第33話 ちかしつ
「じゃあ姉さんたち?お世話になりました」
「ヴぇ~ん!いつでも帰ってこいよぉ~!シロぉ~!」
うぇ!?苦しい!強い!
姉の強烈なハグに体が悲鳴を挙げる。
「大将、困ってます!」
「たいしょー泣かないでください!」
「大将がこんなだからさ、たまにそっちに遊びに行っていい?」
「う、うん!もちろん!またごちそうするよ!」
入り口にはかばんちゃんとサーバルちゃんがバスで迎えに来てくれた、俺は師匠からもらった槍を背負い直すとバスに乗り城を後にした。
またね?姉さん達…。
「シロちゃんおはよー!」
「おはよう、二人とも迎えに来てくれてありがとう」
「はい、どういたしまして!」
こうして当たり前のようにバスに乗っているが不思議なものだ、バギーもだけど。
文明がほぼ崩壊してるっていうのにこうして残ったもので文明の再現が始まっている。
俺の料理だってそうだ、本から情報を得て知識にする、そして再現する… 繰り返すとパーティーができるくらい料理が増えた。
かばんちゃんも俺も人だ、特に彼女は頭がいい… スポンジ並みに吸収が早いから少し教わったり考えたりしたらあっというまに再現できてしまう、俺と比べると申し訳ないくらい出来のいい娘さんだ。
ただ、ジャパリパークは人の姿をした獣の住む島。
ならばどちらがいいんだろうか?栄えた文明と自然のままの暮らし… どちらがフレンズにとっての幸せなのか。
「シロちゃん?どうしたの?」
「へ?いやごめん、ボーッとしてただけだよ?ハハッ…」
「そーお?なんかずーっとかばんちゃんのこと見てるから、お話ししたいのかと思ったよ!」
「え!?いや…!」
「…?僕ですか?」
運転席に乗る彼女はキョトンとした顔で振り向いた、見てたけどそうじゃなくて…ってわき見運転はまずいよ!?
「か、かばんちゃん前!前!」
「あ、大丈夫です」
「なんで!?」
その自信はどこから来るのか?テンパりマックスで聞いたところ、かばんちゃんの腕ラッキーがなんやかんやして半自動運転してるらしい、スゴいねラッキー見直した。
ところでなんかああいう特殊な腕時計ってなんかいいね、カッコいいよね?変身できそう、ジャパリマン(ヒーロー的な意味で)なんちゃって!
いやかばんちゃんは女の子だから、そうフリフリの… プリッキュア♪いやいやセーラー戦士かな!あ、待てよ?かばんちゃんのセーラー服か… いいね!見たい見たい!
「シロちゃんどうしたの?今度はニヤニヤして!たのしそー!わたしにも教えてよ!」
「シロさん、なにかいいことでもあったんですか?」
「えぇ!?いや、帰るの久しぶりだからね!なんか楽しみなんだよ!」
ふう… 会話をしてたほうがいいな、考え事は邪な心を生むよ。
セーラー服と言えば、そういえば姉さんと師匠は学生風の服だったなぁ、そういう毛皮?になる子って多いのかな?じゃあかばんちゃんもサーバルちゃんも女子高生風にゲフンゲフン…。
…
「図書館にとうちゃーく!」
「帰ってきましたねシロさん?」
「うん、久しいなぁ… 二人とも元気にしてるかな?」
とりあえず入ってみないことには始まらないのでいざ突入だ、しばらく待たせちゃったからワガママ聞いちゃうぞ~。
「ただいまー!博士!助手!シロだよー!」
シーン静まり返った図書館、入り口からサー…っと風が入り、木が揺れる音が大きく感じるほどに。
「あれ?留守かな?」
「変ですね?いつもはあまり留守にしないのに?」
寝てるのかな?いや、昼間に来客が来ることも多いからな、フクロウは夜行性のイメージだけどね。
「わたし、外を見てくるね!」
サーバルちゃんはそう言って外に出た、確かに裏にいるのかもしれない、食事とかいろいろと理由はある。
でも俺は敢えて。
「俺は地下室に行ってみるよ」
「え?そんなのがあるんですか?」
「あれ知らなかった?」
そう実は地下室があるのだ、今のところ用事は無いので一度掃除したきりだが。
役割分担しよう、俺は下… 君は上だ。
「あの… 一緒に行ってもいいですか?」
なんてこった、実は二人でいると緊張するから一人になろうとした作戦が。
しかしここで断ると不自然だ、まぁ嫌な訳ではないからやぶさかでもないのだけど。
でもほら… お、女の子を暗い部屋に連れ込むだなんて、そう思うと余計に緊張してきた。
もしこれがツチノコちゃんなら目になってくれるから頼もしい相棒になるのだけど、かばんちゃんと入るとお化け屋敷に初めて入るカップルみたいになってしまいそうだ…。
いやカップルじゃないんだけどさ、違うけどほらなんかわかるでしょ?ほら!
