第3話 いってきます

「「うまい!」」


「ィよしっ!」


 数日間の試行錯誤を重ね完成させた俺のカレーはようやく二人の舌を満足させることができた、本というのは偉大である、先人の知識とは宝である。

 まともにまともなものを作ったことのない俺でもこうして料理らしいものを作ることができるというのは内容が分かりやすいという他ない、自信ついてきた。


「どう?やるもんでしょ?」


「かばんのつくったものより辛さがないですが…」

「これはこれで甘みがあって食べやすいのです!」


 甘口で作ってみた、理由はどうもバランスのよい辛さにしようとすると辛すぎたりして失敗してしまうから、もう作ったものに文句言われるのは御免だよ… まぁこの二人は文句言いながらも食べてくれるんだが。


 というわけでいっそのこと甘口で作ってみた。

 これは俺もなのだけど、単に辛いのが苦手なフレンズさんもいるはず。

 子供か!ってくらい甘くもしないがみんなマイルドな方食べやすいだろうし、たまたま上手くいったので結果これが今の俺の精一杯である。

 忘れる前に書き記してスパイスも調合しておこう。


「ふぅ… ごちそうさまです」

「やっと我々の満足できる腕に辿り着きましたね、誉めてやるのです」


「そうだね、でも結構頑張ったよ本当に… そのかばん?さんってヒトの中でもかなり器用だと思うよ?普通初めての料理でスパイスから美味しいカレーなんて作れないって、向こうではカレー粉というのがあってね?」


「そうなのですか?」

「興味深いです」


 カレー粉ってのは偉大だ、一定の味を必ずどのご家庭にも行き届けるのだから。

 二人には工場で云々っていうのは話さなかったのだけど、そのせいか当たり前に美味しいカレー粉を生成できる技術をヒトは持っていると勘違いされてしまった。

 例のかばんさんの技術が高すぎるのもあり俺に疑いの目を向けてくる長。


「ふむ… つまりシロが不器用なだけなのではないのですか?」


「作ってくれた人にそれは失礼だと思うな~?」


 足しかに器用な方でもないがそんな訳あるか、カレー粉作るのだってたくさんの試行錯誤があったはずだ、まったく失礼な長だ。

 

 とまぁこんな感じで人見知りという訳でもないのだけど、俺もここ数日で料理を通じ二人とも打ち解けてきた気がする?

 ってまぁ二人からは初めからそれほど距離を感じなかったのだけど、とにかくだんだん信頼関係も築けてきているかなと思う。


 数日あったのだ、もちろんカレーだけでごり押ししたわけでもなく、例えば昨日はケチャップライスを作った。

 本当はオムライスを作りたかったのだけど、手元に鶏卵なんてないし鳥類の二人に鳥類の卵を食べさせるというのは… うん、さすがにいかがなものか?複雑な議題だ。

 そう考えるとフレンズに食べさせる料理というのは非常に気を使う、食物連鎖が無いというのは一見平和的にも思われるがつまり肉を食わないことを意味する、ベジタリアンにでもなれというのか?


 フレンズ化することでどんな種族も文字通り友達、シマウマを狩るライオンも友達。

 俺も先日食べたのだけど、ジャパリマンとかいう誰でも食べれる不思議食料を食べるので狩りをする必要がない。

 あるいは肉食系フレンズの皆さんは見てないところでフレンズ化してない動物を食べてるのかもしれないが、火を使えない(恐れない子もいるが)彼女達は料理ができないので生のままがっつくしかない… がそんなことしてるとこ想像つかない、故に人の姿をとったことで狩りはやらない… と思う。


 まぁそんな感じで、例えばこちらの博士と助手。

 二人は知識を付けすぎてしまった為に獣にしてはやけに俗っぽい「ジャパリマンには飽きた」「美味しい物を食べてこその人生」と言ってひたすら味を求める。


 でも残念、火が怖いので料理ができない。

 

 文字もハッキリとすべてを読み書きできるわけではないので本の内容も完全に理解できない。

 しかし人の姿である以上心理的欲求からは逃れられない、だからできる人に頼るのだ。


 二人を見てると思う。

 便利により良いものをって貪欲になっていって周りが見えなくなっていって… ヒトの姿になることでこうなるってことはやっぱり人間って罪な生き物なのかもね。


「シロ、今度は何を作るのですか?」

「待ちきれないのです」


「今食べたばかりじゃないか?ってもう無いし… よく食べるねぇ?太るよ?」


「我々は頭を使いますから」

「頭を使うとお腹が減るのです」

「賢いので」

「ええ、我々は賢いので」


「たまには体も使おうね」


 さて、それにしてもあれ作れこれ作れと言われても米と野菜が主流だし限られてくる。

 ケチャップはトマトとスパイスである程度どうにかできたけど圧倒的に調味料が無い、醤油でも… いやせめて塩でも手に入ればいいのだけど。


「あ!そうだ!」


 閃いた!バンとテーブルに手を付き立ち上がるとその勢いのままイスが倒れた、が気にしない。閃いたのだから!


