第6話 おとこゆ
ギンギツネは焦っていた、まさか善意で助けた遭難者が害をなす存在だったとは思わなかったからだ、きっと妙な鳴き声も影もアイツだったのだ… そう思った。
そして彼女は着いた、キタキツネが入り浸るゲーム部屋、ここで今まさに遭難者がキタキツネに襲いかかろうとしている。
部屋からはキタキツネの悲痛な叫びが聞こえてくる。
「うぇ~!強い~!?」
「よーし!覚悟しろー!」
「ふぇ~!?待って待ってお願い!」
大変だ!もう追い詰められている!そんな状況が容易に浮かぶ会話が聞こえてきた、意を決したギンギツネは待ってられるかと言わんばかりに部屋に飛び込んだのだった。
「私が相手よ!キタキツネを離しなさ…い?」
が、勢いよく突入した彼女が見たのは思っていたのとは違う光景であった。
“てゅ~ん!KO!”
「なにぃ!?逆転された!?」
「ふっふっふっ!ガード不能技だよ」
「くっ!とっさのことでテンパってしまった!」
なにこれ?
これが今この状況に対してギンギツネの言いたい一番の言葉だろう。
突然部屋から居なくなった彼… シロはキタキツネと会うも人見知りの彼女とは会話にならなかった。
しかし二人はゲームという人類の叡知を通じお互いを理解し、まさにフレンズとなることができたのだ。
「次で… 決まる!」
「勝つのはボクだよ」
“ファイナルラウンド… ファイッ!”
「「ウォォォォオッ!!」」
「なんなのこの子達…」
心配ですっ飛んできたというのに、このような光景を見せられては流石のギンギツネからも呆れた言葉が出た。
…
「というわけなんだよ、助けてくれてどうもありがとうギンギツネさん、キタキツネちゃんも」
事の経緯を説明するとすんなりと受け入れてもらえた、俺を運んでくれた二人には感謝してもしきれない。
「いいえ、でも宿の方向を間違えて頂上に行くなんて聞いたこともないわ?とにかく無事で何よりとしか言えない」
仰る通りですはい、吹雪いてたので見えませんでした。←言い訳
「さすがはボクのライバル」
「お?やるかい?」
「よーっし」
「ゲームはあとにしなさい!」
俺を助けてくれたのはこちら、キツネのフレンズのギンギツネさんとキタキツネちゃんのお二人。
どうやらこの宿は二人で管理しているしく原泉の調査に行ったときたまたま倒れていた俺を見つけたらしい。
見つからなかったら俺は今ごろ冷凍人間になってたのかな?ゾッとする、二人は命の恩人だ。
「でも元気そうでよかった」
「それはもうおかげさまで!」
このようにへこへことギンギツネさんに感謝を表す俺、そんな俺にキタキツネちゃんが思い出したようにこんなことを尋ねてくる。
「ねぇシロ?頂上で何か変なの見なかった?」
変なの?
とはなんだろうか?俺一人しか居なかったと思うけどなにせ気絶してたもので… まさかセルリアン?セルリアンが頂上に?危ないところだった。
知らないので普通に知らないと答えたが、二人は確かに妙なヤツの気配を吹雪の中に感じたらしい。
「う~ん気のせいだったのかしら?吹雪の中を鳴き声みたいのをあげながら猛スピードで上がってく何かを見たのよ…」
「イベントバトルかと思ったけど違ったね」
なにそれ?怖いなぁ雪山の怪物かな?でも山頂には確かに俺しか居なかったはずだ、そのまま反対の下りへ通過したのでは?
