第19話 あんぜんうんてん

 「ジャア モウ一度ヤッテミテ」


 現在、ラッキーに指導を受けてバギーの練習をしております。

 急発進とエンストでドッタンバッタンしてた俺は試すこと十数回でなんとか発進することがに成功したのだった。


「できたー!」


「ヤッタネ ソノ調子」


 俺はやり遂げたんだ、もう誰も止められないぜ!


 しばらくゲートの側を走り回り感覚に慣れることにした… という理由で初めてのエンジン付の乗り物に歓喜して遊んでいた。


「たーのしー!」


「止マルトキモ 注意シテネ」





 と、そんなことをしていた為に、まだまだ明るかった空が完全に夕焼けになってきてしまった。

 それは困る、帰りを急いでいるのだから。

 今日のうちにそこそこ進んでおきたいところだ。


 乗り回すことにまだまだ不安を残こしつつ、俺は意を決してじゃんぐるちほーのゲートをくぐった。しかしまぁ、初めての走行がオフロードだなんて洒落にもならないのではないだろうか?

 そしてジャングルは木が多いので暗い、まだ日は沈みきっていないのにまるで夜のようではないか。ヘッドライトだけが頼りだがこのままフレンズを引き飛ばすなんてことがないように注意しよう。←人それをフラグと言う


 注意深くスピードも必要以上に出さずにジャングル内を走る、この状況ではあまり飛ばすこともできないので目があったフレンズには適当に挨拶や会釈でその場を通過している、ご覧の通り注目の的だ。


 「え!?」とあからさまに驚いている子もいればただぽけ~っと眺めるだけの子もいる、理解が追い付かないのかもしれない、まぁそうだろう… 俺もこの状態をあまり理解できてないのだし。

 足の早い子がたまに目を輝かせてはついてくるが、途中で別の物に興味が移ったのか気がつくと消えている… 否、単に疲れたのかつまづいて転んだのかもしれない、だとしたらごめん。


「暗いのにみんな元気だね?」


「夜行性ノフレンズガ 活発ニナッテキテルンダヨ」


 なるほどむしろこれから活動する子がいるのか、そりゃあ元々夜に動くのが普通だった動物の子がいればその子がフレンズになったところでそれは変わらないだろうな。





 結論を言うと無事に川のとこまで抜けることができた。

 

 のだけどぉ?実は道中「オカピだぞぉ!」といって飛び出してきたフレンズを一人引き飛ばし罪悪感に押し潰されて自害したくなった。

 ところが安否を確認すると普通にムクッと起き上がり「ビックリしたぁー!」で済んだ。「えー!?ホントに大丈夫!?」って思ってたのだけどラッキーが言うには「個体差ガアルケド フレンズハ サンドスターノ影響デ 頑丈ナンダ」とのことだ、おかげで気が楽になった。

 言われてみればフレンズ化したときの俺も向こうでは恐ろしく頑丈だったし、そもそもあんな身体能力に耐えうる体なのだから頑丈なのは当然なんだろう。

 それに確かなんかの動物に突っ込んで逆に車がおしゃかになったなんて話しがあった気がする、もともとそんなに強い動物がいるならフレンズが頑丈なのもわからなくもない。


 それから無事に川に出た。


 あんいん橋だ… あ、かばぁんいん橋だったかな?言いにくいからあんいん橋でいいか、なんか言ってるこっちが恥ずかしくなる。


 ジャングルを抜けた頃にはもう完全に夕方で太陽が川に沈んでいくのが見えた。

 金色の夕焼けが広大な川に沈んでいく様はとても美しい、こんな景色がみれるのはきっとここだけだろう。


 っと、見とれてる暇はないな、先を急がないと。


 大きな橋と滑り台、夜が近いせいかカワウソちゃんはいない… ジャガーちゃんも見当たらないので、もう眠る時間なのか出掛けているのかもしれない。


 そんなことを思いながら橋を渡りきるとやがてさばくちほーへ、同時にとうとう夜になった… 夜の砂漠は冷える、正直走破する自信はない。


「この辺で打ち止めかな?日進月歩と言いたいところだけど」


「砂漠ノ地下ニ バイパスガアルヨ」


「バイパス?」


 しかも地下?地下に道があるってのか?


