第20話 天才技術者の家

「じゃ、行こうか…」


「大丈夫なんだろうな?」


「…」


 残念ながらだんまりだ、その質問に答えることはできない。本当に申し訳ない。


「なんか言えよ!頼む!大丈夫なんだろ!?」


「これに乗ればバスみたいに早く走れるのですか~?すごいですね~」


 この状況はなにかというとだ。

 

 なんと乗車歴数時間の俺にバギーの三人乗りが決定した瞬間なのである。

 運転は俺、後ろにツチノコちゃん、さらに後ろにスナネコちゃんとなっている。リュックはスナネコちゃんに背負ってもらったのはいいのだが、いかんせんギッチギチに乗ってるために三人とも隙間なくくっついている、仕方なくだ。

 この状況にいけない気分になってくる俺は男としてまともだと思う、健康な男子。ただしツチノコちゃんはいつかのフリシアンさんのようなものを持ち合わせていないので少しがっかr… 助かった。


「あ、そうだ?ラッキーを回収しないと、どこ行ったんだ?」


「多分出口にいるぞ、前もそうだった」


 出口に?先回りしてるってこと?つまり地下迷宮には入り口はもちろん出口に通じる道もパイパスに繋がっているってことだ。


「しゃべるボスがまた見れるのですか?」


「うん、図書館のそばにいたから案内役にして連れてきたんだ?このバギーを教えてくれたのもラッキーだよ?」


「ふーん」


「えぇ…」


 スネネコちゃんって本当に飽きっぽいんだな、自分から聞いといてその反応はさすがにどうなの?いやいいんだけどさ?まぁ実際騒ぐほどでもない。


 それこそが彼女なのだと受け入れていくしかない。


「さぁ行きましょう!」


「あ、うん」


 まぁいいや、猫は新しく買ったおもちゃに30分くらいで飽きることもあるらしい。

 いやそれにしたってこの子は飽きるの早すぎるんだけど、でもそれ故にさっさと出発した方がいいだろう、ここで飽きられては敵わん。



 というわけで、出発だ。



 発進のとき少し重たく感じたが意外となんとかなるものだ、正直重量オーバーは否めないがこれが返って安全かもしれない、スピードがそこまででない… それでも足よりずっと速いのだけど。


 三人乗りなんかしてラッキーに注意されるかと思っていたけど、地下迷宮の出口に着くと事務的な感じで「ドウダッタ?」と言われそれっきりだ。

 そもそも無免許の俺に乗り物を勧めるくらいだからガバガバ法律なのかもしれない。


 そして出口、即ち地下迷宮のゴール地点。


 外は当たり前だが夜だった、あんなに暑かった砂漠も流石に肌寒いのでパイパスに戻り再度旅路に着いた。


「じゃ、まずは湖畔まで行くよ」


「いつでもいいぞ」


「満足…」


 悲報 スナネコちゃん飽きる。


 俺たちは「「え?」」と口を揃えて後ろを振り向いた、するとそこには呑気にあくびなんぞ決めてバギーから離れつつある元気なスナネコちゃんの姿が。


「今日はここまでにしまs「待て!いいから乗ってろ!」


「えぇ…」


 ツチノコちゃんの怒濤の静止でスナネコちゃんは降りるのを阻止された。

 その通り、君には是非着いてきていただきたいんだ。


 っていうかこの子今帰ったら絶対来ない。




 

 軽快に!とまではいかないがまたバギーは俺を含む三人を乗せて走り出した。


 パイパスは暗いものの障害物がないので大変走りやすい、路面も悪くないし視界だってこのヘッドライトがでなんとか見える、それに加えてツチノコちゃんのピット器官もあるしスナネコちゃんだって猫なんだから夜目が効くはずだ。(適当)

 むしろこの三人乗りで厄介なのは無理してバギーが壊れないかという点だけだ、あと俺の運転技術。



 しばらくするとバイパスを抜けて湖が見えてきた、月明かりが水面に反射しているのがわかる。



「やったー!外だぁー!」


「結構キツいんだなこれ?長くは走れそうにない、どこかで休憩しないか?」


「おしりが痛いです…」


 二人も辛そうだ、そりゃ無理して二人乗れるかどうかの乗り物に三人で乗ってるんだ、俺も決して楽ではないし止めれる場所で休みたいところだ。でも、となると今夜は野宿になるかな?


「フム、湖畔か…」


 湖に近づくにつれてツチノコちゃんが意味ありげに呟いていた、湖になにかあるんだろうか?遊ぶには少し暗すぎる。


「なんかあるの?」


「家があるはずだ」


「家?」


「ビーバーとプレーリーの愛の巣ですねぇ?」


 愛の… 巣?なんだその少しヤバそうな家は。


 っていうか、家?フレンズが居を構えてるということか?


