第9話 かばんさんの軌跡
「セルリアンが近くに集まってたって?」
「そう、ツチノコちゃんのおかげで切り抜けたけど、多分一人だったら囲まれてヤバかったよ」
「ヒトとフレンズが助けあう… 前にもそんなことがあったよ」
オオカミさんが話したのは少し前のことだ、聞いた感じ暦の概念がないのでハッキリわからないが、大体一年近く前のこと… だと思う。
ある日“かばん”と名乗るヒトのフレンズがいた、彼女は始め自分が何者かもわからずそれを見付けるためにパーク中を旅していた。
なんでもサバンナちほーでサーバルキャットのフレンズと出会ったことで始まった旅らしく、かばんという名前もそのサーバルが考えたものらしい。
かばんさんは各ちほーで悩みを解決、時にフレンズに知恵を貸し、時にフレンズに力を借りながら彼女達の旅は続いた。
やがて彼女が図書館に着くと自分がヒトだと教えられる、それからかばんさんは自分のルーツである“人”そのものに興味を持ち始めた。
しかし人はすでにパークから退去しており存在しない、「絶滅した」と言われていたのはこれが原因のようだ、ただ実際は俺のように普通に存在している。
フレンズのみんなはパークが世界だと思ってる節があるので、消えてしまった人間達に対し絶滅したという結論に至ったようだ。
ある時かばんさんはヒトの群れを探したいと思い、いつか海に出ることを決める。
港にも船があったらしい、案内で着いてきてきたラッキービーストが操縦可能の船だったそうだ。
そんなときだった… パークでも最大級の事件が起こったのは。
“黒いセルリアン”、こいつは普通のセルリアンと違いでかくて頑丈、しかもどんどん巨大化して手に負えない存在となった。
そこでかばんさんはフレンズ達を救うためにセルリアンを倒す作戦を考えた、海に沈めるのだ。
ツチノコちゃんも言っていたことだが、セルリアンは海水をかけると溶岩に変わるらしい、個体にも寄るらしいが。
しかしその作戦は虚しく失敗、サーバルキャットがかばんさんとラッキービーストを庇いセルリアンに飲まれてしまう、それを見たかばんさんはサーバルキャットを助けるために自らセルリアンに食べられてしまう。
…
「え… それじゃあみんなの言うかばんさんってもう…」
俺が不安げな表情を浮かべるとオオカミさんは不適な笑みを浮かべ「まだ終わってないよ」と言って続きを話してくれた。
…
食べられたかばんさん、その窮地を救うためラッキービーストが各地のフレンズを呼び集めた、そしてその指揮をとったのが他でもない博士と助手だったそうだ、さすがは長だね?
そして猛攻によりフレンズたちはかばんさんの奪還に成功、だが彼女は既にフレンズ化が解けて元の姿に戻る寸前であった。
セルリアンに食われると記憶を失い元の動物の姿に戻る、サーバルキャットは悲しみに暮れたが、かばんさんはヒトのフレンズなので戻ったところで姿はヒトのまま… では記憶は?
「まさか、すべて忘れて…?」
「いいや、あの子はすべて覚えていたよ… 理由は、やはりヒトだから… かな?」
そう、彼女は記憶を失っていなかった。
フレンズは皆手放しで喜んでいるところだったが黒セルリアンの行方が気になった、なんとやつは作戦通り港に向かっていた… これはかばんさんのガイドをしていたラッキービーストが行動を起こしていたためだ。
ラッキーは船を燃やしセルリアンを引き付けた、そして完全に船に乗ったところでセルリアンごと海に沈んだのだ、ラッキービーストも共に。
「ところがあのボスは体を失っても小さな部品だけであの子に語りかけた、特別なのかもね… かばんも、あのボスも…」
浜辺にこう… 液晶部分だけ打ち上げられていたそうだ、ということはあれがラッキーの本体なのだろうか?
「それで、今かばんさんはどこに?」
「海に出て“ゴコクエリア”という場所を目指したよ、もうしばらく経つけど… 元気にしてるのかな?フフ」
なにやら楽しげだ、旅に出た友人を懐かしんでいる。
そんなかばんさんに着いていったのは、サーバルキャットのサーバルにアライグマのフレンズの通称アライさん、そしてその相棒のフェネック… 出ていって一年ほどか。
ジャパリパークにはもう人はいない、それはどのエリアでも同じことのはずだ、パークガイドの宿舎も機能していないと聞いている… でもこれは俺が居たところの一般論に過ぎず、もしかしたら俺みたいに移り住んだり漂流されて住み着いてる人がいるのかもしれない。
でも正直不毛な旅だ… いや、あるいは普通に人の住む場所まで行ってしまえば、でもその場合彼女達はどのような対応を受けるか…。
「難しい顔をしているね?同じヒトとして思うところがあるのかな?」
「あ、ちょっと考え込んじゃって… ありがとうオオカミさん」
「いえいえ、いい表情頂いたよ?」
…
暗くなってきたな… そろそろ部屋に戻るか、ツチノコちゃん何してるかな?
話が済んだので自室に戻ることにした。
ドアを開けて部屋に入ると薄暗い部屋のなかツチノコちゃんがいる、じっとなにかを見てるようだ… なにか… あれは…!?