「ッ!?何ですか急に!」

「ビックリしたではないですか!」


 思い出した、というか料理に必死で忘れていたんだが… 俺の船にいくつか調味料があるじゃないか、強制連行されたきり放置だった物を取りに行こう、そうだそうしよう。食べ物は腐ってるかもしれないけど。


「二人とも!出掛けてくるよ!… ってねぇ博士?」


「何です?」


「なんか細くない?」


 なにあれ?ほっそ…。

 その体で物理的に不可能な細さに見えるんですが気のせいではあるまい。

 なんだろうか?疲れているのかな?目をごしごしと擦るもののやはり細い、助手が隣ににいるので余計に細さが際立っている。


「ほ、細くありません!普通です!」

「博士はビックリすると細くなるのです」

「助手!?」


「そうかぁ、驚かせてごめん」


 そうなのかー。


 そんなオオコノハズクの習性を目の当たりにした後、一度港に戻ることを決めた俺は「連れてってほしいな~」とやんわり伝えてみたのだ…。

 がさっきの細くなるやつで少し不機嫌になったのか聞いてもらえず、ミミちゃん助手はコノハちゃん博士のご機嫌取りに忙しかったので徒歩移動となってしまった、地図だけはくれたがこれはあまりにハードコアでは?


「じゃあ行ってくるけど、帰るまではジャパリマンで我慢してよ?」


「より沢山の料理を食べるためです」

「ここは我慢です」


「賢いので?」


「そうです」

「我々は賢いので」


 そこは聞き分けいいんだ… だったら連れてってくれとも思うがよく考えたら結構荷物があるから二人には負担をかけちゃうね、パークのこともっと知りたいしフレンズとの出会いの旅だと思えばいいか… よくわからない島を一人で歩くのは不安ではあるけど。

 

「じゃあ行ってきます」


「セルリアンに気を付けるのですよ?」

「危なくなったら各地にいるラッキービーストに頼るのです」


「ラッキービースト?」


「青くて小さいやつです」

「シロはヒトなので喋って案内してくれるはずです」


 なるほど、その子最短ルートとか教えてくれないのだろうか?徒歩だぞ俺は、徒歩だぞ。


「ふ~ん… わかったよ、それじゃ!」


「えぇ」

「いってらっしゃいなのです」


 ラッキービーストとやらのことも少し期待しつつこうして図書館を後にした俺だが、はたして無事にたどり着けるのだろうか?セルリアン… ってパークを閉鎖、隔離することになった原因だろ?本でも見たけどひとつ目でいろんな色と大きさがあるんだ、食べられたフレンズは元の動物に戻り記憶も失う。

 フレンズじゃない人間を襲うことってあるのか?「輝きを奪う」なんて二人は言っていたけど、輝きってなんだろうか?

 

 ところでラッキービーストってもしかして案内ロボのことだろうか?聞いたことがある、いつか人間が入れるようになるその時の為にパークを管理しているとかなんとか。

 人を見るとお客さんとしてガイドしてくれるんだったかな?父の話ではそう、それが俺にも適用してるいいけど。




 さて、それでも歩き出したのだから進むしかない。


 火山は近付くなと言われたしまっすぐ“ゆきやまちほー”を目指してそのまま港に下ろうか

 野宿は避けられないかもしれないが雪山には温泉宿があるみたいだしそこから少し下ればロッジもあるらしい、頼りにさせてもらおう。

 ただしこの軽装備で雪山に入ってどの程度耐えられるだろうか?雨合羽があるが防寒にするには頼りない… ん~仕方ない、最悪“アレ”をやるしかないか。


 背に腹は変えられないな、いいさここはジャパリパークだ。


 誰も見てないときならやってやる。





 図書館を出た彼は自分の乗ってきた船を目指して港へ向かう。

 途中雪山を経由するが、無事にたどり着けるのか?そしてどんなフレンズが彼を待ち受けているのか?


 少年シロはパークを歩く、地図を片手に一人歩く。






 一方その頃、博士と助手は改めて考えると自分達が連れていった方が早く食事にありつけると気づき若干や焦りぎみだった。


 間抜けな意地を張ったと博士は頭を抱えている。


「ここ数日シロの料理を食べていたせいか…ジャパリマンが味気なく感じるのです」


「ですね… やはり我々が連れていった方がよかったのでは?」


 まったくもってその通りな助手の意見がグサりと胸に刺さる、だが島の長アフリカオオコノハズクともあろうお方がそう簡単に失態を認める訳にはいかない、なので苦し紛れに言い訳をしてみた。


「う… い、いいのです!可愛い子には旅をさせろと言うのです!」


 ことわざだ、このような語彙力を持っているのは数多いフレンズのなかでもコノハちゃんくらいだろう、流石だ。

 しかし助手ワシミミズクとて遅れをとらないのである、鋭くその言葉につっこんだ。


「では、博士にとってシロは可愛い子だと?」


「ち、ちが!ものの例えです!賢いので!」


(慌てちゃって、可愛い… じゅるり)


 ただの言葉のアヤなのか、どういうつもりかわからないが博士にとってシロとは世話の焼ける居候という感覚なのかもしれない。


 助手の言う通りあたふたと慌てる博士の姿は大変可愛らしいものだった。

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