第11話 山を降りたら砂漠へ

「どうしたの?もしかして、私の歌気に入らなかった…?」


 まごまごしているうちにトキちゃんが悲しみを露に… それはもういかにも残念って感じで悲しそうに言った彼女、これはキツい、普通に胸が痛む。


「いや!そうじゃなくて!」


「そう?やっぱりあなたも私のファンのようね?かばんもヒトだし、やっぱりヒトはわかってくれるのね」


 し、しまった!なにかねじ曲がって伝わっているぞ?嬉しそう!悲しみは何処へ?

 そしてどうやらかばんさんも同じ運命をたどったらしい、こうなったら最早他人とは思えない。


 このままではいかん、早く意見を伝えなくては!


「コホン!失礼?でもあえて意見を言っていいかな?」


 俺はトキちゃんの暴走を遮るように1つ咳払いをして話を始める、傷つけないようにやんわりと伝えないとならない。


 なのでかなり気を使って話す。


「トキちゃんの歌は… うん、いいと思うけど?でも自分で歌っててどう?なにか足りないと思わない?」


「ッ!?そうなの!私もなにか足りないと感じていたわ!」


 よし食いついたようだ、この数秒のうちに頭をフル回転させて気付いたこれを理解してくれるか微妙なとこだけど、なんとかうまく説明してみよう。


「それはなんなの?あなたにはわかるのね?」


「わかるさ!」


「本当にわかってんのか?」


 水を差してくれるねツチノコ氏?ではもう一度聴いて何が足りないのか君も考えてみよう!


「なにツチノコちゃん?アンコールだって?」


「おまッ!?」


「ムフ…」


「おいバカよせ!やめろ!」


 二曲目が発動、そして俺は無惨にも自滅するのであった。


 という茶番はいいとして、話を続ける。


「それはずばり音楽、リズムじゃないだろうか?」


「「「リズム?」」」


 俺以外の三人は声を揃えて聞き返した、そう音楽と言えばリズムだ。

 現在のトキちゃんは所謂アカペラで歌っている状態である、しかも自作ソングで譜面も何もないのでリズムは愚か音程も無い。

 歌詞のみの状態である… つまり詩、ポエムみたいな状態だと俺は思ってる。


 その内容。


 “私はトキ、仲間を探している”


 と文面で見ればまるで物語りの冒頭部分のようだ「おぉこれはトキの話なのか!」と見たら一発でわかる、つまり作詞に問題はないと思われる。

 だったら音楽の方に問題があるに決まってる、音程が取れないのはなぜか?そもそも無いからだ。


「例えばPPP、アイドルって歌って踊るよね?」


「そうね」


 ツチノコちゃんが俺に言ったように引き合いとしてアイドルを例に出す。

 トップアイドルの話なら皆にもすぐに伝わるだろう。


「アイドルがそれをやるには音楽が必要、つまりリズムがあるからできることなんだよ」


「確かにそうね」


 うまく伝わっているようで安心した、トキちゃんもハッとした顔をしている。


「踊る必要はないけど、いい感じでリズムを刻むものがあれば歌う側も音程を取りやすいんじゃないかな?」


「一理あるわね…」


 遠回しに音程とれてないよってことを言ったのだけど、やんわり伝わってくれてよかった。

 まぁ正確にはとれてないのではなく存在しないからどうとでも解釈できるというだけなのだが、なら作ればいい。


「でもぉ?そのリズム?ってどうやってつくるのぉ?」


 アルパカさんのツッコミは鋭いものだ、俺は楽器ができるわけではないしここには楽器なんてそもそも無い。


 でもその辺りはそれとなく策を用意している。


「ん~… じゃあとりあえず、紅茶を頂こうかな?」


「わかったよぉ!ちょっとまっててぇ?すぐ淹れてくるからぁ!」


 柔らかい笑顔に癒される、すごく嬉しそうに紅茶の用意に移っている。

 こんなに喜ばれたら頼んだこちらも嬉しくなるほどに嬉しそうだ。 


 間も無くして人数分の紅茶が出てきたのでみんなで飲んでみる、ツチノコちゃんもまったりとリラックス顔だ、こんな顔もできるんだね?初めてみたよ。


「さてと、それじゃあやってみようか?ティースプーン貸して?」


 一息着くと俺はトントンとテーブルを叩き適当にリズムを刻んでみた


 ♪ ♪ ♪ ♪


「なんかこれ… いいわね!歌いたくなってくるわ!」


「加えてこれ」


 ティースプーンでカップを叩き高めの音を加える 


 ♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪♪

 

「ふぁ~… なんだか楽しいねぇ♪?」


「~♪」


 いい感じにテンションが上がってきたようだ、ツチノコちゃんも紅茶でご機嫌なので小さく鼻唄を歌いリズムに合わせて揺れている、いいねノッてきたねみんな?


