第14話 ぼくじょう

 ここはへいげんちほー… かつてはライオン勢とヘラジカ勢が合戦を繰り広げていた、言わば戦場である。


 尤も、その戦場も今となってはヒトのフレンズかばんの活躍によりスポーツ場と化している、合戦はスポーツの考案により安全な戦いとして生まれ変わったのだ。


 そして今日も今日とて二つの勢力は所謂サッカーで白熱していた。


「ウォォォオッ!」


 大将ヘラジカがボールをキープして突進。

 ゴールにまっしぐらだ、この勢いを止められる者はそういないだろう。


「クソ!誰か止めろ!」

 

 ライオン勢オーロックスが叫ぶ、あまりの突進に皆ディフェンスが追い付かないのである。


「デェアァァァアッ!」


 そしてゴールが目前と近付くと強烈なシュートが放たれた。キーパーとしてゴールを守るツキノワグマだったがその気迫に圧倒されてしまい、とてもヘラジカの強力なシュートを防ぐことはできそうにもなかった。


「えぇ!?無理無理無理ぃー!?」


 止められるフレンズはそういないだろう、思わずバタバタと手を振り回しギュッと目を閉じたその時だ。


「そぅら!」


 無理に決まっていると思われたそのシュート打ち返す者がいた… それは!


「私の全力を打ち返すとは!さすがだな!」


「ふぃ~危ない危ない…」


 \キャー!大将~!/


 そう、大将ライオンである。

 この勝負は二人の王の絶妙なパワーバランスにより均衡状態を保っていた。


「負けられんぞ~!」

 \オー!/


「こっちも気ぃ抜くなよー?」

 \オー!/


 と両チーム更に意気込んで試合再開という時だった。

 ヘラジカ勢のハシビロコウ、彼女だけは何かに気付きその場に立ち止まると一人空を見上げていた。


「じー…」


 そんな滑稽な姿が気になったのか、同じくヘラジカ勢パンサーカメレオンはおどおどしながらハシビロコウにその訳を尋ねた。


「ハシビロコウ殿?一体どうしたでござるか?試合中でござるよ?」


「向こうからなにか来る…」


「何かって?あれは?」


 彼女も空を見上げたその時、確かに何かがこちらに近づいて来ていた、上を見上げるのはそれが空を飛んでいるからだ。

 遠いのでよくわからないが、なんだか大きな生き物に見え、カメレオンは思わずその姿に取り乱した。


「ふぇぁぁぁあ!?なんでござるかあれは!?」


 恐怖のあまりスーッと姿を消し始めるカメレオン、やがて空を飛ぶそれは皆の頭上を素通りしてまっすぐ空を渡っていった。


 その大きさは、地上に映る影を見れば一目瞭然である。


「じー…」


「ハシビロコウ、今のはなんだ?」


「ヘラジカ様… わかんない、でも飛んでいたから鳥のフレンズじゃ?」


 皆は揃ってあんな奇っ怪な鳥のフレンズがいるのか?と試合を中断して場はその話題で騒然となっていた。

 

 するとその時、ライオンは何か思い出したように言ったのだ。


「しんりんちほーの方から来たよねぇ?もしかして博士達が誰か運んでて大きく見えたんじゃないの?」


「ライオン、知っているのか?」


「よく知らないけどさぁ?今博士のとこには新入りがいるって噂だよ~?」


「新入り?強いのか!?」


 ヘラジカの興味が例の影に移ってしまい試合どころではない、彼女は目の色を変え手合わせに行く気になっている。

 故に両チームは急遽試合内容を変更「空を飛ぶ謎のフレンズXを追え」となったのであった。


「じゃあ先に見つけた方の勝ちねー?」


「望むところだ!行くぞみんな!勝つぞーッ!」

\おー!/ 


 二つの勢力はその正体を突き止めるべく、先程上空を通り過ぎた何かを追い始めたのであった。





 

「見エタヨ、シロ アレガ牧場ダヨ」


「お、ホントだ… 結構大きいね?」


 空を渡ると便利だ、妙な道もないし山や川を越えることもないから直線的に到着することができる、俺としては楽チンだが少し怖いかな。

 

 地上に降りた俺たちは早速その牧場敷地内に入ってみることにした。


「なるほど、牧場とはここのことでしたか」


「博士知ってるの?」


「以前図書館に来た、ミルクをくれるフレンズがいるのです」

「牛のフレンズですよ、シロ」


 それはつまり乳牛のフレンズがいるということだろう、だとしたらニワトリのフレンズもいるんじゃないか?そしてその二人がこの牧場を管理している、さながら雪山のキツネちゃんたちみたいな感じに… という勘だけど、恐らくこれはほぼ正解だと思う。


