第23話 とても疲れた

 帰る際に玉子と牛乳を持ち帰るか悩んでいたのだけど、ことのほか時間が限られてるのでやめることにした、もしかしたら用意してくれてるかも?ここは博士たちを信じる。


 正直、結構きつい…。


 湖畔では諸事情に付きあまり眠れず、平原ではその寝不足の体に鞭を打ち体力を使う遊びを朝から昼過ぎまで全力で行うことになり、加えてまだ慣れないバギーの運転。


 平原のみんながまだまだ元気だったのはフレンズだからか俺が単に疲れてるからそう見えたのか… とにかく早々に帰って一度休みたいところだ。



 そして図書館に到着。


「着いた~…」


「思ったより早く着いたな」


「Zzz…」


「こいつ、結構揺れてたのによく眠れるな」


 スナネコちゃんは自由だな… でもなんかこんな寝顔を見せられたらもう少し頑張ろうかな?って気になった、なんだか妹でも見てる気分だ。

 あまり気持ち良さそうなので起こさないように図書館前にバギーを止めたまま動かさないでおくことにした。


「二人とも~?帰ったよ~!」


「おかえりですシロ」

「思っていたより早かったですね?」


「うんただいま、ちょっと足を見つけてね?それより材料集まった?」


「ラッキービーストのところから野菜をちょいです」「そのあとフリシアンのとこから牛乳と玉子をちょいちょいです」


「そっか、良かった助かるよ… うっ…」


 しまった、安心したら意識が… クラクラする。


「おいおい!大丈夫なのか?」


 ツチノコちゃんが支えてくれた、なんだかさっきからやけに距離が近いなとは思っていたけどもしかして結構フラフラしてたんだろうか?心配させたに違いない、ありがたいが申し訳ない限りだ。


「大丈夫、ちょっ~と疲れただけだから」


「本当か?お前はすぐ見栄を張るからな」


「ツチノコの言う通りですよ」

「顔色も良くないようです、博士」

「確かに… 少し青ざめているのです」


 そうかな?今俺そんなにヤバそうな顔してるのかな?端から見て分かるくらい顔色悪いわけ?いや確かにボーッとしてきたけど動けないほどでは…。


「ところでツチノコは何しに来たのですか?」

「人見知りのお前が珍しいです」


「い、いいだろ別に!ただその… ただこいつが一人で大変そうだと思って手を貸してやろうかと思ったんだよ!」


 いつものように慌てて取り乱したツチノコちゃんを見ていると無理に着いてきてもらったなというのを再確認し少し申し訳ない気持ちになった。それでも善意で来たと言うのだから彼女は優しい、ここに来てから俺は友人に恵まれた。


