第34話 じけん
「今回集まってもらったのは他でもないわ… 犯人はこの中にいるッ!」
デデデドドン
早いんだよ展開が!っていうかあなたが集めたんじゃなくて今自然に集まったんだからね!いい加減にしろ!
…
事の発端は博士たちが厨房の側で倒れていたことにあった、所々赤に染まる二人に何があったのだろうか?
第一発見者サーバルの証言。
「わたし知らないよ!かばんちゃん達と帰ってきたら博士たちいないみたいだったから、外に探しに行ったら二人が倒れてたんだよ?」
続いてシロとかばんの証言。
「同じく、博士さん達を探してこちらは図書館の地下室に行きました」
「そしたらサーバルちゃんの叫び声が… 行ってみるとこの有り様、そりゃあもう驚いたよ?」
三人が現場に着いたその後、間も無くアミメキリンとタイリクオオカミが偶然その場に居合わせたのであった。
「私たちは丁度今来たところさ、なにやら騒がしいから近づいてみると… 楽しそうなことになってるじゃないか?」
「そして!この名探偵アミメキリンには二人を“殺した”犯人はお見通しよ!」
今まさに迷推理が始まろうとしていた。
…
「や、別に死んでるわけじゃ…」
誤解を招いてはいけないので軌道修正しなくては、というところでオオカミさんがシーっと黙るように促してきた、随分と楽しそうだ… まるで子供のように無邪気な笑顔、どうやらこの状況を楽しむ気らしい。
「あなたたち三人が来たとき二人はすでに倒れていたと言うのね?」
「うん!どーして!?誰かにやられたの!?」
「ということは!犯人はサーバル!あなたよ!」
「「えぇー!?」」
さすがにガバガバ過ぎるだろ!
呆れた、呆れて言葉も出ませんな?単純すぎる。
そんなの言いがかりだ!証拠はあるのか!証拠はー!←若干や悪ノリ
「サーバルのスピードと爪を使えば二人から離れている間に仕留めることは容易!」
「えー!?そんなことしないよ!」
「サーバルはかばんと島の長に成り代わろうとしたのです!権力争いだったのです!」
おい、かばんちゃんも巻き込まれたぞ、やめて差し上げろ。
「つまり、かばんもグルだったんだね?」
余程面白いのかオオカミさんまで悪ノリを始めた、わかってるくせに!
「そうです先生!かばんは頭がいいのでサーバルに頼んだのです!」
「なるほど、自分の手を汚さずに… か」
頼むからそれ以上乗らないでくれオオカミさん… 二人が泣きそうだよ、もう止めてあげてよ頼むから。
「僕サーバルちゃんにそんなこと頼みませんよ~…」
「そうだよ!かばんちゃんは優しいんだから
そんな怖いこと言わないよ!」
「二人は犯人ではない?そして吐血の跡… まさか“ジャパリマン型のセルリアン”が?」
「「えっ!?」」
うわでたー!絶対この話したかっただけだよこの人!しれっと怪談を始めるオオカミさんにはいつも驚かされますな。
「そのセルリアンはジャパリマンそっくりで、知らずに食べたフレンズはまず激しい痛みを訴えるんだ、体の中からゆっくりと食べられているからね… でもやがてそのセルリアンは胃を食い破り!最後には影も形も無くなってそこにはセルリアンだけが残る!」
「「やー!?怖い怖い~!?!?」」
あぁもう… ノリノリなんだからこの人はまったく。
早く博士達を介抱したいのだけどこのノリをどう切ろうか… タイミングを逃してしまった。
「どうしようかばんちゃん!わたし今朝ジャパリマン食べちゃったよ~!?」
「大丈夫だよサーバルちゃん!大丈夫だから!」
ほらぁー収集つかなくなってきちゃったじゃん!もうダメだ、強制ネタバラし入りますのでご了承ください。
「オオカミさん?そろそろ悪ふざけやめようね?あとあの赤いやつケチャップだから、そこに瓶が落ちてるし」
「フフフ… いい表情いただきました!なんだシロ君は知っていたのか」
そりゃ知ってるさ、誰がこのケチャップを作ったと思ってるんだよ、勿体ないなぁ… なんでこんなことに。
「あ、ほんとだ~!?でもなんで倒れてるの?」
「それはわかんないけど、その前にキリンさんからなにか言うことは?」
「うっ!お、お騒がせしました!」
「はい、良くできました」
…
しかし長、なんと情けない姿に…。
「博士さんたち、大丈夫ですよね?なにか病気とかだったり…」
「任セテ スキャン開始… 生命活動ハ正常 軽イ栄養失調ダネ」
「ラッキーさん、ありがとうございます!」
へぇ~?便利~?有能だね腕ラッキーは。
とりあえず博士たちに声をかけてみよう、当然息はある… がなぜ栄養失調になってケチャップをがぶ飲みする事態に発展したのか?話を聞かなくてはなるまい。
「博士?助手?俺だよ?なんでケチャップ飲んだの?」
ペチペチと軽く頬を叩き意識を呼び覚ます、二人は虚ろな目を開きゆっくりとケチャップまみれの口を開いた。
「あ、あぁ… シロ… シロが見えるのです助手」
「偶然ですね博士… 私にも同じ幻が…」
「幻じゃないよ本当にいるから、もしかしてお腹すいてるの?遅くなってごめんね?なに食べたい?なんでも言って?」
「「お米…」」ガク
お、長ぁーッ!?!?!?
