第24話 パーティー

 朝、昨日作ったカレーを再度温める。


 その間に他の材料をあらかじめ用意しておく、切れるものを切っておいたり、カレーが焦げないように混ぜるのも忘れてほいけない。


 しっかり温まったら味見… 少し口に含むとじんわりと旨みが広がっていく、やはり一晩寝かせるとコクがでるね。

 ご飯も大量に炊きつつ、次は昨晩みんなでひたすら作ったパスタ麺を茹でておく。

 ソースをかければパスタの完成と言いたいが、今回はナポリタンなので少し手間だ、量から言ってケチャップを恐ろしく消費するだろう。

 

 あとは出せるならもっといろいろ出したいところだ、きっと今日で食材が空になるね。


「茹で卵!全部剥けたぞ!」


「じゃあ切ってくからお皿に乗せてって~」


 ツチノコちゃんには昨晩死ぬほど茹でた卵の殻を剥いてもらった、ちなみに茹で卵は茹でる前に底にアイスピックとかで小さな穴を開けると剥きやすいです。


 でスナネコちゃんには御自慢の爪でキャベツを切ってもらいます。


「山盛りのキャベツ…」スパパパバ「山盛りのキャベツです…」スパパパバ


 サラダを作ってもらってる、けっこう微塵切りとかいけるんだね、ありがとう。でも頼むからまだ飽きないでね?


 俺個人としてはキャベツの千切りにはマヨネーズをかけて食べたいとこだけど、都合よくそんなものは手に入らない。

 でも大丈夫、手製でドレッシング的な物を作っておいた、博士たちもこれの味には満足だ。


 朝から準備… 準備… ひたすら準備…。

 

 その過程でみんなには朝食を食べてもらい、現在博士たちは高いところから来客を見てもらっている、現時点で報告が無いのはまだ誰も来ていないということだろう。


 がやがて長の鋭い眼光がキラリと光り遠方の人影を捉える。


「来たのです!」


 博士が叫んだ、さて記念すべき一人目は誰かな?


「多いですね」

「えぇ、どんどん集まるのです」


 どうやら一人や二人の騒ぎではないらしい、緊張してきた… でも始まったのだ、パーティーとはそういうものだ、団体様どうぞいらっしゃいだ。


「みんなおはよ~う!」


「あ、おはよう姉さん、丁度できたとこだよ?まだまだ作るけど」


「私たちも来たぞ!」


「うん、ありがとう!楽しんでって!」


 距離の関係か第一号は平原の二大勢力、ライオン勢ヘラジカ勢の皆様だ。

 

 さらに。


「おれっちたちも来たッスよ~」


「いい匂いがするであります!」


「いらっしゃい!先日のお礼も兼ねてどんどん食べてって!」


 続いて湖畔の器用なコンビ、ビーバーちゃんとプレーリーちゃんも到着だ、まだまだ来るぞ。


「わーい!料理だぁ~!」


「やっほーシロ!」


「しばらくだにぇ?紅茶持ってきたからよかったら飲んでぇ?」


「私達の歌、みんなに届いてるわ?」


「嬉しいんですけど!」


 続々登場、じゃんぐるちほーから遥々カワウソちゃんとジャガーちゃん、高山からアルパカさんに二人のトキちゃん他諸々。


「みんな久し振りだね?トキちゃん達も歌で宣伝してくれてありがとう!おかげでどんどん集まるよ!」


「ですが、おかげで忙しくなるのも覚悟するですよシロ?」

「我々の専属料理人の力を見せるのです」


「頑張る!」


 長の言う通り確かにこれは忙しい、思ってたより一度にじゃんじゃん集まってくる、いやすごい勢いだ本当に。


 でも… よーっし腕の見せ所だ!