「俺が頼んだんだよ?ありがとうねツチノコちゃん?」


「れ、礼は弾めよ!?それにオレ一人って訳じゃない!スナネコも来てるんだ!今は寝てるが…」


「ほぅ」「仲が良いのです」


「なんだよ!」


「ツチノコちゃんは優しいからね」


「ただの気まぐれだ!」


 やれやれまったく照れちゃって… さてもうすぐ晩御飯だし食事の用意をしないと。

 できればすぐにでも休みたいけどダメだ、博士達も結構待たせたから少しばかり申し訳ない。

 簡単な物になってしまうけど仕方ないな、今回だけ許してもらおう。


「じゃあ夕食の仕度するけど簡単な物になるのは勘弁してね?今日はお客さんもいるし豪勢にしてあげたいとこではあるんだけどさ」


「あのなぁ?少し休んでからでも」


「ツチノコ、その心配はいらないですよ」


 ツチノコちゃんの言葉は暖かいが、いやはや長は手厳しぃねぇ… と思っていたのだが。


「何言ってんだ!お前たちも顔色が悪いと言ってただろ!」


「話は最後まで聞くのです」


 この時ボーッとしてて特にリアクションできなかったのだけど、このあと二人が言った言葉はちょっとだけ意外な感じではあったのをよく覚えている。


「シロはもう寝なさい」

「我々も今日はジャパリマンで我慢してやるのです」


「え?でも…」


「いいから休むのです、明日から忙しくなるのにお前がそんなことでどうするのですか?」

「これは長の命令です、大人しく聞くのです」


「むぅ、そこまで言うなら休むよ」


 なんと休めときた。


 長も心配するレベルの顔ってどんな顔してるんだろうか?まさか白目で喋ってたりするのかな?強そう。


 でもまぁ体調管理も仕事のひとつということか、こういう時に気を使えるのってさすが長って感じだね?もっとワガママ言われると思ってたけど助かった… サンキュー長。


 俺はそのまま命令に従いフラフラと自分の寝床にいき横になった、するとほんの数秒でフッと意識が途切れてしまいすぐに眠りにおちてしまった。




「たまには長らしいこと言うんだな?」


「当然です」

「長なので… というかツチノコ?」

「“たまに”は余計ですよ?」

「我々は常にフレンズたちを労うことも忘れてないのです」


「そ、そうか…」







 夢を見た。


 それは小さい頃の夢だった。


 歳にして3歳前後ってとこだろうか?ハッキリわからない… とにかくとても小さい頃、昔のことだ。


 そんな幼い俺は母に尋ねた。


「ねぇママ?どうして僕とママだけお耳と尻尾があるの?」


 夢の中の母の姿はなんだかぼんやりとして見えなくて、まぶしいとかボヤけてるとかそんな感じで姿を捉えることができなかった。

 忘れたわけでもないのになぜか顔が見ることができない。

 そして声も聞こえない、だけどなぜか何て言ってるかはわかるのだ。 


 夢ってのは不思議だ。



 聞こえぬままただ口をパクパクとさせながら母は俺の質問に答えてくれた。


 “それはフレンズだからよ?”


「フレンズ?みんなはフレンズじゃないの?パパは?」


 この時母は困った顔していた… ような気がする。

「ウーン」という感じで困って父に助けを求めていた… 気がする。

 

 そうして母に助けを求められその時父は言った。


「パパやみんなには耳と尻尾がない、お前たちにはある… それだけのことだよ」


 この父の言葉。


 今だからわかるが、見た目など些細な問題だということだと思うんだ。


 意思疏通ができて他人を思いやれる、だからみんな仲良くできるはずなんだということなのだと思う。

 

 確かに当時みんなは俺が心配していたよりもずっと仲良くしてくれた、普通にみんな友達だったし優しく耳を撫でられるのは嫌いじゃなかった。


 でも幼い俺はある日、母とお揃いで自慢だったその爪で友達に怪我をさせてしまった。

 あの時の友達の顔はよく覚えている、痛みと恐怖で歪んで大泣きだった。


 確かあれからだ、みんなが俺を恐れて避け始めたのは。

 

 それからなぜか歳を重ねるごとに耳と尻尾は消えるようになった、次第に人間の姿になり幼い頃は普通だったフレンズの姿は感情が高ぶらないと出てこなくなってしまった。

 俺がショックで理性の奥にフレンズの自分を閉じ込めてしまったのか、大勢の人間に囲まれて行くうちに人の姿が普通であると強く望んだ結果なのか… それはわからない。


 そしてその頃には母はもう…。









「あ…」 

 

 目が覚めた、これは酷いな涙で顔がグシャグシャだ…。


 どれくらい寝てた?周りは明るい、昼間だってことだろう… ん?明るい?ってことは?


 いけない、起きなきゃ。


「いたた…」


 体起こすと、筋肉痛だろうか?少し起き上がるのが辛く感じた。

 

 さておき、待てよ?どうしたんだっけ?


 帰ったんだ、着いたら夕方近かったはず、晩御飯は作らずに寝たんだ、それから博士たちの指示で休んで。


 そうだ、でも起きたら、日が高い?するってーとつまり…


「え… もしかしてあれから一晩中寝てたの?今の時間は?」


 そもそも時計なんてないのだけど、太陽の高さでそれとなく判断してる。


 ちょうどお昼頃か?ず、ずいぶん寝てたなぁ。



 図書館はしんと静まり返っている、みんなは?みんないないの?