「あまり人の世話になるのは好かんが泊めてもらおう、幸いあいつらはフレンズの中でもまだクセが弱い方だ」


「クセがあるって例えば?」


「ツチノコのことですね」


「ほっとけ!」


 今思い出したが、そうだビーバーとプレーリー… アメリカビーバーとオグロプレーリードッグのコンビのことか?じゃんぐるちほーに橋を作ったというあの!あと滑り台!


 そうかなるほど、湖畔に家を建てて二人で住んでるのか、なんか家作って住むってここにきて初めてのパターンで新鮮、どこかの施設に住み着いてたりその辺フラフラしてる子は見たけど。

 博士たちだってそうだ、図書館を根城にしてる、ツチノコちゃんだって遺跡をフラフラしてるみたいだし姉さんやヘラジカさんもそうだった。


 やがて湖に近付くと確かに家が見えた、結構高さがあって少し離れた陸に建っている。


 立派な家だ、屋根があって壁があって。

 

「入り口は?」


「ここからトンネルに入って地下からあそこまで行けるらしい」


「ボクはプレーリーとは穴堀友達です」


 変な意味ではなく言葉通りの意味だろう、今更だがスナネコちゃんとプレーリードッグは穴堀が得意なのか?あ、つまりビーバーは水辺に住んでてプレーリードッグは穴の中に住むからこういう風になってるのかな?こういうときのラッキービーストだろというのは言わないでおこう。


「早速お邪魔しましょう」


「そんないきなりいいの?」


「ノックでもしてみるか?」


 という提案に乗りドアをノック、ただし明らかに距離のあるここのトンネル越しにノックが届くかは定かではない。


「こんばんわー?」コンコンコン 


「スナネコで~す」コンコンコン


「ツ、ツチノコもいるぞ~!」コンコンコン



 しーんとしてる。


 夜だしそもそも寝てるのかもしれない。

 だとしたら俺たちは死ぬほど迷惑な客だ、もし出てきてくれるなら開講大一番に謝ろうじゃないか。


 その時だ。


 水飛沫だ、バシャンと音をたてて何か影が水に飛び込むのが見えたのだ、暗いのでハッキリとは見えていない。


「ん?誰か来るな」


 だが、当然のようにツチノコちゃんには見えているようだ、便利器官だね


「どちら様ッスかー?」


 と言っておとなしそうな声の子が水から上がってきた、水から来たということは彼女がビーバーちゃんだろう。


「スナネコです」


「ふぇ?こんなとこまで珍しいッスね?おひさしぶりッス!あ、ツチノコさんも」


「まぁ、しばらくだな」


「それからぁ…」


 何なら穏やかそうな話し方で水に濡れた色っぽい子が現れた、彼女の体は月明かりに照らされて少々目のやりばに困る感じになっている。


 がきちんと挨拶はしておかないと。


「あ、初めまして俺はシロ、ビーバーちゃん… でいいのかな?」


「あ、どうも御丁寧に!そうッス、オレっちはアメリカビーバーッス!よろしくッスシロさん!」


 声や話し方からもわかる通り穏やかな感じのこの子がビーバーちゃん、物腰も柔らかく人当たりも良さそうだ、笑顔も可愛らしい。


 何て言うか、多分こういう子が一番モテる気がする。


 ただ、おとなしいけど服装はなかなか攻めている… 前全開で黒いビキニ?が見えてる、見せてる?性格とのギャップにドキドキしてしまう、加えて滴る水が月明かりに反射してまるで雑誌のグラビアの現実のやつを目の前に叩きつけられたような気分だ。


「シロは今イヤらしいことを考えてますねぇ?」


「な!?そんなことないよ!」


「のわりには必死だなぁ?」


「ツチノコちゃんも!睨まないでよ!違うから!」

 

 ちょっと図星なのが悔しい。



 それから、彼女は用件を話すとあっさり家の中に入れてくれた、窓からの夜風が気持ちいい。

 家の中で待っていたオグロプレーリードッグともここで初顔合わせだ。


「スナネコさんにツチノコさん!お久し振りであります!」


「最近掘ってますかぁ?」


「すでに素敵な家があるので!掘る必要はないでありますよ!」


 軍人みたいな話し方だな… 実際こんな話し方をする軍人がいるかは定かではないが。

 

「ところでそちらのかたは?」


「初めましてシロです、種族はヒト」


「ヒトでありますか!?そういえば!かばんさんと同じで耳も尻尾もないであります!」


 でた、かばんさんだ!かばんさんの名前はやはりパーク全域に広まっているということか、きっと今頃違うエリアでもその名を轟かせていることだろう。


「シロさんがいるってことは、ヒトは絶滅してなかったってことッスね?かばんさんは一人じゃないってことッス!よかったッス!… でも帰ってこれるか心配ッスねぇ… オレっち達が改造したバス、なんともないッスかねぇ?」


「大丈夫であります!我々コンビの仕事は完璧であります!心配無用であります!」


「そうッスね!プレーリーさんがいれば安心ッス!」


 なんか始まったな… なるほど愛の巣か、どうやら二人はすっごーい仲良しのようだ。


 二人の世界に入るのはいいが俺たちは置いてきぼりだ、いや… スナネコちゃんは飽きてるね、なんかボーッとし始めた。


「さて!初めましてなので!プレーリー式のご挨拶を!」

 

 プレーリー式の挨拶?


