第2話 住むのです

「な、なぁ!」


 そう声をあげたのはツチノコだ、モジモジと顔を赤くして目を逸らしている。

 きっとこの子は人見知りなんだろう、でも興味を引くものを見ると止まらなくなる。随分とまぁ好奇心旺盛な人見知りだ。


「こ、今度!いや!都合の良いときでいいんだが!ヒトについて教えてくれないか!?」


 彼女はなんだかこう… 暴走気味だけど汐らしいと可愛い感じがする、人見知りなのに頑張って好奇心を満たそうとしているんだろうか?その性格になった原因は?フレンズは個性が強いと聞いたことがある、十人十色だから惹かれ合うって。


 だからってわけでもなく特に断る理由もないので「もちろんいいよ」と答えた。

 頼られるとは少し違うが女の子にこう「また会いましょう」みたいなことを言われて悪い気はしない、尤も人間ではないんだが。

 

 ところで長の二人やこちらのツチノコ、反応が各々違うが特に俺を追い出してやろうという気も無いように思う。

 どういう感じで接するか距離を計っているいるのかもしれない、フレンズってその名の如く皆友好的なのであればなんだかいろんなフレンズに会ってみたくなった。


「ではシロ、オマエに聞きたいことがあるのです」


「なに?」


「“ヒト”なのですよね?ということは…」「文字が読めるですね?」

「「そうですね?」」


「そりゃあみんな子供の頃に覚えるから読み書きくらいは…」


 博士と助手がやや食い気味にそう聞いてきた。

 なにか意図があるのだろうけどどうもこの二人は表情をあまり崩さないので感情が読み取りにくい、でも多分変に裏のある理由は無いと思う。

 ツチノコが遺跡?探索とかしてるみたいだし、文字が読めれば重宝するとかそういう単純な思考じゃないだろうか?


「そっかオマエ、ヒトだもんな… 面倒なのに捕まったな…」


「待ってよ、えーとツチノコ… ちゃん?それどういう意味?」


「な、馴れ馴れしく呼んでんじゃねーよ!キシャァ!」


「あぁごめん… なんて呼んだらいい?」


「べ、別に!呼びやすいならそれでいい!好きに呼べぇっ!」


 じゃあいいじゃないかわざわざ突っかからなくても… 照れてるのかな?照れてるのかもしれない、だとしたら可愛らしい反応で許容できる。

 それにしても厄介なってどういうことだろうか?文字が読めるのがそんなに厄介なんだろうか?


「料理…」


 ボソッとコノハ博士のほうから声がした、続いて「できるですね?」と助手のほうも呟いた。


 なにやら話が見えずよくわからない俺が「え?」と聞き返すと。


「できますね!?」

「料理です!」

「「料理は作れるですね!?」」


 はわわ… なんでこんなに必死なのこの人?達怖い。


 料理?できなくはないけどなにか本格的なレストランのものとかを要求してるならそれは無理だ、控えめに答えておこう


「そう難しくない簡単なものならいくつか…」


「なるほど…」

「博士、これは」

「ええ、期待ですね」


「あの、なんの話?」


「「じゅるり」」


 ひえっ… まさかこの子達俺に料理番になれって言ってるのか?何度も仰いますがそんな大層な物は作れないのだけど。

 

「では行くのです」


「え、どこへ?」


「我々の住む図書館です」


「ちょ…!なんで!?」


 そのまま左右からわしっと腕を捕まれて俺は宙に浮いた、この子達はこのまま俺を図書館に連行しようと言うのだ。


 だがそれは困る、船にいくつか荷物があるし残りの食料や飲み水もある、置いていくには惜しい。


「待って待って!一旦降りよう!降りて話をしよう!」


「善は急げなのです」

「我々なら空から一直線です」

「「賢いので」」


 賢さは関係ない!賢いことを自称するならせめて話を聞いてほしいものだ!

 この二人、もともとの性格がそうなのか元が獣な為にこういう気が利かないのか、またあるいは長で権限をもってるからなのか知らないがやや横暴なところがあって困る。

 これからこの二人の料理番として過ごしたら毎日気の向くまま食事を作らされてワガママ言われ放題になるのだろうか?正直そんな生活は苦しい、なんとか元の位置に…。


「あの二人とも!なんで来たとか!何しに来たとか聞かないの!?」


「そんなことは後です」「図書館でもゆっくりきけるのです」


 確かに!ということは住むこと自体は許されてるのか?パークは来るものを拒まないのか… いやこれは強制連行だけども。


 しかも…。


「わ…」


 下を見てしまった、もうこんなに高い… この高さから落ちたらミンチ確定だろう。

 ツチノコちゃんがあんなに小さくなってる、ボーッとこちらを見て… と思ったら騒ぎ始めたぞ?なんだろう?


