第31話 森の師匠

 今日はヘラジカさんのアジトに足を運んでおります。


 引率者として姉さんもついてくると言っていたが、そんなことをしたら向こうもやりずらくなりそうだから丁重にお断りした。


 少々泣き付かれたが…。


「なんでぇ~!?お姉ちゃんが邪魔なの!?」


「いやそうじゃなくて、これは俺の修業だからいちいち姉さんに頼ってたら成長できないんだよ、姉さんならわかるでしょ?」


「む~… そうだけどさぁ~?」


 邪魔だなんてとんでもない、着いてきてくれるのは嬉しいけどそれでは俺はずっと姉さんにおんぶに抱っこなままなんだ、できれば肩を並べたい。


 姉さんが俺を助けてくれるように俺も姉さんを助けられるようになりたいんだ。


「夕方には帰るからさ、心配かけてごめんね?まぁ弟の成長を見てなって!」


「わかった、ちゃんと帰ってこいよ?」


「うん、それじゃいってきます」


 心配性な姉さんだけど、こんなに大事にされるのもあまり悪い気はしない。

 姉はライオンのイメージとは裏腹に可愛らしい性格をした女性だ。


 そうだ、思えば母も優しかった…。


 群れを作る動物故に家族想い… ということなのかもしれない。





 で現在はと言うと。


「よく来たなシロ!向こうで学ぶことはあったか?」


「何となくだけどライオンという動物を理解してきたよ、それじゃ今日はお世話になります」


 小さくヘラジカさんに礼をしてまた向き直した。

 学ぶところと言われても、姉さんのとこの修業はぶっちゃけ修業でもなんでもない。

 強いて言うならライオンとしての自覚をもっと持つことにある、俺も一応ホワイトライオンのフレンズなのだから。


 ただ自覚と言っても先日ラッキーが話したような厳しい世界のことではなく、群れを守るという所に重点を置く。


 他所の縄張りを奪い取って傘下に加えるとか、ふんぞり返って部下にあれこれやらせるとかそういうのは無くてだ。


 姉さんを見てると不思議だった、まずは部下の人達以外にも結構友だちが多いこと、外でゴロゴロしてるとどこからともなく鳥の子が飛んで来たり、たまたま通りかかった子と仲良く談笑したりもする。

 人望というやつだろうか?部下の人達もスカウトでもなんでもなく勝手に集まって勝手に部下になっていたんだそうだ。


 そして姉さんは自分を慕ってくれる三人を部下以上に友人として、あるいは家族として接している。

 これは姉さん曰く「まぁ~立場上偉そうにしてることもあるけど、柄じゃないんだよねぇ~」だそうだ。


 三人が「大将!」と呼ぶのも勝手に呼び始めたらしい。


 つまりここジャパリパークにおいてライオンとは…。


 仲間想いの頼れるリーダー、やるときはやるのんびり屋さん、考えてないようで考えているのが姉さんだ、頭もいいのでよくいろんなことに気が付く。


 姉のことを人の世界で言うなら、退職したら部下を根こそぎ連れていってしまいそうに信頼の厚い上司や先輩といったところだろうか?

 

 つまり面倒見がいい、その分弟認定を受けた俺にも優しい。(すぎる)


 基礎として姉さんの生き方を真似するのは間違っていないだろう。



 で、今日はヘラジカさんだ。


「みんな今日はシロが来たぞ、問題ないと思うが仲良くするように!」


「どーも!シロです!」


「ど、どーもパンサーカメレオンです…」

「知ってますわ!」「知ってるですぅ!」「知ってるですよー!」「じー…」


 まったく、挨拶は大事だと昔から言われてるって古記事にもそう書かれて… というのはさておき先日の件も気にしていない様子で歓迎ムードなのは助かった、ヘラジカさんに修行を受けるということは皆も事情は聞いているということだから不安だったんだ。


 ところで気になる修行の内容だが?


「よし、シロォ… 早速野生解放だ!」


「「「えぇ~!?」」」


 何でだよ!


