第16話 同族
今日、ライオンさんの城へ行きます…。
いつ行こうかいつ行こうかと悩んでいたらある日使いの者としてアラビアオリックスさんが図書館へやって来て言いました。
「大将が会いたがってる、明日の朝来るように」
とまぁご丁寧にアポをとられてしまった、もう誤魔化せんぞ。
それから博士たちにも言われたんだ。
「遅かれ早かれ行くことになるのです」
「恐れる必要はないですよ」
…とこのように激励の言葉を頂いたので意を決して向かうことにしたのであった。
でも不安だなぁ… 何の用かなぁ?このパークにライオンは二人もいらねぇみたいにライバル視されてたり?その時は僕人間なんでって言い張ろう。
…
「じゃあヒグマさん、あとは火で温めたらすぐ食べれるから?博士たちがごねたらだしてあげて?」
「わかった、でも早めに頼むぞ?私にはハンターの仕事もあるからな」
「うん、ありがとう!いってきます!」
カレーの作りおきをヒグマさんに託してきた、これで留守も問題ないだろう。
ハンターである彼女にこんなことさせるのは少々忍びないが、残念ながらたまたま現れてしまったヒグマさんが悪いね。せっかくなのでしばらく捕まっていてもらおう、それにほら?そもそも料理番はあの人のハズだったんだし。
「さーてと… あれだなライオンさんの城は?」
へいげんちほーに着いて歩いているとすぐに例の城が見えてきた、平原なだけに建物があればすぐに分かる。
その城だが、見た目は城だけどよく見ると城っぽい遊具?みたいなものなんだな、言うなれば遊べる忍者屋敷って感じだ。
それならあの忍者の子、パンサーカメレオンちゃんだったかな?彼女はむしろこっちの陣営で忍者やるべきではないだろうか?城だし… よくわからないけどきっと彼女とヘラジカさんの間には聞くも涙語るも涙のエピソードがあるんだろう、じゃないとただの力自慢にあそこまで心酔しないと思う。
じゃ、お邪魔するか…。
「こんにちわー!図書館のシロでーす!」
一応一声掛けておく、勝手に入って不法侵入は勘弁だからね。
がここに一人門番が現れる。
「なんだ!何をしに来た!お前!」
と言って槍を突きつける彼女はオーロックスさんだ、なぜ臨戦態勢に入るんですか?あなた方が呼んだんでしょうに…。
でも事情を話すとハッとして状況を把握したようだ、話せばわかる系の人で安心した。腹筋バキバキだけど。
「すまなかった、たいしょーが呼んだんだったな…」
「いえいえ、お気遣いなく」
「こい、部屋まで案内しよう」
案内されて中へ、内装は遊具と言えど外観と同じジャパニーズ城を意識した作りになっており襖の扉がいくつか並んでいる。
隙間から畳も見える、職人の拘りが感じられる。
「たいしょー!客人です!」
「入れ…」
お、この声はリーダーモードだ…!低めの声が扉の向こうから聞こえる。
襖を開くと勇ましいオーラを出すライオンさんがどっしりと座り込んでいた、緊張する、これはまさに百獣の王の貫禄と言えるだろう。
「お招き頂き、どうも…」
「うむ… オーロックス、お前は下がっていい」
「はい、失礼します」
オーロックスさんが退室し、スッ…と襖が締まる、今部屋にいるのは俺とライオンさんだけだ。
「それで、俺に何か?」
その時先に声を発したのは俺だった、落ち着いたフリをして見せているが手汗びっちょりだ、一体何を言われるのか?
俺が尋ねるとライオンさんは手のひらをこちらに向けて“待った”と言うようなポーズをとった、すると…。
「ふぁ~… やっぱり疲れるねぇこういうのはさぁ~?」
あれ?
初めて会った時に聞いた高めの声だ、というか恐らくこれが素の声だろう… べつに無理に隠す必要ないのではないだろうか?もうみんな知っていることだろうし… ん?隠すとか隠さないってこれは俺も似たようなものかな?
