第32話 つよくなろう

「おとーとさんに客人です!」


 そう言って現れたのは褐色の肌と勇ましい雰囲気が魅力的な角美人のオーロックスさん、普通に接してくれて構わないけどなぜか姉さんが俺に過保護なので、城のみんなは微妙に距離を測りかねたのかなんかこう目上に対するような感じで接してくる… まるでヤクザの若頭になった気分だ。


「ありがとうオーロックスさん、リンゴ食べる?さっき見付けたんだ」


「いいんすか?オレなんかに?」


「“なんか”って… じゃあオーロックスさんに食べてほしいからもらって?」


「そういうことなら、もらっときます!」


 ニッコリ笑う時、彼女は実に女性らしい顔をする。

 なんだかそのままリンゴを握り潰して口に流し込みそうにも見えるが喜んでもらえてよかった、そのつもりなら是非握りつぶしてくれ。


 で、お客さんだが。


「おーい!シロちゃーん!」


「あ、サーバルちゃん?ってことはー?」


「えへへ、来ちゃいました」


 英雄のサバンナコンビだ、今日も帽子姿がチャーミング。


 にしても…。


 純粋無垢という言葉がそのまま表れたような瞳だ、なのに彼女はとても頼りになる。


  そんな彼女と、俺はいつも目が合わせらんない。


  やっぱりなんか気にしちゃうなぁかばんちゃんがくると、こう髪とか身だしなみとか?あがっちゃうんだよなぁ… 変なの、しばらく時間を共にすれば慣れると思うのだけど。


「あの、迷惑… でした?」


「いやいや!そんなことはないよ!来てくれてありがとう!」


「はい!」


 いい笑顔だなぁ… オーロックスさんの先程の笑顔が真夏の太陽だとしたら、かばんちゃんは春爛漫って感じかな?柔らかい笑顔、そんな笑顔をまだ眺めていたいが何か話さないと、黙っててはまさに話にならないのだから。


「あの… 最近どうかな?博士達ワガママ言って困らせてない?」


「はい、シロさんのレシピをお借りしてます、それでなんとか」


「あ、あぁそうそう!忘れてたよ、気付いてくれてよかった…」


 そうかあれが役に立ったのか… 汚くて読みにくかっただろうに。

 でもこんなこともあろうかと記録を残しておいてよかった。


 図書館は問題なさそうだ、二人からは近況報告のような話を聞いたり、単なる雑談を繰り広げてみたりと他愛ない時間を過ごした。


 少し慣れてきたぞ。


「ねぇねぇシロちゃん!しゅぎょーはどう?」


「順調だよ?姉さんたちから見ても落ち着いて見えるって、師匠も強くなったって」


「「師匠?」」


「あ、ヘラジカさんのことだよ」


 成長したもんだと人に話してみて改めて気付いた、ちゃんと身になってるんだなって。


 なんて話していると、サーバルちゃんが唐突に「私もしゅぎょーしたーい!」とか言い始じめた。

 

「なんでまた?」


 遊びか何かと勘違いしとりゃせんか?

 

 決して面白おかしいものではないし、修行というのは結構泥臭い。

 まぁそれでも最近はそれが身になってきてるので、俺個人の気分としては楽しいのだけど。

 

 そんな修行をなぜやってみたいのか聞いたところ。


「わたしも強くなってかばんちゃんを守ってあげるんだー!」


「もぅ… サーバルちゃんったら」


 友情に涙する男。

 無邪気なサーバルちゃんにも何か強い意思みたいなものを感じ、かばんちゃんからはその意思が通じ暖かい気持ちになっているのが見て取れた。


 動機がまともなだけに断りにくい… 仕方ないな。


「じゃあこれから師匠のとこに行くから、一緒にくる?」


「「はーい!」」



… 



 というわけで出発の時間だ、二人はバスに乗り俺は走る… 修行の一環である。


「シロさんは乗らないんですか?」


「うん、走っていかないと師匠に怒られるからね?準備運動みたいなものさ?」


「あ!かけっこだね?負けないんだから!」


 その時バスの屋根から空高くジャンプ、回転しながら華麗に俺の隣に着地したサーバル選手、それを心配したかばんちゃんが彼女に尋ねる。


「サーバルちゃん大丈夫?ヘラジカさんのとこまで結構長いよ?」


「へーきへーき!」


「無理しないでね?」


「うん!かばんちゃん!スタートの合図はお願いね?」


 やる気満々のようだねサーバルちゃん、でも彼女もゴコク帰りなのだし、実はかなりの実力者だったりして?

