第1話 おとこのこ
長い船旅の為か疲れていた、今頃父はどうしてるだろうか?ここに来るまで手伝ってくれた人は何事もないだろうか?なんてボーッと考えてみる。
向こうの心配もすれどこっちもこっちでいろいろありすぎて頭がごっちゃになっている、白い髪をワシャワシャと掻き船に寝転んでいた。
「着いたはいいんだけど…」
そう、何をしたらいいかわからなかった。
着いたらどこに行くとかそういうことはノープランで、ただジャパリパークに行くことだけを目的としていたので着いてからのことは実質何も考えていない。
「何かあるだろう」程度の認識だったがそもそもここは閉鎖されて外と連絡がつかない、誰かいて出迎えてくれるわけでもないしこうなるのは当たり前のことだった。
黙っていても仕方ない、とりあえず衣食住はしばらく大丈夫だから周辺を調べないといけない。
これでは当分この港の小舟が拠点になりそうだ。
立ち上がり船の上から辺りを見回してみると「広大」というのがすぐに出た感想だ。
キラキラしたものが吹き出てる山… 確か“教科書”で見た、間違いなくあれがサンドスター火山だろう。
それから近くには遊園地があるんだろうか?観覧車が見える、その他に見えるのは… 雪山?成る程やけ冷たい風がくると思った。
雪山か… そう聞いたことがある、いろんな気候があるんだって。
どんな動物でも住めるように個体に合わせた環境があるんだ、始めからそうなのか人の手が入ったのかまでは知らないが、とにかく寒いとこもあれば暑いところもあるということだ、よく出来てるんだな。
「…ん?」
その時、ふと目を向けると遠くの方から誰かが見ているのに気付いた、遊園地のほうだ。
少し高台になったところからこちらを見ている… 気がする。
「人?いや違う、フレンズ…さん?」
影はこちらの視線に気づいたのかサッと姿を消してしまった。
追わなければ、悪意はないし向こうも恐らく見慣れないヤツがいると観察していたんだろう、ここのことをもっとよく知りたいのでなんとか話でも聞きたいところ。
船を降りると港を離れ駆け足に高台を上り遊園地のところまで来た、看板には“セントラル”と書かれている、つまりここが島の中心ということだ。
「本当に遊園地だ、結構すごいなぁ?でもまるで廃墟だ」
まるで… と言ってみたが、実質廃墟だ。
そう思ったのはいかにも廃棄された遊具や乗り物が多いから、なぜだか知らないが動いてるのは観覧車だけでそれもガコンガコンと今にも壊れそうな機械音を出している。
賑やかな声も音楽もない遊園地でその機械音だけが鳴り響いているのは少々不気味ではある、というか逆に観覧車だけ動いているのが更に不気味さを際立てている。
「あ… 待って!」
カランコロンと独特の足音で走り去る人影を見つけた、ハッキリどんな人?かまでは分からなかった。
しかし参った、なにもとって食おうというつもりではないのに追いかけてみても当然のように姿はない、どこかに隠れているようだ。さては隠密のプロだな?
「ん?ここは?」
目に止まったのはお化け屋敷… だろうか?おどろおどろしい外観の建物がある。
「中に入ったのかな?」
と思った理由は入り口にはクモの巣がないから、他の建物は入り口が埃っぽかったりするのにここだけは違う、ということは…。
「出入りがあるってことだ、気味悪いけど入ってみよう」
外ですら不気味なのに、仕方ないので只でさえ気味の悪いその建物に足を踏み入れた。
考えずともわかりきっていたことだが案の定真っ暗である、廃墟である以上当たり前だが電気が通ってないのだろう。なのでこんなときこそ出番だと言わんばかりに手荷物から懐中電灯を取り出し辺りを照らした。
「うわ、やっぱお化け屋敷なんだなぁ…」
いろんな恐そうな物がありボロボロなのがその恐さを余計に際立てている、THEお化け屋敷!と言ったところだ。そして埃っぽい。
本当に何か出そうだなどと思いつつ慎重に奥に進んでみるが誰もいない、ここにいると確証があったのだけど見当違い?痕跡は誰かがたまたま立ち寄っただけ?
だがいないのなら仕方ないので他を当たるため引き返すしかあるまい、そうして踵を返し来た道を戻ろうとしたその時だった。
「…」
「…」
未知との遭遇。
「どわぁぁぁ!?」「アーッッッ!?!?」
なんと振り向くとすぐそこにいたのだ、いつの間に背後を取られたのかと驚いたが、カッ!とライトに照らされて相手も同じく驚いたようだ、誰かは分からないが声からして女の子だと思う、確認もせずお互い悲鳴を上げ一気に走り抜け外へ出た。
俺はそのまま出口に向かい走り、彼女?はその逆へ。
外に出ると間もなく反対側の俺が入った側の出口… つまり入り口なんだけど、そこから女の子が奇声を挙げながら飛び出してきた。
「…ぁぁぁあー!!!???え?」
こちらに気付くなりピタリと止まり目があった。
まぁこうなるだろう、お化け屋敷の入り口と出口は同じ面に並んでるのだから。
こうして面と向かうと明るいのでよくわかる… フードを被った青い髪の女の子だ。
服はミニスカートのパーカーワンピースを着ていて足には下駄を履いている、多分遠くで見ていたのはこの子で間違いないだろう。
「あ、どうも…」
「アァー!?!?なんでいるんだよー!?おぉいっ!!!」
「えぇ!?ごめんなさい!」
取り乱しているのか怒られてしまった。
可愛い子だと思うんだけど、いかんせん目付きが悪く口調も独特で乱暴だ、とにかく落ち着いて頂かなくては話にならない。
「えーっと初めまして?島の外からきたんだけど… 君は?」
「見ればわかるだろ!ツチノコだよッ!」
ツチノコってあの蛇みたいなやつだろうか?UMAじゃないか、聞いてよムーさんこんなとこにいましたよ?