「あのシロさん?駄目… ですか?」
「いや、そそそんなとんでもない!」
「こう静かだとなんだか一人でいるのが不安で… サーバルちゃんは行っちゃったし」
そ、そんな目で見ないでよー!?庇護欲が振り切れてしまう!
ダメダメしっかりしろよ俺… 強くなったのだから頼もしいとこ見せないと。
よーっし見とけよ~?
「ごめんごめん、大丈夫?暗いから足元に気を付けて?さぁ一緒にいこう」
「はい!」
笑顔が眩しい、暗黒が照らされるようだ…。
なんかドキドキしてきた。
俺はかばんちゃんに懐中電灯を渡して地下室のドアを開けた、日の光で照らされ階段が見えるが、奥は暗く闇に吸い込まれそうだ。
「あわわ… 真っ暗ですね?」
「前を歩くからかばんちゃんは転ばないように注意して?」
「で、でもそれだとシロさん前が見えないんじゃ?」
あ、そうだ… とお思いのあなた、俺はライオンでもあるので夜目が効きます!ドヤ!
「大丈夫… こうすれば夜目が効くから」
ボンと野生解放でフレンズ化、今の俺は修行の成果でこんなにも至極冷静である。
「よかった、それなら大丈夫ですね!」
「じゃ、行こうか?」
…
ギ… ギ… 階段を降りる度に軋む音がする、あまり急いではかばんちゃんが泣いてしまいそうなのでゆっくり確実に降りていく。
「あ、あのシロさん…?」
「ん?」
「迷惑じゃなければその… 手を… 握っても…」
なにぃ!?い、イベントが発生した!?
振り向き一段高い位置にいる彼女を見ると闇に怯えて震えているのがわかる、そりゃどこに着くかもわからないし先も見えない階段を降りてたらこうもなるだろう、頭が良くて考える子ほど先が見えないと怖いものだ。
俺も男だし、ここでレディのエスコートを蹴るようなヘタレではいかんな。
俺は安心してもらうためにニコリと笑い手を差しのべた。
「はい、どうぞ?」ニッコリ
見たか?渾身のジェントルマン精神だ。
お、女の子と手を握るのを楽しみにしてた訳じゃあないぞ!紳士にはレディを安心させる義務があるからだぞ!
「はい、ありがとうございます…」ギュ
震えているのは彼女の黒い手袋越しでもよくわかった。
はいシロくん良くできました、かばんちゃん安心したみたいだね?後は手汗に気を付けようね?
…
そういったイベントをこなしつつ階段を降りきると本棚の並ぶとこにでた、さて博士たちは?
「居ないみたい、目視でも見当たらないし音も匂いもない… やっぱり外かな?」
「ここは、どんな本があるんですか?」
地下室の本、実は俺もよく知らないがパッと見た感じここにあるのは本というより資料だ、ここは資料室だね。
フレンズ観察レポートとかサンドスター研究レポートとかレポートだらけだ。
そこまで広くないので一応奥まで歩き、さて戻ろうかというときだつた。
ピピピピピ と聞きなれない音が後ろから鳴り響く。
「あ、ラッキーさん?」
かばんちゃんの腕ラッキーが何かに反応した?すると空間に何か写し出す、女性だ… この探検ルックはパークガイド?あれ?待てよ、この人はどこかで…?
『資料を漁ってみましたが… ダメですね、やっぱり“四神”でフィルターを張ったところで“サンドスターロウ”の発生は必ず起こってしまいます…』
なんだ?サンドスターロウだって?四神?
「あ、ミライさん!」
「ミライ…さんってまさか!?」
あのミライさん!?名誉パーガイドで探険隊隊長、ジャパリパーク復興にもっとも力をいれているあのミライさん?最後に見たのは社会の教科書だよ… このミライさんはまだ若いけど、そういえば父とは友人だとか?俺自身が小さい頃会ったこともあるらしいけどそれは覚えていない。
『大量発生は防げます、大型や大量のセルリアンの心配はありませんが… どうもフレンズさんの誕生にともなってサンドスターロウが発生することも有るみたいで… あるいはサンドスターその物が変異することも… フレンズさんたちにはもっと安全に生活してほしいと思っているんですが、フレンズさんとセルリアン… 光ある所に闇ができるってことでしょうか?切っても切れない関係なんですかね?はぁ…』
物騒な話… ではないようだまだ、これは歴史の裏側だ、この後かすでにそうなのか知らないが超大型セルリアンと大量発生に見舞われて戦争みたいになるんだ、教科書によるとだけど…。
ミライさんは最初から最後までフレンズさんの為に動いていたんだ、そりゃ名誉パークガイドにもなる。
『ミライさぁん…』
見えないところから声がした、どこか寂しげな声だ… だが聞いたとき俺の耳がその特徴を聞き逃さなかった。
この声は…?