 夢のせいかほんの少し不安を感じ周囲を見回していた。

 一人は嫌だ、怖い… そう思っていると外から声が聞こえてきた。


「イダーッ!?」


 今のはツチノコちゃんの声だ、何かあったのかな?

 

 今ので恐怖心など吹き飛んでしまい、外に出て探してみると皆厨房に集まってなにかしてるようだった。

 もしかして俺が起きないから博士たちになにか作れと脅されてるのだろうか?


「刃物は危ないのです」

「もっと注意するのです」


「誰がやらせてるんだ誰が…!」


 ツチノコちゃん、包丁で切っちゃったのか… ごめんね俺の代わりに。


「そもそも自分でなにか手伝うべきではないか?と言い出したのです」

「我々はそれを尊重しアドバイスをしてるのです、感謝するのです」


「っとに態度のでかいやつらだな!」


「文句を言う暇があったら切るのです」

「スナネコはうまくやってるのです」


 手伝いで?それはありがたい… あの飽き性のスナナコちゃんまで?そう言っていたのでスナネコちゃんを探してみたらすぐ奥にいて自慢の爪で野菜をスパスパ切り刻んでいた。


「え~い…」スパパパバ


 へぇ、大きさはバラバラだけどそれは俺もそんなに気にしてないから結構便利かも、俺ももうちょっと野生解放をコントロールできれはなぁ、楽できそうなんだけど。


「満足…」


「ダメです」

「もっと切るのですよ」


「えぇ…」


「ツチノコがあのていたらくではお前が頼りなのです」

「さぁ切るのです」


 どうやら火も使えない彼女達なりにできることをしてくれているようだ、俺がだらしないばっかりに申し訳ない。

 

 ツチノコちゃんはさっき指を切ったみたいだから、今指をくわえて不服そうな表情をしている… 慣れない子に刃物は危険だ、代わらなくては。


「みんなおはよう」


「おはようですシロ」

「ずいぶん長く眠っていたのです」


「じゃあボクはこれでぇ…」


「「ダメです」」


「えぇ…」


 スナネコちゃんも飽きてるのに頑張ってるんだ… みんなも。


 負けてられないな。


「おい、もういいのか?」

 

「おかげさまでね?ありがとう、助かったよ?」


「オレは大したことしてないぞ…」


「そんなことないよ、そうだ!指切ったんでしょ?見せて?」


「ん…」


 ツチノコちゃんの手をとった… 白くすべすべとしている、実に女性らしい。


 どうやら人差し指を切ったみたいなので一応水で洗っておく、フレンズさんでも怪我は野放しにしてはいけない。


「お、おい…!」


「んー?」


「そんなこと必要ない!サンドスターですぐ治る!」


 ツチノコちゃんは顔を真っ赤にしてあたふたとしている、確かによく考えたら俺しれっと女の子の手をとって洗ってあげてるのか… でも寝起きでボーッとしてるからあんまり恥ずかしくないなぁなんて。

 

 それにほっとくわけにもいくまい。


「ダメだよこういうのはすぐ洗わないと、バイ菌が入るよ~?」


「ほ、本当か?それ?」


 あらまぁびびってるびびってる…。

 ま、なんでもフレンズだからって軽んじるなってことだよね?痛いものは痛いんだから。



「さぁ目も覚めてきたことだし、あとは俺がやるよ?」


「もう別のことをしていいですか?」


「うん、ありがとうねスナネコちゃん?助かったよ」


「満足」


「みんなもありがとうね?あとは任しといて!」


 さーてついでにこのまま今日の晩御飯作って明日の準備だ、人数が多いときはやっぱりこれ!まずは殿下の宝刀カレーライスから作るとしますか!




 明日はパーティー、おおきな鍋にカレーを作り蓋をして一晩寝かせましょう。


 まずトッピングでチーズと目玉焼きなんてどうだろう?パスタはナポリタンだ、あとで麺を作らないとな… デザートはヨーグルトにイチゴジャムとホットケーキ、これひはヒグマさんの採集してくるハチミツもいいね


 みんな来てくれるかな~?喜んでくれるといいな~?


 よく眠れたので気分も爽快!


 さぁ頑張るぞ!

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