第7話 船のなかには

 心地よい潮風だった… この港、日の出港では穏やかな波に揺られる俺の乗ってきたボートがある、とうとう目的地に着いたのだ。


 当時と船内の様子が少し違うのは妙に散らかってるというところだ、もしかして天気の悪い日にいろんな物が揺れで落ちた?いや違う… どうやらお客さんが来たようだ。


 明らかに誰か入った痕跡が残っている。


「泥棒?いや、フレンズさんが無自覚に好奇心を満たしてるだけか?でも荒らされるのは困るんだよなぁ…」


 まだ中にいるかもしれない、俺は恐る恐る中を覗いた… が見た感じたなにもいない、もう出ていったのだろうか?


 でも俺が寝床にしていたスペースの辺り、そこで小さな音が鳴った。

 “ゴソッ”というような何かが動く音だ、波に揺れてなにか動いた?いや違うな、ここにはまだなにかいるんだ。


 続けてゴソッ… ゴソッ… と小刻みに動くのが確認できた、間違いなくいる。


 よし、ゆっくり近づくぞ、ゆっくりだ…。


 ソロリソロリと奥へ進み、手が届く距離まで来た瞬間いっきに物をどかす。


 さぁ出てこい!ガバァッと勢いよく毛布を剥がしてやった。


 そこにいたのはなんと。

 

「…!?」


「アァァァァァアッ!?!?!?」


「わぁーッ!?」


 青い髪の女の子、俺この子知ってる… 前に会ってるもの。


「何してんだオマエェ!?」


「ツチノコちゃんだったのか… いや君が何してんの?俺の船で?」


 この挙動不審と悪態は間違いない、フードを被った彼女はツチノコちゃんだ。

 初日に博士たちに放置された子、初めて会ったのは遊園地ってことはあれから何日もここにいたってことだろうか?もしかして帰れなくなったのかな?


 とにかく、落ち着いて話す為には何か飲み物でも出そう。






「ふぅ…」


「落ち着いた?」


「あぁいや、すまないな?これには事情があってだな…」


 とりあえずコーヒーをだしていおいた、飲んだとき彼女は「ヴォアハァ!?なんだこれはぁーッ!?苦いぞ~!」と嬉々として俺に語ってきたのだが、目が合うと「コホン」とひとつ咳払いをして正気に戻った、こうして照れるところがまたお茶目なものだ、苦いと言いつつ飲みきったし、気に入ってくれたのかもしれない。


 どれ俺も… 苦ッ!ミルクと砂糖は必須だな。


「とにかくどうしたのさ?何故こんなことに?なにかトラブル?」


「セルリアンだ…」


 なんでも彼女の話だとセルリアンが複数現れて身動きがとれない状態になってしまったらしく、その時港に浮く俺のボートが目に入りしばらくに身を隠していたそうだ。


「やつら、そこら中でオレを狙ってやがるんだ… 様子を伺っているのかわからないがここにいる間は襲われていない、とっさに飛び込んだから散らかしてしまったが、悪気はないんだ!許してくれ!」


「いいよ、無事でよかった… それじゃあツチノコちゃんはセルリアンのせいでここを動けないんだね?」


 なるほど、これはフルルの言ってたヤツに違いない、港にセルリアンとは聞いたがまとまって現れるとは… 囲まれるくらいだから5体や6体はいたってことだろう。

 でも俺が着いたときは特に何もいなかったな?水辺にいるフルルに話が入ってるくらいだし、もしかしてもう駆除されたんじゃ?確かハンターがいるはずだ、セルリアンハンターの… そう、ヒグマさん。


「俺が来たときは何もいなかったけど、ここを離れたとか駆除されたとかじゃ?」


「本当か!?いや… 待てよ?夜に活動的になるのかもしれない」


「みずべちほーで港にセルリアンって話を聞いたんだ、ってことはもう広い範囲で知れ渡ってるくらいには落ち着いてるんじゃない?俺が来たルートでは一度も会わなかった」


「一理あるな… 確かに今は近くにはいないみたいだ」


 何で分かるのか聞いてみると「ピット器官!」と自信満々に返ってきた、なんだかよくわからないけど蛇とかにあるサーモグラフィーみたいな能力だっけか?まぁいい、でもそれがあるなら突破できるのではないか?俺が思っているより遥かに数が多いということだろうか?