 プレーリーちゃんはそういうとガシッと俺の顔を掴んで目線を合わせた、楽しそうだ。


 しかし花の16才の俺にとって女の子の顔がこんなに至近距離というのは緊急事態である、こんなことこれまであっただろうか?いやない!


「ふぇ!?あの!?これなn」


 その時、ぐっとプレーリーちゃんの顔が近づいた… 結果論だが、これはキスだ。

 俺はプレーリー式の挨拶とやらでファーストキスが奪われることになったのだ!あぁその柔らかな感触が俺の唇に…


 と思ったが。


「むごご!?」


「誰彼構わずその挨拶をしちゃダメッスよぉ!」


 眼前にあるのはビーバーちゃんの手だ、どうやらご挨拶は阻止されたらしい。


 よかった… のか?なんだか安心したが残念な気も…。


「残念そうですねぇシロ?顔が真っ赤ですよぉ?」


「そそんなこと!?」


「では代わりにツチノコとしてみてはどうですかぁ?」


「「ヘェアッ!?」」


 スナネコちゃんはなかなかとんでもないことをズバズバとおっしゃる、俺たちは揃えて驚きの声をあげた。

 ついお互いの顔を見合わせてしまい、恥ずかしさからすぐに逸らしてしまう。


「なにいってんだぁ!?お前ぇ!?」


「嫌なのですかぁ?」


「い、嫌かどうかの問題じゃ…!?」


「ではボクがシロとすることにするです」


「や!ちょっ!待って待ってなんで!?」


 なんだかとんでもないことになってきたんだが… スナネコちゃんは危険だ、やめとこうという空気を打ち破りサクッとすごいことを言い出す。


「そんな簡単に人に唇を許すのは何て言うか…!」


「そうですかぁ… ではツチノコとしてみるです」


「えぁぁぁぁああ!?!?ンムグ!?ンー!?ンー!?」


 や、やった!?


 スナネコちゃんはそれを平然とやってのけた、なんの準備も無しに唇を奪われたツチノコちゃんは手をバタバタとしていたが次第に受け入れるように抵抗をやめた。


「ハァ…///」


 済むと頬はほんのり赤く目はどこかうつろだった… いったいどこまでやったんだスナネコちゃん?結構長かったけどまさか舌を…。


「ひゃ~刺激的ッスねぇ…」


「おぉ!すごいであります!我々も負けられないでありまーすッ!!」


「プレーリーさんちょっとまっ!ンムー!?」


 も、もうやだここ…。


「満足…」


 スナネコちゃんは“挨拶”を終えるとウトウトと眠ってしまった

 ツチノコちゃんはそのまま気を失ったらしくいつのまにか床に丸くなっていた。


 ビーバーちゃんとプレーリーちゃんは散々イチャイチャしてから俺を交えて少し世間話をして、夜も更けたころに眠りに落ちた。





 ちなみに俺はまったく眠れなかった。





 翌朝。


「この小さなバスみたいなものできたんスね?」


「三人も乗れるようには見えないであります!」


「いや~うん、キツかったよ正直」


 泊めてもらったご恩といっていっては難だが二人には是非パーティーに参加してほしいと伝えておいた。

 話のついでにバギーを見せたんだが、やはり客観的に見ても三人乗りはキツいようだ、実際キツかったし。


「なんかもうひとつ乗る場所があればいいんだけどね?こう引っ張る感じで?荷車みたいな…」


「んー?というと… 車輪が付いて… こんな感じッスかね?」


「えっ!?」


 スッと出してきた小型荷車みたいなものにギョッとした… え?これ今作ったの?え?いつ作ったの?


「でこれを… なんとかバギーのここにくっ付ければいいんスね?こうしたらどうッスか?」


 そんなことを呟きながら今度は改良版を出してきた。


「すげぇー!?これいいね!作れるの!?」


「どうッスか?プレーリーさん?」


「こうでありますな!」


 バンッ!と今度は本当の完成品が目の前に出現した。


「な、なにぃーッ!?」


 いやいやいや!なにこれいくらなんでも速すぎるでしょ!?

 いや!この際それはいいか!くっつけてみよう!


 用意された荷車はぴったりでツチノコちゃん達が乗るには十分の大きさと耐久性だった。そしてそれをバギーで引き回す形にして、なんと俺達は図らずもここで快適なカーライフを手に入れたのだ。(車じゃないけど)


「おぉ~いいですね~これ?」


「これで図書館までのんびりできそうだな」


 そうだね、俺は運転だけどね…。


 俺たちは二人の優秀な技術者にお礼をいうと図書館への道を急いだ。


 この分だと昼には着けそうだ。

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