第12話 じゃあまたね
現在ツチノコとスナネコはセルリアンに囲まれてしまい、まさに万事休すという状態であった。
スナネコを助ける為とは言えツチノコ自身後先考えずにやってしまったなという気分だったが、それはスナネコを守るために考えなしに飛び込んでしまった自分が悪いし、きっと考えたところで状況は対して変わらないとも思っていた…。
一匹セルリアンを倒した時にスナネコにはすぐに逃げてくれと伝えたが、お互いに逃げることを譲り合ってしまい結局二人で追い詰められてしまう。
向こうにはシロがいるが、こうなるといくらヒトが考えることに長けていても自分達二人を助けることはできない。
二人は自分達の死を悟り、彼… せめてシロには生きてもらおうと願いを込めた。
思えばシロとの旅は短かったがツチノコにとっても特別な経験、思い出となって胸に残っていた。
シロは、自分がセルリアンに囲まれて動けないと伝えた時は一緒に行こうと言ってくれたし、ロッジの手前では囮となって活路を開いてくれた。
あの時のことをシロは「協力したからだよ」と言っていたが、シロがいなければ広い森のなか迂回を繰り返して夜になっていただろうし、そもそも彼の船から出るのにも数日かかっただろう。
ツチノコはこの時やはりヒトは頭の回転が早いと再認識し、同時に自分ももっと助けになりたいと思った。
そしてそれとは別で彼には高山に登るときも辛い仕事を任せきってしまったことにも少し責任を感じた。
その時もだが、彼は結構な無茶をやりがちなので心配で目が離せないというとこも実はあった。
散々声をかけたのに結局無茶をする見栄っ張りなのだ、こういうところはあまり話を聞かず好き勝手にやるスナネコと似ているかもしれない、彼女もまた目が離せないからだ。
ツチノコは走馬灯のように思い出が巡っていた、スナネコとシロは無愛想な自分によくしてくれた特別な友人である… と思うと多少無理にでも二人を助けたいがそれも今は出来ない。
スナネコはギリギリまで守るがきっと自分はすぐに力尽きてしまうだろう… だから離れているシロ、彼にはせめて逃げてもらいたい。
頼む逃げてくれ… そう思った。
その時だった。
「ガァァァァァァア!!!」
雄叫び?のようなものを聞くと、奥でセルリアンの弾ける音が聞こえてきたのだ。
「グルルァァァアッ!ガァァッ!」
と雄叫びが聞こえる度にセルリアンの数が一匹二匹と減るのがわかった、自分達を囲っていたセルリアンも異変に気付きそちらにターゲットをかえたようだ。
それは強く、圧倒的だった…。
なぜ?たまたま強いフレンズが助けにきた?たまたま遺跡に迷いこんでいた?だがそんなツチノコの考えはやがて見えた声の主を見て一蹴された。
「なんだ?ありゃあ…!?」
彼女が見たのは到底信じられない、理解の追い付かないものだった。
セルリアンを倒すその姿は、フワリとした白い髪で同じように白い猫耳に長く細い尻尾があった。
それは正にフレンズの姿のそれである… がツチノコにはそれが信じられなかった。
信じられない理由があった。
「シロ…?」
そう、戦っているそのフレンズはシロだ。
彼女の目の前でセルリアンを薙ぎ倒しているのはここまで一緒に旅をした人間のシロだったからである。
彼の目は淡く輝き野生解放しているのがわかる… 鋭い爪に牙、そして並外れたパワーとスピード。
今の彼を見て「人だよ」と言われて信じるフレンズはまずいないだろう。
やがて彼はツチノコ達に迫るセルリアンの石を砕きその場を納めた… なんと彼はあのどうしようもない状況でセルリアンを全滅さたのだ。
「シロ… か?」
「…」
戦いが終ると、彼は背中を見せたまま何も答えなかった。
髪の量が増えていてさながらライオンのたてがみを思わせる。
そして立ち止まっているその姿を見るとよくわかる、彼は紛れもなくフレンズの姿をしている。
男がフレンズの姿をしていることにツチノコは違和感を感じずにいられなかったが、今はそれは割りとどうでもよいことで、目の前の事実を理解するのにただ必死だった。
シロはヒトではないのか?