 試すって訳じゃないが未熟な俺がどんなものなのか比べるのに丁度良いかもしれない


「じゃあ位置について… よーい!どん!」


 かばんちゃんの声を合図にダッ!とスタートダッシュで野生解放、俺はフレンズの姿になり平原を駆ける!サーバルちゃんは?


「わーい!」←並走


 は、早いなぁ… 流石だ、でもこれは師匠のとこまでの持久走でもあるんだ、余裕そうに笑っているがいつまでその体力が持つかな?





「っと、とうちゃーく… ってあれ?サーバルちゃんは?」


 いない、途中で失速したのは覚えてるけど大丈夫だろうか? 

 待っていると間もなくバスが来てかばんちゃんが到着、サーバルちゃんは…。


「ハァ…ハァ…シロちゃん元気だねぇ?」


「あらら… 大丈夫?」


「途中で疲れちゃったみたいで、バスで運んできました」


 言わんこっちゃない…。


 とりあえず師匠の元に着いた俺達は少し休憩してからいつものぶつかり稽古に入ることになった。


「ほう?今日はサーバルとかばんもいるのか?」


「わたしもしゅぎょーするよ!」


「気に入った!シロ!二人同時にこい!」


「えぇ?俺はいいけどさ、サーバルちゃん大丈夫?」


 同時に?師匠は強い、多分それでも負ける気はしないのだろう。

 しかし一応実戦に基づいた戦闘訓練のようなものなのだ、軽い気持ちでいると怪我をするかもしれない。


「サーバルちゃん、無理しないでね?」


「へーきへーき!」


 このくだりさっきも見た、フラグとか言うやつじゃ?

 とにかく今回は2対1、協力して師匠に挑む形で修行は始まった。


「よし!どこからでもかかってこい!」


「行きます!」「いっくよー!」


 サーバルちゃん大丈夫だろうか?本当に怪我をしなければいいけど…  いや、師匠の教えに従うのならこういう時こそ信頼、ここは彼女を信じてみよう!それに二人なら師匠にだって勝てるかも!


「ガァァッ!」「みゃーみゃみゃみゃー!」


 二人同時に駆け出すと、まずは俺が師匠に突っ込むも簡単に押し返されてしまう、次にサーバルちゃんは…。


「でぇあっ!」


「うぎゃあ~!?」ドーン


「「サーバルちゃーん!?」」


 あっさりと弾かれて飛んでってしまったぞ!?け、怪我しないといいけど…。


「余所見をするな!」


「っ!く!…ガァア!」


 強烈な当たり、サーバルちゃんに気を取られているのを指摘しながらも容赦なく俺を痛め付ける。

 当然だが油断はできないな、このヘラジカ師匠を相手に油断するのはうっかり命を落としてしまいそうだ。


 ドンッ! ガンッ! ガギンッ!


 何度も何度も諦めず、俺は師匠に立ち向かう。

 ぶつかり合い、時には避けて、俺は師匠という壁に何度も挑む。


 しかし劣勢、いつものことだが俺の半端な力では簡単に押し返されてしまう。


 くそ!にしても強いなぁ!もう一息、せめて一発キツいの当ててやれば勝てそうな気がするんだけど… ん?

 

 その時俺は真後ろから何かの気配を感じた、強い気配だ。


 タンッ… スタタ… と立ち上がりこちらに駆けてくるようなこの音は… あ、そうか君か!信じてたよ!よし!


 後ろから迫るは強い味方、俺にはわかるのだ、彼女は俺の強い味方。


 タイミングを合わせろ… 師匠は俺に夢中だ、彼女の存在を気付かせてはならない。


 おしっ!ここだ!


「待ってたよこの時を!」


「みゃーみゃみゃみゃみゃー!!」


 サーバルちゃんだ。

 吹っ飛んだ後、それから戦意喪失してるかどうかは彼女の負けん気に賭けてみることした。

 でもきっと大丈夫だって信じた、かばんちゃんの為ならって懲りずに立ち向かってくれるって。


 タイミングはこのお耳で大体把握できていた、そして今がその時。


「なに!?サーバル!」


 師匠も俺の攻めに手一杯でサーバルちゃんにまで気が回らなかったようだ、作戦通り。

 二人でこいと言い出したのはアナタだが普段の一対一での組み手に慣れて失念していたな?


「みゃー!」


「チッ!」


 ガギンッ!