俺はハッとして彼女の手に持つそれを奪った、少し乱暴だったことを謝罪しなくてはならないだろう。
「あ、ごめん… 痛くなかった?」
「な、なんだぁ!?いきなり!?… ハッ!?大事な物だったか?」
俺が余程焦った顔でもしてたのか、彼女も焦って謝り返してきた。
いや、別に彼女は悪くないんだ… 俺が見てていいって部屋に置いてったんだから。
「うん… ちょっとね」
「お、おぉう!それはすまなかった!?」
「いや、大丈夫…気になるものは見てていいって言ったのは俺だし、気にしないで?」
「そ、そうか… その~… ところでそれ、なんなんだ?」
彼女が持っていたのは写真だった、父と母と俺が写ってる、俺が小さい頃の写真だ。
母は俺が幼い頃に亡くなってしまったので実質これが三人で撮った最後の写真となる、長い旅の御守りとして父が持たせてくれた。
そしてこの写真には俺の最大の秘密がある。
「写真っていうんだけど、知らない?」
「ハッキリとは…」
「その時その瞬間を特殊な紙に収めたものだよ、例えば俺とツチノコちゃんがロッジに来た記念に思い出として残したいってときには、カメラで撮って写真に残すんだ… そしたらいつかその写真を見たときその時のことを思い出せるでしょ?」
変な例えで話したのはこの写真のことを誤魔化したかったからわざとだ、彼女の口調はいつもの少し荒っぽいもので、そのままそれに対するツッコミをいれてきた。
「み、妙な例えをだすな!… だがわかった、つまり絵みたいなものか?」
「まぁ、近いね」
「じゃあ… それに写ってるのはお前か?」
そう、俺と父と母… でも言えないね、まだ話すわけにはいかないよ。
「…ナイショ」
「教えろよ!気になるだろ!?」
それは言えない、まだ言えない… この秘密はまだ博士と助手しか知らないんだ、あるいはこの旅が終わってまた会う機会があればその時には友人として筒に隠さず話そう。
…
翌朝、俺たちは予定通り朝一にロッジを出ることした
「じゃあ泊めてくれてありがとう」
「いいえ!またお越しください!」
「私の漫画もよろしく、それと君の面白い話もね?」
「探偵が必要ならいつでも言って!」
おのおのから別れの言葉を聞いて俺たちはその場をあとにした。
去り際に「図書館にきたらなにか料理を振る舞うからよかったら遊びに来て!」とだんだん社交辞令になってきた台詞を言っておく、三人とも興味ありげだ。
「さっさと行くぞ…」
「うん、君にはまだお世話になるけど… 索敵頼むね?」
「任せろ… まぁ、自分の身の安全もかかっているからな!」
相変わらずツンデレな子だ、昨日の写真のことをあまり執拗に聞いてこないのは助かるが、本当は気になって仕方ないとかなんだろうか?俺があまりに嫌がるので気を使って問い詰めないのかもしれない。
これから俺たちはまっすぐ高山を目指す。
…
時は一日戻りジャパリ図書館にて… 一体のラッキービーストが長の二人のもとを訪れていた。
「ラッキービースト?」
「我々になにか用なのですか?」
何も言わずピカー!と目が光り映像が立体に映し出される、そこに映る姿は…。
「シロ!?」
「これはいったい!?」
『博士~?助手~?シロだよ~?』
「なんですかそれは!」
「近くにいるのですか!?」
この時シロたちはまだ港だ、ラッキービーストと会った際にシロはあることを思い付いた… それは「ラッキービーストって通信機能ついてるんじゃないか?」ということだった。
ハッとしたシロは「案内はいいからジャパリ図書館のアフリカオオコノハズクとワシミミズクに通信できないか?」と彼に訪ねた。
答えはイエスだ、ラッキービーストはラッキービースト同士で通信ができるので「近クノ、ラッキービースト二、繋イデミルヨ」と答える、そうして現在に至るのである。
『なんか自分でシロって言うの恥ずかしいね?』
『いいから用件を伝えろよ!』
「博士、あれはツチノコです」
「ツチノコ、お前まだそんなとこをウロウロしていたのですか?」
『お前らが置いてったからだろ!?』
茶番はいいとして、シロは二人に用件を簡潔に伝えていった。
『今港なんだけど、ツチノコちゃんが一人じゃあ怖くて帰れないみたいだからさばくちほーまで送ってくよ、なんかセルリアンも多いみたいだし』
『うぉい!?お前なにいってんだぁ!?べ、別に怖くなんか!』
『でも、俺の船に引きこもってたじゃん』
『ぅぐ… つーかお前が着いてくるか聞いてきたんだろうが!?』
なにやら親しげに話す二人を見て長は無言の時を過ごしていた。
『ごめんごめん、本当助かるよ?ありがとう?』
『そ、そうか?』
シロは既にツチノコの扱いに慣れ初めていた、長はその姿に感慨を… 覚えることはなかったのでとにかく早く食事にありつきたくて急かすことにした。
「何をいちゃついているのです?」
「シロ、早く帰ってきて料理を作るのです」
「ヒグマはあまり料理がうまくないのです」
茶番はいいとして、シロはまた用件を簡潔に伝えた。
『そうそうそれで、一旦ロッジに泊まって様子を見てから向かうから、帰るまで三日はかかると思うんだよね?』
「三日!?」
「長すぎます!」
「すぐに戻るのです!」
「今すぐにです!」
『えぇ~無理だよ?』
「飢え死にしてしまうではないですか!」
『ジャパリマンを食えよ!!』
「飽きたのです」
「飽き飽きなのです」
『クッ…こいつらぁ…!』
こうしてシロは二人をなんとか言いくるめツチノコとの旅が始まったのだ、長の二人にはとりあえずさばくちほーについたら迎えにくるということで譲歩してもらった。
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