第30話 百獣の王の生活
「みんな知ってると思うけど、弟のシロだよー!しばらくうちに住ませるから仲良くしろよー?」
「あ、どうも厄介になります」
ここはへいげんちほー、ライオン姉さんのお城。
現在はここの皆さんに軽いご挨拶、これからここで俺の新しい生活がスタートする。
「頭をあげてくれ!大将の弟さんに失礼はできないよ!」
「そうだ!それにたいしょーと互角にやりあうあの強さ… オレは認めるぞ!おとーとさん!」
「大将もあぁ言ってるし、自分の縄張りだと思ってくつろいでよ!また楽しい遊び教えてね!」
なんか二名ほど猛烈に俺を過大評価しているね、そんなもんじゃないんだ俺は、本能に振り回される情けない男なんだ… ツキノワさんが普通な感じでよかったと切に思う。
…
「ところで修業ってなにすればいいのかな?姉さんからはライオンの本質?みたいのを学べればと思ってるけど」
「そうだね~、まぁ本質もなにも私はライオンそのものなんだからしばらくは私を真似したらいいよ!」
よーし早速不安になってきたぞ… 言ってることはもっともだが要はノープランじゃないか、だが姉さんにとって俺が学ぶべきこととは日常に過ぎない、つまり本人にも説明のしようがないのだろう。
だからとりあえず姉さんの言う通り環境になれるとこから始めようと思う。
「さ~て!今日は予定もないし天気もいいからお外でゴロゴロしよーか!」
「つまり、なにもしない?」
「ゴロゴロするんだって!」バシン
「あイタ」
だからなにもしないんじゃん… でもそういうわけにはいかないよ、ゴロゴロって急に言われてもな…。
そうだ、こんな時こそガイドの出番だ!動物解説カモン!
「ってわけだから出番だよラッキー」
「任セテ」
今日のテーマ ライオンについて。
「猫科ニハ珍シク オスガ1~3頭 メスト子供デ15頭ホドノ 群レヲ作ッテ生活スルヨ 群レノコトヲ“プライド”ト言ッテ 成熟シタオスガ ソレヲ守ルリーダー メスハ主ニ 狩リヲスルヨ」
「へぇ~狩りってメスがするんだ?」
意外、オスライオンはふんぞり返ってるだけなのか?
「オスガ参加スルコトモアルヨ 獲物ガ少ナイト 縄張リノ範囲ヲ広ゲタリ 一日中活動シタリスルケド 獲物ガ多ク食料ニ困ラナイ時ハ 20時間クライ休ムヨ」
「なるほど、ごはんに困ってる訳じゃないから姉さんはゴロゴロするのか…」
それいいの?ぐーたら亭主やんけ?いかんなそれは男は家庭を守るもの!あれ?姉さんは女の子で… あれ?
「彼女個人ノ性格カモシレナイケドネ 狩ハ 扇形ニ散開シテ獲物ニ忍ビ寄リ 大型ノ獲物ニハ 喉元ニ噛ミ付イテ 窒息死サセルヨ」
「そ、そっか…」
なんか雲行きが怪しくなってきたな…。
「捕ラエタ獲物ハ オスガ殆ド独占シテ メスガ子供ニ分ケ与エルケド 少ナイト子供ニマデ獲物ガ当タラナイカラ 餓死サセルコトモ多イヨ」
「ちょ、ちょっと待って!」
き、厳しいかんきょ!全然へっちゃらじゃない!未来を作るのは子供達だぞ!もう聞きたくない!お願い!俺のライフはもう0よ!
「オスハ生後2~3年デ 群レヲ追イ出サレテ 他ノ群レノオスヲ倒シ ソノ群レヲ奪ウヨ ソノ時ニ 群レニイタ子供ヲ 全て殺スンダケド コレハメスノ発情ヲ促スノト 群レノ競合相手ヲ減ラシテ ヨリ多クノ子孫ヲ残ス為「もうやめろぉォォォッ!?」
俺が聞きたいのはそんな厳しい話しじゃないッ!?もっとこう… へぇー♪って感じの話が聞きたかったのに!子供を殺すとか知りたくない!知りとうなかった!
