第10話 橋を渡って山を登って

 高山… ジャングルちほーからロープウェイ(足こぎ)に乗り頂上まで行ける、そこにはジャパリカフェがあり店主のアルパカのフレンズが割りとハイテンションに出迎えてくれてそれぞれお客に合った紅茶や飲み物を出してくれる。

 かばんさんが来て以来トキのフレンズがカフェに通いつめており、来るお客さんに自慢の歌を聞かせている。(ただし歌は…)


「カフェか~、ツチノコちゃんは行ったことある?」


「あるわけないだろあんな行くだけで疲れるところ!でも紅茶は飲んだことがある、アルパカが降りてきたときにもらったんだ」


 彼女の表情は怒ったり笑ったりと忙しそうだ、でもこの言い方はきっと紅茶が良いものだったことを示しているんだと思う、期待大だ。

 彼女達フレンズが人間の味覚にどれ程近いかはわからないが、博士たちも料理をウマいウマいと食べていたので余程好みの別れるものでなければヒトと同じように味を感じるはずだ。


 で高山へ向かうために一度ジャングルへ足を踏み入れた。


「あ、なるほど川を渡らないと行けないんだね?」


「あぁ… だが問題ない、前はジャガーが運んでくれたが今は“かばぁんいん橋”がある」


「なんて?」


「だから!“かばぁんいん橋”だ!」


 なにその名前… ネーミングセンスやべぇよ、聞くにかばんさんが作ったように思えるのは確かだけど。

 しかしこんなでかい川に橋を架けるとか本当に何者なんだ?女の子ということだけわかった、あと人のフレンズであるということだが、屈強な女戦士みたいな子なんだろうか?


 歩を進めるとやがて楽しそうに笑う声や水のバシャバシャとした音が聞こえてきた。


「わーい!たーのしー!」


 そこに着くと確かに橋があった、そしてすぐ横にはでかい滑り台みたいなものがある。

 それは最後にジャンプして橋を飛び越えているという斬新きわまりないデザインで、さらにそんな滑り台を何度も繰り返し滑り飛ぶ子がいる。


「なにあれ?」


「特大滑り台だな、ぶっ飛んでるのがコツメカワウソだ」


 あれもかばんさんが作ったのかな?ちなみにその「ぶっ飛んでる」って滑り台のことだよね?あの子の頭じゃないよね?

 え、なにその目?可哀想なものを見る目だ… え?頭の方なの?ヤバイ子なの?そうなの?なにか言ってよ!


「ヤッホー!二人もやる?たのしーよー!」


「やらん!」


「えー!たのしーのに!そっちの君は?」


 こちらコツメカワウソちゃん、絵に描いたように元気な子で学校にいたら皆の中心となりさぞかしモテる子となるだろう。

 

 そんなコツメカワウソちゃんのせっかくのお誘いなのだが、俺がここで脱衣するわけにはいかないから丁重にお断りしよう。


「服が濡れるからやめとくよ」


「なんだー!つまんなーいのー!」


 終始楽しそうにしているコツメカワウソちゃんはそのまま「わーい!」といって滑り台に向かっていった、なんだかこっちまで元気になってきた。いや変な意味でなく。


 走り去る彼女の背中を見送るとすぐに後ろから誰かが話しかけてきた… 見た感じ猫の方。


「ツチノコじゃないか、こんなところに来るなんてめずらしいね」


「うちに帰るところだ、その前にカフェに行こうと思ってな?」

 

「おーい!ジャガー!」


 コツメカワウソちゃんが彼女を見付けると嬉しそうに滑り台の上から手を振りそう呼んでいた、なるほど彼女が川を泳いで運んでくれていたジャガーちゃんなのか。


「あなたは見たことないね?なんのフレンズ?」


「どーも、みんなはシロって呼んでるよ?俺は人なんだ?フレンズじゃないただの人」


「そうなんだ?よろしくシロ!ジャガーだよ!ヒトってことはかばんと同じってことかな?」


 いや、屈強な女戦士と一緒かと聞かれると勿論そうじゃない。

 同じ人間でも違いはたくさんある、尤も俺に関して言えば違い過ぎるほどだが。


 答えに少し困っているとツチノコちゃんが割って入るように代わりに答えてくれた。


「かばんはヒトのフレンズだがこいつはただのヒトだ!しかもオスだ!」


「ん~かばんもヒト… シロもヒト… 同じじゃないの?えっと… あれ?」


 まぁつまりみんな友達フレンズってことで丸く納めてもらった。

 

