第25話 いざ、最後の島へ!

【陽光町から南西にある島、秘航ひこう島】


「セルフィ、そこで大きく旋回して!」


「来るぞ、白羽鳥しらはどり、防御体制」


燕堕スワローズ・フォールし!」


空に向かって突っ切った、腹部の薄赤い藍黒色のツバメが、急降下する。白鳥は翼を交差させ、さらに目の前にバリアを張る。


燕と白鳥はくちょうは、バチバチと力をぶつけ合う。


「ぐっ……」


——パリィィィン


あまりの衝撃にバリアは粉々に砕け散る。そして……


「そのままいっけぇぇぇ!!」


燕のクチバシが白鳥を押し切る。そしてそのまま地面へと叩きつけた。


「……よくやった。戻れ、白羽鳥しらはどり


「お疲れ様、セルフィ!」


仮面をつけたブロンドヘアーの美男子は、白鳥を金色の秘宝の中へと戻した。


黒髪のポニーテールの少女は、嬉しそうに燕と勝利の喜びを分かちあっていた。


「腕をあげたな、菜の花くん」


「マイスターもね!」


ベスト8の1人、菜の花 乃呑は、2週間後に行われる『秘宝大会』に向けて、同じくベスト8の1人である『鳥名人バードマイスター』と特訓をしていた。


「それにしても、菜の花くんの成長速度には驚かされるな」


「えへへ。けど、もう1枚バリアを張られてたら、たぶん突破できなかった」


「いや、その隙をつくらせなかった、セルフィの勝ちだ」


「……取り込み中のところ失礼する」


そこに、緑色の軍服を着た無表情な男が現れた。『鋼』と刻まれたバッジをしている。


ペラペラと手配書をめくりながら、手配書と目の前の人物の顔を見合わせている。


「No.2、白鳥しらとり 煌美てるみと……No.7、菜の花 乃呑だな……?」


「あなたは誰……?」


ポニーテールの少女は、警戒しながら眉を潜ませる。


「弱者に名乗る名などない。No.2、秘宝バトルを受けてもらう」


「菜の花くん、キミは下がってなさい」


「でも……」


無表情な軍服の男と、仮面の美男子は、それぞれ金色の秘宝を取り出す。


解放リベレイト! アルバトロス! 」


解放リベレイト! メタル・バッファロー!」


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【一方、パレットたちは……】


「バイキング~♪ バイキング~♪」


「パレット、お前盛りすぎだろ……」


「だってバイキングよ? たくさん食べなきゃ損じゃない!」


研究所所長に手配して貰った豪華客船で、優雅な朝食を満喫していた。


肉厚なステーキにスクランブルエッグ、ソーセージにシャキシャキのサラダ。そして寿司。フレンチトースト。コーンポタージュetc……


「朝からそんなに食えるのかよ……」


「off course!《当然よ!》」


「まぁいいけどな……昨日からやけに上機嫌だな?」


赤い髪の少年はブレッドを口の中に放りながら言った。パレットはふふんと鼻を鳴らして、さらに上機嫌になった。


「それはね、聴いて! ようやくあたしの功績が認められる時が来たのよ!」


「功績?」


「端的に説明するわね……」


パレットは昨日、『黙示録事件』での活躍を研究所の所長に感謝されたことを、赤い髪の少年に話した。


「それで、結局秘宝は貰えなかったけど、代わりに秘宝獣は手に入ったわ♪」


「よかったなぁ。けど、僕からすると黙示録事件ってそもそもの原因がパレットにある気が……」


封印を防衛する側だった赤い髪の少年は、少し皮肉を含めて言う。ステーキをナイフで切りながら、パレットは余裕気に反論する。


「そんなことないわよ? あたしが行かなくても、どのみちホッブズは瑠璃様が来てたら勝てなかっただろうし」


「なっ、雑魚扱いするなよ!?」


「それに、あたしが寝返らなかったら、神様が瑠璃様足止めしてる最中に原爆ドカーンで世界崩壊してたでしょ?」


「うぐっ……たしかに……」


喉元過ぎればなんとやら。パレットは両手を広げて爆発の規模を笑顔で表現する。


「あれからもう一ヶ月かぁ……早いものね」


「そうだな。秘宝大会は10月。あと半月近くだな」


「ええ。あと2週間、この島で修行して、道場にも勝って、必ず秘宝大会に参加してみせるわ!」


朝食を綺麗に食べ終えたパレットはガタッと席を立ち上がった。


「おうよ!」


赤い髪の少年もニッと笑って、パレットに続いて立ち上がる。


『ご乗船中のお客様、間もなく『サルデス』に到着します。席に座ってお待ちください」


「「はい、すみません……」」


タイミングの悪いアナウンスに、少しシュンとしたパレットと赤い髪の少年であった。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【絶海の孤島 サルデス】


——とは言っても、島には大勢の観光客でガヤガヤと賑わっていた。


「着いた! ここがモンキーパークね!」


「いや、猿は関係ねぇ……」


ここ、サルデスには『秘宝』を開発した会社、TRG社が置かれている。この島の広い面積に比べると小さな会社なのだが、その名は既に世界中に知られている。


だが、パレットたちの今回の目的はそちらではない。昨シーズン秘宝大会の予選で行われた『秘宝獣レースGP』、その縮小版の『秘宝獣レースミニGP』が、この島で行われるのだ。


「ミニ大会の開催は1週間後よ。それまでに秘宝バトルの最終調整をするわよ!」


「パレットの今の手持ちだと、走るしかなくないか?」


「さっき言ったでしょ? 新しい秘宝獣を貰ったって。解放リベレイト! サブレ!」


「キュウーン!」


パレットが銀色の宝箱をスカートのポケットから取り出し、上蓋を弾くと、茶色のサラサラとした毛並みの仔馬が飛び出した。


パレットはそのまま仔馬の上にまたがった。


「どう? いいでしょ? ふさふさ!」


「いや、さすがにそれは……」


茶色い仔馬の身長は80cmほど。パレットの半分くらいの大きさだ。パレットはしがみつくように、その上に乗る。


「もふ!? そんなまさか……」


そこにたまたま通りがかった、メイド服の少女が絶句した。


「まさか、この人たち、私の唯一のアイデンティティに対抗しようとして……」


メイド服の少女は、儚げにオヨヨとその場に崩れ落ちる。


「いや、してないけど」


「っていうか誰だよ……」


パレットと赤い髪の少年が淡々と返すと、メイド服の少女は「フフフ……」と笑いながら立ち上がった。


「皆様長らくお待たせしました! 旧世紀より遥か長い時を超え、この世界に舞い降りたモフモフの使者! そして秘宝大会の前シーズン優勝者、九十九 なごみ です♪」


メイド服の少女は、エプロンの後ろからは、チラリと狐の尻尾を覗かせている。モフモフである。


メイド服の少女は、エプロンを捲し上げて可愛くウインクをした。


「モフ♡」

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