「砂漠ハ過酷ダカラ 道ガ用意サレテルンダ」


 要は俺みたいな人の為に地下道があるらしい、ただここを使うと湖畔にでるので図書館にまっすぐ行きたいならやや遠回りになるそうだ。

 まぁいいじゃないか?そういえば湖なんて行ったことないし、誰かに会えるかな?


「じゃ、バイパスに降りるよ?」


「中ハ暗イカラ 気ヲ付ツケテネ」


 入ってみて気づいたけど、ここはひょっとするとツチノコちゃんの地下迷宮があるとこかな?と思ったら本当にそうだった。


 ツチノコちゃんか… 元気かな?


 久しぶりだし、あまり外にでないツチノコちゃんのことだからトキちゃんの宣伝が聞こえていない可能性が高い、というわけでここは俺が直接ご挨拶に向かおう、是非顔も見たいし。


「ツチノコちゃんびっくりするかな~?」ワクワク


 入り口に着くと俺はなにか面白い登場はできないかと思い、そのままバギーで内部に突入することを決めた。←迷惑

 入ってみると地下迷宮と言うくらいなので音がなんせ響く、楽しい。


 入っておいて今更なのだけど、ツチノコちゃん怒るかなぁ…?









 その頃、ツチノコは特に調べるところもなくなってきた迷宮をウロウロしていた、またジャパリコインでも落ちていないかと探しているのだ。

 

 もちろんそれだけではない、どこに何がありどう進めばよいのか?そういうのを把握するためでもある、いざと言う時道を把握していればすぐに逃げることができる。

 もっともすでにこの地下迷宮のことなら彼女の右に出る者はいないだろう。


「とっとっとっ… と?別の出口がないかと探し回っては見たが、直接外に出れるのはやはりあそこだけか?あとはバイパスに出たりたいして何もない部屋だったりするだけだ… ここも大体調べ尽くしたもんだな」


 ツチノコはかばんと初めて会った時のことを思い出していた。

 ここの出口は他でもない彼女が見付けたのだ、かばんは非常口のマークを理解し隠し扉を見付け、そのままゴール地点に出るための道を切り開いた。

 故にツチノコもその時のマーク、非常口のマークを気にするようにしていた、あれからいくつか発見があったのでこれもまた成果だ。


 だが数分後、彼女はその平穏を乱されることとなる! 

 

 ブロロロ… と遠くから独特の音が聞こえてくる、何か大きな音だ。


「な、なんだ?セルリアン?… ってあぁぁぁぁ!?」

  

 次の瞬間、ブロロロと奇っ怪な音をだし彼女を追う光が現れたのだ!彼女はこれまでにないほど必死に走る!とにかく走る!


「ヴぉぉぉアアアアァ!?!?!?なんなんだぁイツはぁぁぁぁぁあ!?!?」


 新型セルリアン?警備システム?宇宙人?彼女は逃げながらも思考を巡らせて答えを導き出そうと必死だった。

 がそのうちにその場に転んで動きを止めてしまうこととなった。


「く!これまでか!」


 そう思い目をギュッと閉じた時である。


 彼女を追ってきた光りは動きを止めると目映いばかりのその光も消していた、その時にはもうブロロという妙な音も無い。


 その後そこから駆け寄ってくる人物、それを見た彼女は驚愕した。



「ごめんね!?転んだの!?痛くない!?」


「お、おまえ…!」


 シロである。


「何やってんだぁ!!!おまえぇッ!?」


 怒鳴られてしまったが、当然である。




  



 説教タイムだ。


 「まったくおまえはいきなり来て!」


 クドクド…


「ここは貴重な遺跡だと話しただろうが!」


 クドクド…


 そうですね、これに関しては大変申し訳ありませんでした。

 

 俺は素直にその場に正座でお説教を受けていた。

 みんなも乗り物で人を追い回すのはやめような?