「どんなヤツ?」
「鳴き声っていうか吠えてるって感じだった… ハッキリ見えなかったんだけど大きい影だったわ、きっと私の倍はある」
「遠すぎただけだと思うけど磁波も感じなかったよ、やっぱりギンギツネの勘違いなのかも…」
「なんにしても気をつけた方が良さそうだね?俺も助けになりたいけどあんまり役に立てそうにないし」
その化け物の正体はわからないが、とりあえず俺は今夜ここで寝泊まりすることとなった。
もう辺りは真っ暗だ、あの吹雪が嘘のようにおさまり今は雲一つない満月の夜、月明かりが雪原を照らしてとても綺麗な景観… いい宿だね。
「せっかくだし温泉に入ったら?」
ギンギツネさんのご厚意で温泉を進められた、まぁ確かに温泉宿にきて温泉に入らないなんて愚の骨頂ではある。
それでは是非と俺はお言葉に甘えて入らせてもらうことにした… んだけど。
「どうしたの?入らないの?」
とギンギツネさんはキョトンとした顔で俺を見る、これには理由があり俺も聞きたいことがある
「うん、ごめん1つ聞いていい?」
ちょーっと予感はあったのだけど、これはなんて最高な… いやいやちょっと都合の悪い予感で、この空気的にもう確定なのだけど、あえて聞くことにする。
「混浴なの?」
「混浴?」
わかってもらえないのか?だがこれが即ち答えであり現状である、つまり…。
「男湯と女湯って別れてないの?」
「え~っとごめんなさい、ちょっと言っている意味がわからないのだけど…」
この状況、つまりフレンズとはいかなる場合もメスであり女の子しかいない。
実際のところ俺の会ってきたフレンズらは少ないがみんな女の子だった、つまり女の子しかいないフレンズ達は男女の概念が割りとどうでもいい感じになっており、当然女の子しかいないのでお風呂を分ける必要がない。そもそも分けるという概念がない。
即ち混浴という答えに必然的に行き着くわけだ、いや混浴もなにも女湯しかないと言うべきだろうか?
つまりだ…。
今現在、俺はフレンズ混浴祭りを余儀なくされているということなのだ。
「先に入ってもいいかしら?」
そういうとギンギツネさんは服を一枚一枚… なんて大胆な!いやまて!それはいかん!
「待って!ちょっと待ってお願い!お願いだから!」
「どうしたの?」
「オーケーそれじゃあいくつか質問させて?」
ほっと胸を撫で下ろしてから質問を開始。
1つ目「男と女の区別がつきますか?」
これは分かるそうだ「オスかメスかくらい分かる」と少しムッとして言われた。
2つ目「羞恥心は?」
「なにそれ?」と言われたが、要は恥ずかしいかどうかの話であること伝えると「分かる…」と頬を赤らめて教えてくれた。
なになんかその… こういう状況であまり俺の理性を試さないでほしい、野生解放しちゃうぞ?ガォー
3つ目「では
この時ギンギツネさんは黙る… 獣の頃ならいいだろう、気にするほどの思考回路は持ち合わせていない、むしろそれが自然体だ。
でもフレンズ化して人の姿をとることで何か心境に変化はないのか?
整理が着いたのかみるみる顔が赤くなっていくギンギツネさん、彼女は目を逸らしながら俺に言った。
「なんだかわからないけど、言われて冷静に考えるとそれは… と、とても恥ずかしい…///」
「だよね!?よかった!つまりそういうことなんだよ俺が言いたいのって!」
やはり、フレンズは姿だけでなく心理的にもヒトに近付いていた?いやよくわからんけどもきっとそうなんだ。
「で、でも待って!フレンズはみんなメスのはずよ!なんの関係があるの?」
「もぉ~!区別ついてるんだよね!?俺男だよ!だってフレンズじゃなくて普通のヒトだもん!」
「え、えぇ!?」
え?もしかしていま気づいたんですか?そうですか… 区別とは。
とにかくいろいろ察してくれたらしくなんとかしてみるとのことだ、ご迷惑お掛けします。
なんでも面倒なので温泉を通していない方の部屋があるらしく、そこを使ってみるそうだ。そういうことなら俺も手伝わない訳にはいかない、ご飯も頂いて俺のワガママでお風呂をもう1つ用意するんだから掃除くらい手伝おうじゃないか。
「いや~家庭の風呂と違って広いから掃除しんどいね」
ごしごしと風呂場の汚れを力業で落としている、ギンギツネさんこんなの定期的にやってるとか尊敬しますわ。
するとそんな俺の元へ掃除してないほうのキツネさんが。
「シロ~?何してるの?ゲームしようよ?」
「こっちのお風呂を使うから掃除してるんだよ、ゲームは後だね」
キタキツネちゃん、そうしたいのは俺もやまやまなんだよ?ゲームなんて二度とできないと思ったし。
俺は断りを入れるとまた黙々と掃除を再開した、しかしだ。
「えぇ~!つまんなぁ~い!」
ときたもんだ?こまっちゃ~う… だがそれならいい考えがある。
「じゃあキタキツネちゃんも一緒にやる?その方が早いと思うよ?」
「ん~… わかった、それならボクも手伝う」
「やったぜ!ありがとうキタキツネちゃん!」
いいね、ただの怠け者でないって俺わかってたよ?まぁこんな感じで二人で仲良く掃除に勤しんだ訳なんだけど(深い意味はない)。
そしてその光景を見たギンギツネさんは思わず一瞬フリーズしてしまい状況が把握できると一言。
「キタキツネが進んで仕事をするなんて…」
普段どれだけダラダラしてるかがわかる、そんな一言だった。
でもキタキツネちゃんは要領がいい、やればできるタイプの子なんだろう。
そうしてやがて二人のお掃除タイムは終了を迎える。
「終わり!」
「疲れた~…」
暑くなったのかブレザーを脱ぎシャツの腕を捲っていた、薄着な為に少々目のやり場に困る。
「あ~… 後はやっとくからキタキツネちゃん向こうの温泉入っておいでよ、汗かいたでしょ?」
「うん、でもシロは?」
「ほら、お湯が出るか確かめないとね?ちょっと機械をチェックするよ」
「わかった、じゃあまた後でね」
「うん、またね」
やれやれ大変だなフレンズ温泉。
さておき難しいことはわからないけど温泉のパイプは宿に着いた段階で別れている、片方はすでに使われてる方、もう片方はこっちだ。
ということはこっちのどこかにパイプの入り口とか止めているバルブがあるはずだ。
「ほら、あったぞ~これを開けてっと…」
少し固いが、一応俺も男なのでなんとかしてみる。
「ぐッ! …よし!おぉ!でた!で… あぁ」
くそッ!湯の花め!