「ごめんね~?そんな深刻な話じゃないから君も楽にしなよ?」
「じゃ、お言葉に甘えて…」
俺は足を崩しあぐらになった、一方彼女はゴロンとうつ伏せになっている… あぁほらそんな短いスカートでそんな格好になったら見え… 見え… ってそんなことは置いといてさ!煩悩退散!
「それで?」
「なにぃ?」
「いや、わざわざ呼んだんだからなにか話したいんでしょ?」
「あぁ、そうそう… 君って私と前に会ったことない?なーんかそんな気がするんだよね~?いつだったかなぁ…?」
ライオンさんが柱に爪をガリガリとしながらそんなことを言った。
当然会ったことなんてない… いやそもそもここに来たのは最近のことだ、無論こちらのライオンさんは愚かフレンズ自体に会ったことは無いと言える… 母は除くが。
「来たのは最近だよ、もちろん初対面」
「そう、そーなんだけどー?なんかこう… 君には無い?この感じ?」
と言われてもなぁ… どんな感じなのそれ?だが十中八九母の遺伝子に反応しているのはわかる。
あるのか?こんなことが?それとも、ひょっとするとこのライオンさんは母の知り合いなんじゃ?
いや待てよ?、だとしたらこの人何年生きてるんだ?って話になるしなぁ。
「俺にはそれは無いよ」
「そっかぁ…」
「でも理由は分かる」
「本当に?教えて!教えて!」
嬉しそうに目を輝かせている、あの威圧感は何処へ?こうして見ると百獣の王と言えど愛嬌たっぷりのお姉さんなのだけど。
と、まぁそれよりもだ。
「直接見てもらったら早いかな… でも一応注意してほしいんだ」
俺はこの場で野生解放することを決めた、見せるのはこの際構わない、何か母の話を聞けるかもしれない。
ただあの姿になるとどうも獣っぽさが増して力加減も出来ないし思考も本能的になってしまう傾向がある、だから俺は暴れたら無理矢理でも取り押さえてほしいということを伝え、その場に立ち上がりひとつ深呼吸をして集中した。
やがてこの姿は彼女と同じ獅子の特徴を表に出し始める…。
「ほう、これは…?」
低めの声を出した彼女。
俺は野生解放をしてフレンズの姿になった、耳と尻尾、爪に牙、髪も目の前のライオンさんのようにボンとボリュームが出た、しかしこの姿でちゃんと会話が成り立つかな?
「グルル…!ふぅ… よし!見ての通り同族だよ?」
「その姿、ホワイトライオンか?ヒトじゃあなかったのか?」
「ヒトさ、半分はフレンズ」
ウゥ… グゥ!ダメだ、気が立ってるなぁ!外に出て走り回りたい!
疼く本能を抑え込み俺はその場に膝を着いた。
「あぁクソッ!もうダメだ!」
そのまま野生解放をやめてもとの姿に戻った、これ以上は危険だろう、きっと発情期のオスみたいに暴れたり襲いかかったりしてしまう。
「あれ?やめちゃうの?」
「え?はぁ… ふぅ… うん、あの姿は落ち着かなくて…」
「そっかそっかぁ!いや~でもよかった!これでスッキリしたよ!ずっとモヤモヤしててさぁ~?そっかホワイトライオンだったのかぁ?」
…
一息つくと俺はライオンさんに事の経緯を話した、かつてここに住んでいた人間とフレンズの間に生まれた、それが俺であると。
「なるほどフレンズの子供かぁ」
「そう、母さんはホワイトライオンだから通じるものがあったのかもね?」
「いや、やっぱり会ったことあるんだよ」
「え… どういうこと?」
彼女はニヤリと笑うと昔話をしてくれた… ずっと昔の俺が生まれる前の話だ。
なんでも彼女がまだ生まれて間もない子ライオンの頃の事、この時に言う生まれてってのはライオンとしてだ、フレンズ化前の普通のライオン。
でも母はすでにフレンズ、それでライオンさんと母は一緒に食っちゃ寝を繰り返しては遊んでもらったりもした…。
“気がする”らしい。
恐らく彼女には獣だった頃の記憶がうっすらとだが残っていて、俺を見てるとそのモヤのかかった記憶が気になるようになった… のかもしれない。
「母さんを知ってるの?」
「知ってる… ような気がする、でも君を見てると思い出すよ?あのフレンズは確かに私の近くいたんだ!」
俺は会ったことはない、会ったことがあるのは母のほうか!しかしこんなとこで母の知り合いに会えるとは!
