第26話 作戦会議(ミニ)

【再び秘航島】


「アルバトロス、『フォール・アウト』!」


 黒い翼に白い頭部のアホウドリは、水牛の角をガッシリと掴み、上空へ羽ばたこうとするが、水牛も抵抗して暴れ回る。


「くっ……一旦引きなさい、アルバトロス」


「無駄だ。バッファローの重さは700kg。メタル・バッファローの重さは1000kg。1トンもの重さを持ち上げることは不可能!」


 無表情な軍服の男は、語尾を強めて叫んだ。


「メタル・バッファロー、『角突撃ホーンアサルト』!!」


 水牛は二本の角を前のめりにし、アホウドリに猛スピードで突進した。


「上空へ避けなさい、アルバトロス!」


 バッファローから距離をとり、上空へ退避したアホウドリは安堵していた。


「逃げられると思ったか!? メタル・バッファロー、跳べ!」


 半身を鋼鉄で包まれた水牛は、大地を蹴り上げてジャンプした。上空でガシッとアホウドリを角で挟み込む。


「鋼鉄を纏っているというのに、なんという跳躍力だ!?」


「鋼帝国の訓練厳しい。鍛え方が違う!!」


 ——ドシャッ


 バッファローは、そのまま上空でアホウドリを地上へ投げ飛ばした。


「ベスト8のNo.2と期待したが、所詮こんなものか? 弱い…… 弱すぎるぞ!!」


「……マイスター、選手交代」


「菜の花くん……?」


 黙って静観していた黒髪のポニーテールは、口を尖らせて言った。


「ふん、No.7だったな? 見ての通りNo.2は敗れた。よってお前と相手をしても時間の無駄だ」


「あのさ、序列序列って言うけど、それって本当にアテになるの?」


 ポニーテールの少女は、声に苛立ちを含ませて言い放った。


「5位~8位は同じ初戦敗退者。優勝候補のアザトスは準決勝で試合放棄。順位なんて案外、曖昧なものかもよ?」


「なにが言いたい?」


 無表情な軍服の男は、ポニーテールの少女に問いかける。


 ポニーテールの少女はスカートのポケットから白銀色の秘宝を取り出して、目の前に突き出した。


「私とフェンネルが、あんたを倒す!!」


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【一方、パレットたちは……】


「へー、ベスト8のNo.1ねぇ……」


「そっ。だからって、負けるつもりはないわよ♪」


 パレットと赤い髪の少年は、先ほどたまたま居合わせたメイド服の少女の話をしていた。


「何か秘策でもあるのか?」


「ない! けど、なんとかする!」


「まぁ、そういうやつだったよお前は」


 話しながら、パレットと赤い髪の少年は、島はずれの森の奥深くへと入っていく。


「鶏頭のパレットのために、ルールの確認をしよう」


「どういう意味?」


「三歩歩いたら忘れ……痛ってぇ!」


 パレットは靴のヒールで、思いっきし赤い髪の少年の足を踏んづけた。


「ホッブズの髪って、鶏のトサカみたいな色してるわよね」


「くそぅ……覚えてろよ……」


「忘れました、鶏頭ですから♪」


 赤い髪の少年は涙目状態であり、足は腫れ上がっていた。


 皮肉屋と攻撃的性格トリガーハッピーな少女の相性は悪いようだ。


「……気を取り直して、確認するぞ。第1問、秘宝大会ミニGPで走る距離は?」


「たしか10kmだったかしら。障害物レースみたいな感じの説明だったわ」


「ああ。秘宝獣か秘宝使い、どっちがゴールにたどり着いてもいいみたいだな」


 赤い髪の少年は、ルールガイドを1人で見ながらパレットに次の質問をした。


「第2問、使用可能な秘宝獣の数は?」


「2体! これは簡単に覚えられたわ♪」


「まぁこれは簡単すぎたな。だからノーカン」


「はぁ!? ズルイ!」


 ちなみにノーカンとはノーカウントのことである。


「第2問、秘宝大会で使用可能な秘宝獣の数は?」


「I don’t know《知りません》!」


「参加目指してんなら知っとけよ……」


 清々しい笑顔で答えるパレットに、赤い髪の少年はため息をつきながらボヤいた。


「秘宝大会に使える秘宝獣は4体。2vs 2の交代ありのルールで行われるらしいな」


「ちょっと、ホッブズだけガイド読みながらなんてズルイ!」


「お前は少しは自重しろよ……」


 ルールガイドを奪いかかいに来るパレットを、赤い髪の少年はなんとか振り払う。


「本題に戻るぞ……第3問、このレースで有利な選抜は?」


 それを聞くとパレットは、自身の手持ちの秘宝を眺めた。


 パレットの今の手持ちは、スズメバチの『アネット』、白兎の『ソル』、仔馬の『サブレ』だ。


「今回はレース大会だから、乗ることのできる『サブレ』は確定ね。あとは遠距離攻撃ができる『アネット』で、妨害も兼ねれるわ!」


「それもありだと思うけど、もう少し考えてもいいんじゃないか?」


「ふーん……たしかに単調すぎるかも……」


 パレットは『アネット』の宝箱に向いていた視線を、『ソル』の宝箱に移した。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「……何か思いついたか?」


「『ソル』の能力は『念会話』なの。レースにはあまり向いてないかも……」


「テレパシーってやつか? どこまで読み取れるんだ?」


 パレットは「う~ん」と唸り、白い兎の能力に触れた時のことを思い出した。


「『ソル』自身の思考を、あたしと共有できるわ。あと、相手の思考を読み取って、あたしに伝えることもできた!」


「へぇ、結構広いんだな。相手の思考も読めるなら、かなり使えるんじゃないか?」


「どうやって?」


「そうだな……例えば……」


 赤い髪の少年は、数秒思考した後に続ける。


「レースってのは先に飛び出すやつと、スロースタートな奴がいるだろ?」


「まぁそうね」


「だいたい厄介なのは、後ろから追い上げてくる連中だ。何か企んでいるだろうからな」


「それを『ソル』の能力で読み取るのね!」


 赤い髪の少年は、「そういうこと」といった表情でドヤる。


「でも、『ソル』の能力は目の前の相手にしか使えないわよ?」


「なに!? そうなのか……」


 赤い髪の少年は、ガックリと肩を落とす。


「ああっ!」


 パレットは急に大声をあげた。


「なんだよ……」


「あたし、いいことひらめいちゃった♪」

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