「ツチノコちゃん、俺はここにいくつか荷物を取りに来たんだ?まとめたらすぐに出たい、食いしん坊を二人待たせているからね」


「すっかり飯番になったなオマエ」


「まぁね、だからセルリアンがいるからといって待ってる余裕はないけど… 君はどうする?」


 俺は一人でも勿論予定通り帰らせてもらうが、危機回避の為にお互い行動を共にするのは利があるはず、友達フレンズだもの、助け合いさ。


「き、来てほしいなら断る理由もないぞ!別に…」 


「本当?じゃあ行こうよ!ツチノコちゃんのちほーまで送ってくからさ!頼むよ!」


 やったぜ、実を言うとツチノコちゃんみたいに索敵能力が高い助っ人がいると助かる、一人でも行くのだが俺一人ではいざ遭遇したときセルリアンの餌食になるんじゃないだろうか?単なる思い付きだったが着いてきてくれるのは素直に嬉しい、一人旅はなんか寂しいしね。


「オレはさばくちほーから来たんだぞ!?」


「いいってそんなの、地図で見たけどここから高山越えたらすぐじゃん?チョロいチョロい」


 昨日山をナメて死にかけたばかりだがちょっと見栄を張ってみる、見栄は俺の悪い癖だが男って女の子の前でいい顔したいと思うものだ。 


「しんりんちほーに行くには遠回りだろ!」


「心配してくれるの?」


「…ンハァ!?いや… まぁ、一応な…」


 それに本当は優しいんだツチノコちゃんは、照れ屋さんだから照れ隠しで口が悪くなるだけで、ここに来て最初にできた友達だし大事にしていきたい、それにいろんなちほーに行けばいろんなフレンズに会えるだろうしこの旅は遠回りしても決して無駄にはならないはずだ。


 丸め込んだ… と言うと語弊があるがお互いに利があることを話すと納得して行動を共にすることを承諾してくれた。

 俺達は地図を広げてざっくり帰り道を決める話し合いを始めた。


「それじゃあルートを決めよう」


「頼む」


 まずは少し戻ることになるけどロッジに行く、すぐに出たいけどツチノコちゃんの言う通りセルリアンが夜に活発になってたら逃げられないからだ


「それに小舟に男女が二人で寝泊まりというのは… ねぇ?」


「そ、そうだな!」


 だからまずはロッジへ、それから早朝まっすぐに高山を目指す、火山側に沿っていけばまっすぐ行けるはずだ、沿っていくくらいなら博士達も許してくれるだろう。


「ねぇ?せっかくだから高山に登りたいんだ、いいかな?」


「ま、カフェで紅茶も飲めるし… オレは構わないぞ?」


 そうそうカフェがあるんだよね、紅茶を出してくれるのか、それは俺も興味ある。

 でそれからジャングルちほーに降りて川を越えればすぐさばくちほーだ、そこでツチノコちゃんを家に送り届けて俺はそのままルート通りしんりんちほーの図書館へ帰る、完璧なプランだ。


「ツチノコちゃんの家ってどこなの?」


「オレは砂漠にある地図に無き遺跡に住んでいた、まぁそこが家ってわけじゃないがな、単に暗くて狭いとこが落ち着くんだ」


「ふーん… じゃあ環境さえ合えば実質どこだっていいんだ?」


「ま、まぁ簡単に言えばそうだが、一応帰る理由はある…」


 おやおや?誰か待たせている人でもいるんだろうか?家族とか友達とか?彼氏… はいないのか、物理的に作れないよな彼氏とか旦那ってのは、女の子しかいないからフレンズである限りできない… まぁいい。

 