「誰か他にもいるみたいですね?… シロさん?」
「あ、あぁ… あれは…!?」
その姿は、もう見れないと思ってた人の姿だった。
…
『あら“ユキちゃん”彼ならここにはいないですよ?』
『知ってます… さっきまで一緒だったんです』
『どうしたんですか?喧嘩でもしましたか?』
『怒られたんです、今は忙しいから構ってられないって、はわわ… 悲しいです~』
『彼は仕事熱心ですからね?でもそれはユキちゃんや他のフレンズさんの為に頑張ってるってことなんですよ、大丈夫!すぐに謝りに来ますよ?』
『本当ですかー?』
『本当です!あ、ほら!』
…
ラッキーから電子音が鳴り、そのまま映像も消えた。
俺は今確かにその声を聞き姿を見た、間違いはない、間違えるはずもない… 最近は何度も声を思い出したのだから。
「真っ白で綺麗なフレンズさんでしたね?あの… シロさん?泣いてるんですか!?どうしたんですか?どこか痛むんですか?」
「ちがうよかばんちゃん… 母さんだ、さっきのフレンズは母さんだよ?」
「お母さん?え!?さっきのフレンズさんがシロさんのお母さんなんですか!?」
紛れもなく母だ、話し方は少し違ったが間違いない… わかるさ口癖も一緒だし「ユキちゃん」って呼ばれてたもの。
別個体のホワイトライオンならそうはいかない、ミライさんが言ってた“彼”はきっと父さんだ、父は母のことを名前で「ユキ」と呼んでいたのを知っている、年代的にも合う。
もう見ることはないと思ってた母の姿をこの目で見れる日がくるなんて…。
しばらく俺の涙は止まることが無かった。
…
「落ち着きましたか?」
「うん、ありがとう… ごめん情けないとこ見せちゃった」
「そんなことないです」
かばんちゃんは俺が泣き止むまで耳の辺りを撫でてくれた、それがくすぐったいけど心地よくてなんだか懐かしい気持ちになった。
それにしても最近泣いてばっかりだ、師匠にも言われたけど、人前で泣いてばかりじゃ駄目だね?戦士が人前で泣くな… か。
戦士というか、男が簡単に泣くもんじゃない、よし!もう泣かないぞ!はい今決めました!
「シロさんのお耳、フサフサで気持ちいですね?いいなぁ、僕にはお耳も尻尾もないから羨ましいです…」
「ありがとう、この姿には悩まされたけど… 母と一緒なのが実は自慢だったんだ?だから誉められると母さんも誉められたみたいで倍嬉しいよ」
かばんちゃんは俺の耳に夢中で暗いのも忘れたみたいだ、俺も気持ちよくて思わずうとうとしてきた時だった…。
がその時、静寂は破られた!
「うみゃーーーっ!?!?!?」
悲鳴!?
「今のはサーバルちゃん?」
「なにかあったんだ!行こう!」
「あわわ… あの僕暗いとあんまり動けなくて」
「あ、ごめん!ちょっと失礼!」
「ひゃあ!?」
とっさだったのでこのときはなんとも思ってないが、俺はかばんちゃんを俗に言うお姫様抱っことかいうので階段を猛スピードで駆け上がった、そのまま抱きかかえて音と匂いを頼りにサーバルちゃんのもとへ走った。
するとそこには驚くべき光景が広がっていたのである…。
「「うわぁーーーーっ!?!?!?」」
俺とかばんちゃんもその光景に思わずお姫様抱っこのまま驚きの声をあげた、なにせそこには…。
「博士!?助手!?どーしたの!?どーして口が真っ赤なの!?返事してよ!起きてよ!」
サーバルちゃんは口元を“赤いもの“でべちゃべちゃにして目を覚まさない二人に必死に声を掛けていた。
「う、嘘… シロさん、これって…」
「まさか、そんなはずは… こんな!こんなことって!?」
その時、まるで狙ったかのようなタイミングで後ろからある人物が二人…。
「どうやら… 事件のようね!!」
迷探偵アミメキリン… とやれやれという感じでオオカミさんが。
これはまた面倒なことになりそうだ…。
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