 それからカバさん率いるサバンナ組、シマウマちゃんを始めトムソンガゼルちゃん他

 じゃんぐるちほーにはジャガーちゃんたち以外にも先日引き飛ばしたオカピちゃん、キングコブラさんとかフォッサちゃんとか?とにかくもうたーくさん集まってきて、あっという間に図書館の周辺がフレンズ祭りになった。


「みんな来てくれてありがとー!たくさん作るから好きなだけ食べてね!」


「「わーい!いただきまーす!」」


 みんな笑ってる… いろんな子が見えるが皆笑っている。

 フォークが使えなくて手も口もケチャップだらけにした子やら、スプーンの存在を知らずカレーに顔ごと突っ込んで食べる子もいるが。


「おいしー!」「これはなに?、おもしろい味がする!」「このミミズみたいなやつ、クセになるよ」


 感想はいろいろだが、みんな美味しそうに食べている… これは作り甲斐があるぞ、まったく休めず話してる暇もないが、俺は今日ほど充実した日を他に知らない。

 みんなの笑顔が俺を受け入れてくれてることを意味すると思うと感無量と言える、つまりパーティーは成功したのだ。


「思ってた倍は大変だねこれ!」


「でも楽しそうですねぇ?」


「嬉しいんだろ?素直じゃないなお前は」


「ツチノコちゃんにそれを言われるとはね…って二人とも、ははっ!口の周りケチャップだらけじゃん?」


 俺がそういうと二人は顔を見合せ笑い合う。


「へっ!お前口の周り真っ赤だぞ?」


「ツチノコもギトギトですね」


 そうして三人で笑うと、つられて周りのみんなも笑った。

 

 感じたことの無い、いや懐かしいというべきか… この空間にはそんな一体感がある。


「ほら二人ともこっち来て、拭いてあげるから…」

 

 どこか安心感を覚え、二人の口許を拭こうと綺麗な布を用意したときだ。


 懐かしい声が頭に響く。


 “ほらいらっしゃい、ふきふきしましょうねー?”


 とても暖かくて優しい、そんな声が聞こえた気が… いや思い出した?


 そうかこの声、これって…。


「こうして舐めとれば大丈夫ですよ~… あれ?なんかボーッとしてますね?」


「おい?どうした?」

 

 母の声だ母の声を思い出した気がする。

 ほんの一瞬のはずだがしばらく立ちすくしていたように感じた


「…!? あ!いや何でもないよ、ってダメだよスナネコちゃん?そういうのは行儀が悪いって言うんだよ?ほらほら」フキフキ


 口元を拭いてやると「ウワァンムグ…」というような声を出した、済むと少し不満そうな顔をしていた、彼女はあまり表情が豊かではないのでわからないがとにかく不満そうだ。


「はい次ツチノコちゃん」


「オ、オレは自分で!?」


「ボクがやってあげますよぉ」フキフキ


「ンムギャ!モゴモゴ! …何すんだぁ!ヴぉぉれぇ!キシャー!!」


「アッハハハ!」


 ツチノコちゃんの反応が面白くてつい笑いがでた。


 しかし、さっきのといい先日の夢といい… 急に母さんのことばかり思い出してなんなのだろうか?

 と言っても、今は楽しい席だし考えても仕方ない、母さんのことを思い出すのはイヤな気分でもない。


 さてそろそろピザが焼き上がるな?





