番外編⑤ シリーズ第1話~黒城くん視点~

【3年前、俺の目の前で大切な人が車に轢かれた。俺と、白い猫の身代わりになって……


 颯斗はやとさんは重症を負ったが、一命を取り留めた。その知らせを聞いて、俺は急いで病院へと駆けつけた。


 病室のベッドには、頭に包帯を巻いた颯斗さんが、上半身だけを起こしてボーッと窓の外を眺めていた。


「颯斗さん、 良かった……」


 俺の声に気が付き、颯斗さんは視線を窓から俺へと移した。そして一言……


誰だい・・・? キミは……」


「颯斗さん……? 冗談ですよね? 俺です、黒城 弾です」


「すまない……本当に覚えてないんだ……」


 颯斗さんは、後頭部を打ち付けたショックで記憶喪失になってしまった。


「颯斗さん、この間の猫、助かったんです。解放リベレイト!!」


 俺は銅色の宝箱を開けて、白い猫の秘宝獣を外へ出した。


「ぬー」


 つぶらな瞳……というには語弊があるかもしれない。黒い点・・・のような眼。正気を感じることもできない。


 壊れたオモチャのように、「ぬー」としか鳴けなくなってしまった猫。どうして……


『お前が道路へ飛び出さなければ、うちの颯斗はこんなことには……』


『私たちの颯斗を……息子を返して!!』


 俺は親戚のおじさんとおばさんに酷く責められた。辛いんだよ……俺だって……なのにどうして……


「ぬー」


 お前も俺を責めるのか……!?


 それ以来俺は、秘宝を開けられなくなった……人とも関わらなくなった……


 それから二年が経ち、中学生になった俺は、学校で虐められていた一人の少女・・・・・を助けてしまった。


 馬鹿だったんだ。中学生になれば、環境が変われば自分を変えられると思ったんだ。

 自分は何一つ変わっていないのに……


 結果、俺はどこのグループにも所属しない、孤独な存在として学園生活を送ることになった。『非干渉主義』というのは、そんな哀れな自分を正当化するための『言い訳』に過ぎなかった……


 それから一年が経った。何も変わらない日常。何も変わらない自分。そんなある日、一羽の青い鳥が木の下でグッタリと倒れているのを見かけた。


 だが、俺は放置してそのまま家に帰ろうとした。そんな俺を引き止める声が背後から聞こえた。


「黒城くん……!!」


 その声の人物は、一年前、俺が学校で虐めから助けてあげた少女だった。名前は確か……鴇 愛佳。いつも学級委員と一緒にいる気の弱そうな女の子だ。


 その少女は、潤んだ瞳で俺に訴えかけていた。「助けてあげて……」と言わんばかりに。


『お前が道路へ飛び出さなければ、うちの颯斗はこんなことには……』


 親戚のおじさんの悔しそうな表情がフラッシュバックのように思い出された。


 そうだ、俺は『非干渉主義』。もう二度と誰とも関わらないと決めたんだ。


 俺は背中を向け、青い鳥を放置したまま家へと帰った。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 翌日、俺がいつものように、人通りの少ない裏門から登校すると、巣に戻された昨日の青い鳥の姿があった。


 幸せそうな表情で眠っている。きっとあの少女が助けてくれたのだろう。良かったな。


 俺がその場を平然と通り過ぎようとした時、青い鳥がパチっと眼を覚ました。


「待ちなさいッ! あんた昨日の冷酷男ねッ!」


 甲高い声が俺の耳をつんざく。擬音にするとピィピィとやかましい声だ。


「アンタには一から道徳ってヤツを叩き込んでやるわッ!!」


「グハッ」


 青い鳥は目にも留まらぬ早さで、俺の身体を数m向こうへ蹴飛ばした。木の枝や葉っぱが背中に突き刺さる。痛い。


 俺は青い鳥から逃げるように校舎の中へと入っていった。とにかく走れ。教室まで走れ。


「待ちなさいッ! このろくでなしッ!」


 廊下を走っている間も、ポタポタと血が零れる。なんつー威力だ。ってか秘宝獣が喋るなんて話、聞いたことねーぞ!?


 俺は階段を駆け上がり、自分の教室のドアを開けた。クラスの連中が冷ややかな目で俺を見る。だが、そんなことはどうだっていい。


「あっ……黒城くん」


 あいつに、鴇に、あの青い鳥の本性を伝えなければ……!


「黒城くん……!?」


「鴇……に……げろ……」


 なんとか伝えたが、奴が来るのは時間の問題だ……風切り音がすぐそばまで……


「っ……! 来るぞっ……!!」


 青い鳥は勢いをそのままに俺へと迫る。直撃しようとしたその時、青い鳥はなぜか俺の寸前でピタリと急停止し、鴇の元へ可愛くすり寄っていく。


「ピィ、ピィ! 」


「ピーちゃん!? 」


 その瞬間、あの凶暴な青い鳥は『ただの鳥』へと成り下がった……鴇の前でだけは。これが俺とヒナコ(ピーちゃん)との出会いだった】

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