「んん?シロぉー?どーしたー?」
「なんでもないよ!なんでもないから!」
「1回ノ交尾ハ約20秒程デ 1日ニ約50回以上行ワレルコトm「やめろォォォォォオッ!?」
クソ!この…!このお喋りビーストめ!余計な情報を垂れ流すんじゃあない!
「ボスと話してたの?なに?交尾?」
「えー?なに?知らなーい… ライオンって大変だね姉さん?」
「えぇ?まぁねぇ… フレンズになったら大して関係無いなぁーって感じだったけどねぇ~?」
ふぅ… なんとか誤魔化せたな…。
「それよりもぉ~…」
「え?」
「ライオンの交尾に… 興味があるのか?」リーダーボイス
「ひぇ… ラッキー助けてよ…」
「アワワ…ワワ…」
その後「教えてやろうか?」と色気のある笑みを浮かべて迫ってきたが「嘘だヨーン!」ってただからかってきただけみたいだったので事なきを得た。
でもそのせいで「さぁゴロゴロしなおすよー」って言われてもうつ伏せになるしかないのが今の俺の状態だ、これは先が思いやられるね?男の子だもん?
だけど、俺が暴れたとき姉さんに飛びかかったのは群れの奪い合いを再現した行為だったのかもしれない、ヘラジカさんもいたのに姉さんを狙った理由にはなる。
一つ賢くなりました。
ある程度熱も冷めたころ、俺も気持ちのいい気温のなか少し眠った。
ちなみに、オスライオンはぐーたらではない、外からプライドを奪いに来たオスライオンを撃退し群れを守るのだ。
プライドのリーダーはしっかりと家族を守る王としての役割を果たしている、ぐーたらとか言ってすいませんでした。
…
その頃、図書館では早速二人の長がかばんに無茶を言い始めていたのであった。
「ではかばん、シロの穴を埋めるのです」「なにか作るのです」
「「我々は空腹です」」
「そう言われても、僕はシロさんみたいにいろいろ作れる訳じゃあ…」
コトン… と無言で砂時計をひっくり返す博士、戯れ言を抜かす前にさっさと作れと言うことだろう。
二人は毎日シロの手料理を食べていた、シロは本を読み、学び、応用し… 限られた条件の中で様々な料理を再現していった。
特に肉を使えない中でよくやってきた方だろう、厳密言えば怖くて使えないだけだがこれもすべて自分の居場所を作るための彼なりの努力である… そんな努力は、いくらかばんが優秀でも一朝一夕で真似できるものではない、かばんは困っていた…。
とても困っていた。
「博士達ずっとシロちゃんの料理食べてたの?今日くらいジャパリマンにしようよ!」
「ダメなのです」
「最早我々、頭脳と同じくらい味覚が発達してるのですよ」
「ジャパリマンなど味気ないだけなのです」
「…ったく贅沢なやつらだな本当に!」
「ツチノコ~…どうしよー?」
サーバルの助け船も無意味なものとなりワガママで返される、どうしようと言われてもどうしようもない。
だが、そこでスナネコがあるものを持ってきたことで状況が変わった。
「これどーぞ」
「え?これなんですか?本?にしては薄いですね?」
「シロが料理するときたまに見てたので、きっと面白いものが書いてあるんですよ」
「それ、本当ですか!?もしかして…!」
持ってきたのはシロの薄い本… もといノートだ、かばんはそれを開くなり「すごい!」と感慨の声をあげた、その内容とは即ち。
「なにが書いてあるんだ?」
「料理のことです!これはシロさんのレシピ本です!」
「れしぴ?ってなに?それもりょーり?」
「いろんな料理の作り方だよ?シロさん… スゴい頑張ってたんだ」
かばんは素直に尊敬した、シロのノートにはびっしりと料理の記録が記載されていた。
例えば何を何分茹でるとか、分量がどうだとか、こうするとこれの代わりになるとか、彼のこれまでのありとあらゆる経験がそこにあったのだ。
「これがパスタ、昨日の赤いやつ… 作り方は… なるほど!わかりました!」
「なになにー?わたしも手伝うよ!」
「どうするんだ?」
「はい!これとこれ… それからこれを使って…」
かばんはノートを頼りに指示をだし厨房に入る「試してみたいことがあるんです」と皆に伝えると見事な手際で料理を開始した。