 サーバルちゃんの攻撃はあっさり槍に防がれる、しかしそれでいいんだ、それがいい… これこそが好機。


「っし!今だ!」


 フレンズのパワーを全開だッ!

 その隙を逃さず俺の爪はボウッと光りを灯し、出せる全力の速度と力で手元が緩んだ師匠の槍を…。


 ギャイィィン!!


「しまった!」


 折った!


 これは修行が始まってから初のことだった、バーンと弾かれた師匠の武器は手元を離れ宙を舞い。

 空中で柄の部分からちょうど槍になる部分の片方がもげ、それはやがて地面に刺さり静止する。


 丸腰となった師匠を前にサーバルちゃんも俺の隣に並び構え直し、同時に俺も体勢を立て直すとそのまま二人で言葉に出さず目でこう訴え掛けてやるのだ。



 まだやるかい?



「フッ… 参った、私の負けだ」


「しょ、勝者!シロとサーバル!?ですぅ!」


 師匠の敗北宣言、それと共にヤマアラシちゃんの一言でこの戦いは終わりを迎えた。





「シロに気を取られて油断した、まさかサーバルがまた向かってくるとは!」


「初めて師匠に勝てたよ、ありがとうサーバルちゃん」


「えっへん!」


 勝った、サーバルちゃんに一言礼を言った後、俺も流石に息が上がりその場に座り込む。


 しかし槍… 折ってしまったんだが…。


「師匠、それ…」


「ん?気にするな、これは無くしてもすぐにまた新たなものが現れる」


「えぇ!?そんな感じなの!?」


 そんなトカゲの尻尾みたいな感じなんだ?あ、でもそもそも角みたいなものだから当たり前なのか。


「うむ… そぉだシロ?初勝利の記念だ、これをお前にやろう?」


 手渡されたのは先程俺が折った槍、角が片方だけになり少し短くなってしまい不完全なヘラジカの角を模した槍だ。


 ある日、師匠は言っていたんだ。



「この槍を私が手放したら免許皆伝だ!奪ってみろ!」と…。


 そして今日、俺がその槍を折り師匠を丸腰にしたということは即ち。


「受け取れないよ、この勝利はサーバルちゃんのおかげだもの?」


「シロ、お前はもう十分強い… それに今日折られたということは明日にでもこの角を折られていたかもしれんということだ」


「じゃあその時でもいいんじゃ?」


「いや、いい頃合いだ… お前は最早手を抜いて勝てる相手ではない、それにこれはお前がサーバルを信じたから出た結果なんだ、違うか?」


 確かに、不安要素はあれどサーバルちゃんのポテンシャルにはかなり期待していた。

 

 二人ならいけるかもって心強かった。


 これが前に師匠が言ってた「私達を信じろ」ってことだ、まず師匠や姉さん達を信じる心が野生解放のコントロールに繋がった、今ではこんなに上手く力を使い、そして強くなれた。


 そして仲間を信じることで本来の力以上の結果を出せた。

 

 もしかしたらみんなも野生解放すると野生に返ってしまうのかもしれない、でも誰かの為にやるから野生もコントロールできる… まぁ、これは俺の憶測なんだけどさ?


 俺は師匠から槍を受け取り背中に背負った、片方が折れていてもまだ長い… 卑下してる訳ではないが、ハーフの俺には丁度いいかもしれない。


 気に入った。


「おぉ!なかなか似合うじゃないかシロ?これにてお前は免許皆伝だ!そこまで使いこなせばもう野生に振り回されて皆を傷付けることはないだろう!」


 師に認められるということがこれほど嬉しいだなんて…。

 そしてあれだけ悩まされたフレンズとしての力を自分の物にした、もう恐れることはないんだ。


 俺は今日やっと、俺になれたのかもしれない。


「ありがとう師匠、みんなも… 俺なんてお礼を言えば… うぅグスン」


「こら!戦士が人前で涙を流すな!」


 自然と溢れる涙、パークに来てから泣くことが増えた。

 仲間に囲まれて心の暖かさがより一層身に染みてるのがわかる、確かに人前で泣くのは情けないがこれも全部みんなが優しいからだ。


「ま、まぁまぁヘラジカさん… 今くらいいいじゃないですか?グスン」


「シロちゃん頑張りやさんだから、できるって信じてたよ!」


 「泣くな!」と師匠は口では怒っていたがどこか嬉しそうで、なだめるかばんちゃんも一緒に泣いてくれて、サーバルちゃんはにこにこと励ましくれた。

 

「どうだシロ、私達の仲間になってライオンを倒さないか?」


「それ冗談だよね?」


 なんて勧誘を受けたが、姉さんのことは裏切れないよさすがに。

 ま、そんの重いもんでもなくたまに遊びの範疇ならやってもいいんだけどね?


