第27話 最後の御朱印!
【
「フェンネル、『2:2:2《トワイ・ツー》・ビットF《フォーメーション》』!」
ポニーテールの少女の掛け声と共に、フェンリルの上空を漂う6つの
それらはタイミングをズラしながら、鋼鉄の半身を持つ水牛を攻撃する。
「休む暇すら与えない攻めの嵐か……だが……」
軍服を来た無表情な男が号令をかけると、水牛は、胴体の鋼鉄の部分で光子砲を弾く。
「鋼鉄を纏ったメタル・バッファローには通用しない!」
「たしかに、『フェンネル』の『ファンネル』は手数が多い分、一撃の威力が落ちる……だから硬ければ防ぎようはある」
ポニーテールの少女は、白銀の狼を入れていた秘宝を、目を閉じたまま胸元にかざす。
「どうした? 諦めたか?」
「なわけ! フェンネル、『バーストモード』!!」
黒髪のポニーテールの少女は、想いを注いだ秘宝を白銀の狼に向けて、開いた。
宝箱から白い光が溢れだし、狼の身を包んでいく。バラバラだった6つの光子砲が1つの極大レーザー砲へと変化する。
軍服の男は口を開いて驚愕する。
「何、姿が変わった……だと!?」
「これが私とフェンネルの『絆』の力!
極大レーザーは、キュイィィンと音を立てながら、エネルギーを溜めていく。
「ふん、充填までに時間を掛けすぎだ。メタルバッファロー、『
鋼鉄の水牛は、鋼鉄の面をレーザー砲に向け、脚をたたむ姿勢となった。
「さあどうする? No.7」
鉄壁の守り、万全の体勢。余裕の態度をとる軍服の男は、『フェンネル』の『バーストモード』の効果を知らなかった。
ポニーテールの少女は、躊躇することなく指示を出した。
「フェンネル、『
「耐えろ、メタル・バッファロー」
極大レーザー砲から、白い光のエネルギーが大量に放出される。水牛は鋼鉄の面でそれを全力で受け止める。だが……
「無駄だよ。だって、フェンネルのバーストモードは……」
そう、フェンネルのバーストモードは……
「全ての防御効果を
「なんだと!?」
ブモォォォォという叫びとともに、水牛の鋼鉄が砕け、水牛は光の玉となって軍服の男が持っていた秘宝の中へと吸い込まれていった。
「馬鹿な、この
膝をつき放心状態の軍服の男に、ポニーテールの少女が詰め寄った。
「各地でベスト8が襲われてるってニュースを見て、愛佳が哀しそうな顔してた。だから、もうしないでね」
ポニーテールの少女が手を差し伸べようとした時、突如謎の軍服を着た、1人の男性と2人の女性が彼女らの前に現れた。
ポニーテールの少女は、眉をひそめて言った。
「誰、あんたたち……」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
【一方、パレットたちは……】
「さあ、今年もこの季節がやって参りました。秘宝獣レースミニGP! 栄誉ある優勝は誰が手にするのか!? 実況はお馴染み、この私、TKCがお送りします!」
「それでは位置について……よーい、ドン!」
エアガンを持った巫女さんのパァンという空砲の音とともに、スタート地点にいた選手たちが獣に乗り、いっせいに駆け出した。
「ゴールはこの島、サルデスの最奥にある猿神宮になります! 開幕早々、幸先の良いスタートを切ったのは当然この人、秘宝大会本選覇者の九十九 なごみ選手~!」
「見てますか
ダブルピースをしているメイド服の少女は、9頭を持つ大蛇の背に乗って他のレース参加者を寄せ付けない。
それもそのはずである。なにせこの大蛇、全長が山8個ほどもある。あまりの大きさに、安全配慮のため、スタート地点が他の参加者と離されていたくらいだ。(走る距離は同じである)
「さすがSランク秘宝獣『九蛇』! いつ見ても凄い迫力です! これはいきなり勝負が決まってしまうのかぁ!? いや、もう一人トップを走っている選手がいます! 乗っているのは……馬?」
「トップを走るって気持ちいいわね♪ 後ろを追いかけるなんて、あたしの主義じゃないもの」
美しい茶色の毛並みの仔馬に乗っているのは、パレットとその秘宝獣、『サブレ』だ。
「んん? 馬に乗った選手が、背中に何か背負っているぞ? 白いモフモフとした、あれはなんだ!?」
『パレット、斜め左後ろから、氷柱の攻撃が飛んでくるよ!』
「OK! サブレ、右に躱して!」
仔馬はパレットの指示を受けて、上手く氷柱を回避した。
