第5話 雪山を越えて

「さて、着いてしまったぞ…」


 水辺を後にしてしばらく、それはもうあっさりとゆきやまちほーへ到着した。


 道中セルリアンに会わないか?とか、フレンズさんと会えるかな?ってびくびくドキドキしてたがそういうこともまったくなく普通に雪山に着いた。なんでだよ。

 

 冷たい風が吹き抜ける雪山を前に考えた。

 

 このまま登ってもいい、もちろんこの勢いで踏破するのも旅の醍醐味と言えるだろう。しかしどうだ? 


 「山をナメるな」これは山を知るあらゆる先人達が言う言葉だ、そしていまの俺はその言葉を踏まえた上でどうだろう?


「いや、どう考えてもなめてるよねぇ?この軽装備は…」


 上は普通の長袖のシャツ、下は普通のジーンズ、靴だけは丈夫めのブーツだが決して登山靴ではない… 雪を歩くにはどのみちスニーカーとそう変わらないだろう。

 せめて船に戻ればいろいろあるのだけど今まさにその船を目指しているところだし、潔く明日の朝目指そう!と言ってもそれは不安の先伸ばしに過ぎない。


 正直今寒がって夜凍死するか朝寒がって凍死するかの違いだと思う、だったら…。


「すぐに行こう、気合いで温泉宿まで辿り着いてやる」


 そうだ、図書館から出たときもライブ会場の時も一応看板があった、案内看板だ。


 例のかばんさんのアイデアかもしれない、妙に目新しいものもあったからわりと最近作ったんだと思われる。

 もし本当にそのかばんさんのおかげならかばんさんはよく頭のキレる人だ、尊敬するし会える日がくるなら是非お礼がしたいほどだ。


「さて、そんじゃ行こうか!」


 考えるのをやめて覚悟を決めると俺は雪原に向かい歩を進めた。







「で、勢いで入ってはみたんだけど…!」


 さ、寒い!本当になめてた!


 まだ天気が良ければ止まらずに動いて体も暖まっただろう、でもそんな思惑とは裏腹に太陽は隠れフワフワと雪が舞い始めた。

 そして今は吹雪で視界が悪く看板も途中でわからなくなってしまった、これはわりと普通に死活問題だ。


「うっ… 本格的にまずいなぁ、どこかに凌げる場所はないのかな?」


 辺りを見回すが数メートル先もハッキリと見えない、無闇に動けないしこの場で黙っていてもアウトだ。


「覚悟… 決めるか?」


 よしわかった、わかってはいたけど“アレ”をやるしかない!もちろん本当は嫌だ、これが原因で俺はここに来たんだしパークにきて使うのは初めてでどうなるか。


 だが仕方ない。


 一度姿勢を整え全身の力を抜いた。


「よし… やるぞ!」







 シロが雪山の猛威に苦しんでいたその頃、温泉の管理人であるギンギツネとキタキツネのコンビは以前のかばん達のようにカマクラをその場に作り吹雪を凌いでいた。彼女達の目的はその時と同様に原泉の調査である。


「定期的に湯の花の詰まりをチェックするのも楽じゃないわね」


 しっかりした方… ギンギツネがぼやくように言った、続けてその言葉に小さく反論するようにいかにも気だるそうな感じでキタキツネも答えた。


「雪の得意なフレンズにやってもらおうよ~?そしたらボクずっとゲームできるし」


 ギンギツネはしっかりものでキタキツネはめんどくさがり、二人はまるで姉妹のようでギンギツネはキタキツネの面倒もよく見ている。

 キタキツネのことをギンギツネ放っておけないし、そんなギンギツネのことをキタキツネは良く慕っている、デコボコに見えるが良いコンビである


「頼むだなんて… そういうわけにもいかないわ?そしたらそのフレンズが大変になっちゃうもの?それに、雪なら私たちだって得意でしょ?」


「え~?だってめんどくさいんだもぉん!」


「困った子ね…」


 こんなことを言っているがギンギツネはキタキツネを見離すことはないし、キタキツネもやるときはやるのである。

 