話を聞いているとなんだか急に母が懐かしくなり涙がでてきた… みっともないな人前で泣くなんて情けない。
「あれれ!?どうしたの!?どこか痛むのかい!?」
「いや、違うよ… うん、平気… そうだなぁ、早起きしたからかな?」
「そう?私が悪かったらごめんね~?」
「大丈夫… ありがとう、母さんのこと少しでも聞けてよかった…」
…
俺が落ち着いて城を出る頃、ライオンさんは俺が心配だったらしく外まで送ってくれた。
何も聞かされていなかったのか、俺達がことのほか仲のいい感じで並んで外に出たのでオーロックスさんもオリックスさんもツキノワグマさんもビックリしていたのがわかった。
いや、仲が良いと言っても深い意味はないがそう思われていたのかもしれない。
「今度またヘラジカとスポーツ大会をするからシロもおいでよ!向こうと比べたらこっちは人数少ないしねぇ~?ライオン同士協力しようじゃないか!」
「OK!お呼びとあらば力になるよ!そっちもよかったら今度図書館に来て?皆さんにご馳走するよ?ついでにヘラジカさんたちも呼んじゃえ!」
「おぉ!いいねぇ~!いつかの時みたいなパーティーがあると楽しいからね~?」
なるほどパーティーか… そうだ、大量に料理を作ってみんなに食べてもらうなんてどうだろうか?大変そうだが受け入れてもらうのに丁度良さそうだ、帰ったら博士たちに話してみよう。
「じゃあ、今日はありがとうライオンさん?皆さんもお邪魔しました」
「いいのいいの暇だったから!もう知らない仲じゃないんだし“お姉ちゃん”って呼んでもいいんだよ?」
「やっ… それはちょっと恥ずかしいというか…」
お、お姉ちゃんか… なんかくすぐったいな… 兄弟なんていなかったものだから。
「呼んでみなよぉ~?ライオン仲間だしさぁ~?ほらほらぁ!」
グイグイくるライオンさんを前につい目を逸らしてしまう俺、どうやら呼ぶまで帰してもらえなさそうだ。
「お、おねぇ…!いやごめん!じゃあほら… “姉さん”でどう?」
「ん~… ま、許してあげよう!」
ふぅ… いやお姉ちゃんはちょっとね?まぁとりあえずこんな感じでライオン姉さんとは種族がら仲良しになった、部下を抱えるだけあって包容力とかがあるのかな?まさに姉御肌というやつだ、向こうも快く俺を弟扱いしてくれるようだし。
博士達の言う通りだった、心配するほどの事ではなかったようで安心している。
…
とまぁこんな感じで図書館に帰ってきた、ヒグマさんは大丈夫かな?
「ただいまヒグマさん、どうだった?」
「参った、もう鍋が空だ…」
「あらら… 二人とも食べ過ぎで太らなきゃいいけど、少し時間があれば簡単に何か用意できるけど、良かったら食べてく?」
「あぁ、せっかくだから頼む、実はカレーは二人に食い尽くされて食べ損ねていたんだ」
苦労人だなヒグマさんも… このあと博士と助手が現れて結局俺を含めた4人分の料理を作ることとなった。ヒグマさんはハンターだからな、たくさん食べて頑張ってもらおう…。
なのでお世話になった分ヒグマさんには多目に出す俺だった。
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