ていうか食べたいものお米ってどんだけハングリーな生活してたんだろう?仕方ないなぁもう!
…
すぐに米を炊きとりあえず塩にぎりでも出してみることにした、差し出してみると米の香りを感知したのかカッ!と目を開き、本能的の赴くままに塩にぎりに飛び付き、貪り始めた。
「満腹です」「満足なのです」
「はい、お粗末様」
「博士!口についてますよ!もったいない!」パク
「そういう助手も!一粒も無駄にはできないです!」パク
いやマジで何があったんだよ戦時中じゃあるまいし。
一旦落ち着かせ理由を尋ねたところ、この一因は俺の留守にあるものの… 起因はどうやらかばちゃんの一言にあるようだった。
「つまらない意地を張りました、しかしかばんに言われて引き下がれなくなってしまったのですよ…」
「たしかに我慢もできないワガママな長は威厳がないと思ったのです」
「ご、ごめんなさい… こんなに大事になるなんて…」
なるほど博士たちの性格を逆手にとったのか、これはいい今度俺も使わせてもらおう。
さすがはかばんちゃんだ、ワガママな二人を黙らせるのにそんな作戦を使うとは、おとなしそうな彼女にしては意外な一面ではあるけど。
「ジャパリマン食べればよかったのに」
「食べてましたよ」
「ただ、お前の料理で我々は舌が肥えているのですよ」
「すぐに味や食感に飽きてしまいました」
「あんなに美味しいものを毎日食べていたのに、なぜジャパリマンなんぞにこだわってるのか?と、そう疑問に思い食べるのをやめたのです」
「やめたのです」キリッ じゃないよまったく!食えよ!
なんでも三日と持たなかったそうだ、褒められるのは嬉しいけど困った長だね本当に、ジャパリマンを食えなくなったフレンズなんて洒落にもならないよ、美味しいじゃんジャパリマン?
たまたま都合が合わずにヒグマさんもこなかったようだ。
まぁその結果=ケチャップを飲むという答えには行き着かないと思うんだけど、じゃあまたオムライスでも作ってあげようかな?
「我々賢いので、実は料理に挑戦しようと思いました」
「フレンズはヒトの特性を得た獣、火だって使えるはずなのです」
なるほど理屈は通る、確かにと少し納得。
「サーバルだって前にかばんを助けるとき火を灯した紙飛行機を飛ばしたのです」
「サーバルにできて我々にできないはずはないのです」
「で結果は?」
「…聞くなです」「傷をえぐらないでほしいのです」
「そ、そっか…」
要はダメだったのか… サーバルちゃんは褒められたと受け取ったのかご満悦だ。
確かに言ってることは分かる、ヒトの特性を持つフレンズなら火を怖がる本能にも抗えるはずだ、俺が野生解放を飼い慣らしたように… もしかしてこれも「できるできるらくしょー」って信じてればできるんじゃ?まぁこれはまた今度の課題だ。
まとめると、始めのうちはかばんちゃんが料理してくれたが急にサバンナへ帰ったのでジャパリマンで食いつなぐこととなった、ここまでがかばんちゃんの使った「長だしへーきへーき作戦」である。
数日で戻ってきたかばんちゃん一行だったがいろんなフレンズが久しぶりに帰った彼女達に会いたがり引っ張りだこであった、料理はその戻った時にしたが食欲の化身となった長二人は配分など考えず一瞬で平らげた。
なかなか戻ることができないかばんちゃん一行、そんななか「長だし料理くらいできるのです」と思い立った二人は材料と本をもちよりチャレンジすることに。
しかし火がどうしても使えず断念、仕方ないので数日は素材そのものに作り置きしといたドレッシングやケチャップをかけて簡易的な料理に準ずるなにかを食べていた。
だが、それも味気なくすぐに食べたいと思わなくなったし、ドレッシングはそもそも数が少ないので無くなってしまった、サラダという退路は絶たれた。
そしてさらに数日、どーせ食わないのでジャパリマンなどいらんと他のフレンズに配布し、八方塞がりの長二人はなんと水のみで生活していた、仙人じゃあるまいし…。
そしてとうとう限界が訪れヤケクソになった二人はケチャップをがぶ飲みするが、そんなもので栄養なんぞとれずフラフラと地に落ちた。
現在に至る。
「まったくもう… じゃあこっちに顔だすとか誰かに伝言頼むとかしてくれたら作りに行ったよ!そう遠くもないし!」
「面目ないです、さすがに空腹で頭が回らず… そんなことよりもシロ?」
「帰ってきたということは野生解放を?」
「あ… うん、師匠も姉さんもそれだけ使いこなせば大丈夫だろうって、これ見て?」