…
そして完成した物がこちらです。
「できました!」
「おぉ…」
「これは…?」
そうして博士達の前に出たのは黒っぽい色の麺類。
「パスタ… ですね?」
「しかし香りも見た目も初めてのものですね博士?」
「えへへ、実はこれ… パスタじゃありません!」
「うみゃー!ヤキソバだー!」
「「ヤキソバ?」」
焼きそば、それはそばと言いつつそばじゃない麺にソースを絡めて火を通したもの、お手軽な料理のひとつである、たまに無性に食べたくなる。
「ゴコクで食べさせてもらった料理です!シロさんのパスタを参考にして作ってみました!」
「これ美味しかったよね!」
「皆さんの分もあるのでどーぞ食べてください?」
今日の図書館はみんなで焼きそば祭りとなった。
「「ごちそうさまでした!」」
「どうでした?」
「さすがですねかばん」
「まさかシロの料理からまったく新しいものを作り出すとは」
これには博士たちも驚きを隠しきれなかった、満腹満足になると上機嫌に礼を述べた。
「シロさんのレシピのおかげです」
そう言ったかばんも嬉しそうに笑う、彼女もまた料理がうまくいき嬉しいのだろう、溢れんばかりの笑みである、可愛い。
「とりあえず、これがあれば料理はなんとかなりそうだな?」
「はい!シロさんが戻るまでなんとか出来そうですね?」
「それはいいとして、ところでツチノコにスナネコ?」
「お前たち、自分のちほーには帰らないのですか?」
「…」
ツチノコ自身それは承知だった… さばくちほーまで歩くのが億劫だとか、スナネコと帰るとあちこち寄り道してすぐに迷うだとか、色々細かい理由はあるのだが一番の理由はシロが帰るのを待つべきか迷っていたというのが本心だ。
ただいつ戻るかもわからないし、どうも彼女自身決めかねているところだったのでこの博士達の発言も少々耳が痛い、きっかけがあれば… という感じではあったのだが。
「かばんちゃん!バスで送ってあげようよ!わたしも久しぶりにサバンナに帰りたいな~?」
「そうだね?バスの電池も充電したいし… 帰ろっか?」
「ちょ、ちょっと待つのです!」
「あ!でも博士達の料理は!?ヒグマもどこにいるかわかんないよ!」
そう、シロの居ない間その穴を埋めて料理番をする… その役割をかばんに任せたかった長の二人はなんとしても阻止したいところだった。
「そ、そうです!」
「もう少し残ったほうが…!」
「大丈夫だよサーバルちゃん?」
博士達の言葉を聞いていないかのごとく、先程とは少し違う笑顔でかばんは断言する。
「だってとっても優しくて立派な賢い長の博士さんと助手さんだもの?我慢できないはずないと思うよ?」
「そっかー!だって賢い長だもんね!我慢ならわたしだって少しはできるよー!」
サバンナコンビのキラキラと曇りのないまっすぐな視線と笑顔… これには長も反抗できない。
だってとっても賢くて立派な優しい長なのだから。
「うっ!それは!?その… そ、そうです!我々が我慢もできないように見えますか?」
「あ、当たり前です!我々長なので!我慢なんてちょいです!」
「ちょいちょいです!」
「はっはっ!こりゃいい… じゃ、スナネコ!一旦帰るぞ?」
「満足…」
バスは長の元を離れ四人を乗せてあっさりと出発した。
「ばいばーい!」
「また来るのですよ!」
「絶対ですよ!」
「はい!それでは!」
道中車内では先程のやり取りの話題となっていた、あれがあのかばんの発言か?と意外だったのだ。
そう、ツチノコは気づいていた… かばんは博士達の性格を上手く利用したのだと。
「お前… なんか腹黒くなったんじゃないか?」
「えへへ… ちょっと意地悪しちゃいました」テヘペロ
かばんは少し罪悪感はあったものの、ワガママな博士達にはいいクスリだろうとツチノコはニヤリと笑う… 普段からシロは世話になってるとは言え甘すぎなのだ。
海を出て、ゴゴクエリアを旅し、またちょっぴり知恵をつけて帰ってきたかばんなのであった。
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