 これで「だったらどこでもいいじゃん」なんて言わない、それぞれ住みやすいとこがあるし誰か待たせてるなら尚更だ、きっとその人もツチノコちゃんを心配してるだろう。


 大体話はまとまった、そろそろ出よう。


「言っとくが!セルリアンはなるべく避けて進むからな!」


「それがいいね?でも大の男が女の子の後ろに隠れる訳にはいかないし、いざとなったら俺が戦うよ」


「戦うって… お前はヒトだろ?」


 そう、そうなんだけど?俺もそういう訳にもいかないことってあると思ってる。

 そしてその時こそ、戦わざるを得ない時にこそ、俺は“本当の俺”になる必要があるのだと思っている。


 だから答えた。


「大丈夫、策はあるよ」


「ならいいんだが… まぁここは、ヒトとしてのお前の閃きに期待させてもらうぞ?」


 と彼女は言ってくれるが、残念ながら俺の考えてることはそんな頓知の利いた策ではないのでガッカリさせるかもしれない。





 二人で作戦会議の最中、ピョコピョコと独特の音が聞こえてきたので外に出ると、なんだか小さくて青いヤツがそこにいた。

 それでいて耳がツンと立っているその青い何かがこちらに気付きじっと様子を伺っている、無機質な目だ。


「何あれ?生き物?」


「ラッキービーストだ!」


 へぇ… そうかあれが博士たちの言ってたガイドロボットだな?なんでも俺なら話すことができるとか、フレンズに理解できない方法で喋るってことだろうか?


 やがてロボットは俺達の前までピョコピョコと歩いてくると動きを止めた、目は緑色の光をだして何やら機械的な音がする… がそのまま沈黙している。


 なんか悪いことしましたかね?通報してるとかじゃないよね?


「おかしい、調子でも悪いのか?」


「どういう意味?」


 ツチノコちゃんが言うに、このラッキービーストとやらは人間を見るとお客様とみなしパーク内を案内してくれるらしい。

 現にかばんさんはこのラッキービーストの案内でパークを移動してたそうだ、しかもバスに乗って動いてたって?いいなぁ俺も乗り物欲しい…ってまぁそれは置いといて、こいつはフレンズとは話さないらしく、喋るのは人間に対してだけとのことだ。


「なるほど、つまり俺を前にしても喋らないのはおかしいと?」


「一応確認なんだが、お前… ヒトでいいんだよな?」


 疑いってほどでもないが疑惑の目を向けられている、少し胸に刺さる視線だ。


「見たらわかるでしょ?耳も尻尾もないし、なら当然フレンズでもない… でしょ?」


「そう… だよなぁ?なんで話さないんだ?かばんとは話してたのに」


 聞くに俺と彼女が初めて会ったときもラッキービーストが近くにいたそうだ、その時彼女はジャパりまんを1つもらっただけだが、近くにいたのに俺に反応しなかったのはなぜか?と気になったらしい。

 故障だとしたら同一個体なんだろうか?あるいは長いこと放置されて機能がいくつか死んでいる個体が多いのかもしれない… まぁ、多分どれも違う… 単に俺自身の問題だろうなとは思う。


 でも…。


 それじゃあ認識してもらおうということでこちらから話しかけることにした、相変わらずフリーズしてるみたいだし。


「ラッキービースト… さん?俺はヒトだよ、お客がきたよ?」


 俺がこう言うといかにもエラー起こしてます感をだしてワナワナし始めた、大丈夫か?と不安になったものの、次第に“ピーン”みたいな音と共に正常に戻り始めたのでどうやら問題ないらしい。


「…“オ客様”トシテ認識シマシタ、大変申シ訳アリマセン」


「おぉ!しゃべったぞ!」


「ボクハ、ラッキービーストダヨ、君ノ名前ヲ教エテ?」


 よし、お客様認定が完了したみたいだな?教えてあげればきちんと認識してくれるじゃないかいい子だ。

 それにしても、フレンズかどうかというのは見た目だけで判断してるんじゃないってことかな?きっと見えないなにかを検知してるんだろう。


 さて… 本名を名乗ってもいいけど、ここに来てからはもうシロで定着してるからな。


「OKラッキー、俺のことはシロと呼んでよ?」


「ワカッタヨ、シロ」


「それ博士たちがつけた名前だろ?いいのか?」


「いいさ、ここにいる限り俺はジャパリパークのシロだよ」

 




 港に着くなり船にはツチノコが、辺りはセルリアンに囲まれているらしい… シロはツチノコと協力して移動することを決意し二人はさばくちほー目指す、そんな中現れたラッキービーストと話したシロはなにか思い付き、彼に1つお願いをするのであった。

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