第22話 レンタルバトル!

「魔将七選!?」


「そ、魔将七選」


パレットから話を聞いた赤い髪の少年は、あんぐりと口を開いていた。


「ホッブズは何か知ってるの?」


「知ってるも何も、魔将七選は天上界こっちでも名の知れた奴らだからな……」


「ふーん……やっぱ有名なんだ」


特設のライブ会場を離れ、パレットたちは牧草の広がる地帯を歩きながら話していた。


「6年前、天上界と魔界、人間界が時空の歪みで交わりそうになった事件があったんだ。『天魔併合事件』。魔界で起きた出来事だから、人間と天使は極一部の人にしか知られていないけどね」


「あんただって普通の・・・天使でしょ?」


「うぐっ……」


パレットのさりげない一言が、赤い髪の少年の心にグサリと刺さった。


「僕だって女神様に選ばれるように色々と勉強したんだ! 文句あるか!?」


「別にないわよ。それに、いつまでも同じとは限らないでしょ? その大天使のメンバー」


「どういう意味だよ……?」


赤い髪の少年は首を傾げてパレットを見る。パレットは笑顔で赤い髪の少年に言った。


次頑張ればいいじゃない・・・・・・・・・・・!」


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「着いた! カリン島の神社!」


「なにぃ!? 過程すっ飛ばした!?」


「細かいことはいいのよ。ノープロブレム」


パレットと赤い髪の少年はカリン島の神社へと到着した。出迎えるように、一人の巫女装束の女性が現れた。


「カリン島神社へようこそ!」


(ヴァルカンの居場所も聞いたし、サクッと御朱印貰って帰りたいところだけど、御参りが先よね)


「本殿の場所はどこかしら?」


「はい、こちらになります!」


巫女さんにマップを貰い説明をうけて、パレットは御参りを先に行った。


御朱印を貰うことを目的にしてはならないというヴァルカンの教えも効いているようだ。


「あら、お帰りなさいませ!」


先ほどの巫女さんだ。


「御朱印貰えるかしら?」


「はい! ……と、言いたいところなのですが……」


巫女さんは人差し指を突き出し、境内から見える牧場をビシッと指さした。


「この御朱印を手に入れるためには、この島の名物、『レンタルバトル』に参加しなければなりません!」


「そうなの!?」


「はい!」


笑顔で答える巫女さんに聞こえない声で、パレットたちは身を屈めて後ろを向き、赤い髪の少年にヒソヒソと耳打ちをする。


「今まで廻った島は、御朱印貰うのに『条件』みたいなものは特になかったわよ?」


「それはヴァルカンがそういう島を選んで・・・くれてたからだ……」


秘宝大会経験者の青い髪の青年は、あらかじめ情報を調べた上で島を廻っていたらしい。


パレットは小さくため息を着いて、巫女さんに向き直った。


「その、レンタルバトルとやらに勝たないと御朱印は貰えないの?」


「いいえ、去年から少し条件が変更されました」


「条件が変更……?」


それを聞いたパレットは嫌な予感がした。


「レンタルバトル、去年までは普通の人は2、3回ほど挑戦すればクリアできる簡単なものなのでしたが……」


パレットはゴクリと唾を飲む。


熊崎くまざきって人が100回を超えてもクリア出来なかったため、誰でも参加すれば御朱印を貰えるように変更されました♪」


「ええっ!? 何やってんのあの人!?」


パレットはこの世界に来て最初に秘宝バトルを見た時のことを思い出した。


熊崎というのは、火熊ひぐまという秘宝獣を使う、山賊のような外見の剛髭を生やしたオッサンだ。


『ゴリ押し』というに相応しい戦闘スタイルだったが、あれでもベスト8の一人だ。


(たしかに脳筋って感じだったわね……)


「というわけで、誰でも貰えるので、お気軽に参加してください!」


巫女さんに手を振られながら、パレットと赤い髪の少年は牧場へと向かった。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「へー、これ全部秘宝獣なの?」


「そうだよ。ここは訳あって預けられた秘宝獣を預かるための牧場さ」


白いシャツに青のオーバーオールを着た、小太りのオジサン。彼がここの牧場主のようだ。


牧場には、牛や羊、山羊やぎや馬の他にも、鶏やアルパカといった様々な種類の動物を放牧しているようだ。


「その中から好きな秘宝獣を一匹選んで、このカカシを倒すんだ」


わらで作られたカカシや、針金で作られたカカシなどが、横一列に並べられている。


秘宝獣の能力を見抜き、引き出すことが求められそうだ。


「どの子にしようかしら……」


パレットは広い牧場を回りながら、秘宝獣を遠目から眺める。すると、二匹の白いモフモフとした動物が目に入った。


パレットともう一人・・・・は、同時にその動物を持ち上げた。


「この子に決めた!」


「この子に決めたのです」


パレットの隣には、見覚えのある学生服のジト眼の少女が白い兎を抱えていた。


「あら? あなたは……」


「……『黙示録事件』の主犯」


ジト眼の少女は、普段よりもジトっとした眼でパレットを見つめていた。バチバチと一方的に火花をぶつけている。


「そうね、あの時はこの町の人たちに迷惑かけてごめんなさい……」


「いえ、あの件はワタシにも責任があったのです」


「そう……あたしはパレットよ。あなたは?」


「白樺 涼 なのです」


白いうさぎを抱きながら、パレットとジト眼の少女は少しだけ打ち解けたようだった。


「お、おじちゃん、大変だ~」


急にドタドタと若い青年が牧場主のおじさんのもとへ走ってきた。


「どうした、そんなに慌てて」


「野生の秘宝獣が飛んできて、カカシを攻撃してるよ~」


「なんじゃと!?」


白いシャツにオーバーオールを着た牧場主のおじさんは、カカシ置き場へと走った。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「これは酷い……」