とまぁそんな面倒があったのだけどこうして男湯が完成した、女湯とは壁1つで分けてあるだけなので気合いをいれればすぐに入れるのだがそんなことはしない、いややるわけにはいかない。
とにかく早速ギンギツネさんに報告だ。
「わぁすごい!温泉がもう1つ!」
「ボクもがんばったよ」
「えぇ、そうね!ありがとう!」
うん… なんだか為になることをした気がするぞ、一宿一飯の恩ってやつかな?これで俺も温泉に入れるというものだしね。
「これでシロもゆっくり入れるのね?」
「うん、というか物理的にはそっちに入るのは可能だけど… お互いにそれはまずいでしょ?」
「え、えぇ… まずいわ…」
モジモジと赤面するギンギツネさん、そんな彼女を見てキタキツネちゃんがキョトンと疑問の声を投げる
「ギンギツネ顔が真っ赤だよ?なんでシロは一緒に入れないの?」
「シロはオスなのよ」
「知ってる」
うん、キタキツネちゃんには話してたからね… え?わかっててその発言を!?
このあとオスとメスの関係についてギンギツネさんが真っ赤な顔で説明したのを堪能した後、俺もゆっくりと温泉に入ることにした。
が…。
「ふぅ~極楽極らk…」
「温泉最高だよよよ~…」
「え?」
「え?」
その時、時間が止まった気がした… なんかいる… いや、なんかいる。
もうスッゴいビックリしてとりあえず角に寄ったよね、彼女はカピバラ… 温泉大好きなフレンズでこの宿には毎日のように入り浸っている、むしろ住んでいると言っていい。
そして今そんな彼女がなぜかできたばかりの男湯でまったりとくつろいでいる。
なぜか?
「アィエェェェエッ!?」
その後俺の叫び声を聞いたキツネコンビが男湯に駆けつけた、ギンギツネさんは状況を察してカピバラさんに出るように促すと、彼女は納得したのかスッと立ち上がり素直に出ていった。
もう~見ちゃったじゃん!まだまだ思春期なんだよ~俺は!
ひたすらドキドキとする心臓を押さえることしかできない。
「なんだ、カピバラ入ってたならボクもこっちに入ろう」
とキタキツネちゃんが脱ぎ始め、それをギンギツネさんが全力で阻止したのだが、そのせいもあり落ち着くまで温泉を出れない俺だった。
結果すこし逆上せたのだけどこれで逆にゆっくり眠れそうだ、ただし朝いろいろ思い出してなかなか布団を出れなかったのは内緒だ。
…
翌朝、朝御飯を済ませてキタキツネちゃんとゲームをして俺が勝ち、そのまま港を目指すことを伝えた。
「行っちゃうの?」
「うん、荷物を持ったらすぐに図書館に戻らないと… 何日も空けると博士たちが無茶な注文をしてきそうだし」
「そっか…」
そんな顔されたら行きにくいのだけど、行かなくてはならない。
ここにいると眠れなくなりそうだしね。
「二人ともありがとう、よかったら今度図書館に来て?なにかごちそうするよ」
「わかったわ!気を付けてね?」
「シロもまたきてね?」
「勿論、また勝ちに来るよ?」
「次はボクが勝つ」
…
そんな会話をして温泉宿を後にした、ここで一晩泊まったからロッジは寄らずにまっすぐ港を目指すが、帰りは利用させてもらおうかな?
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