 それからこの橋のこと、ジャガーちゃんに聞いたのだけど。


 なんでもかばんさんが作ったのは基礎部分だけらしく、最終的に橋にしたのはオグロプレーリードッグとアメリカビーバーのコンビらしい。

 指示を受けたのか自らの意思できたのか分からないがその二人でこれを作ったそうだ。

 それはもうとんでもないスピードで造り上げ、コツメカワウソちゃんの「でっかい滑り台つくってー!」にも迅速に対応した匠だ。


「へぇ~器用なんだねその二人は?」


「正直凄すぎて何をしてるのか私には全然わからなかったよ」


 ちなみに“かばぁんいん橋”とは元が“あんいん橋”という名前たったのでこうなったらしい。(命名コツメカワウソ)←やはり君か


 作ったのにプレーリービーバー橋じゃないのか…。







「というわけでここがロープウェイだね」


「どんなものか興味はあったんだが…」 


 マジで足漕ぎだ、普通ロープウェイってゴンドラなんだけどこんなの初めて見た。

 機械には興味津々のツチノコちゃんもその想像を絶する高さと距離に絶句していた。


「結構疲れそうだなぁ…」


 ですが!任せてください?父さんが言ってたのさ?男は女を守るものだって。


「いいよ、俺が漕ぐから休んでなよ?」キラ☆


「うぉいおい!流石にキツいだろそれは!助かるが交代でやろう!疲れたら言ってくれてもいいんだぞ!」


「ありがとう、でも大丈夫だよ?任しといて?」


 策など無い、ひたすら漕ぐだけだ。


 そうして俺はペダル式のロープウェイをえっさほいさと漕ぎはじめた。


 が、これがまぁ… き、キッツい!着いたころには立てないんじゃないだろうか?しかし女の子の前で格好つけた手前ここで折れる訳にはいかないんだ。

 ツチノコちゃんは今どんな顔をしてるんだろうか?ちょっと見てみたいが振り向く余裕がない、ファイト一発!





 あぁん… 今、半分くらいかな?いや~キツいっす、流石に失速し始めた。

 いや本当に見栄張ってる場合じゃないね?どうしよ?誰か助けて?俺に力をお与えください。


「シ、シロ!」


「…?」


 返事をする余裕はないので振り向いてみた、この時俺が余程ヤバい顔でもしてたのか彼女は目が合うと「フェヒッ!?」みたいな声を出していた。


 そして彼女は言った。


「その…なんだ?疲れてないか?」


「…」


 疲れたさ!

 

 ここで「疲れたよ~?代わってよ?」というのは簡単なことだ、でもあんな顔で見られたら頑張らないと男が廃るというものである。

 だからやってやるぜ?でもこのままあからさまに疲れていたら彼女も気を使うだろう、今でさえかなり申し訳なさそうだ… だからこんな時はこう言ってやるのさ?


「大丈夫大丈夫!ハァ…全然楽勝だね!ハァ…」


「本当か!?そうは見えないぞ!?」


「余裕…っ!余裕さっ!ゼェハァ…」






 やがて頂上に着き、カフェに入ると俺の耳にこんな声が聞こえる…。


「ふぁ~!いらっしゃぁ~い!ようこそぉ!ジャパリカフェへぇ~!ゆっくりしてってぇ!」


 そう、彼女がアルパカ・スリ… 独特の訛りがクセになりそうな話し方をする癒し系、紅茶を入れるのが上手い。


「ありぇ?ツチノコぉ?めずらしいねぇ?」


「挨拶してる余裕はない!早く水持ってこい!水!」


 必死の彼女は店主に水を要求していた、俺の為だ。本当ありがとうございます。


「いろいろあるよぉ?紅茶のほうがいいんじゃない?」


「今は水だ!水でいい!」


「なんだぁ…ペッ!」


「いいから早くしろよ!こいつ見ろよ!お前の目は飾りか!?」


 とまぁそんな彼女達のやり取りには理由があり。

 俺は到着するなり倒れこんでしまったのでツチノコちゃんが肩を貸してくれてカフェまで運んでくれたのだ、これには頭が上がらないね?見栄を張るのもほどほどにしないといけないと学んだ16歳のある日でした。



