第15話 群れのリーダー

 そこに現れたのはやけに好戦的な人だった、彼女はヘラジカ。

 ヘラジカのフレンズと名乗る彼女は俺の前に立ちはだかると腕を組み、「いざ!勝負だ!」と言い放つ、誰なんだろうこの人は?なにか失礼でもあっただろうか?


 とりあえず話をしてみないと。


「どーも、俺はシロって呼ばれてるよ?ヒトです… ヘラジカ… さん?なにか失礼でもあったかな?心当たりはないけどもし何かしてしまったなら謝るよ」


「なるほど… シロ、お前オスだな?どーりで血が騒ぐわけだ!さぁ戦おう!」


 あれ?なんか話が通じてないぞ?なにがなるほどだ。

 こちらのヘラジカさんの言い分だと特になにかされたわけではないけどオスだから戦おうみたいなことかな?それはさすがに横暴というものだ、無益な争いは人間が散々やって来たもっとも愚かな行為。

 それを人の姿を取ったからといって獣… いやフレンズがそれをやる必要はない。


「シロ、このたんさいぼーには論理的に話を進めるのは無理なのです」


「ヘラジカ、我々はこれから帰るのです、邪魔するなです」


 さらっとひどいこと言うよね博士たちって?でも本当は結構優しい、今だって俺を守ってくれてるじゃないか?ちょっと合理的なだけで情に熱い。

 

「博士たちは帰ってもいい、私が戦いたいのはこのシロだからな!」


「やはり言うだけ無駄ですかまったく、やれやれです」

「やれやれなのです」


 諦めんなよお前!

 長の権限を使ってもダメだと言うのか?長とはなんだったのか?こうなったらお供の君に頼むとしよう、さぁラッキー?お客様が困ってるよ?助けてたもれ?


「えー… ラッキー助けてよ、お客様の危機だよ?」


「ヘラジカハ 鹿ノ種類デハ一番大キイト言ワレテイテ 大キナヘラ状ノ角ハ オスダケノ特徴ダヨ 性格ハ優シク温厚ダケド 発情期ニナルト カナリ気性ガ荒クナルヨ」


 うん、それは聞いてないね今は。


 何が言いたいんだラッキー?それはつまりあのヘラジカさんは発情期という理由で俺を捻り潰そうとしている言いたいのかな?大分乱暴な理由だよそれは?それは困るよ。


「人ニ馴レレバ 信頼シテクレルヨ」


「何それ?拳で語り合えってこと?」


「ケンカハ ダメダヨ」


 この… こいつ…


「シロ、お前もヒトなら平和的解決方を考えてみるですよ?」

「ヒトとしての力を見せるのです」


「簡単に言うなぁ…」


 わかったよまったく、平和的ね…。


 じゃあ… 力の勝負ならまず確実にヘラジカさんの圧勝だろう、無論野生解放は無しでの話だ。怪我をしては話にならない、もっともそのための平和的解決だけど。

 仕方ないな、少し卑怯だけど簡単なゲームをするか。


「OKわかった、ちょっとした数遊びで勝負だ」


「数遊びだと?力比べではダメなのか!」


「森の王ヘラジカよ、あなたは群れのリーダーなんだろ?なんでも腕力で解決してはいけないよ」


「その通りだ!その勝負受けてたつ!」


 わぁちょろい… そう思ったのは俺だけでなく、博士たちもチームヘラジカの皆さんもみんなそんな顔をしていた。


「じゃあルールを説明するよ?」


「うむ!」


 これから始めるのはなんのことはない本当にただの数遊びである。


 先攻後攻に別れて数字を言う、一度に言ってもいい数字は3つまでで、10に当たったほうが負け… っていう数さえ分かれば誰でもできる簡単なゲーム。

 ゲームというのも烏滸がましいかもしれない。


「じゃあ例として賢い長たちに試しにやってもらいましょう」


「いいでしょう」

「我々は賢いので」


 ではヘラジカさんでも分かるようにとノリのいい博士たちは向かい合い先攻後攻を決めるとゲームを始めた。


「では助手、先攻は譲ります」


「わかりました」


「準備OKだね?じゃあ始め!」


 助手から交互に数字を言い合う。


「1」


「2、3」


「4」


「5」


「6」


「7、8、9」


「参りました博士、さすがです」


 とまぁこんな感じである… 少し心配だったがヘラジカさんも理解してくれてるようだ、考えるまでもないけど博士は気付いてるようだね、たぶん助手も… このゲームに勝つにはどうするか?

 

 そして予想通り先攻を選んだヘラジカ氏、実は先攻後攻の段階で戦いは始まっているとも知らず…。


 とにかく決戦の火蓋は切って落とされた!


「1!2!3!」


「4、5」


「6!7!8!」


「9」


「10!… はっ!?」


 勝負あり!すぐに終了した


「はい、俺の勝ちね?よーしじゃあ帰ろうか?」


「さすがですねシロ?」

「さすがヒトなのです」


 俺はなにか言われる前に帰ろうとそそくさと荷物を背負ったのだが…。


「待て!あっさりしすぎだ!」


「勝負は決したのですよヘラジカ」

「お前の負けです」


「なにかこう…!釈然としない!ライオンの時のようなやりきった感じがしない!」


 だろうねぇ?だって10秒以内に終わったもんね?