 やがて吹雪が少し落ち着いた頃、ギンギツネがそろそろ進めないかと外の様子を伺っていた時だ、彼女はその時になにかいつもと違う何かを感じたのだ。


「なに…?あれ?」


「どうしたのギンギツネ?」


「何か聞こえない?なんかほら… 鳴き声みたいな?あと影も、ほらあの辺」


 まだ遠くの方はハッキリとは見えない、しかし確かに何かの影が山頂に突き進んでいるように見えなくもない。


「うーん磁波っとこないけど変な感じ… ボス戦の前はレベル上げと装備をしっかりしないと」


「あなたねぇ?それまたゲームの話?」


 ギンギツネは思った… 今まであんなものは見たことがない、それこそかばんとサーバルみたいに好奇心で遭難しかけてる子はいたがこんな吹雪で視界も足場も悪いのに頂上に向かって猛進するものなんてものを彼女は知らない。

 あれはもしかして新手のセルリアンだろうか?でも上に向かうのはなぜ?セルリアンの気を引くような物なんて上にはないはず。


「ハッ!?まさか!」


 いやある、源泉やそれを汲み上げる機械… それらが山頂にはある。

 さっきのセルリアン的なものはなにかそっち系のヤバイことをしようとしてるのではないか?ギンギツネの胸に不安が過る。


「ヤバイかも、こうなったら行くわよ!」


「えぇ~!?やぁ~だぁ~!」


「いいから行くの!」


 めんどくさがりなキタキツネを多少無理に外へ連れ出し山頂を目指すギンギツネ。

 すでに吹雪は先程よりも弱まっており進むには困らない程度にはなっていた。

 たださっきのヤツ… ヤツはすごいスピードで進んでいた為に彼女達がすぐに追い付くことはできないだろう。


 だが必ず出会うことになる、なぜならヤツの目的地は山頂に違いないのだから… 二人は山頂へ走った。


 そしてその道中のことだ。


 「…ーッ!!!」


 というような言葉にならない声?音?二人の耳にわずかに届く、恐らくその主はさっきのヤツで間違いないとギンギツネは確信していた。


「聞こえた?」


「うん、ボス戦が近いね」


「ゲームの話はもういいから…」


 進むにつれ吹雪は完全に止み、二人は山頂へ辿り着つくと周辺を警戒した。しかし気を配り見回してみるが何もないように思える、視界に広がるのはいつも通りの源泉だ。


「なんでもなさそうだね?ギンギツネの気のせいだったんじゃない?」


「う~ん… でも何かが通ったような跡はあったし間違いないと思うんだけど、それにあなただって声を聞いたでしょ?」


 が、いないものはいない。

 セルリアンだとしたら何らかの理由で自滅したのかもしれない。


「まぁ、いたらその時だよ」


 キタキツネはそう言い残すとそのまま湯の花の詰まり具合を見に行ってしまった、辺りは静まり返り風の音や温泉の湧く音が聞こえる、周囲は湯気で視界が悪い。


 その静けさに、やはり自分の気のせいだったのだろうか?とギンギツネ自身も思い始めていた。


 そもそもセルリアンは明るいとこに進むらしいし、考えたらここは特に光を放ち明るいという訳ではない。だとすればセルリアンが山頂にいくのはおかしいのではないだろうか?

 もう既に結構時間が経っているし、いたとしたらきっとそれはセルリアンではない何かだったのかもしれない。


 考えを改めキタキツネの後を追おうとした… が、その時だ。


「アィエェェェ!?」


 キタキツネの叫び声だ「なにその叫び声!?」と思ったのは内緒である。


 だが声をあげるなどただ事ではない、彼女はすぐにキタキツネのいるであろう温泉を汲み上げるパイプのところまで走った。


「どうしたの!?」


 姿を見付けるとあたふたと慌てふためくキタキツネの姿を発見、どうやら怪我をしたわけでもないととりあえず安心した。


「わぁ!ごめんなさーい!踏む気はなかったんだよ~!?」


 それにしてもこの子は何を言っているのか?状況が把握できない。


 とりあえず「踏む気はなかった」と言っているので彼女はキタキツネの足元に注目してみた、するとどうだ?誰か倒れてるじゃあないか。


 ギンギツネはすぐに察した、これは行き倒れだと… 二人のキツネは吹雪の中の影のことなどすぐに忘れて介抱に入った。


 





 うぅ… どこここ?暖かい… 暖か…い?まずい!寝たら死ぬぞ!