「おぉぉぉい!?オレを置いていくなぁぁぁ!!こらぁ!?」


 あぁ取り残されちゃったんだ… あの子普段はどこに住んでるんだろう?ここには調査に来てたみたいだし、フラフラ宿無し生活?あれ?フレンズって家とかあるのかな?

 遺跡… というか廃墟だが、そういうので雨風凌ぐのかな?彼女は爬虫類… だよね?それなら日向には出たがらないだろうし、湿気の多い暗いところに住んでるのかな?下水道とか。←失礼


 やがてそんなツチノコちゃんを放置して遊園地から離れると、二人はまっすぐ図書館とやらを目指し始めた。

 始めこそ怖かったが空を飛ぶというのはとても貴重な体験として楽しませてもらった。

 どーせ成す術もないし暴れると逆に落ちて怪我じゃすまないしおとなしく宙ぶらりんでいることにすると、火山を越えてそのまま森の中へ入っていった。


「シロ、あなたをここにつれてきたのは…」


「わかってるよ、料理させたいんでしょ?」


「もちろんそれもあるのです」

「聞きたいこともあるのです」


 驚いた、食という欲望に駈られて俺を連れてきたのは実はこじつけでとりあえず長だけで俺の話を聞くための作戦だったのか、やけに横暴でおかしいと思ったんだうん。


 がこの時「さすが長」と感心したのもつかの間、聞くにこっちがついでで普通に料理を食べたいだけの連行だと話すうちに察した。


「まずはシロ、なぜ来たのです?」


「来てはいけなかった?」


「そうではありません、わざわざ群れを離れて来た理由を聞いているのです」


「それは…」


 話さないとダメだろうか…。


 いや二人はこの島の長だ、フレンズ達の代表として俺を見極めなくてはならないんだろう。

 これが理由で出ていけと言われるか不安なところではあるが、ここは今後二人と信頼関係を結んでいくのに重要なことだ。


 俺はこれまでに至る経緯を洗いざらい話すことにした。









 彼が長の二人に話したことは嘘偽りのない真実である。


 簡単に言うならば、彼は普通の家庭の普通の両親の間に生まれた子ではなく少し変わった生まれであり、その為学校や人間社会でうまく馴染むことができなかった。

 

 決して暗い子ではないし、逆に周りに対して横暴で偉そうにしていた訳でもない、友達だっていないこともなかった。

 だがきっとそんな普通の生活の中で露になってしまった自分の普通とは違う部分が彼を悩ませ、自ら周りを遠ざけるようにしていったのかもしれない。


 彼は長達に言った。


「二人は長だから言ったけど… 本当はもっとここに馴染めたら言おうと思ってたんだよ、住まわせてもらうし料理だってもっと勉強して沢山つくるからさ?だからそれまで誰にも言わないでよ?長なんでしょ?」


 彼の決意の目と“沢山の料理”に釣られ二人の長も答えた。


「もちろんです!約束は守ります!」

「そうです!」

「「我々は賢いので」」


「ありがとう、さすがは長だね」


 正直フレンズにうまいこと隠し事ができるかは微妙なところではあるだろう、だが彼はこれを二人に対する信頼としてなにも言わずにおいた。


 こうして図書館に住むことが決まった彼… シロは長達の料理番として働くことになった、不摂生はよくない!美味しい料理もいいけどバランスも考えよう!さぁ上手くできるかシロ!


「さぁシロ、早速作るのです」

「この本を見るのです」


「はいはい、なにがいいかなー?」


「カレーです」「カレーがいいのです」


 カレーかぁ~… カレー粉とかあるのかな?バーモンドカレー♪ってか?

 …ふぇ!?これスパイスからの作り方が書いてるのか?読んだからうまくできるほど楽ではないよ!前に作った人はスゴいなぁ… ほらやっぱりバーモンドさん出番ですよ!





 その頃セントラルに取り残されたツチノコはクドクド文句を言いながらもとりあえず遺跡探索を続けていた。


「まったく長だからってえらそーにぃ!」


 彼女も少ししたら仮眠をとり夜に砂漠ちほーへ帰る、そんな段取りを組んでいた。

 するとそんな彼女の元に何かが近寄る…それは青色でツンと立った耳、シマシマの尻尾を持ったパークガイドロボットのラッキービーストだ、彼女のもとへとジャパリマンを持ってきたのだ。


「ん?なんだラッキービーストか、もらっとくぜ… ん~?そういえばなんでアイツはヒトなのにラッキービーストが反応しなかったんだ?」

 

 たまたま近くにいなかった、などの適当な理由だろうと彼女は特にその時気にすることもしなかった。

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