 実はこれ、やってみるとわかるが後攻が有利である… 先攻でも勝てるが後攻の方が勝ちやすい、要は6より先を言ったら負け確になってしまう


 ヘラジカさんはどうやら力なら最強クラス、でもあれこれ考えるのが苦手な所謂脳筋というやつなのでこれ系は苦手なのだろう。

 そんなこと言ってる俺も正直得意な訳ではない、並の16歳の能力しかないだろうしなんなら数学嫌い。


 そうしてヘラジカさんがごねていた時だ、相手チームと思われる面々もこちらに到着したようだ。


「しまった!ヘラジカ達はもう目標と接触している!」


「ありゃ~負けちゃったか~…」


 もう一人の王が現れた、ヘラジカのライバルであるライオン… これは面倒なことになってきた、つまりこれってみんな俺に会いに来たわけ?

 

「おぉ?君が図書館の新入りかなぁ?なんだか面白いなぁ!」


 大将ライオン、ヘラジカさんよりはまだ話が通じる気がするのは不幸中の幸い。

 別にヘラジカさんを悪く言うつもりはないがなんでも直線的に勝負事に結びつけるのでこの場合はそう表現してしまうのは仕方ないことだと思ってる。


 それにしても“ライオン”か… どこか親近感が沸くのも事実だ。


「初めまして、みんなは俺をシロと呼ぶよ?種族は人」


「へぇ、本当にヒト?」


「え?」


 なんだこの人…?なんか急に目付きが!?


「嘘つくんじゃねぇぞ…?」


 その時鳥肌が立ち全身に寒気がした、にこにこと笑っていたはずの彼女は急に声色をかえ強めの口調を返してきたのだ。

 なぜ?どちらかと言えば能天気そうなイメージだったのに、なんだ!この威圧感!?


「う、嘘なんか…!」


 俺は思わず目が泳いだ、見る人が見ればこれは嘘の反応だとすぐに見抜くだろう、そして目の前の彼女は鼻からそれを見破っていたに違いない…。

 それがなんらかの情報漏洩により始めから知っていたことなのか、俺と直接会って話してからなのかはわからないがとにかくこの人は知っている、話していないはずの俺の秘密を!


「ライオン、シロをいじめるなです」

「なにが気に入らないのです?」


「じょ~うだんだよ~!本気にしたぁ~?ちょっとからかったんだよ、パークにヒトなんて珍しいからさ?」


 と言っている彼女の目は今も俺のことを疑ってる気がする… ライオンだもんな、なにか通じるものがあるのかもしれない。


 ライオンに第六感なんてものがあるかは知らないが、あの態度を見るに少なくとも何か怪しんでるのは確かだ。

 

「ヘラジカ、もしかして負けちゃったのかい?」


「うむ、頭を使う戦いは向かないようだ」


 ヘラジカさんとの会話を見ても穏やかな明るい女性という印象を受ける、にも関わらず先程はその名に恥じぬ威圧感を浴びせてきた、この人は俺に何を見たのだろう?


「まぁいいじゃないか!今日はお開きだ!次は負けないように頑張ろうか!」


「そうだな!シロ!今度はスポーツだ!」


「え、あぁ… うん、いいよ?次はお詫びになにかご馳走するよ、みんなも」


 その時はそれで本当にお開きになったのだけど、帰り際ライオンさんは俺にこそっと言ったんだ。


「今度城に来なよ、ゆっくり話そう…」


 ゾクッとした、これが蛇に睨まれた蛙というやつか。

 背筋がゾクゾクしてるのは、彼女の言う“話す”というのが本当は会話ではないってことだと感じたというこなのか、とにかくその話すというのは俺の秘密に関することだというのは肌で感じている。


 そのまま皆解散した後、俺達もようやく図書館に帰ることができた。








「はい、オムライスお待ち!」


「おぉこれが?」

「綺麗な色なのです」


 さっそくオムライスを作り博士達に振る舞った。

 その際、あの時のライオンさんのことと俺について二人に少し相談してみることにした。


「どう思う?」


「前から言おうと思ってましたが…」

「なぜそうも隠したがるのです?」


「いやそれは…」


「お前の昔の話などいいのです」

「今は今ではないですか?」


 というのはつまりこういうことだ…。


 俺は過去にこの野生解放… フレンズ化する体質で良くないことになった、それはとんでもなく良くないこと。


 でもそれはその時ことで、博士達は「だからここに来たのでしょう?」と言ってくれた。


 まったくその通りだ、これまでのことがフレンズ化が原因ならばフレンズのとこで暮らせばいいとそう思ったから来たんだ。


 そして来てみると分かる、フレンズ達はなんでもかんでも受け入れてくれる。


「パークにはヒトとフレンズの分別もつかないポンコツばかりです… でも」


「そうしてノケモノを作らないからフレンズという名前なのですよ」


 そうだ… ツチノコちゃんたちだって俺を受け入れてくれた、本当の俺を見ても変わらずに「無理するなよ!」って心配までしてくれたじゃないか。


「うん、そうだね…」


「それでは、食べてもいいです?」

「頭を使って、お腹が減ってるのです」


「あぁごめん、どうぞ?おかわり作ろうか?」


「「是非!」」







 今度言われた通りライオンさんに会って、その時いろいろ考えようかと思う。

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