その時彼はクルリと振り向きツチノコと目を合わせた、その目はいまだに野生の輝きを灯している。
「やっぱりシロか、あんまり強いんで驚いたがおかげで助かった!ありがとうな?」
「…」
「いろいろ聞きたいことはあるが、とにかく助かった!なんだよお前フレンズだったのか?ビックリしただろうが!何で隠してたんだ?」
「…」
疲れていたのか肩で息をする彼は何も言わず、ただゆっくりと目を閉じる。
するとキラキラとしたサンドスターの光がスッと消えその場に倒れこんでしまった。
光が消えたその時、先程まであったはずの耳や尻尾は消えて元のヒトであるシロの姿に戻っていた。
…
「ッ!?」
「よう、気づいたか?」
目が覚めるとそばにはツチノコちゃんが、隣にはスナネコちゃんがボーッと暇そうにしていた。
「ツチノコちゃん… 俺、どれくらい寝てた?」
「少しだ」
「そっか…」
フレンズ達に時間の話をしたのがそもそも間違いかもしれないが、少しと言うならそうなんだろう。
しかし俺はとうとうやってしまった、いやあれが俗にいう仕方のない場面だったと思うのだけど、俺の人生ってあの姿のせいでいろいろあって現在に至るのだ。これでこの事を知っているのは博士と助手にもう二人加えることとなった。
俺はこのままパークに住めるんだろうか?不安だ。
二人の方を見た、視線が痛い。
引いてるんだろうなぁ?そりゃそうだ、まず「人じゃねーじゃん」って話だし、まさしく獣の獰猛さでセルリアンを狩ったのだから。
疑念の目で見られるのは当たり前だろう、もう前のようには戻れないんだろうな、恐がられるに違いない、“あの時”みたいに。
「シロ…」
ツチノコちゃんが真剣な眼差しでこちらを見ている、いや睨んでいるといっていいかもしれない。
怒らせただろうか?まぁ怒るだろう、騙していたのだから… 言い訳はしない。
覚悟を決め彼女の言葉に耳を傾けた。
「お前!なんだかよくわからんがまた無茶をしたなぁ!?」
「え?」
「おかげで助かったが… 気を失うような無茶をするなら事前に言っておけよ!」
「あぁごめん…」
あれれ?思っていた反応と違った、なぜか俺は今叱られている。
「まぁ過ぎたことはいい… 次から気を付けろよ!」
「うん、えっと… それだけ?」
「別件で聞きたいことはあるが、とりあえずそれだけだ!文句あっか!」
なんか、普通に心配されちゃったみたい。
でも驚いた、もっとやべーくらい引かれて「近寄るな!」とか言われると思ってたから。
「ツチノコは照れているだけなので、言い方がキツいのは多目に見てあげてくださぁい」
「クッ!うるさい!」
「あぁそうだぁ、ボクはスナネコですよろしくお願いします」
「あぁ、シロでいいよ… えっと人です」
お隣のスナネコちゃんからも普通に自己紹介を預かった、本当になんら関係なく普通に自己紹介されたので唖然としながらも俺も簡単に自己紹介を返した。
「耳と尻尾を隠せる強いフレンズではないのですかぁ?」
「あぁそれは…」
「まぁ騒ぐほどでもないか…」
「えぇ…」
ぜんっぜん興味ないじゃん!え!?俺の悩みってそんな深いものじゃないのここでは!?マジで騒ぐほどでもないのかな!?
「なぁシロ?結局お前、ヒトなのか?」
「こうなったら教えてあげるよ、とびっきりの秘密ね… その前にさ?」
「なんだ?」
「嫌じゃない?俺と友達でいるのは?」
君のことは、俺としてはいい友人だと思っている… 今もだ。
でもこうなった以上恐れられてもおかしくないとも思っている、俺は自分がそういうヤツってことくらい理解してるんだ。
「なにいってんだぁおまぇ!?」
いやごめん、そもそも友達じゃなかったのかもしれない。
しかし。
「ツチノコは友達が少ないので仲良くしてあげてくださぁい」
「ほっとけ!?」
「ボクもいるじゃないですかぁ」
「~!!!ありがとうよ!ったく!」
つまり大丈夫らしい、本当に騒ぐほどでもないようだ。
俺の心配なんて杞憂か… これがフレンズ、その名前の通りみんな友達になれる島ジャパリパークか。
ならちゃんと話さなくては。
友人として知っておいてもらわなくては。
俺は話す、俺の抱えているとびっきりの秘密。
…
「まず、俺は人だけどそれは半分だけなんだ」
「どういう意味だ?」
俺はロッジで見られた写真を見せた、そこには父と母… 抱かれて幼い頃の俺が写っている。
そして小さな俺と母には同じような獣の耳がついているのがわかる、つまりこれは。
「父はヒトで、母はフレンズ… 俺は人間とフレンズのハーフなんだ」
「ヒトとフレンズの!?そんなことが可能なのか!?」
可能みたいだね?だって俺が証拠だもの。
父はかつてジャパリパークにいた研究員だった、母とはその時に知り合い例の異変とやらが起きた際にそのまま父にくっついて人の世界へ、やがて二人は種族の壁を越えて愛し合い結婚?した、そして次の年に母は俺を妊娠、そして誕生したというわけだ。
「母さんはホワイトライオンのフレンズで、ライオンのわりにはおっとりしてる人だったみたい」
「じゃあお前はヒトなのにホワイトライオンの特性が?」
「そう“野生解放”って言うの?それをやるとあの姿になるんだ」
「百獣の王か、強いわけだ…」
でもなぜだろうか?ここに来てから野生解放は二回目だが、なんだか向こうに住んでいた時より野生さというか… 獣っぽさが増している気がする。
雪山の時も気合いと根性で登頂できるくらいだし、それに今だっていくらホワイトライオンが強いと言ってもあんなにセルリアンを相手に倒しきれるものなのだろうか?俺はハーフだよ?
