第19話 ロイ・ヴァルカンの謎

【鋼帝国王都—皇帝城—】


 長々と続くレッドカーペットを、緑色の軍服を着た兵士と、青髪の青年は並んで歩いていた。


「突然の招集に応じていただきありがとうございます。鋼帝国軍『元水軍大将』ロイ・ヴァルカン殿」


「それは構わんが、例のくだん・・・・・はどうなっている?」


「ええ、金髪の少女なら、皇帝の間に居られます。丁重に扱っておりますので御安心を……」


「そうか……」


 青い髪の青年は、軍隊の人物と対等に話していた。


 ロイ・ヴァルカン。大天使『4LDK』の一翼にして、秘宝大会のNo.4。元鋼帝軍のトップでありながら、現在は自警団の一人として活動している。


 ヴァルカネルという天使ネームで呼ばれることもある。


 いつもパレットと行動を共にしながらも、最も謎の多い経歴の持ち主だ。


「着いたぞ、ここが謁見の間だ」


「ふっ……久しいな」


 鋼鉄でできた銀色の大きな扉。その周りには赤と金色の装飾が施されている。


「では、私はこれにて」


「ああ、ご苦労であった」


 緑色の軍服の男は足を揃え、ビシッと敬礼した。青い髪の青年は扉に手をかけながらそう言った。


 ——ギギギギギ


「失礼する、鋼帝国の皇女おうじょよ」


 青い髪の青年は、この国の皇帝がいる部屋に入る時でさえ、一切物怖じすることはなかった。それだけの地位にいたのであろう。


「ロイ・ヴァルカン様がお戻りになられた!」


「あの元水軍大将のか!?」


 緑色の軍服を着た軍人たちはザワザワと騒ぎはじめたが、玉座に座っていた銀色のスパンコールのドレスを着た銀色の髪の女性が立ち上がると、一瞬にして静まり返った。


「久しぶりじゃのう、ロイ・ヴァルカン……もっとも、今は秘宝バトルとやらにうつつを抜かしているようじゃが」


「某がここに来た理由は一つ。その金髪の少女の身柄について話すためだけだ」


 皇女の隣には、純白のドレスを着て、両腕に手錠をはめられた金髪の少女が、オドオドした様子で涙目になっていた。


「ロイ・ヴァルカンよ、知っておろう? 鋼帝国内での武器の保持は『鋼帝国軍の兵士』のみしか許可しておらぬ」


 しかしと、皇女はニンマリとした顔で続けた。


「この者は『拳銃』を所持していたという事実を既に確認済である。厳罰からは逃れられぬ」


 清楚な雰囲気の金髪の少女は、ビクッと肩を震わせる。


「お言葉であるが、皇女。その者・・・が銃を持ち歩いていたというのは誤った情報だ」


「ほう? 鋼帝国軍の情報網に穴があると?」


 皇女は扇子を広げ、口を扇子で覆う。


「断言しようぞ。鋼帝国の情報から、この者が『四季 彩』という人物であることに抜かりはない」


「ああそうだ。だがその者は、貴卿等が探している人物ではない」


「口説いぞ、ロイ・ヴァルカン。はっきりと申せ」


「では、はっきりと申そう……その者、四季 彩という人物は……」


 青い髪の青年は、チラリと金髪の少女に目線を配り、皇女へと向き直って言った。


「この世界にニ人いる・・・・


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「……で、なんでホッブズが付いてくるのよ」


「ヴァルカンが急に失踪したから、パレット一人だと可哀想だと思ってさ」


「あんた、絶対あたしのこと馬鹿にしてるでしょ……」


 パレットと赤い髪の少年は、陽光神社を離れ、次の島、『カリン島』へと向かう船に乗っていた。パレットの手には、一通の手紙が握られていた。


【「ダメだ、通信も繋がらねぇ……ヴァルカネルの野郎どこ行きやがった」


 陽光神社の境内で、屈強なハゲは、『L』の刻印が施されたバッジを使い連絡をとろうとしていたが、一向に返事がない。


「ヴァルカン、どこに行っちゃったのかしら……ってあれ?」


 腕を組んで考え込んでいるパレットたちのもとへ、赤いポシェットを角に引っ掛けた甲虫が飛来してきた。


「どこかで見覚えがあるような……あ、思い出した! みっきーの秘宝獣だ! おーい!」


 パレットは電磁甲虫エレクトロビートルに大きく両手を振った。それに気づいた甲虫は、神社の境内へと着地した。


「ねぇ、どうしてみっきーのポシェットなんて持ってるの?」


 パレットは角に引っ掛かっていた赤いポシェットを開けて、ゴソゴソと中身を漁り出した。


「うわぁ……やっぱキチ……」


「ホッブズ、何か言った?」


「いや、何でもない、です……」


 赤い髪の少年はパレットの行動にドン引きしていたが、ギリギリのところで言いとどめた。


「あら? ヴァルカン宛の手紙があるじゃない。なになに、『鋼帝国軍の人間がベスト8狩りをしています。僕と熊崎さんも襲われました。ご注意ください。赤葉 幹弘』」】


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「大まかにこんな内容だったわ」


「いろいろと端折るなよ……」


 船の中で温かいコーヒーを飲んでくつろぎながら、パレットと赤い髪の少年は経緯いきさつを思い出していた。


「話だと、No.5の『オーバーハンドレッド』ってやつが海岸に打ち上げられていたって噂だ。順繰りでいけば、No.4のヴァルカネルも……」


「まぁそうなるわね」


 パレットは落ち着いた口調で鳩サブレに手をかける。


「お前さ、少しは心配してやれよ……師匠みたいなもんだろ?」


「べつに? こないだ『対等な関係』って確認したし……」


「うわぁ……」


 すまし顔でコーヒーをすするパレットに赤い髪の少年はシラケた眼を送った。


 初対面の頃からいきなり銃弾浴びせられたり、パレットに対しての印象は元々そこまでよくはなかったが。


「ともかく、No.3がいるっていう『カリン島』にいけば、何か手がかりが掴めるかもしれない。このままヴァルカネルが見つからないのは僕も気分が悪いからね」


「御朱印帳も埋められるわね!」


「お、おう……」


 パレットの頭の中での優先順位は、御朱印帳>青い髪の青年 となっていた。


「No.3っていうと、真っ黒なサングラスを掛けた、エレキギターを持ったビジュアル系バンドみたいなやつね」


「あれ? パレット知ってるのか?」


「秘宝大会はテレビで見てきたから、一応ね」


 ちなみに、No.7は『白銀の狩人』菜の花 乃呑、No.2は『鳥名人バードマイスター』白鳥 煌美、No.1は『メイドクイーン』九十九 なごみ だ。


 Sランク秘宝は、菜の花 乃呑の『フェンネル』、九十九 なごみの『ヤマタノオロチ』だけで、他の6名は最高でもAランク秘宝である。


 もっとも『黙示録事件』の際はSランク秘宝がバシバシ登場していた(ホッブズのツヴァイアサンも含め)が、この世界ではSランクは、そうとう希少な存在なのだ。


 ……っと、説明たらしくなってしまったが、次の島『カリン島』は『レンタルバトルの島』である。


 パレットは秘宝使いとして、秘宝獣の性質を見抜き、使いこなすことができるのだろうか。

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