「じゃあそのフレンズさんを探そう?卵と牛乳、バターにチーズ、もしかしたらヨーグルトも手に入るかもしれない… 乳製品を分けてもらおう?」


「その、にゅうせいひん?とはずいぶん多種多様なのですね?」


「うん、チーズがあれば洋食が増やせるし、ヨーグルトは果物をジャムにして混ぜればいろんな味で楽しめるよ?勿論そのままでも食べれるしね?」


「「じゅるり」」


 ひぇ… 俺ちょっとこの「じゅるり」って苦手なんだよなぁ、その内慣れるといいんだけど… というのは置いといて、俺たちは早速ラッキーの案内で中に入った。


「ココデハ 休憩シナガラ 牛乳ヲ飲ンダリ ソフトクリームヲ食ベルコトモ デキルヨ」


 内装はモダンな感じというか、木造の落ち着く感じがとても良い。綺麗にしてあるしとても何年も放置されている施設には見えない、ここのフレンズさんは綺麗好きなのかもしれない。


「カフェみたいだね」


「カフェト同ジデ 太陽光発電デ電気ガ使エルヨ」


 しかもクリーンだな、そうそうカフェにもソーラーパネルがあった… 天気が悪いと電力に難儀しそうなものだけど蓄電もできるんだろうか?この辺りはさすがに素人には分かりかねる、専門家に聞いてくれ。


 ラッキーの案内で進んで行くと牛舎と思われるとこに到着した、するとそこにはフレンズ化していない牛達がモーモーと鳴きながら元気に草を食べているではないか。


 確信した、やっぱりこの牧場は手入れが行き届いているんだ。


「お客様ですか?」


 そう言って奥から一人の女性が現れた、白と黒を基調とした服に髪も同じように白と黒の模様で別れているのが分かる… どうやら早速お目当てのフレンズに会えたようだ、しかしこの人は…。


「あぁ… その、初めまして…」


「シロ、どうしたのです?」

「顔が赤いのです」


 そりゃあんた、赤くもなるさ?なんていうかだってこの人は… さすが乳牛って言うか… ほら?


 理由は他でもない、この際ハッキリ言おうと思う。


 ずばり“胸”だ。


 それはもうなんと言うかまぁ立派と言うかたわわと言うか、大変良いものをお持ちであるわけです。

 それでいて服装がもうあれなんだ、ガッツリ谷間が見えるのでとても目のやり場に困る感じなんだ。

 このような事案は思春期真っ盛り花の16歳にはキツいものがあるのです… とてもムズムズする、そしてキツい、キツいがここは人として男の野生解放をするわけにはいかない、平常心を保たなくてはダメだ。


 人と話すときは相手の目を見る、これは当然の礼儀であります。


 よし、気を取り直して。


「えーっと… コホン!図書館から来ました、シロと申します!種族は人間、ヒトです!以後お見知りおきを!」


「まぁご丁寧に?私はホルスタイン・フリーシアン… まぁ乳牛のことですね?気軽にフリシアンって呼んでくださいね?博士と助手は、こんなところまで来るなんてめずらしいですね?」タユンタユン


 くそ、揺れてやがる!視界に入れるなという方が無理だよ!こんなところに無理ゲー発見!


「フリシアン、我々は食材をもらいに来たのです」

「そうです、卵とにゅうせいひんです」


「ミルクのこのですか?わかりました!それじゃすぐに取れたてを…」


「!?」


 取れたてだと!?


 鼓動が早くなるのがわかった、今まで配慮して見ないようにしていたが俺の目線はもうフリシアンさんの胸部に釘付けだ、取れたてだってよ?取れたてと言ったんだ… いや取れたてって、それはさすがにほら?人が見てますよ?


 好奇心と理性が喧嘩してるのが分かる、よくない想像をしているのだ。

 このままではいけない、俺はもうなにも言わず片膝を地面に突いた。


「シロ、急に座り込んでなんなのですか!」「さっきから様子がおかしいのです!」


「具合でも悪いんですか?」


「お気遣いなく…一分、いや30秒くださいすぐ治るからホント、なにも言わずにこの状態を黙認して?」


「なんだかわからないですが、すぐに治す?ですよシロ?」

「まったく、礼儀がなってないのです」





 一分後、通常に戻った俺はフリシアンさんが持ってきたとれたてのミルクを頂いた。(勿論深い意味はございません)


「へぇ、やっぱり取れたては違うね?」


「気分が良くなったようでよかったです!」


「あぁはい、まぁ…」


 その件はもういいじゃないですか?

 そして俺たちは一息ついた後本題として卵がないか尋ねた。


「卵… ですか?あるにはあるんですけど」


「何か問題が?」


「いえ、ニワトリさん達の卵からなかなかヒナが産まれてくれなくて… 私の育て方がいけないのかな?」


 なるほど、彼女は知らないのか無精卵のことを… 料理をしないフレンズ達は卵を子孫を残す為の段階だとか、あるいは動物の時に丸飲みにしてる者もいただろう、そういう物にしか見えてないし考えられないのかもしれない。


 説明が必要なようだ。

 

「それは無精卵、ヒナにならない卵だよ」


「むせいらん?」


 その時、この考えを察してくれたのかガイドとしての機能が働いたのかは知らないがラッキーが唐突に喋りだしたのだ。


「鶏ハ 家畜用ニ品種改良サレタ鳥デ 一日一個卵ヲ産ムヨウニナッテイルヨ 排卵ニヨッテ産マレル卵ノコトヲ 無精卵トイッテ 無精卵ハ交尾ト関係ナク産マレルカラ ヒナガ産マレナインダヨ」


「ボスがしゃべってますね!無精卵ですか?じゃあ育て方が悪いわけでは…」


「じゃなくて、ほっといてもニワトリは卵ポンポン産むんだよ」


「よかった!」


 でもどうやら博士たちは知ってたみたいだな、鳥だし… ただ鶏のことをよく知らなかったらしく「毎日産むのですか?」って感じだった、また1つ賢くなったね?良かったね?長なので。


 ちなみに鶏は卵がある程度の個数になってから無精卵も有精卵も関係無く暖める、有精卵ならヒナが孵り無精卵ならそのまま腐る。

 産んだ日がバラバラでも全て一斉に暖めるので孵る時期が一緒になるんだそうだ。





 そんなこんなで卵と牛乳を手に入れることができたのでした、これはかなりの前進だ。

 それからもう一つ彼女に聞かなくてはならないことが。


「にゅうせいひん… ですか?」


「うん、チーズとかヨーグルトとか… そういうのはないかな?」


「ちょっとわかんないです」


「そうか… いや、ありがとう!わかったよ!」


 さすがに無かったか、仕方あるまい… 発酵に関する本を読まないと。


 積めるだけ荷物をリュックにつめて俺たちは図書館へ帰る準備をした、最後にフリシアンさんには「またきます」と伝えておく、卵と牛乳が手に入るのはなかなかアツい、ここでパイプを作っておくのはいいことだろう。(下心はない)


 しかし、牧場の外に出てさぁ帰ろうという時だった。


「近クニ フレンズガイルヨ 探シテミテネ」


「博士たちのこと?」


「違ウヨ 上手ニ姿ヲ消シテルカラ ガンバッテネ」


 なんだって?


 ラッキーが急に訳のわからないことを言い始めた。

 誰もいないじゃないか?でも誰かいるって… 故障かな?

 

「パンサーカメレオンですね?」

「何か用があるのならさっさと出てくるのですよ」


「え?博士たちわかるの?」


「当たり前です」

「丸わかりですよ」

「我々は長なので」

「賢いので」


 スゴいな、原理はよくわからないけどさすが長だよ… これは普通に尊敬する。


 そう思ってると何もないところからスーッと姿を消し現したフレンズ、彼女こそパンサーカメレオンだ。


「バレてしまったでござるかぁ… でも今回の勝負はこれで拙者たちの勝ちでござるよ」


「あ、初めましてシロです」


「あぁ、ど、どーも!拙者パンサーカメレオンです!」


 よくわからないが礼儀正しいフレンズじゃないか、カメレオンか… 忍者の格好と口調?だけど忍者の情報なんてどうやって手に入れたんだ?不思議だなジャパリパークは。


「勝負?さてはお前たちまた何かやっているのですね?」

「さっさと吐くのです」


「待つでござる、すぐにわかるでござるよ」


 その時パンサーカメレオンが合図すると少し離れたとこからフレンズ数人が走ってきた、その先頭にいるのがまぁものすごい勢いで… 着くなり俺に向かい合いこう言った。


「やぁやぁ私はヘラジカだぁッ!いざ!勝負だぁッ!!」


 なんなんだよいきなり!?誰なの!?

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