第30話 ハッピートリガー クロス

「おいホッブズ、ありゃテメェの秘宝獣じゃねぇか……それにあの鍵……」


「そうさ。そしてあれは『旧世紀』の秘宝。かつて人間に『戦争の道具』として扱われた哀れな生物兵器……」


 屈強なハゲと赤い髪の少年は、戦いの邪魔にならないところから、パレットと青い髪の少年の戦いを見守っていた。


「天使のテメェですら最初は扱えなかった代物シロモノを、ただの人間である金髪公が使えると思うか?」


「その保証は僕にもできない。けど、パレットは今、鍵を開けた・・・・・んだ」


「ん……? ああ、確かに鍵を開けたな?」


 キョトンとする屈強なハゲから目線を外し、赤い髪の少年はパレットを見つめてニヤリと笑った。


「パレットなら使いこなせるさ……だってお前は、そいつら・・・・の『名付け親』なんだから……!!」


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「さぁ、いくわよ、『デストラ』、『シニストラ』!!」


「むっ……ツヴァイアサンとは呼ばないのか……?」


 パレットは双頭の海蛇に指示を出す。


デストラ、火炎弾!シニストラ、水氷弾!」


 左の蛇の口からは燃えたぎる炎が、右の蛇の口からは凍えるような冷気が弾丸となって放たれる。


「ぐっ……リーフシードラ、竜鱗ドラゴンスケイル!」


 海藻のような見た目であったタツノオトシゴの体の模様が変化し、一気に『竜の体質』へと変化した。


 2つの属性の攻撃を同時に受けたが、リーフシードラはなんとか持ちこたえた。


「ぐっ……以前のツヴァイアサンとは比べ物にならぬほど攻撃的だな……」


「ふふん♪ あたしの戦術に『攻める』以外の文字はないのよ!」


 パレットの攻撃的性格トリガーハッピーは感染するのだろうか。双頭の蛇は絶え間なく攻撃を続ける。


「だがパレット、時として『守り』や『逃げ』も重要な一手だ! 解放、『スメルトータス』!」


 青い髪の青年は、リーフシードラを秘宝に戻し、新たに水亀の秘宝獣を繰り出した。


 小さくも硬い亀の甲羅に、火炎弾も水氷弾もはじかれてしまう。


「硬いのが出てきたわね……デストラ、シニストラ、必殺技で決めるわよ……!」


「頃合だな……A–Z《エーゼット》」


 赤いザリガニの右のはさみから、膨大なエネルギーが溢れ出ている。


(A–Zの『ロブラスターキャノン』は、充填している長さによって威力が変わる……そして、ここまで1度もキャノンを撃ってこなかった……!)


 パレットの頬を汗がつたう。


「いくわよ、ヴァルカン!!」


「迎え撃つ! 来い、パレット!!」


 双頭の海蛇の両口から、炎と水氷の弾丸が放たれ、空中で交わる。同時に、ザリガニの鋏から極大のエネルギー砲が放たれる。


「『水氷爆炎波』!!」


「『ロブラスターキャノンMAXパワー』!!」


 ——ドゴォォォォン


 2つの巨大なエネルギーがぶつかり合い、真ん中で巨大な爆発を起こした。


 あまりに大きな爆風により、道場は完全に崩壊した。土埃が辺りを包み、一切状況を掴むことができない。


「パレット、貴卿らしいド派手な攻撃だった。だが……」


 先に姿を現したのは青い髪の青年だった。


見通しが甘い・・・・・・


 赤いザリガニは……無事だった。ロブラスターキャノンを放った直後に、バリアを張っていたのだ。


「ただ前進するのみでは、何も『守る』ことはできんぞ……!!」


「いいえ、計算通りよ。力が拮抗していたことも、A–Zがバリアを張ってきたことも……ね!!」


「なんだと……!?」


 土埃の向こう、浮かび上がったのはパレットのシルエット。そしてもう一つのシルエットは……


 ——ブゥゥン


 一匹のスズメバチだ。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「アローホーネット……貴卿が初めて手に入れた秘宝獣だったな」