「酷いわね……」


「酷いのです……」


牧場主のおじさんが着いた時には、カカシは既に全滅していた。


「これではレンタルバトルの試練を行えそうにない。悪いが日を改めて……」


「このカカシを壊した秘宝獣を倒せば、クリアしたことにしてくれ貰えないかしら?」


パレットは牧場主のおじさんの台詞を遮り、堂々とした口調で言った。


「それはよいが、そんなことが可能なのか?」


「ワタシたちに任せて欲しいのです」


ジト眼の少女は、力強く言った。


「そこまで言うなら仕方ない。金髪の嬢ちゃんが抱いとる方の兎は『ソル』、黒髪の嬢ちゃんが抱いとる方の兎は『ルナ』じゃ」


「よろしくね、ソル!」


『うん、よろしく』


「ルナ、よろしくなのです」


黒髪の少女の抱いてる方の兎は、プイっとそっぽを向く。


「気難しいのです……」


(今、どこからか声が聞こえたような……?)


パレットは白いうさぎを抱いたまま、キョロキョロと辺りを見渡していた。


「いた、あれがうちのカカシを壊した秘宝獣だよ!」


壊れたカカシの上に、一羽の黒いカラスが留まっていた。


「ルナ、『ソウルスマッシュ』なのです」


シュタッとジト眼の少女の腕から離れた白い兎は、ジグザグに跳びはねながら、小さな前足に雷をまとう。


——バリバリバリ


雷の一撃はカカシへと直撃したが、カラスの秘宝獣は空へと避ける。


「外したのです……」


(凄い、初めて使う秘宝獣なのに、その子の性質を理解してる……)


「やはりダムドレオ以外の秘宝獣を使ったことがないからなのです……?」


(今の技、即興だったの……!?)


パレットはいきなり始まった戦闘と、使ったことのない秘宝獣に戸惑っていた。


『拙者はダークロウ。久しくぶりに強き者と戦えそうだ、って言ってるよ』


(またこの声だ……いったい誰なの?)


パレットは抱いている白い兎に目を落とす。


「もしかして、あなたなの……」


『やっと気づいて貰えた。ボクの能力、念会話でキミの心に話しかけているんだ』


「念会話……?」


パレットは戸惑いながらも、白い兎を地に放した。


『ボクは攻撃技をまだ覚えていないけど、秘宝獣と人間の意思疎通が可能だよ』


カラスの羽が手裏剣のように地面へと突き刺さる。ジト眼の少女と白い兎は、苦戦を強いられていた。


「ソル、あのジト眼の少女に何か手助けできないかしら? まだ扱いなれてないみたいだし……」


『わかった。ルナの心の声を聞いてみるね』


パレットの方の兎は耳を動かし、ジト眼の少女の方の兎と交信する。


『ボクとルナのタイミングを合わせれば、ルナの必殺技を使えるかもしれない。けど、そのためには隙がないと……』


「隙ね……わかった、やってみる!」


パレットはレッグホルスターから、黒い拳銃を取り出した。そして銃身を真上に回転を加えて放り投げた。


銃身が太陽の光でギラギラと反射する。カラスはそれに一瞬目を奪われる。


「今よ、ソル、ルナ!」


「何をする気なのです……?」


二匹の兎は華麗なコンビネーションで、同時攻撃を放つ。パレットと二匹の兎の連携技……


「『ソウルバレット!』」


パレットは回転しながら落ちてくる拳銃を、かっこよくキャッチしてレッグホルスターに収める。


『拙者の不意をつくとは、見事だ……』


カラスの秘宝獣が吹き飛ばされる。落ちてきたカラスを、ジト眼の少女は銀色の秘宝を使って捕獲する。


「捕獲、完了なのです」


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「いやぁー、見事な戦いだった」


そこで、と牧場主のおじさんは続ける。


「ソルとルナ、君たちに預かってほしい」


「ほんとに貰うわよ?」


「いいのです?」


「ああ、ここは預かり場と言っても、持ち主に捨てられた秘宝獣がほとんどだからね。君たちのような若者に預けた方が安心だ」


牧場主のおじさんはニッコリと笑っていた。


「5つ目の御朱印も無事手に入ったし、ホッブズ、次はどこの島へ行くの?」


「今探してるとこ……また愚痴られたら面倒だし……」


「それならワタシのオススメの島があるのです」


ジト眼の少女が口を挟んだ。


「オススメの島……?」


「なんだよそれ……?」


ジト眼の少女は、微笑しながら言った。


「私のお爺様の『研究所』なのです」


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


ダークロウのアイデアはampoule様から、ソルとルナのアイデアはさかさまのねいろ様から頂きました! ありがとうございます!

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