 これにはチームヘラジカの面々も驚愕の声をあげた。

 ヘラジカ理論によるとだ… 「日常的に使い続ければ慣れる!」だそうだ。

 全くその通りだが、しかしそれはただのごり押しと言うんだ。


「待って!俺この前暴れたばかりなんだけど!?」


「また止めてやる!」


「その必要をなくすための修行じゃないの!?」


「はぁ… わかっていないな…」


 なぜか呆れられたようなこの態度、俺の不安は当たり前のことだろう?あんなこと二度と起きてはいけないのだから。


 だがヘラジカさんは溜め息混じりに俺に言うのだ。


「シロ… お前、ライオンのとこで何も学ばなかったのか?」


「えっ!?」


 急にキリッと真面目なことをいい始めた森の王、その目は真剣そのもの。

 学んだつもりだった、しかし本質が見えていないとでもいうのだろうか?


「答えろ」


「ね、姉さんは… 」


 俺は答えた、獅子とは… 百獣の王とは… 強い力を持ちながらそれを無闇に振るうことはせず、群れを… いや家族や友人、仲間を守るための力として使う者。

 普段はのんびり好きなように過ごす姉さんだけど、皆のためならたとえその爪が剥がれ牙が折れても戦い続ける、それがライオンだと、それが勇敢なる百獣の王だと。


 そして俺はそれを手本にするべきだ、そう答えた。


「そぉだぁ… そしてその生き方は何もライオンだけに限ったことではない、私達フレンズはその名の通り皆仲間だ!」


 ハッとした… 前に博士に似たようなことを言われた気がする、俺はヘラジカさんというフレンズを今までただの脳筋戦闘狂と誤解していたのかもしれない。


「ライオンが傷付き倒れそうな時は私達が助太刀に行く、仲間達に危害が及ぶならそれはこの私が決してさせない!それが博士達であろうが、かばん達であろうが、あるいはよく知らない会ったこともないフレンズでも同じだ!困っているなら助ける!シロ… お前もだ」


「ヘラジカさん…」


 助け合い、仲間…。

 誰であろうと皆仲間、友達フレンズ


「お前は皆を傷付けることを恐れその力を封印しているようだが、その強い力は皆を守るのにうってつけだと思わないか?」


「でも… 事実この力は皆を傷付けてしまうよ?」


「心配ない!お前がまた力を操れず暴れたときは私が皆を守る!お前も皆を守りたいと思うなら必ずできるようになる!恐れずに向かい合え!心配ない!私達がついているぞ!」


 か… カッコいい!?この人は森の王だ!


 素直にそう思った、この方は立派な考えをお持ちだ… そうだ!危険だなんだと蓋をしないでみんなを守るために使おうと向かい合えば。

 それに使わなければ慣れることもない、単純で利にかなっているじゃないか!

 そしてヘラジカさんのとこに部下が多い理由が今わかったよ。


「わかったよ… いや、わかりました師匠!」


「師匠?(いい響きだなぁ) いいだろう!さぁやるぞ!」


 この方を、これより師と仰ぐ。

 俺は決めた!





「さすがは森の王ですわ!」


「あのシロがヘラジカ様のトークにまんまと乗せられちゃったよ~!?」


「私達でフォローしてくしかないですぅ…」


「と、とりあえず無闇に野生解放させるのはまずいでござる!」


「野生解放はサンドスターの消費が激しいから、シロの体が持たないかも…」


 だがそんな部下たちの心配は虚しく訓練が始まっていたのであった。


「ガァーッ!行きますッ!」


「いいぞぉ!全力でこい!」


 ドーン!!


「「「始まってた…」」」


 さらに数分後…。





「どぉした?もう終わりか?そんなことでは皆を守れんぞ!」


「…」


 シロ、ぶつかり稽古中に情けなく気絶。


「へ、ヘラジカ様!一旦ストップですわ!」


「気絶してる!気絶してるからさ~!?」


「熱くなりすぎですぅ!」


「ふぁあ… シロ殿大丈夫でござるか…?」


「白目向いてる、運ぼう」






 



 あ… ここどこ?なにがあったんだっけ?たしか… そうだ、強烈な頭突きを顎に食らったんだ、そしたらここに。


 あ、夢かな?


 クソ、今日は調子よかったのに結局いつも通り気絶したぞ、強すぎるんだよあの人。


 体は浮いてるような立っているような感覚だ、白いモヤの中にいる… これがどういうわけか心地良い。


 あるとき視界が晴れて綺麗な草原に出たんだ、走り回りたくなるようないい景色だ。

 花もたくさん咲いてておっきい木があってまるで映画のワンシーンみたいだ、大きな川もある。


 おや?向こう岸に誰かいるな?話しかけてみよう。


「おーい!」


 遠くの人は声に気付くとこちらを振り向いて… こう、シッシッ ってやってる、なんだこんな綺麗な場所でそんな態度を。


 でも向こうから聞き覚えのある声がした気がする…。


『ダメでしょこんなとこに来ちゃ!さぁ帰って!』


 あれ…ん 今のって母s「シロォー!?!?起きろォー!?戻ってこーい!!」


 え!?なになになに!?