それはパレットと赤い髪の少年で考えた秘策だった。パレットの背中には、白い兎、『ソル』をリュックサックのように背負ってる。
前方だけではなく、後方にも目があるというのは、レースという環境では大きなメリットである。
「よし躱せた! ありがと、『ソル』♪」
『後ろのことはボクに任せて! パレットは真っ直ぐ進むことだけ考えてね!』
パレットの手持ちの秘宝獣も、いつの間にやら充実してきたようだ。
だが、大会という場は、そう易易とは勝たせてくれない。
パレットが後ろからの攻撃を気にかけている間に、1人、また1人とパレットの横を過ぎ去っていく選手たち。
「ふーん……あたしの前に立つなんて、いい度胸じゃない? 『サブレ』、『疾走』!」
パレットが手綱をクイッと引くと、仔馬の走る速度が急上昇した。
「もふ、スピードアップ系の能力だね……戦闘においても厄介だけど、なによりレース向きのスキルだね」
振り向きざまにそれを見ていたメイド服の少女は、もう1匹の秘宝獣を解放する。
「
銀色の宝箱から飛び出したのは、綺麗な羽を広げる孔雀の秘宝獣だ。
「『九雀』、『サンライト・バースト』!」
孔雀は九つの大きな羽に、太陽の吸収し、一気に放出した。
「うおっ、眩しい」
「目眩しか!?」
パレットを抜き去りメイド服の少女の後ろに付けていた各動物に乗った選手たちは、強い太陽の光を浴びて足が止まる。
パレットは再びその選手たちを抜き去った。
そしてメイド服の少女の横に並んだ。
「やっと捉えた! 勝負よ、No.1秘宝使い!」
「残念ですが、これはレースバトル。先にゴールに着いた方が勝ちなんですよ」
「あっ、逃げた!」
大蛇の頭上に乗ったメイド服の少女は、パレットの相手をせずに1位を独走する。
そしてそのまま、ゴールインした。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「くぅ……次は負けないわよ!」
『パレット、後ろの人たちが追ってきてる!』
「ええ、サブレ、あと少しよ! 走れる?」
「ヒヒィーン……」
仔馬のスピードが徐々に落ちてきている。
特訓中はパレットのみを乗せる想定で訓練してきたが、本番で背負った白い兎の重さを計算していなかった。
「あっと、どういうことだ!? トップを走っていた金髪の少女が、秘宝獣の背から降りたぞ!?」
「お疲れ様、『ソル』、『サブレ』。あとはあたしに任せて!」
パレットは、秘宝獣をそれぞれの秘宝に戻し、靴紐をギュッと結んだ。そして走った。
「なんと金髪の少女、ここに来て自分の足で走り出しました! 距離は残り100m弱! 後ろからは秘宝獣に乗った選手が押し寄せるように迫ってきているぞ~!?」
(大丈夫、いける!)
パレットは100mの距離を、後ろを振り返ることなく走った。
(最後の御朱印だもの……秘宝獣だけに頼るんじゃなくて)
パレットは息を切らさずに走る。前の世界で身につけた基礎体力が、力を貸してくれる。
(
「ゴォォル! 金髪の少女、最後は自らの足で、2位でゴールインだぁぁ!!」
ゴールしたパレットの目の前には、大きな建造物があった。サルデスの神宮だ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
大会を終え、息を整えたパレットは、サルデスの神宮で参拝をしていた。
(この世界が、平和であり続けますように……)
「パレット、何を祈ったんだ?」
「別になんでもいいでしょ。秘密よ」
「まぁ、願い事は一つ、二つにしとけよ」
パレットと赤い髪の少年は、神宮を出ると笑顔の巫女さんに会った。
「大会お疲れ様です! 御朱印をどうぞ!」
「ええ、お願いするわ」
パレットは黒い御朱印帳を開き、巫女さんに手渡した。筆を走らせ、最後にポンとスタンプを押してもらった。
「はい、どうぞ」
「Thank you《ありがとう》! あ、けどやっぱりそうなんだ……」
「結局そのオチかよ……」
サルデスのスタンプは、『猿』だった。
ともあれ、これで7つの御朱印が揃った。
残すは陽光町にある道場で参加資格を認められる強さを証明するのみである!
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