことかな?」


 恐らくそうだと思う、これで噴火が起きてもサンドスターロウは放出されない。

 ただし突然変異などによる発生は防げない、だったかな?だからセルリアンは減ったとしてもいなくなることはない。


「さてと… フレンズ化した意外にはなんともないみたいだけど」


 ここまできても、特に暴れたくなるような気にもならないし意識もハッキリしている。


 俺がみんなと違うところが何となくわかった… 呼吸でサンドスターを吸収できるんじゃないか?だから濃いとこに来るとフレンズ化するんだ。


 ところでこの体、山を降りたら戻るんだろうか?このままフレンズ化がすすんだら女の子の体になるとかないよね?多分これ以上は変化が見られないと思うけど… 火口で深呼吸しても変わらないのが証拠だ。


 予想では山を降りてサンドスター濃度が薄まればやがて体内にあるサンドスターも少なくなりフレンズ化が解ける、また野生解放をしないと変身しない。


 ラッキーが話してくれないのはなんか寂しいし、そうなると助かる


「少し暗い気分になってしまったけど、特に問題ないみたいだし… 帰ろう、では神聖なるサンドスター火山に感謝!」


 パン!ひとつ手を合わせて火口に向かい一礼をする。


「本日をもち、修行は完成となりました

 フレンズの皆さんには感謝してもしきれません、もしジャパリパークに神様がいてこれを聞いてくれてるなら、俺に居場所をくれてありがとうございます!これからもよろしくお願いします!」



 挨拶を終えた俺はバギーのとこまで戻りエンジンをかけた。

 そして火口を背に… 戦闘機を背に… 五合目の石碑を背に… 砲弾を背に… 俺はバギーを走らせ山を下り始めた。



 だがタダでは帰れない、覚悟はしていた。



「セルリアン!?どっから湧いたんだ!?」


  

 そこにはパッと見て十数体のセルリアン、サイズは小と中。


「囲まれてる…!?」

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