 それから、いろんな子が俺の元を訪ねた「いつきたの?」とか「美味しいもの作るのが得意なのね!」とか。

 みんな見たことのない俺や料理に興味深々のご様子でたくさん話しかけられた。


 こうしてたらなんかこう「あぁ俺ここにいていいんだな~?」って気持ちになってくる。


 俺の居場所がここにある。


 だからこそみんなには知っといてもらいたい、俺が何者でどういうヤツなのかってことを。





「シロ」「どうですか?」


 博士達だ、様子を見に来てくれたようだ、


「あ、うん順調だよ?って博士達も… ほら拭くよ?」


 俺は再度布を取り博士達の口元を拭いた「ンムググ!」「モゴモゴ!」と声を出す姿はまさに少女のそれであり、長の風格はない。


 まるでない。


「ってそれはいいのです!」

「聞くのですよシロ!」


「ハイハイ、なんかあった?」


「妙なのです」

「はい、とても妙です…」


 「妙」という二人の表情はスナネコちゃんよりも無表情だ。

 一体なにが妙なのか?順調ではないか?とせかせか手を動かしながら聞いた。


「タイリクオオカミ達のことです」


「オオカミさん?あ、そう言えば見てないね?」


「気になってざっと見回したのですが、どうやら来ていないようなのです」

「考えてみると、ロッジのフレンズだけでなく雪山のキツネ達やPPPもいないのです」


「なるほど…」


 確かに妙かもしれない… あの時パーティーを企画したのは俺達三人とたまたまお客で来ていたオオカミさんとキリンさん。

 二人は帰り際にみずべちほーと温泉宿で声を掛けていくと言っていた、言わば確実に来るメンバーと言っても過言ではないのに。


 だがしんりんちほーより向こうのちほーのフレンズはいない… なぜ?


「憶測に過ぎませんが、良くないことになっていなければいいのですが…」

「はい、我々の考えすぎということもあります」


「まさか、セルリアン?」


「しーですよシロ?」

「こんなにフレンズの集まってる時に“それ”の名はパニックになります、慎むのです」


「あ、ごめん… そうだね」


 口の周りケチャップまみれでもさすが長、状況で物事を的確に判断している。

 ここより向こうのちほーで何かあったというのが妥当な考え方だろう、一番乗りしてもいいくらいなのにいないのは何かに足止めを食らっていると考えるのが自然だ。


「ハンターたちがいないのも気になります、もしかしたら…」

「そういう理由なのかもしれないです」


「ヒグマさん達も… でもだとしたらどうする?一旦中止にして…」


「待つのです、こうなったら…料理が惜しいですが我々が」

「ですね博士、惜しいですが… 我々長なので」


 二人が偵察に行こうと言うのだ、料理を諦めてまで様子を見に行こうだなんて… 何だかんだ言っても仲間が心配のようだ、もちろんそれは俺もだけど。

 でも長が急に飛び立ったらみんな不審に思わないだろうか?なにかないか?内々に安否を調べる方法は?


「あ… あれは?」


 そこにぴょこぴょこと現れたのはラッキービーストだった。

 空いたお皿を片付けてくれている、端的に俺の手伝いを買って出てくれているのだ。


「そうだ、ラッキー!頼みがあるんだけど!」


「任セテ」


 俺は声を掛けると台所の下に屈みラッキーに話しかけた


「みずべちほーからロッジの辺りまででタイリクオオカミさんや他のフレンズが数人集まってると思うんだ、なにかトラブルに巻き込まれてるか状況を知りたいんだけど… できる?」


「任セテ 各チホーノラッキービースト二 連絡シテ 安否ヲ確カメルヨ」


「OK!流石!可能なら通信させて?」


「ワカッタヨ」


 そう言うとラッキーの目はいろんな色に輝いた、今まさにいろんなラッキーに話しかけているんだろう。


「ってことだから博士たちもとりあえず待機ね?」


「では果報を食べて待つのです」

「次の料理を出すのです」


「あ、うん」


 俺は丁度焼けた特大ピザを取りだし大きな皿に乗せた、出来立てピザはチーズの香りを十分に周りに伝えた。


「次の料理だ~!」「わーい!まぁるいぞー!」「わたしもたべたーい!」


「はわわ!?みんな熱いから気を付けてー!まだ作るから!順番順番!」


「熱いのです…フーフーしましょう助手」「では私のは博士にしてもらいます」フーフー


 早いなぁもうとってるし、さっきのカリスマは何処へ。

 

 ピコーン


 その時ラッキーに反応が見えた、察するにどこかのラッキーと通信が繋がったんだろう。


 皆、無事だろうか?


「あ、もしもし!図書館のシロだよ!誰かいる?」


『うわぁ~!?ラッキーさん?急にどうしたんですか?』『なになに~?ねぇボス?いつもと声が違うよ?』『今さぁ~?図書館って言わなかった~?』『図書館!?きっと博士たちになにかあったのだ!博士の危機なのだ!』


 へ?




 耳に入ったのは覚えの無い、恐らく四人ほどのフレンズの声。


 オオカミさんやキリンさんは?博士の危機?


 博士の…?


「熱ッ!?」「熱いのです!?」


 いや、危機ってほどではない気がするけど…。



 

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