 


「ぶはぁっ!ありがとう、いやほんとごめん!助かったよ!」


「お前なぁ!無理すんなって言っただろうが!?」


「ツチノコちゃん?男ってのはね、女の子の前でカッコつけたくなるんだよ?」キリッ


「知らん!そんなんで倒れられた方が迷惑だ!バカ野郎!」


 仰る通りですハイ、返す言葉もございません…。

 とりあえずその場でアルパカさんやトキちゃんにも挨拶とお礼を忘れる前に言っておこうと思う。


「ありがとうお二人も… もう少し休んでていいかな?」


「いいよぉ!やっぱりみんな山登りは苦手なのかなぁ?あんまりお客さんこなぃからぁ」


「そんなに来ないの?」


「前よりは来るよぅ?トキちゃんは毎日来てくれるしぃ!ねぇ?」


 アルパカさんが言うと全体は白く要所で赤の目立つ美しい鳥のフレンズ、トキが答える。


「ここの紅茶、喉にいいからお気に入りなの、すっかり入り浸ってるわ?ところであなた、疲れているなら一曲聴いてみない?私の歌で癒してあげるわ?」


 彼女は歌が得意らしい、いいじゃないか?お洒落なカフェで茶など嗜みながら優雅に歌を聴く… セレブだ。


「へぇ、歌?いいね、是非聞かせて!」


「だぁー!?おまえよせバカなこと言うな!?」


「え?何が?」


 ツチノコちゃんは何故止めた?これから何が起こるというのか?

 「ムフ」とトキちゃんが笑ったころにはもう遅い、彼女は歌い始めた。


「ワタシワァー!トォキィー!」


 なんだこれは!?ビリビリと耳に響いて、う… 脳が揺れる!

 これには参った、トキって鳴き声微妙なんだっけか?分からないがとにかく歌わせるものではないらしい、なぜそんな子が歌好きに?残念ながら疲れた体には毒だ… いやごめん毒なんだ。



「あぁ… なかぁまぁ…」←しっとり



「上手だゆぉ!」←称賛


「ありがとう、どうもありがとう」


 アルパカさんは平気らしい、何故だ?そして上手ではないよ?いやごめん上手ではないよ。

 そしてツチノコちゃんは眉間にシワを寄せながら呆れた様子で俺を見て言った。


「満足か!」


「ごめん、ごめんって?怒らないで?お願い!」


「ふん!今回限りだ!」


 許してくれた、ツンデレなんだからまったく… それにしても、まさかこの歌のせいで客が来ないとかじゃないよな?いや失礼極まりない話だけど残念ながらその可能性は捨てきれない。

 アルパカさんはなぜか気に入ってるみたいだし二人が傷つかないように穏便な解決策はないのだろうか?客が来ない理由の1つは君の歌だなんて言ったらトキちゃんはカフェで歌うことをやめてアルパカさんは大事な常連客であり友人でもある一人を失うだろう。


「ツチノコちゃんはなぜだと思う?」


「なんの話だ?」


「いや、さっきの歌さぁ?ほら…」


「あぁ…って歌のことなんてオレが知るか!PPPにでも聞け!」


 ごもっともだ、PPPの歌は聞いたことないからわからないけど、ならばアイドルとの違いから考えてみるか。


 踊らない。

 ポップじゃない。

 一人。


 って感じかな?待てよ?ってことは… えーっとすぐそこまででてるんだけど…。


「ねぇ?あなたは私の歌どうだったかしら?」


「え?え~っと…」


 催促が入ったぞ、まずいなぁさっさと答えをまとめないと。

 え~っと一人、踊らない、ポップじゃない… つまり曲調か?踊らないんじゃなく踊れないのか、そういう歌い方なんだ、というのはつまり… そうか!





 川を越え山を登り、疲れて倒れて心配されて… 歌を聞いたら頭が揺れて。

 そして今はトキの歌の感想を迫られているシロ、彼女の歌は正直言って歌として成り立っていない気がする、彼はそれに対してどう答えるのだろうか?

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