さておき、洗いざらい話すと俺もスッキリしたしツチノコちゃんも納得してくれたようだ。
スナネコちゃんは始めから興味がなさそうだね、命の危機に瀕したばかりなのに呑気に鼻唄を歌っている… でもまぁそれならそれでいいと思う。
後で聞いたことが、スナネコちゃんは最近ツチノコちゃんの姿を見ないので心配になって遺跡をうろちょろしているとあの状態になったらしい。
たまたま間に合ったけどもう少し注意してほしいものだ。
「っていうかさ、なんでセルリアンいるの?」
「前からいるが?」
「なんでこんなとこ住んでんのさ…」
「落ち着くんだよ!」
ツチノコちゃんは危ないからうろちょろするなと言っていたが、俺が思うにそもそも住むなとよと思ったのは内緒だ。
…
それから遺跡内を歩いたが特に問題があるほどセルリアンはおらず無事外に出ることができた。
いろいろあったせいか空は夕焼けになっている、少し肌寒いのは砂漠の夜が冷えるからだそうだ、博士達は本当に来てくれるんだろうか?
「ッ!?おいお前ら!伏せろ!」
ツチノコちゃんのその一声で俺達も考えることなく体勢を落とした、地面に三人ホフク前進みたいな状態になる… すると。
フワァ… となにかが頭上を通りすぎた、太陽を背に影が二つ俺たちの目の前に現れる。
「はぁまったく…!」
とため息混じりにツチノコちゃんが言った、目の前の影2つは彼女のそれに反応した訳ではない、口を開くとそれを無視してまったく関係のない会話を始めた。
「探すのに苦労したですよ」
「まったくです、いったいどこをほっつき歩いていたのですか?」
島の長である博士と助手だ、ナイスタイミング!
「博士!助手!迎えに来てくれたの?」
「料理のためなのです」
「すぐに帰って作るのですよ、シロ」
「ちょっと休ませてよ…」
どうやらワガママ長の腹が我慢の限界らしい、料理人は休めない。
だが博士と助手は約束通り迎えに来てくれたようだ、なんだか探し回らせたみたいなのでワガママの一つや二つは聞いて然りなのかもしれない。
ってそもそも調味料の回収のための旅だったから始めから二人のワガママを満たすためのものなんだけどね?でもまぁ行くって言い始めたのは俺だし博士達には恩もある、構いやしないさやってやりますよ。
「ところでシロ?お前行く先々でフレンズを口説き落としてませんか?」
「口説き… って!?なにそれ!そんなことしてないよ!」
「本当なのですか?」
「信じられませんね」
なんだそれは!仲良くしようとちょいちょい話しかけたことはあったけど口説くだなんて人聞きの悪い!
「なにがあったのさ?」
「“図書館のシロに会いに来た”と連日フレンズが顔を出してきたのです」
「今も来ているかもしれません」
「え?それ本当なの?」
「PPPも図書館でライブをやらせろと頼み込んで来たのです」
「漫画を持ってきたオオカミもお前に会わせろと言ってたのです」
「あ~…」
遊びにおいでとは言ったけど、まさか即日で行動してくるとは… フレンズの行動力は凄まじい… というかオオカミさんなんでそんなに早いんだ?近道でもあるわけ?。
「やはりオスですね?」
「そうですね助手、オスの本能なのです」
「違うよ!ちょ!ツチノコちゃんたちも!違うからね!?」
「獣の中にはメスを何匹も自分のものにするオスがいるらしいですよぉ?」
「ライオンの群れは一匹のオスがリーダーになってメスに囲まれるらしいしな~?」
「なんでそんなこと言うの!?」
全員が敵に回ったぞ!クソ!怖い!女の子は怖い生き物だ!
…
いいだけみんなで俺を茶化し終ると完全に日が落ちる前に図書館へ帰ることにした。
飛び立つ前にご挨拶だ。
「じゃあ、俺も帰るよ?世話になったね?」
「お、お互い様だ…!暇ならまた来てもいいんだぞ?」
「うん、また来るよ!二人も遊びにきてよ?料理なら出せるから!」
「今日はいろいろあったので… ふぁ~… また遊びましょ?」
「じゃあ、またね!」
「またな…!」
「はい、また」
俺の旅はこれで一旦終了、でも他にも行ってないちほーがあるしたまには出掛けたいな?今度はどんなフレンズと会えるんだろう?楽しみだけど、とりあえずはまたしばらく料理人として生活しないとな。
「なるほど、料理を餌に口説いていたのですか?」
「やりますね?」
「だから違うって!」
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