 うわ!揺れる!?世界が揺れる!?


「あ…」


 目を覚ますと泣いている姉さんと腕を組んで仁王立ちしている師匠、奥には青ざめた姉弟子たち。


「シロぉ!?よかったよー!お姉ちゃん心配したんだぞー!!」ギュゥー


「う… くるし… あぁお花畑が…!」


「それは行ってはダメなやつですわ!?」「起きててー!?そのまま起きててー!?」


「ふぃ~… でも無事でよかった… おいヘラジカァ?弟になにした?」


 ビクッ!?と体が震えたのは俺だけではない、姉さんは底冷えするような低い声をだして師匠を睨み付けている。

 

「修行だ!」


「戦いたかっただけだろ、違うか?」


「それもある!」


 まだ頭がクラクラするが、ヤバイ感じなのは分かる… 最近俺のことで二人がケンカするの多い気がする、止めなくては…!


「テメーヘラジカ!よくも弟を!」


「まてライオン、シロに何をしたんだ?」


「…?どういうことだ?やったのはお前だろ」


 フッと姉さんは落ち着きを取り戻し話を冷静に聞き始めた、俺がどうかしたんだろうか?


「前にやったときより動きが正確だ、なんというか… 頭を使って戦っている感じだった、もうコントロールできてるんじゃないか?」


「えぇ?それ本当?私なんもしてないけどなぁ… シロ~?どうなの?」


「あんまり自覚はないけど… ぶつかり稽古中は平気だったね」


 もしかして気の持ちようなのか?師匠に言われたように自分の力と向き合えばと思ってたんだけど。

 そういえば前にセルリアンからツチノコちゃん達を守ったとき、あの時は信じられないほど疲れただけで正気は保ってたな、まぁそれでもかなり血の気が多くなってたから勢いで戦ってたんだけど。


 そうか、姉さんと同じか… 俺の力は皆を守る力だ!傷付けるためにあるんじゃない!


 今までは強い力は人を傷付けるものと決めつけていた… 多分小さい頃の友達にケガをさせたからそのトラウマが原因なんだ。


 でもいざというときこの力はみんなの役に立つと信じて使えば… 姉さんとの生活と師匠の言葉でわかった!きっとこの意識が大事なんだ!


 もう一息だ…!





 それから俺は師匠の教え通り日常化に力を入れることにした。


 朝起きて野生解放、もしもの時は任せたと姉さんに託す。

 俺はフレンズ達を傷つけるわけにはいかない、皆を守るためにこの力を制御する… と意識する、これが重要だ。


 特に何をするわけでもなくそのまま過ごす、我慢しないで落ち着かないなら外を走ったり木に登ったり蝶々を追いかけたりする、疲れたら寝る。


 お昼は休憩、人の姿に戻り姉さんたちとジャパリマンを食べてまた野生解放をする、晩御飯まで朝と同じく継続する、寝るときはしない。(できない)


 師匠に稽古をつけてもらう時ももちろん野生解放だ、しかしこの生活は体力を恐ろしく使う… 気絶しないようにするのがなにより大変だ。


 ところでハシビロちゃんが教えてくれたんだが、野生解放は体内のサンドスターを使って野生本来の力を引き出すことができるらしい。

 失ったサンドスターはしばらく休んだり食事をとることでその輝きを取り戻す、生き生きしてるフレンズほど回復が早い(気がする)悩んでも仕方ないということかもしれない。




 そんの日々が続いたある日姉さんに言われた。


「もうすっかり暴れなくなったねぇ?まだ落ち着かない?」


 師匠にも言われた。


「強くなったなシロ、油断してると足元を掬われそうだ!」


 なんだか嬉しかった、誉められると気持ちがいい… 小さい頃、耳の裏を撫でられた時の気分と似ている。





 そんな生活が一ヶ月ほど続き、ある日俺の前に久しぶりに見る顔が二人。


 修行も大詰めとなっていった。

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