俺は免許皆伝記念に頂いた背中の槍を高々と上げた。
「それはヘラジカの?」
「シロまさか…」
「物騒なこと想像しないでよ?キリンさんじゃあるまいし…」
今「ちょッ!?」って後ろで聞こえた、多分博士たちは師匠を仕止めて奪ってきたのか?と聞いているんだろう、な訳あるか。
「免許皆伝の記念に師匠がくれたんだよ、サーバルちゃんのおかげだけどね?」
「えっへん!」
「師匠… お前がヘラジカのことを師と呼ぶのが意外で仕方ないですね」
「それはいいとして、我々は素直に嬉しいですよ」
「「よく帰ってきましたね?」」
という感じで帰還報告も済ませ、俺は修行の仕上げに火山に行かせてほしいことを伝えた。
特殊な生まれ故、何かしらのイベントが起きるはずだ、精神や肉体にどのような影響があるのか。
「シロ、お前の体はフレンズともヒトともやや異なるようです」
「行ってどうなるものでもないかもしれませんが、お前が行くと言うのなら止めはしないのです」
「「ただし」」
と最後に付け加えると、少し溜めてから二人は優しく俺に言った。
「約束するのです」
「ちゃんと帰ってくるのですよ?」
「わかったよ、ありがとう…」
この二人との会話もなんだか久しぶりで妙に嬉しくなってしまった。
思えばオオカミさんたちとも久しぶりだ、あのぶっ飛んだアミメ推理もなんだかんだ楽しいし、オオカミさんの怪談だって怖いのを通り越して感心する…さすが漫画家、現実か空想か微妙にわからないラインを攻めてくる。
料理だって一ヶ月半ぶりくらいだろうか?まぁ塩にぎりを料理と呼ぶか否かは人によるけども… 喜んでもらえて良かった。
最近暴れたり戦ったりばっかりだったから、こういう平和な日々に戻るとなんだか姉さんと師匠との日々は非日常だったのかな?という気になる、あんな日々も楽しかったと思う俺はやっぱり野性味のある肉食獣なところがあるのかもしれない。
でも、やっぱりそんな自分の野生にビクビクするよりも、こうして受け入れて生きるのが正しいのだと今回の修行で思ったんだ。
落ち着かなくてウズウズするときは思いきって走り回ればいいし、疲れたら休む、お腹がすいたらご飯を食べる。
そもそも恐れるようなものではない、食う寝る遊ぶみたいに当たり前のことだったんだ。
そしてそれの総仕上げであるサンドスター火山、頂上まで行くとまたなにか異変があるかもしれないしなにもないかもしれない。
ま、無いなら無いでサンドスターに願いを込めて手でも合わせてくるさ?神聖な火山だもの。
…
「さて、そうと決まればシロ?早速料理をするのです」
「さっき満腹満足って言ってなかった?」
「別腹です」
「別腹がペコペコなのですよ」
別腹がペコペコってなんだよ…。
でもOKわかった、じゃあなにがいいかな~?さっきご飯ものだったし別のものがいいかな?パスタはどうかな?
なんて考えていると、意外にも長二人はこんなことを言い出したのだ。
「シロの作るカレーが食べたいのです」
「あれはおふくろの味です」
「おふくろって… 意味わかって言ってるよね?」
「もちろん」
「賢いので」
なんか照れるな…。
思えば俺が初めて二人に美味しいと言わせた料理はカレーだった… でもカレーって十人十色だ、家庭によって味が違うんだ。
俺のおふくろの味はおふくろではなく父さんが作ってくれてた、父さんのカレーは美味しかったなー?俺と母さんは辛いのが苦手だからわざわざ甘口にしてくれてさ?
俺の作るカレーは同じ味になってるかな?って、さっき十人十色の話したばっかりか。
百人いれば百通りのカレーができる、不思議だね?
「よーっしわかった!たくさん作っちゃうよー?みんなもよかったら食べてってね?」
「それは嬉しいね?シロ君の料理はパーティー以来だよ、知ってるかいキリン?カレーに含まれるスパイスというのは脳の働きをよくする、君の推理力には丁度いいんじゃないか?」
「本当ですか!?シロさん私大盛りで!」
「僕も手伝います!」
「うみゃー!わたしもわたしもー!野菜切らせてー!」
はははっ… こりゃ賑やかになりそうだ。
あ、そういえばツチノコちゃんがいない。
ってさすがに住みやすい縄張りに帰ったのか、ちょっぴり残念。
修行の成果、本当は一番に伝えたかったんだけどな…。
今度また遊びに行くことにしよう。
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