「ごめんツチノコ見たこと無くて…」
「お、おうそうか… 待て!お前外から来たって!?」
でもそうか、ツチノコォ… ってことはこれがフレンズさん?本当に女の子なんだなぁ?この子はちょっと情緒不安定だけど、よく見たら尻尾もあるしフードは蛇っぽい顔してる、雰囲気コスプレでもないのはわかる。
「ハッ!?耳も尻尾も無い!それに背中のそれはまさか!?」
「背中の… あ、カバン?」
「カバンッ!?ヒトか!?お前もカバンなのか!?」
「いや、ヒトだけど?」
「だからお前もカバンなんだろ!?」
ちょっと何を言ってるのか… こちらのツチノコ?に一旦落ち着くように伝えやっと話を聞いてもらえた。
このツチノコさんはどうも好奇心旺盛らしく興味関心が溢れだすとしばしば暴走気味になるようだ「これが凄いんだ!」「これが面白くてな!」と嬉しそうに知識を垂れ流す、と言うのはつまりオタクなんだろう。
「つまりお前はフレンズじゃなくて普通のヒトなのか!?しかもオス!?」
「あぁ~… うん、そうだよ」
「ヒトは絶滅してないのか!?どこかにたくさんいるのか!?」
「絶滅!?してないよさすがに、全体的に減りはしてるらしいけどそれでも数えきれないほどいるよ」
「おぉ~!ほほぉ~う!!すごいぞぉーッ!?」
見てて面白い、テンションの上がるツチノコを見て少し引いていると、彼女は「ハッ!?」と我に返り顔を真っ赤にしては柱の裏に隠れ俺を威嚇してきた。
「なんだぁオマエ!やんのかー!?キシャァ!」
「お、落ち着こうよ?なにもしないから…」
難しい子だなぁ… と思いなだめていると頭上を大きな影が二つ横切った。
なんだなんだ?と上を見上げるが日差しでよく見えず、が間もなくしてその二つの影は目の前にフワリと舞い降りてきた。
ちょうどツチノコの両隣に二人、似たような見た目の女の子… またフレンズ?にしても女の子が空を?しかも音も無く?
ファンタジーだなぁ…。
降りてきた二人はツチノコにこう話した。
「一人で何を騒いでるのです?」
「まったくです、落ち着きが足りないのです」
「いいところに来た二人とも!ヒトだ!かばん以外のヒトがパークに!」
やはりこの二人もフレンズだそうで、一人はアフリカオオコノハズク… 白いほう、博士と呼ばれているみたいだ。
もう一人がワシミミズク… 茶色いほうでその博士の助手と名乗る。
フクロウ… 鳥のフレンズは自由に空を飛べるみたいだ、人の姿をとっていてもそれは変わらないらしく頭の羽を広げ空を自由に舞い上がる、サンドスターってのは不思議だ。
二人がツチノコの前に出て俺に話しかける
「初めまして博士なのです」「助手です」
「あ、どうもご丁寧にえっと俺は…」
「あなた、ヒトですね?」
「しかもオスですね?つまりフレンズではない」
なんだよ、あくまで自分の話したいことしか言わないのか?なんか横柄だなぁ…。
二人は俺が「ヒトのオス」であるということを問いつめる、俺は「人間で男」と答える。
どうやら元が獣なだけに妙にズレた言い方をするようである、だがこの二人は他のフレンズ達と比べると知能が高いらしい「この島の長をしてるのです」「我々は賢いので」と執拗に伝えてくる。
確かに先程のツチノコと比べると落ち着きがある。(ように見える)しかし長を名乗るほどだ、島でも偉いフレンズらしい。
「あなたはヒトですが、以前我々の見たヒトとは少し違うようです」
「かばんはヒトだが、正確にはヒトのフレンズだからな」
博士の話にツチノコが割り込みそう言った… さっきからでるその“かばん”ってのはなんだろうか?言い方から名前っぽいけど、愛称かなにかだろうか?
「博士、それにこっちは毛が真っ白です」
「そうですね、なのであなたのことはシロと呼びます」
「ちょっ!?えぇ!なんで!?一応名前が!」
急いで自己紹介を!と思ったがそんなことは長の権限により破壊粉砕されてしまった、シロってあんた達ペットじゃないんだから… えぇ~?シロってかぁ。←不服
「あなたはシロです」
「もう決まったのです」
「「我々は賢いので」」
そんな乱暴な…。
ジャパリパークに着くなり早速クセのあるフレンズ、博士、助手、そしてツチノコに絡まれたシロ(仮名)。
彼はこのままパークに馴染むことができるのだろうか?
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