「そうよ、懐かしいわね……『神への復讐』という目的を失って、何もなかったあたしに、ヴァルカン、あなたが『きっかけ』をくれた……」


【——きっかけは些細なことだった。


「パレット、もしかして貴卿……」


「な、なによ……?」


「秘宝大会に出たくはないか?」


「ええっ……!?」


 ねこ島では、命の大切さを知った……


「あたし、今度はちゃんと歓迎されている?」


「今のパレットなら、きっとそうであろう」


「ふふん♪」


 バグ島でも一波あったけど、それもあたし達の絆を強くした。


「それなのに、いつも命令口調で……どうして対等に見てくれないの!? あたしが子供で、あんたが大人だから!? ねぇ!!」


「悪かった……」


「……そうだな、対等な関係だ」


 カイナン島では、楽しいバカンスを満喫した。


「遂に! 遂に念願の……」


「海!! イヤッフゥゥゥ!!」


 夏。夏といえば……


「海で決まりよね!!」


 4つ目の御朱印は、なんと陽光町にあった。


 ——タッタッタッタッ


 ——ポチャン


「よし、4回成功!」】


「おいぃぃっっ!? 僕との再会の話でどうして『石切り』の回想なんだよ!? 修行シーンとか、もっと他にいいのあっただろ!?」


 赤い髪の少年は何やら叫んでいたが、パレットは回想を続けた。


【5つ目のカリン島。レンタルバトルの島だったけど、ここで新しい仲間と出会えた。


「ソルとルナ、君たちに預かってほしい」


「ほんとに貰うわよ?」


「いいのです?」


「ああ、ここは預かり場と言っても、持ち主に捨てられた秘宝獣がほとんどだからね。君たちのような若者に預けた方が安心だ」


 ラボラとりーでは、秘宝について新たことを知ることが出来た。そして、新しい仲間も加わった!


「サラブレッドの『サブレ』だ。サラブレッドとは『完璧』といった意味じゃな……」


「この『サブレ』を、しばらくの間お嬢ちゃんに預けよう」


「えっ……」


「『サブレ』、お前も強くなってこい。その主人と一緒にな」


 そして最後の島のミニレースGPでは、秘宝獣との絆でなんとか神宮まで完走することができた……!!


(大丈夫、いける!)


(最後の御朱印だもの……秘宝獣だけに頼るんじゃなくて)


あたしたち・・・・・の力で勝ち取りたい!!)


「ゴォォル! 金髪の少女、最後は自らの足で、2位でゴールインだぁぁ!!」】


「ヴァルカン、あたしはこの冒険で、大切ことをたくさん学んだ。そして、御朱印を揃えて秘宝大会に出てる人、一人一人に違う冒険があるんだって思ったら……」


「ふっ……貴卿もようやく気がついたようだな」


「あたしも本気で、秘宝大会に出てみたいと思った!! もっと秘宝使いのことを知りたい! 秘宝獣のことを知りたい!! だから今ここで……ヴァルカンに勝つ!!」


 パレットの瞳に強い光が宿った。希望に満ち溢れている、そんな瞳をしている。


「ならば超えて見せろ! この最強の盾を!!」


 赤いザリガニの秘宝獣、A–Zは再びバリアを張った。かなり消耗している。


 おそらくこの一撃で決着がつく——


「いくわよデストラ、シニストラ! 火炎弾&水氷弾!」


「まだ撃てる力が残っていたか……だが、属性は火と水の攻撃。ならばA–Zで耐えきれる……!」


 青い髪の青年が勝利を確信した時、もう一つの存在に気がついた。


 ——ブゥゥン


「アネットか……だが、その攻撃なら先ほど防ぐことができ……」


 ——バチバチバチバチ


 青い髪の青年は、スズメバチの異変に気がついた。以前どこかで同じような技を見たような……


「雷撃の矢か!? だがその技は、ヒコイトマキエイとの合体技だったはず……」


 言いかけた途中で、青い髪の青年は何かに気づいた。


【「案ずるな、『ヒコイトマキエイ』は電気を吸収する能力、『吸電』を持つ」】


【白いうさぎはバリアを突き破り、雷を纏った前足でマンタに突撃した】


「ハッ……思えばあの時、ソルの攻撃に電気を纏わせる必要は無かった……つまりあの攻撃の狙いは雷をくらわせることではなく……」


「そう、最初から大気中に電子を撒き散らすことが目的だったのよ……!!」


 アローホーネットの針が電撃を纏う。


「アネット、火炎弾と水氷弾の交わる先に、雷撃の矢……! 」


 ——ズドォォン


 雷撃の矢が真っ直ぐに放たれた。その直線軌道上には、バリアを張ったA–Zの姿がある。


「ツヴァイアサンの『水氷爆炎波』に……アネットの『雷撃の矢』を+した技……これがあたし達の合体技!!」


 —交錯した炎・氷・雷の一撃—


「クロス・バレットォォォォォ!!!」


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「強くなったな、パレット」


「ふふん♪ 当然でしょ!」


 青い髪の青年は、パレットの首に金色のメダルを掛けた。道場を攻略した証だ。パレット誇らしげには胸を張っている。


「それから、これを貴卿に授ける」


「これって……」


十字架クロスだ。パレットに似合うと思ってな」


 青い髪の青年は、十字架をパレットの首に掛けた。そして青い髪の青年は身を翻して境内に向かって歩き出した。


「パレット、ここから先、貴卿は『背負わなければならない』ことになる。だが、貴卿なら必ず乗り越えられると、某は信じている」


「もう行っちゃうの? 」


「また近いうちに会おう」


 青い髪の青年はそれだけ言って石段を降りていってしまった。


 こうして、パレットの御朱印巡りの旅は幕を閉じた。


 だが、パレットたちの物語はまだまだ続く——The story is not over yet

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