第23話 秘宝の秘密

「「お爺様の研究所?」」


「はい、なのです」


ジト眼の少女は右手を空にかざし、パチンと指を弾く。すると……


——ブロロロロロ……


まるでタイミングを待っていたように、1機のヘリコプターがパレットたちの真上に飛んできた。


「乗ってほしいのです」


ジト眼の少女はパレットと赤い髪の少年にヘリへ乗るよう催促する。ヘリコプターからは縄はしごが垂らされる。


「どうする、パレット?」


「そんなの、決まってるでしょ?」


縄のハシゴを訝しげに見つめる赤い髪の少年を他所に、パレットは縄ばしごを駆け上がりながら言った。


「こんな面白そうなの、行くっきゃない!」


ヘリコプターの中には既に先客がいた。ヘリコプターの操縦士、ジト眼の少女、学生帽を目深に被った少年と、黒い長髪を腰まで伸ばした気品溢れる少女だ。


「紹介するのです。我が陽光学園の誇る生徒会のメンバー、副会長の徳井と会計の来栖川なのです」


「ふっ……まあよろしく」


「よろしくお願いしますわ」


「こちらこそよろしく! あたしはパレット」


「クク……僕はホッブズだ」


赤い髪の少年と、唾に手をかけた学生帽の少年の視線が交わる。数秒見つめあったまま、2人は気まずそうに目線を逸らした。


((なんか僕たち、キャラ被ってないか……!?))


片や『黒城くん』の中ボスとして、片や『ハッピートリガー』の中ボスとして登場した彼らには、どこか通じるところがあったようだ。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


—数時間後—


「着いたのです」


ヘリコプターは、大学のような施設の屋上のヘリポートに停められた。


パレットたちは1人ずつヘリコプターから外の屋上へと出る。気品溢れる少女は、1人だけヘリコプターの中へと残った。


「生徒会長、私はこれで失礼しますわ」


「来栖川財閥にはいつも助けられているのです」


ジト眼の少女は、軽く会釈をする。


「喜んでいただけるだけで十分ですわ」


気品溢れる少女は笑顔でそう言って乗り込み、操縦士にヘリコプターを再び飛ばさせた。


(自家用ヘリって、どれだけ金持ちなのよ……)


パレットは飛び立つヘリコプターをぼんやりと見つめていた。


「あなた方はこちらなのです」


「え、ええ……」


ジト眼の少女に連れられて、パレットたちは屋上の扉を開け、下へと向かう階段を降りていった。


「ここなのです」


「開けるわよ?」


パレットがドアノブを回すと、扉の向こうには大きな講堂が広がっていた。ひな壇の斜め下に見える教壇の後ろには、巨大なモニターが映し出されている。


「なによここ、大学?」


「お爺様は学校にも幅広く手をかけているのです。ここは大学院なのです」


「ふーん……でも、それとあたしの目的と、なんの関係があるの?」


「しーっ。席について欲しいのです」


パレットたちは、言われるがままに適当な席へと着く。広めの講堂には、スーツを着た数十人の人々がまばらに席に座っていた。


パレットから見て斜め右下に見える場所から、ワックスで髪を七三分けで固めた、グルグル眼鏡をかけた人物が入ってきて、教壇に立った。


「えー、この度は……」


小さな声が聞こえた。七三分けの教授は、マイクをトントンと叩き、マイクのスイッチをONに切り替えた。


「えー、この度は、ようこそお越しくださいました」


今度は大きな声が、講堂全体に響き渡った。


「われわれのラボラ・・・とりーへ」


パレットと赤い髪の少年の頭上に、クエスチョンマークが浮かんだ。そして、同時に心の中で叫んだ。


((しまですらねぇぇぇ!?))


ジト眼の少女がパレットたちを連れてきた場所は、秘宝獣専門の研究所、ラボラトリーであった。


「皆様は知っているでしょうか? 秘宝獣の起源を……では、そこの金髪のお嬢さん、お答えください!」


「えっ、あたし!?」


パレットはいきなりご指名を受けた。パレットは顎に手を当てて探偵のように考える。


(確か、禁忌の秘宝の正体が、数千年前の鋼帝国に怨念を抱く魂だったわね……)


パレットは席を立ち上がり、教授に向けて指でピストルを作り、ビシッと答えた。


「ズバリ、2、3000年前!!」


「ブッブー、不正解です」


七三分けの教授は、眉を潜ませて腕で大きくバツ印を作った。


(なんかムカつくわね……)


教壇の後ろの巨大モニターに、秘宝の歴史と書かれたモニターが映し出される。


「ナイスボケでしたが、皆さんご存知の通り、秘宝が誕生したのはおよそ5年前。TRG社の製品がたまたま・・・・開発した偶然の産物が起源とされてます」


当然のように頷く学生帽の少年に驚きつつ、パレットは赤い髪の少年に小さな声で耳打ちをする。


「ホッブズ、どういうこと? あんたの『ツヴァイアサン』も『旧世紀の秘宝』なんでしょ?」


「それは僕たちが知りすぎた・・・・・だけだ。一般的な常識だと、秘宝が出来たのはごく最近の出来事に過ぎないんだ」


「なによそれ、意味わかんないんですけど……」


ボソボソと話すパレットたちを置いて、七三分けの教授は話を進めていく。


「われわれラボラトリーのメンバーは、このTRG社の企業秘密として謎にされてきた『秘宝』の存在を、科学的に研究してきました。そして、遂に『昇華現象』のメカニズムを突き止めたのです!」


おおーっという歓声が沸き立つ。カメラを回している者や、メモ帳を片手にペンを走らせている者の姿も見られる。


七三分けの教授は、バンと教壇を両手で強く叩き、マイクを握って叫んだ。


「ずばり、『秘宝』の中身はこの世界とは別の『異世界』と繋がっており、その異世界で何らかの経験をし、『この世界』に現れる!! それが『昇華現象』のメカニズムなのです!!」



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