第4話 水辺にて

 ここ“みずべちほー”は、その名の通り水棲生物が多く棲む所なのだろう。


 なんでもペパプ?そう、PPPというペンギンのフレンズのアイドルがいることで有名らしい、ライブのためにわざわざいろんなフレンズがここに足を運ぶ。

 人間でもフレンズでも同じように“アイドル”という概念がある、不思議だがヒトの姿になるフレンズだからこそ起こることなんだと思った。

 

「ま、さすがにライブはやってないね… そもそもチケットなんてないんだけど」


 まっすぐ向かうつもりなのでたまたま立ち寄ったにすぎないが、目の前にはがらんとしたステージ… ここが普段賑わってるのだろうかと思うと少し哀愁みたいなものを感じる。


 よく見ると結構綺麗にされていて手入れが行き届いているのがわかるのだけど、こう静かだとやはりここも廃墟なんじゃないかと思えてしまう、このステージには博士達も大分手を貸したんだっけ?


「誰もいない… って思ったけど、あれは?」


 ステージの端… というか観客席側の最前列で座り込んでる子がいるのを見付けた。

 

 彼女は一人だが寂しそうではない、なにやら足をバタバタさせながらジャパリマンを食べている。

 見た感じペンギン… で合ってるかな?ペンギンのフレンズだ、なにペンギンかまでは流石にわからないが。


「素通りするのも変だし、話しかけてみようかな?」

 

 興味本意だが近くまで行ってみることにした。

 ある程度そばまで行くと向こうもこちらに気付いたのかゆっくりとこちらに振り向いた、ジャパリマンをくわえたままジーっとこちらを見ている。

 怒ってるとか怯えてるって顔じゃない、ただ無表情で機械みたいににこちらを見つめてというよりは、なんも考えてないようなボーッとした顔でこちらを見てるって感じだ。

 

 目が合うなりその子が言った。


「あれー?今日はライブとかある日だっけー?」

 

 俺は答えた。


「いやたまたま立ち寄っただけだよ、綺麗なとこだね?」


 すると彼女は「ふ~ん」って顔でまたジャパリマンを頬張っている、“花より団子”って言うのかな?こういうのは?


「アイドルがいるんだよねここ?いつか見れたらいいな、楽しそうだし」


「そうなんだー?じゃあライブがあるときにチケット送ってあげるよー」


「本当に?ありがとう!」


 なんだかよくわからないが関係者の方らしい、もしかしてその例の… PPPの方?いやでもこんなとこでジャパリマン食べてんだもん違うかな?アイドルならきっと練習とか忙しいもんね。


「俺は普段図書館にいるんだ、シロって呼ばれてる… 君は?」


「フルル~」


「フルルちゃん?」


「フルル~」


「うんわかったフルルね」


 なんか不思議な子だな~?ペンギンのフレンズ… だよね?ペンギンってみんなこんな感じなのかな?PPPも不思議ちゃんアイドルグループなのかな?

 

 としばらくボーッとした顔で見つめ合っていると彼女がこんなことを言い出した。


「はい、これあげる」


「いいの?フルルのでしょ?」


「いいのいいの」


 お裾分けだ、フルルは何を察したのかジャパリマンを半分にして俺に手渡してきた。


 特段空腹というわけでない、なんだかよくわからないがお近づきの印とかそんな感じだろう、せっかくの好意を無下にはできないしありがたく受け取っておくことにする。


 「ありがとう」と隣に座り俺も食べてみると、前に食べたジャパリマンとは別の味がした。

 そういえば色も違う、博士たちが言うには各固体向けに栄養たっぷりに作られてるんだっけか?いろいろあるんだなぁ、結構楽しめるよこれ?味も悪くないんだけどな~?博士達は飽きてるけど。


「おにーさんはなんのフレンズ?」


「フレンズじゃないよ、ただのヒト」


「そーなの?」


 フレンズに見えたか?いや、フレンズの島なんだから誰がいても当たり前みたいにフレンズだと思ってしまうのか。

 そうではないことを伝えざっくりとここにきた経緯を話した。

 

 ざっくりとだ。


「うん、少し前に海を渡ってきたんだ」


「そーなんだ~?でも、う~ん…」


 なにか納得が言ってなさそうな感じだ「珍しい?」と聞くとフルルは表情はそのままにすっとぼけた感じで答えた。


「うん、でもおかしいな~?フレンズな感じがしたのに~…」


 フレンズな感じ?おいおいなんだこの子は?博士達はこんな特殊能力無かったのに。


「そ、そう?それってどんな感じなの?」


「ん~… わかんない」


「そっか」


 フレンズな感じってなんだろうか?しかも本人にもわからないときた、天然に見えるがなぜか意味ありげなことを言う、本当に不思議な子だ。


 ここは俺も彼女のことをよく知っておこうと思い「フルルは?ペンギンだよね?」と確認をいれてみた。


「フンボルトペンギン~」


 すると快く答える彼女、なんだかこのフワフワした感じがクセになってくる。

 ペンギンの種類に詳しい訳ではないので正直ピンとこないが、フルル… フンボルトペンギンのフルル… 覚えておかないと。


 ここに来たばかりの俺には友達が少ない、まず博士と助手、向こうは料理番だと思ってそうだけど。

 あとツチノコちゃん、滅多に会えなそうだけど… あれ?友達いるの俺?


