第21話 がんばれ森の王
湖畔を後にして順調な道のり進む俺たちはすぐにへいげんちほーまでたどり着いた。
が少し迷っていることがある、このちほーの両軍勢に挨拶しとくべきだろうか?わざわざ俺がしなくても今頃トキちゃんが飛び回り全ちほーに知れ渡る手筈なんだが、もし声をかけずに素通りするところをオーロックスさんとかにでも見付かったら?その時は姉さんからリーダーボイスで説教を食らうかもしれない…。
一方ヘラジカさんのところは?
うん、普通に面倒なことになりそうだ… あの人は話を聞かないからな。
ぶっちゃけ今は急いでるので時間をとられるのは少し都合が悪い、どーせ当日会えるのだしこの際できれば素通りさせていただきたいと思う。
…が。
「シロじゃないか!とうとう私と戦いにきたんだな?」
「…」
ヘラジカさんに捕まってしまった、まさかこんなにあっさりと遭遇してしまうとは。
「ツチノコ、相変わらずいい目をしているな?どうだ?仲間にならないか?」
「冗談じゃない!騒がしいのは落ち着かないんだよ!」
「わぁ~たのしそうですねぇ~」
「お、スナネコはどうだ?」
「いえ…」
「飽きるなら乗るなよ!」
ヘラジカさんせっかくの勧誘をあんなに簡単に拒否されて… なんだかちょっと可哀想になってきたなぁ、励ましの言葉とか…。
「そうか!仕方ないな!よーし!こい!シロ!」
うわ、全然堪えてないよこの人!励ましなどいらなかった。
なにが「こい!」だよ、野生解放するな!
「隠しても無駄だシロ、おまえから滲み出る強さ… 私にはお見通しだ!ライオンと初めて会った時のあの感じを思い出すぞ!始めから全力でこい!受け止めてやる!」
なんなんだよこの人!なんでわかるんだ!エスパーかよ!
そんなことより先を急いでいるんだと立ち去りたいが、ラッキーが言うにヘラジカさんはとんでもなく足が早いらしくバギーにも追い付いてくるらしい、正直詰みだ… お願い誰か助けて?
「おいシロ、なんとかならんのか?」
「逃げるのは無理かな」
「とりあえず戦いはやめとけ?おまえはアレをやると疲れるみたいだからな」
ツチノコちゃんからのありがたい忠告。
もちろん、無意味に拳を交えようなんて思ってはいない
心配かけたくないし怪我もしたくない、させたくもない… せっかくのお誘いだがまた戦闘は回避させてもらおう。
「森の王ヘラジカよ…」
「ム、なんだ?やっとやる気になったか?」
「幻滅したよ、あなたほどの方がまさか嘘をつくとはね?」
「なに!?私は嘘なんかつかないぞ!」
いいやついている、厳密には単に忘れてるだけなんだろうけど確実に嘘になっているのだ。
「あなたは以前俺に言ったんだ…“今度はスポーツで勝負だ”とね」
「ハッ!?」
「なのにそれを無視してあえて拳を交えようとするなんて、自分で言ったことに責任も持てず暴力に頼る… まさかその程度の器だったとは、ガッカリしたよ…」
「待て!ちょっと待ってくれ!」
ヘラジカさん、今さら思い出したようだな?あたふたしてるのがよくわかる、よしちょっと可哀想だが畳み掛けよう
「これが森の王とは… 底が知れた、行こう二人とも?」
「なっ!?」グサッ
「もう飽きたので早く図書館に行きましょう」
「えぇっ!?」グサッ
「部下のやつらも可哀想だな、森の王が約束も守れないフレンズだったなんて…」
「んなぁっ!?」グサッ
さすがツチノコちゃん、打ち合わせも無しに合わせにきたぞ… スナネコちゃんは本当に飽きてるだけだけどダメージになってる。
なんか俺ヘラジカさんと会うときいっつも精神攻撃してる気がする… たまにゆっくり他愛ない話をしたいものだと切に思う。
別に嫌いな訳ではないのだ、ただこの人は事あるごとに戦闘モードになるので苦手なのだ。
さて、このまま帰るのはさすがに気まずいが向こうはどう反応するのかな?
\ヘラジカさまー!/
そんな時、部下の面々が遠くの方から走ってくる、さてはヘラジカさん団体行動中にここまで単独で突っ走って来たに違いない。
「ふぅ… はぁ… やっと追い付いた…ですぅ」
「ヘラジカ様、急に方向を変えてどうしたんですの?」
肩で息をしながら話したヤマアラシちゃんとシロサイさん
ヤマアラシちゃんはともかくシロサイさんはこの重装備でよくここまで走ったものだ、誉めてつかわす。
「すまないみんな、実は私は森の王失格なんだ…」
あ、これなんかすげえ効いてるぞ?ちょっとやり過ぎたかな?