「ごめんね?久しぶりだからなんか楽しい登場はできないかと思って…」


「時と場所を弁えろよ!チッ!まぁいい!その… なんだ?久しぶりだな?元気だったか?」


 目を逸らし頭を掻いている、彼女は照れ臭そうにバカな俺を労ってくれた。


 まったく、相変わらず優しいなツチノコちゃんは。そんな彼女の優しさに甘え俺はどこか安心した気持ちで質問に答えた。


「ご覧の通りだよ、ツチノコちゃんも元気そうだね?」


「ま、まぁな… おまえのおかげでセルリアンも大分減ったし…」


 あぁあの時の?あんな暴力的な力に感謝を貰えるとは、逆にお役にたてて何よりというものだ。


「ところで、コイツはなんだ?バス…にしては小さいな?でも乗り物だろ?」


「そうそう、これを見せたかったんだよ!ツチノコちゃんビックリするだろうと思ってさ!」


 彼女は所謂“考古学者”のようなことをしている、知的好奇心が強くなんでもかんでも知りたがる… 言い得て妙だか実に人間らしい子だ。

 過去の遺物、遺跡、痕跡を調べることでそこがなんなのか?それはなんなのか?何のためにあるのか?それを突き止めることに喜びを感じ、それが彼女のライフワークだ。


 そしてそんな彼女だからこそこのバギーには興味を示す、だから突入したのだ。


 夢中になると実に楽しそうに話してくれて、そんな彼女は見ているとこっちも楽しい気分になった。


 ところでバギーはどうだろう?気に入ってくれるといいんだけど。


「教えようか?」


「いや!待て!まず自分なりに解釈してみたい!」


 そういうと目をキラキラさせながらバギーを舐め回すように調べ始めた。


「形… デザインはジャパリバスによく似てるな?光で前を照らして四つのタイヤで走る、これもバスと似てるな?つまり乗り物であることは明白… だがなぜだ?屋根もないし座るとこはひとつしかない、人を運ぶのが目的ではないのか?いやでもお前は乗ってきたよな?ムムム… ダメだ、これ以上は思いつかないな」


 ギブアップのようだ、それでは答えいってみよう。

 でも俺口下手だからカモォン!ラッキー!

 

「じゃあ正解の方をラッキーさんお願いしま… ってあれ?いないし!」


「なにやってんだ?早く教えろよ」


「あ、うん…」


 いけね、外に置いてきてしまったのか?まったく仕方ないな… 俺はラッキーから聞いたことをそのまま彼女に伝えた。


「なにパークガイドの?」


「そう、例えば俺がじゃんぐるちほーで迷子になったとするよ?するとガイドさんは捜索にでなくてはならない、怪我をしていたら手当ても必用だしね?」


「なるほど、それで緊急用なのか… だがそれならバスでいいんじゃないか?たくさん乗れるし座ると脚も伸ばせる、ぶっちゃけバスが楽だろ?」


 尤もな意見だ、沢山乗れて沢山運べたらそれはそれは楽だろう、しかし。


「と思うでしょ?でもバスは大きすぎるんだよ、木の多い繁るジャングルや岩の多い高山、迷子になりそうなとこではバスは走破性が悪い、つまり…」


「そうか!小さく小回りが利けば入れる場所も多い!」


「そういうこと!」


「おぉ~ほほぉう!すごい発見だぁ~!?」


 うん、嬉しそうでなによりというものだ。

 それはそうと、本題を伝えないとね?ここにはノリで来たけどせっかく来たんだから是非彼女には来てもらおう、俺には君が必要だ。


 俺は今回のことをツチノコちゃんに伝えて是非食べに来てくれと伝えた… のだけど。

 どーも人の多いところは苦手なようで何やら渋っている感じだ、それならスナネコちゃんと来ればいいと提案してみる… がそれでも彼女は「アイツは飽きっぽいから行く途中に満足して帰っちまうよ」と言う。


 参った。


「そっかー…」


「な、なんだよ?そんなに残念がるほどのことか?」


「だってさ~?一緒に旅もしたさ~?俺のことよく知ってるのって博士たちとツチノコちゃんくらいだし?よく知ってる友達がいたら俺もあんまり緊張しないしさ~… はぁ…そっかぁ来ないのかぁ…」


「くっ…!」


 あからさまに残念な… というか普通に結構大分残念だ、来てくれると大変心強いし料理も張り切っちゃうよ?