「ヘラジカ様が言うと本気に聞こえますわ!確かに強力な助っ人ですけど」


「ウチらシロなら大歓迎だけどねー?」


「またいつでも遊びにきてほしいでござるよ」


「力になるですぅ!」


「…待ってるね」


 それぞれ激励の言葉を頂くと、俺達は一旦姉さんの城に帰った。

 すぐに聞かせたい、まさか今日免許皆伝を受けるとは、姉さん何て言うかな?驚くだろうなぁ…。


 帰る頃は日が沈みかけていて、平原はオレンジ色の空に包まれていた。


 城につくと入り口でみんなが待ってくれていて、早速免許皆伝を頂きましたと槍を見せた。


「シロぉ!よく頑張ったね!よかったねぇ!」


「弟さん!さすがです!」


「あんたならできると信じてたよ!」


「おめでとう!」


 みんな自分のことのように喜んでくれた。


 なんかこう、みんなそうなんだけど、オーロックスさんもオリックスさんも硬派なイメージなのにこういうときって茶目っ気たっぷりな喜びかたをするのが可愛らしいと思った、外見のイメージと身内として見るイメージが結構違うんだよね?ツキノワさんは結構そのままだけど。


 ところで、免許皆伝を頂いたということは俺は図書館に帰るべきかな?もちろん今は自信がある、強くなったし最近は落ち着きもでた。

 ただコントロールはできているが正直自分の力には不確定要素が多いので、完璧か?と聞かれるとハッキリと、はい!とは言えない… ここは用心深くいきたいところだが。


「あの、ひとついいでしょうか?」


 そんな時、控えめに手を挙げて丁寧に話に入るかばんちゃん。


「博士さんたちと考えていたんです… シロさんはこっちに来てから野生解放が強くなったんですよね?」


「そうそう、向こうにいるときはそんなに落ち着かないってことなかったし、気絶するほど激しい動きはできなかった」


「多分、サンドスターが関係していると思います… あの火山はジャパリパークにしかないし、ラッキーさんが前に“サンドスターの濃度”がどうとかって教えてくれました、実は今日来たのはこの事を話すこともあって」


 つまり、サンドスター濃度が濃いジャパリパークに来ることでフレンズの部分が強く出始めたってこと?

 コントロールできないのは急激なフレンズ力に振り回されたのと、前も話した通り過去のトラウマと気持ちの問題り


 あ、もしかして… それで母さんのことを思い出すのかな?


「そういえば、パーティーをしたくらいの時から母さんのことをよく思い出すんだ… 関係あるかな?」


「お母さん… ホワイトライオンのフレンズさんでしたね?何かしらの関係はありそうですね?」


 思い出したからなんだ?と思うのも確かだが、ジャパリパークとフレンズである母、行ってなにか分かるなら行くべきか?“サンドスター火山”に…。


「シロ、行くのかい?」


「母さんのこと、少しモヤモヤしてたんだ、実は… 行ったら何か分かるというか、思い出すかも」


「私も… って言っても断るんだろう?」


「うん、ごめん姉さん… でもあんまり甘えるわけにもいかないしね、でも成長できたのは姉さんのおかげだよ、ありがとう」


「弟の為だもの、いくらでも力になるよ?あぁ~あ… 寂しくなるなぁ」


 姉さんはうるうるした目で俺を抱き締めてくれた… 照れくさいが、温かく柔らかい姉の抱擁に安堵を覚えると、俺からも控え目に抱き返した。


「でもさ?今夜は泊まってもいい?なんかバタバタして疲れちゃったよ」


「うん!もちろんいいよぉ!なんならずっと住んだっていいしさぁー?そーだぁ!今夜は一緒に寝るかい?」


「「「えッ!?」」」


 俺含め一同動揺。

 そそそういうわけにはいかないのです。

 

 でも姉さんはほっといても朝起きたら隣にいることがあるので油断できない。


 だって一応ほら、姉弟だし… えっちなのは良くないと思います。


 ま、俺のなかで姉さんは出来すぎなくらい立派な優しい姉さんってことだ、この人の弟になれたことを誇らしく思う。




 翌朝、俺は約1ヶ月ぶりの図書館に帰る。

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