「どうしたでござるか?」
「こんなヘラジカ様見たことない!」
「…」ジー
カメレオン、アルマジロ、ハシビロコウの三名、落ち込んだヘラジカさんの姿を見て動揺を隠しきれない様子。ハシビロちゃんは何も言わないがとにかく仕草で何となくそう感じる。
「あぁこれは面倒なことになりそうだ」
「オ、オレは知らんぞ!」
えぇー?ノリノリだったくせに~…。
仕方ない、説明するか。
集まったヘラジカさんの部下の皆さんには戦いを申し込まれ拒否するまでのくだりを簡潔に教えた。
以下皆さんの反応。
「というわけなんだよ」
「う… それは確かにヘラジカ様にも非があるでござるな?」
「でもなにもこんなになるまで責めることないと思いますわ!」
「うんごめんね、それは本当にごめん、思ったより効いちゃって…」
ヘラジカさんをみるとあからさまに元気がない、自分がダメなんだって事よりみんなに迷惑をかけてると思って落ち込んでる感じだなあれは。
「ねぇヘラジカさん?ごめんね?ちょっと言い過ぎたよ」
「だが言われて気づいたんだ、確かに私はみんなに尊敬されるような王ではないかもしれない…」
重症かよ、いつもの元気はどうした?
「でもみんなヘラジカさんを信頼してるし尊敬してるからあなたに着いていってるんだ、ライオン姉さんも言ってたよ?うちより人数が多いのは人望があるからだよねって」
実際シロサイさんにちょっと怒られたしみんな心配してる、姉さんの言葉はちょっと吹かしたけど間違ってない、嘘じゃない。
「ふ、確かに… こんな私の元に集まってくれるみんなのために私がこんなことではダメだな!」
「お!さすがヘラジカ様!立ち直りが早いでござる!」
「このメンタルの強さ、まさに森の王ですわ!」
「ヘラジカ様カッコいいよー!」
「じー…」
よし、大丈夫そうだな。
今度から精神攻撃はやめて別の対処法を考えないと、落とし穴とか。
が、ホッとしてその場を眺めているとヤマアラシちゃんが俺の前に来てそっと耳打ちしてきたのだ、ほんの少し耳がくすぐったい。
「シロさん?よかったら一度勝負してあげてほしいですぅ、最近のヘラジカ様いつ図書館に突撃するかとか言ってるんですぅ…」
や、それはまずいな… 博士達が黙っちゃいないよ、しかも俺のせいでもある。
やはり一戦交えるしかないのか?
「あの…」
その時ハシビロちゃん俺の悩ましい態度に気が付いたのか珍しく口を開き1つの提案をだした。
「よかったら、あなたたち三人とチームでなにかすればいいんじゃない?」
「いいねそれ!私もやっちゃうですよー!」
アルマジロちゃんがテンション高めに腕を突き上げる、なんか女の子って感じ。
「おぉ~楽しそうですねぇー!」
「おまえはどーせすぐ飽きるんだろ!」
ん~でも何かって?また即興でなにか考えるのか、昨日眠れなかったから頭が働かないよやれやれ。
なにかチームでできる遊び… 遊び…。
あ!閃いた!
…
ということで決まりました、せっかくなのでライオン姉さんチームも含めた即興の大会でございます!
「名付けて、ケイドロ バージョンジャパリパーク」
「「「ケイドロ?」」」ザワザワ
まぁ名前はいいじゃないか、要はチーム狩りごっこでる。
「じゃあラッキー、ルールを説明して?」
「任セテ」
ルール
捕まえるチームと逃げるチームに別れる。
捕獲チームにタッチされた人は速やかに捕獲スペースへ
先に全員捕まったチームの負け、捕獲チームは全員捕まえたら勝ち。
今回は終わりがないと困るので捕まった人は解放なし、代わりにゴールを作り逃げチームのうち一人でもたどり着けばそのチームの勝ちとする。
「みんな理解できたー?」
「お姉ちゃんはOKだぞー!」
「たいしょーオレちょっとわかんねぇっす」
なんだか不安な声が聞こえるが大半は理解してくれたようだ。
場所は広いので姉さんの城、チームはこんな感じになった。
チームシロ
シロ ツチノコ スナネコ
チームヘラジカ
ヘラジカ パンサーカメレオン ハシビロコウ
チームライオン
ライオン アラビアオリックス ツキノワグマ
捕獲チーム ヘラジカ
逃げチーム ライオン シロ
ゴールは最上階のライオンの部屋とする。
「よしみんな!勝つぞぉー!」
「「おー!」」
「二人とも捕まるなよ~?」
「「は、はい!」」
各々やる気は十分のようだ、ならこっちも手は抜けないな。
「よーっしやるぞ!」
「満足…」
「おい!まだ始まってないぞ!」
こうして始まったチーム戦「ケイドロ」。
シロは無事図書館に帰れるのか?パーティーの準備は?
そして「やっちゃうですよー!」と言ってたのに非参加になったオオアルマジロの心境やいかに?
「観戦かぁ… ションボリ」
「元気を出すんですぅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます