第13話 たまご
ツチノコちゃん達と別れ、あれから数日経った頃のこと。
相も変わらず料理に明け暮れる俺… そしてそれらを待つ長の二人。
「はいよ、炒飯お待ち!」
「これは、カレーやケチャップライスとはどう違うのですか?」
どうと聞かれても、どう見ても違うだろう?当然味もまったく違うものだ。共通点はお米だけ。
「ん~… 中華だよ」
なんて適当に答えておく。
「中華?聞いたことがあります、なんでも料理とは大きく分けて“和 洋 中”に別れているとか?」
「つまりこの炒飯とは“中”に該当するのですね?」
はい中華の中、コノハちゃんミミちゃんその通り。アタックチャーンス!
醤油を始め様々な調味料を持ち込めたからこのように料理の幅が広がった、と言っても野菜と米中心の料理ばかり… 味付けが増えたくらいでは二人が飽きるのも時間の問題かもしれない、もっと幅を広げなければ。
それに調味料だって無限ではない、いっそどこかで調達できればいいのだけど。
「これはまた別の美味しさ!」
「これも止まらないのです!」
「はい、お粗末さまでした」
二人は一口食べるとカッと目を開き凄い勢いで食べ進めている、良かった良かった。
にしても腕だけはやたら上がってくるな?と言っても偏った料理スキルなのだけど。
変な話、肉と卵が使えればなぁ?なんて思ってしまう、今となっては俺もベジタリアンのような生活をしている。不思議と気にもならないのだが。
…
それからまたある日のこと
「シロ、頼みがあります」
「大事なことです」
「何?おつかいかなにか?」
「料理のことです」
「食べてみたいものがあるのです」
「いいよ?できる範囲で再現してみるから、何が食べたいの?」
俺がそう言うと二人は料理の本を開きパラパラとページを捲り目的のページを見付けると指で止めこちらに差し出してきた。さてその料理とは?
止められたページには黄色くて丸い物の写真が挿し絵につけられている。
「この、“オムライス”というのを食べたいのですが」
「できるですか?」
「あぁオムライスか、それならそう難しくは… って…」
なんだって?オムライス!?
俺はハッとした… この子達今オムライスが食いたいと言ったのか?
「文字読めんの?」というのは別に驚かない、二人は長なので、賢いので… 俺が耳を疑ったのはオムライスのほうだ。
「マジで言ってんの!?」
「何を驚いてるのですか?」
「できるですか?できないですか?」
「本当に食べるの?」
「くどいですね」
「我々はそれが食べたいのです」
だってオムライスと言えば“卵”料理だぞ!?
確かに使いたいとは言ったがそれでも… いや、いいのかな?
「一応確認するけどさ… これ卵使うんだよ?」
「卵… ですか?」
「そう、主に料理に使われてるのは鶏卵だね?牧場とかで飼ってる鶏に卵を産ませてそれを割って中身を溶く、熱したフライパンに広げて焼けば黄色の… そう、本にもあるこの部分になる」
「なるほど、それでこんな色をしてるのですか」
「面白いのです」
「うん、だからやめといたほうが…」
そうだ、やめとけ!やめとけ!君達鳥の仲間なんだ!
しかし納得してくれたと思い卵のことを諦めてもらう方向でいた俺の耳に予想外のセリフが。
「では卵をとってくればいいのですね?」
「そうそうやめとこ… え?とってくる?」
おい、長が狩りを始めようとしてるぞ?いいのか?しまったこれは予想外だ、鳥類だから卵はまずいとか焼き鳥はできないとかいろいろ考えてたのに… 博士たちはやる気だ、やると言ったらやる凄みがある。
食物連鎖を必要としないはずのフレンズが… しかもその長が、まさに今飽くなき欲求を満たすために狩りを始めようとしているということだ。
いいか?これは狩りごっこではない、狩りだ!
でも一応確認しておこう、もしかしたら養鶏場があるのかも。そこで無精卵を貰うんだよきっと。←淡い期待
「あの、その卵ってどこにあるの?」
「愚問ですね?」
「ここはしんりんちほーです」
「鳥の巣はそこらじゅうにあるのです!」
オーマイガッ!
養鶏場、そんなものはなかった。
やはり狩りをする気らしい、ちょ待てよ!フレンズになったらそういうのしないんじゃなかったのか!
「待って!同じ鳥の仲間として新しく生まれてくる命を己の食欲の為に奪う罪悪感は無いの!?」
「シロ、我々は動物だった頃も…」
「普通に肉食だったのですよ?」
「「猛禽類なので」」
そういう問題じゃない!たしかに猛禽類は小動物を食べるが、フレンズになったらそれしないんじゃないの!?
「では、適当に巣から拝借してくるです」
「狩りは久しぶりなので腕がなりますね博士?」
「そうですね助手、ここは1つどちらが多く持ってこれるか勝負しますか?」
「望むところです…!」
そう言うと二人の目が光り輝き野生解放が今にも始まらんとしている、これは不味いことになった!
「待て待てストーップ!無益な殺生は心が痛むだけだよ!」
「無益?違います」
「その卵達は我々の血となり肉となり」「我々の命の糧として生き続けるのです」
「まったくその通りだけど待って!やる前に俺に考えがあるから!」
…
飛び立つ博士達を引き止め俺は考えた。
今更こんなアマちゃんなこと言っていては“食”そのものを否定することにはなるが、でもパークではまずその為のジャパリマンじゃないのか?
いやでも… よく考えたらなにもジャパリマンだけで生き長らえているわけではないはずだ、ここにはフレンズ以外にもパークガイドや研究員などの人間も居たんだ。
多分だが… 当時は食材を仕入れたりして、今もなにかしらの食料ストックとか材料がどこかにあったりするはず。
現にカフェで紅茶を出していたし、食料でもそういう保存食の備蓄みたいな物があるはずなんだ。
ラッキービーストはジャパリマンの材料として畑を作っている、もしかしたらなにかわかるかもしれない。
…
「博士!助手!ラッキービーストを探して!」
「それでどうするのです?」
「ラッキービーストは食べられないのです」
「食べなくていいから!とりあえず俺のとこに一体連れてきてよ!あと野生解放やめて!」
「まったく、仕方がありませんね」
「長に命令するなど、生意気なのです」
なんてぼやきながらも探しに行ってくれた二人、するとものの数分のうちに引っ捕らえられたラッキービーストが足をバタバタさせながら俺のもとへとやって来た、ゴメンねラッキー。
「ラッキー?シロだよ?わかる?」
「検索中… 検索中… シロ 日ノ出港ニイタ ラッキービーストガ 会ッテイルネ?今日ハドンナ御用カナ?何ガ見タイノカナ?」
よし、お客様登録が済んでいるようだ、俺はラッキーに尋ねた。
「OKラッキー、鶏の卵とか手に入らないかな?」
「検索中… 検索中… アッタヨ」
「え!?あるの!?」
ダメ元で聞いてみたが… これはすごい、鶏がどこかにいるということだよな?やっぱり養鶏場かな?人の手が入っていないのに機能しているのだろうか?
「“へいげんちほー”ニアル ジャパリ牧場ニ 牛ヤ鶏ガイルヨ 卵ノ他ニ 牛乳モアッテ チーズヤバターヲ作ッテルヨ」
「牛乳もあるのか… いいじゃないか!へいげんちほー近いし!」
これで決まりだな、しかも牛乳は思わぬ収穫だ、それにチーズやバターも手に入るなら更に料理の幅が広がるぞ!スイーツも作れるようになるじゃないか。
「博士達?へいげんちほー行くよ!」
「そこに食べてもいい卵があるのですか?」
「それだけじゃないよ!乳製品があるってことはスイーツが作れるようになるかもよ?」
「スイーツですか?本で読みました、パフェですね?じゅるり…」
「ケーキというのもありますね?じゅるり…」
二人共じゅるじゅる言ってるから乗り気だ、ワガママグルメフクロウを動かすにはグルメの話題に限るね。
「では助手、選択の余地は無いですよ?」
「そうですね博士?すぐに向かいましょう」
ご覧の通り今日は博士たちもノリノリ、飛んでいけば一瞬で着くことだろう。
よーっし!なんかおれもワクワクしてきた!ソフトクリームも食べれるかもしれないぞ!やったぜ!
「シロ、そのラッキービーストは案内役として連れていくですよ?」
「逃がしてはなりませんよ」
「アワ アワワワワ…」
なんだか可哀想だが、たしかに案内がいるのは二人の言う通りだ。
ならば彼にはせっかくなのでガイドロボットとしての職務を全うしてもらおうと思う。
漠然と平原をウロウロしても仕方がない。
「ラッキー、頼んでもいい?」
「ワカッタヨ 目的地ヲ ジャパリ牧場ニ設定 コースヲ検索…」
「方角だけでいいよ?空から行くから」
「ワカッタヨ マズハ へいげんちほーヲ目指シテネ」
…
今回シロが更に上の料理のレベルに達する為に行く次なる目的地はへいげんちほーにあるジャパリ牧場。
何年も人の手の入っていない牧場にどれだけの家畜がいるのかは不明だが、行ってみる価値は十分にあるだろう。
メンバーはアフリカオオコノハズクこと博士、ワシミミズクの助手、図書館付近に居たラッキービースト、そしてシロ。
着々と料理人になりつつあるシロが次に会うフレンズとは?
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