「自分のタイミングでいいから歌ってみて?このリズムに合わせながらね?」


「わかったわ!」


♪ ♪♪ ♪ ♪♪ ♪ ワタシワァ~ 





「「おぉ~!」」パチパチパチ


 リズム付きの歌が終るとツチノコちゃんとアルパカさんの二人から万雷の拍手を頂いた。

 わりと成功した部類だ、トキちゃんも紅茶で喉の調子も良さそうだったからいい感じに歌になっていた。

 そりゃあまだまだ練習はいるけ、どアルパカもさんいるし大丈夫だろう。

 もっと完成度上げるには楽器のできるフレンズとかいてくれたらいいのだけどね?トキちゃんはソロじゃなくてバンドでやるといいと思うんだ。


 あ、だから歌で仲間を探してるのかな?


「やっぱりシロちゃんもぉ?かばんちゃんみたいにいろぉんなこと思い付くねぇ?」


「パークの建物を作ったのも、この紅茶を考えたのも、そもそもヒトだからな… こいつだってこれくらいやるだろうさ」


「いやみんなが同じようになんでもかんでもできるわけじゃないけどね」


 そう、なぜかパークでヒトと言うのは過大評価されがちだが、人間だからといって人間に可能なことがすべてできるわけじゃない。

 それができるに至るまで勉強したり練習したりいろんな過程がある、そのように考えることができて、そのように行える… 正確にはこれこそが人の叡智じゃなかろうか?

 それだけにかばんさんという人は本当にすごいのだ、それこそなんでもできているのだから。


 彼女に関しては、本を読ませればその内容をそのまま自分の物にできてしまいそうだ。







「さて、十分休めたしそろそろ行く?」


「行っちゃうのぉ?もっとゆっくりしてっていいんだゅぉ?」


「まぁ暗くなる前にさばくちほーに行きたいしな?」


「じゃあ、よかったら私が飛んで送っていくわ?更なる歌の進化へのヒントをくれたお礼よ?」


 それはありがたいが、トキちゃんに二人同時に持って飛ぶことが可能なのだろうか?


 否、無理だろう。

 博士達だって二人で俺を持ってたし、一人でできるかはともかく。


「ん~… じゃあツチノコちゃんだけでも、送ってもらう?」


「おい!おまえはどうするんだよ!」


「俺は歩いていったっていいさ?もともとその予定だし」


「そういう訳にもいかないだろうがッ!」


 なんて話していると、トキちゃんが「大丈夫よ、助っ人を呼ぶわ」とカフェの屋根に飛び上がり叫ぶ。(歌う)