 という感じなのでできれば友達は増やしておきたい、この子はかなり不思議ちゃんだけど悪い子ではないしきっと大丈夫、仲良くできるさ。


「俺はここに来てまだ間もないから友達が少ないんだ、フレンズさんにもあんまり会えてないし… だからフルルも友達になってくれる?」


 改まって言うとこれなんか恥ずかしい、友達っていつのまにかなるものだと思ってた。

 でもそれを聞いたフルルはやはり表情はそのままにすっとぼけた感じで俺に言った。


「友達とはご飯を分け合うんだよー?」


「それでジャパリマンくれたんだ?」


「そうだよ~」

 

 あ、笑うときは笑うんだ?


 この時は笑顔と呼んで相違ない素敵な表情で話してくれた、そりゃずっと無表情ではないだろうから当たり前か。


 しかもなんだかすでに友達だったらしい、フレンズという名前の通りみんな出会ったときから友達になれるのかもしれない、ありがたい限りである、今度お礼をしないとね。


「そうだ!貰いっぱなしじゃ悪いから今度図書館においでよ?博士たちに料理を作ってるからよかったらフルルも食べに来て?口に合うかはわからないけど」


「りょうり~?」


 料理事態をよく知らないのかな?博士達を見た感じここでは料理を作れる人材は貴重なのはわかったけど。


「ジャパリマンじゃない食べ物のことだよ」


「食べたーい!」


「うん、友達も連れておいで?沢山作るからさ!」


 ともあれ、食事を分けてもらいチケットまでくれるなんて、ここで俺ができる最高のお礼は図書館で俺のできる最高の料理を振る舞うことだけである。

 なぜか最近料理人のプライドみたいなものが芽生え始めたがジャパリパークまできてこの感じってなんなんだろうか?フレンズの暮らしを体験しに来たのに結局文明の暮らしが抜けない… すごいね、人間。


「ありがと~じゃあPPPのみんなと行くね~?」


「いいえ、こちらこそありがとう!じゃあまたね!」


「どこ行くの~?」


「ちょっと港にね?自分の船に荷物を取りに行くんだ」


 俺がそう言うとフルルはなにか神妙な表情?いや表情は変わってないが神妙な顔をしてる気がする、とりあえず少し神妙な雰囲気をだして彼女は言う。


「向こうでセルリアンが出たみたいだから、気を付けてね?」


「ありがとう、フルルもね」


 セルリアンが港に?面倒なことにならなければいいが。


 俺はそのままステージを立ち去ったのだがすこし気になることがあった。


 彼女、“PPPのみんなと”って言った?あれ?フルルってやっぱりアイドルなのかな?ペンギンだし、あとほら?可愛いし?なんだかぽけっとしてるからアイドルって感じでも… いや、そういうキャラだと思えばアイドルには違いない?


 すこし離れたころでふと振り向いてみると、よく見えないがフルルの他に四人のフレンズがいるのがわかる、色合いから見てみんなペンギンではないだろうか?


 ペンギンってあれ?あれPPPじゃないか?マジでか… 俺アイドルと並んでジャパりマン食べてたの?ファンがみたら俺は一瞬で海の藻屑だ、しかもみずべちほーは海が近い… さっさと逃げよう。


 特になんでもないのかもしれないが、俺は何となく居たたまれなくなったので早足でゆきやまちほーを目指すことにした。




… 




 シロが立ち去ったあとフルルのもとには残り四人のPPPメンバーが集まっていた、練習に戻らない彼女を心配して探しに来てくれたようだ。


「フルル~!さっきの誰だよ?」


 一番に声を掛けたのはイワトビペンギンのイワビーだ、ロックだぜ。


「シロだよ~」


「いやだから誰だよ…」


 フルルの要領の得ないふんわりとした会話に翻弄されるイワビー、その横から別の二人が声を掛けた。


「練習に来ないから探しに来てみたら誰かと話してるし、ビックリしたわよ!」


「あまりこの辺では見ない人でしたね?」


 続いてロイヤルペンギンのプリンセス、ジェンツーペンギンのジェーンが驚いた様子で言った。


「図書館から来たんだって~?」


「遠くでよく見えなかったけれど、なんのフレンズだったんだ?」


 そして最後にリーダーでありコウテイペンギンのコウテイが彼について詳しく尋ねた。

 そしてフルルはそんな彼女の問いに当たり前とでも言うように答えた。


「フレンズじゃないよ~?海の向こうから来たヒトだよ~?」


「「えぇ~!?!?!?」」


 メンバーは、かばん以外にヒトが?という驚きと共に、パークの外から来た?という衝撃の事実に驚きの声を上げた。


 そしてその後フルルは友達になったことを皆に伝えた。


「それでねー?ライブが見たそうだったからチケットあげるよーって… あと図書館でりょーり?作るからみんなで食べにおいでって~?楽しみだねー?」


 四人は驚きとりょーりに対する好奇心、それによりそのヒトであるファンの一人が気になるようになり、いつか暇を見つけて図書館へ行くことを決めた。


 プリンセスは、「マーゲイと話してしんりんちほーで出張ライブするなんてどうかしら?」と提案し、なにかと彼の元へ向かう口実を作っていたりした。


 流石のアイドルも料理には弱い… ということなのかもしれない。

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