「はっ!?あ、布団?なんで?」


 何してたんだっけ?確かそう、雪山を登ったんだ、でなんとか頂上にたどり着いたんだけど確かあの時は…。


 ぼーっとして曖昧な記憶をゆっくりと思い出していく。


 確かそう… 死に物狂いで頂上に着いた俺は辺りを見回したんだ、サンドスター火山がなかなか圧巻の景色だったことが記憶に残ってる、綺麗だった…。


 そしてその時にそれにしてもここ湯気がすごいなって思ってたら遂に見付けたんだ。

 

 そう温泉だ!俺はやったんだ!と思った!


 でもよく考えたら惜しい、ここは温泉っていうか源泉、すぐそばに温泉を下に流すパイプみたいな物を見付けたのでその時何かを察した。


 恐る恐る地図を見直してみると。


「ガァァァァアッ!!!宿は麓じゃあねぇかぁッ!?なんのために登ったんだよぉぉぉ!?おぃばかぁぁぁぁあ!?」





 そこからプッツリと意識が途切れている、ショックで気が抜けて倒れたんだなきっと。

 

 とりあえず起き上がり部屋を出てみることにした、どうやらここは和室… ということはこの建物は都合よく温泉宿なのでは?


 まだ決めつけるには早いので部屋を出て先に進むと何やらコミカルな音が聞こえてきた、ピコンピコンって感じの… そう、ゲームだこれは、ゲームの音が聞こえる。

 それ即ちこれはゲームが何かを理解してるフレンズがいるってことでは?まさに俗っぽいというやつだ。

 

 そっと音の聞こえる部屋を覗いてみるとフレンズらしき人物がガチャガチャと華麗なレバー捌きを見せている。実に見事だ。


「わぁ、あれはキツネさん… かな?」


 ツンと立った耳にふわりとした尻尾、シャープな体つき… いや最後のは変な意味ではなくキツネ的なってことだけど。

 とにかくそんな子がゲームをしている、いわゆるアーケードゲーム機だがお金は入れなくてもいいみたいだ。やってるのは… 格ゲーかな?俺も格ゲー好き。

 

 どれどれ助けてもらったとしたらお礼の一つでも言わなくては。俺は意を決して話しかけてみることにした。


「あの~」


「ヴェ!?」


 こちらに気付いた彼女は余程ゲームに夢中で不意を突かれたのだろう、体がビクッと跳ね上がり目を丸くしてこちらを見ている。驚かせてしまったようで申し訳ない。


「あ、ごめん… 驚かせるつもりは…」


「あ、あう!あぁ!?」


 言葉にならない何かを発している、よほど驚かせてしまったらしい、この子も人見知りなのかもしれないな?キツネってほら、警戒心が強いらしいし。


「な、なにもしないよ?助けてくれたのかな?だとしたらありがとう」


「あ、あの!あのあのあの!」


「落ち着いてよ… あ、ほらゲーム!負けちゃうよ!」


「え? …ってわぁ~!?やばい!やばい!」





 その頃ギンギツネは、今まさに彼がキタキツネとエンカウントを果たしているであるとも知らずに当のシロの様子を見に部屋に訪れた。


 が当然のようにその姿が消えていたことに驚いていた。


「アレ!?どこ行ったの!?」


 そしてすぐに彼女の耳に「わぁー!?」というキタキツネの悲鳴?が聞こえたのだ。


「大変!」

 

 ギンギツネはキタキツネに何かあったと悟り、だいぶ敵意剥き出しな感じでゲーム部屋に向かい走る。




 追い詰められたキツネはジャッカルよりも狂暴だ、シロ危うしである。

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