「ショウジョウトキィ~!わたしのぉ~!なかぁまぁ~!」


 不意討ちでくるとさすがに強烈だ… しかし間も無くして赤色の目立つ鳥のフレンズがその場に舞い降りてきた。

 トキちゃんによく似ている彼女はショウジョウトキ、仲間を探していると言いつつ仲間はいたということか。


「トキ、どうしたの?」


「この子達をさばくちほーまで運びたいの、協力してくれない?」


「ふーん… いいわよ?」


「ありがとう、後で歌について新発見があったから教えてあげるわね?」





 という思わぬショートカットで俺たちはさばくちほーへ向かうことができた。

 ツチノコちゃんが家にしてる例の… 遺跡?正確には迷路のアトラクションらしいのだが、そこのゴール地点のようなところに降ろしてもらった。


「ありがとうトキちゃんたち!」


「ま、まぁ助かったぞ?ありがとうな?///」


「いいわ?こっちも楽しませてもらったし、シロは普段はここにいるの?また来てもいいかしら?」


「いや、俺は図書館に住んでるんだ?みんなでおいでよ?料理をご馳走するからさ」


「料理?素敵ね… 是非行かせてもらうわ」


 そう言うと二人は空高く飛び上がり高山の方へ一直線に飛んでいった。


 さて、なんかいっきにゴールしちゃったな?ツチノコちゃんとはここでお別れか、こうして直面すると寂しいものだね、今度はいつ会えるのかな…。


 なんて俺が物思いに浸っている時だ。


「妙だ…」


「どうしたの?」


 少し寂しさを感じている俺を他所に、ツチノコちゃんは何やらキッと深刻そうに真面目な顔をしていた、どうやら普段とは空気が違うらしい。


「なにか騒がしい… 遺跡の中が」


「誰かいるんじゃない?何日も留守にしてたならほら?ツチノコちゃんの友達が心配して探しに来たとか?」


「オレの為にそこまでするやつなんか… ふぁはっ!?まさか…!?」


 なにやら心当たりがあるようだ、顔が一瞬で青ざめたように見える。


「スナネコ!?あんのバカぁッ!」


 彼女はその時、焦りとか心配とか怒りとかそんな感情が複雑に混ざったような顔をしていた。


 ツチノコちゃんは今“スナネコ”と言った、その子はきっと彼女の中でも特別な友人なのだろう、はっきり分からないがそのスナネコちゃんがピンチみたいだ。


 考えてる余裕もないのだろう、そのままダッ!と走りだし遺跡の中へ入るツチノコちゃん。それに置いてかれないよう俺もすぐに走り出した。


 地下迷宮、その名に相応しく中は複雑な迷路になっている。

 がここで彼女のすごいところはがむしゃらに見えてちゃんと道を選んでいるところだ。

 決して適当ではない、なにかを察知したりして分かれ道を進んでおりハグれるとあっという間に迷子になってしまいそうだ。


 しかし彼女のこの慌て様はただ事ではなさそうだ、一体どういう場所なんだここは?薄暗くって着いていくのでやっとだ。


「右!騒がしいな!ここだ!」


 最後に分かれ道を右に進むとそこに居たのは…。


「ファハッ!?」


「いぃ!?セルリアン!?でかいじゃん!?」


 赤いセルリアンだ、こいつは俺の倍くらいの大きさがある。

 しかもそれが数体群がっている、あれがフレンズを食ったりするんだから恐ろしいにも程がある、見てるだけで足がすくんでくる。

 

 そしてそのセルリアンの群れの先には。


「やっぱりお前か!?なにやってんだぁ!」


「あぁツチノコぉ?ヤバイことになってしまいましたぁ…」


 この状況でその冷静かつぼんやりしたテンションを保てる彼女こそがスナネコのフレンズ、ツチノコちゃんの友人であり、今はご覧の通り大分ヤバイことになっているようだ。


 このままでは助からない。


「勝手にウロウロするなって言っただろうが!まったく世話の焼ける!とにかく今いくぞ!オォぅラァァァアッ!!!」


 ツチノコちゃんは走り出した、するといつかの時のように飛び蹴りで迂闊にも後ろを見せているセルリアンの石を破壊した。

 

 とてもすごいがどうにも彼女らしくないように見える、もっと冷静に物事を判断する子のはずなのに。

 

 どうやら余程あのスナネコちゃんが大事なようだ。


 そして一体倒したところで劣勢なことに変わりはない、どうする?なにか、なにか俺にもできることは…。


「おいスナネコ!今だ逃げろ!」


「それではツチノコがぁ…」


「いいから逃げろよ!オレの不意討ちを無駄にする気か!?」


 逃げることを譲り合っている。そしてそうする間にセルリアンは個々に狙いを定め始めた、オレの方にも一体…。



 どうする?どうする?どうする?



 どうするって… 俺はこのままこいつに背を向けて走り抜ければ逃げられるかもしれない、でも二人を見殺しにしていいのか?

 おい俺よ?できるだろ?この状況を切り抜けることができる“力”があるだろ俺よ?


 それでも逃げるのか?使いたくないってそんなわがままみたいな理由で逃げるのか?


 二人を見捨てて逃げるのか?





 ダメだ…!





 見殺しに… するくらいなら…!





「クソ!この数じゃ!」


「どーしましょう…」




  


 その時、シロは決心した… “戦わざるを得ない時”それは今だと。


 友達を見捨てて逃げるくらいなら自分のもっとも畏怖としてることもする、守るのに必要なら躊躇わない。


 これで仮に嫌われたとしても、二人の命を救えるのならそれは安い物だ。



 決心はついた。

 


 その時彼は自らが最も恐れるその力に、自ら手を触れた。



「ガァァァァァァアッ!!!」



 雄叫びをあげた彼の目はぼんやりと光を帯びていた。

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