 来てくんないかなー?


「おまえ、例のアレまだ隠してるのか?」


「一応ね?でも何人かは知ってるよ、博士たちとへいげんちほーのライオン姉さん…」


「そうか…(姉さん?)」


「でも博士たちに言われたんだよ、無理に隠すことないんじゃないか?ってさ」


 そう、俺は決めていた。


 今回のパーティーでどれくらい来るかはわからないが、博士たちも言うように何人も来ることが予想される。

 助けてもらったり仲良くなったフレンズさんたちは来てくれるだろう。(と嬉しい)

 

 ここの生活にも慣れてきたし、もっとここに溶け込んでいきたい、ちゃんと仲間になりたいんだ。

 だからその時にみんなに話そうと思う、俺は“ヒト”だけど、半分は“ホワイトライオンのフレンズ”だよと… もう決めたことだ。


 皆はそんな俺を皆気味悪がって避けられるかもしれないし、自分達と違うと気付くと敵視されるかもしれない、俺が心の奥で抱えてる不安それは…。


 “けものはいてものけものはいない”


 という言葉、これは飽くまでフレンズの中だけのことではないか?ということ。


 俺は部外者でありフレンズではない、ヒトでもない。


 どちらでもあるがどちらでもないのだ。


 でも博士たちの言う通り除け者を作らないからフレンズだというのも信じたい。


 どっちでもない俺はここに暮らしていくに値するのか?それを確かめたいんだ。


「今回のパーティーにはそういう目的もあるんだ、だから全部知ってても友達でいてくれるツチノコちゃんには是非来てほしかったんだけど… ま、無理にとは言わないよ?フレンズによって得意不得意があるでしょ?」


「…ったく!わかったよ!行こう!いや行かせてくれ!」


 彼女は目を逸らしながら俺に言った、来てくれると言ったんだ。


「いいの?」


「それだけの覚悟を見せられたら断れるわけないだろ!放っておけるか!… それにおまえには何度も助けられた、だからオレも力になりたいんだよ?その、友達として…」


 最後の方をボソボソと言った彼女の顔は照れて真っ赤になっていた、人見知りの彼女だけど慣れてくると熱い心が見えてくる、やはり人一倍優しいのだ。


「ツチノコちゃん…」


 ホロリと涙が… なんだかここに来てから感受性が豊かになった気がする。


「な、なに泣いてんだよ!?鬱陶しいからやめろ!」


「ごめん、だってツチノコちゃん優しいから…」


「だぁーもう!めんどくさいヤツだなおまえは!」


 とこうしてツチノコちゃんのパーティーへの参加が決まった。


 なんだか父親のいない結婚式で花嫁の父として参加してくれっていうストーリーみたいな… というのは分かりにくいだろうか?まぁいい、とにかく今回の件は俺にとって涙無しでは語れないストーリーとなった。


「それで、日程は?」


「うん、三日後」


「なに?準備があるだろ?間に合うのか?」


「なんとかなるよ、多分ね」


 帰ったら即開始パターンだ、果たして俺は間に合うことができるのか?カッコつけてみたが改めて考えると不安でならない。


「まったくおまえはヒトのクセに計画性のない… わかった!今から帰るんだろ?オレも連れていけ!」


「へ?でも…」


「それ!乗れるんだろ?一緒に行くぞ!手伝えば少しは楽だろ!」


 彼女は本当に優しい、口調は強いが世話焼きな優しさがある、ライオンさんとは別だがまるでお姉ちゃんでもいるみたいな温もりを感じる、たまた泣きそう。

 でも男がいつまでもピーピー泣くわけにいかない、この好意はしっかりと受けとることにして先を急ぐ。


「わかった!じゃあ後ろに…」 


 バギーに乗り後ろに向かい親指を立てたその瞬間のことだった。


「ツチノコ~?遊びに来ましたよ~?あぁあなたは確か…」


 ここで登場スナネコちゃん。

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