第18話 オーバー・ハンドレッド
【一方その頃、カイナン島では——】
青い海に、白い砂浜が続く美しい島。
この島にも鋼帝国の手が迫っていた。
「ベスト8のNo.5、『オーバー・ハンドレッド』だな?」
緑色の軍服を着た無表情の男は、手配書と見比べながら、その人物へと問いかけた。
「あん? なんやって?」
「オーバー・ハンドレッドだな?」
「お、おば……」
問いかけられた人物は、肩をワナワナと震わせていた。そして軍服の男に罵声を浴びせた。
「オバハンちゃうわぁぁっ! エエッ!?」
黄色いメガホンを持った、ビキニ姿のグルグルパーマの
「
「ブモォォゥ!」
おばはんの秘宝から飛び出したのは、ボアボアと熱を放つ炎の
重量感のあるガッチリとしたガタイをしている。
「重量系秘宝使い、『オーバーハンドレッド』……その実力見せてもらうぞ」
緑色の軍服の男は、怯むことなく自身の秘宝を解放した。
「
半身を鋼鉄で覆われた、水牛のような秘宝獣が浜辺へと放たれた。
「おい、秘宝バトルが始まるぞ」
「あれって鋼帝国の軍人さんじゃない?」
「こんな辺境に軍の人が!? いったい何事だ?」
遠目で眺めていた野次馬が、ザワザワと賑わい始めた。
「ボアボアー、フレアタックルゥゥッ」
「メタル・バッファロー、角で受け止めろ」
ドシドシと力強く砂を蹴りあげ、激しくぶつかり合う猪と水牛。
次々と狙われるベスト8たち。鋼帝国軍の目的は果たして……!?
♢ ♢ ♢♢ ♢
【陽光神社—本殿—】
その中にある道場では、赤い髪の少年の秘宝獣『ツヴァイアサン』と、屈強なハゲの秘宝獣『岩狛犬』、『桜狛犬』との戦いが繰り広げられていた。
赤い髪の少年は双頭の大海蛇に支持を与える。
「
「ウハハハ、
二頭の狛犬は素早く駆け出し、互いのポジションを交錯させる。
そして、岩狛犬が炎の攻撃を、桜狛犬が水氷の攻撃を代わりに受ける。得意な属性の攻撃を受けることで、互いのダメージを軽減した。
「ウハハハ、効かねぇなぁ」
「くそぅ……」
「ホッブズ、焦っちゃだめ! 落ち着いて戦って!」
パレットは道場の片隅で、赤い髪の少年を応援していた。
「特訓したことを思い出して!」
「特訓……」
赤い髪の少年は、深呼吸をして、じっと目を閉じた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
【「パレット、それは……?」
「ふふん♪ これは『アネット』用の新兵器、『パルム・ボム』よ!」
パレットは小さな巾着袋を、赤い少年の目の前に掲げた。
「なんか凄い柑橘系の香りがするな……」
「そう! この袋の中には、
「香水は自分の周りにしか振り撒けない……」
「そっ! だからこうやって……」
パレットは巾着袋を、手榴弾のピンのように、口を使って開き、遠くへと投げた。
「ブゥゥン……」
香りに釣られて、アローホーネットの『アネット』は、巾着袋の落下した地点へと向かう。
「これで遠距離のフォーメーションも、近距離のフォーメーションもバッチリ!」
パレットは嬉嬉として言ったが、赤い髪の少年は釈然としていない様子だった。
「近距離と遠距離か……身ひとつのツヴァイアサンは、遠距離戦以外難しそうだけど……」
「そうかしら? 二つの頭への指示がちゃんと通るんなら、今までとは勝手が違うんじゃない?」
「今まで違う……?】
「ウハハハ……遅ぇぞ! 岩狛犬、
地上に無数の岩が降り注ぎ、その上を桜吹雪が覆い尽くす。両者とも、動けば見えない岩が突き刺さるデスマッチのようなフィールドだ。
「それだけじゃねぇ! ウオオオッ……」
屈強なハゲは気を練り上げ、全身全霊のパワーを2つの秘宝へと一気に注ぐ。
バサッという羽音と共に、桜狛犬には桜で出来た翼が、岩狛犬には岩で出来た翼がそれぞれ羽を広げていく。
「岩狛犬、AWR《エンジェルウイングロック》! 桜狛犬、AWB《エンジェルウイングブロッサム》モードだ!!」
屈強ハゲは、既に有利な展開にも関わらず、勝手に強化されていく。
「ウハハハ、これで地形の影響を受けることはねぇ! 覚悟はいいか、行くぞぉぉ!!」
2頭の狛犬は、翼を使って空を舞い上空から攻撃を仕掛ける。
「くっ……耐えろ! ツヴァイアサン!」
大海蛇はその場でトグロを巻いて、降り注ぐ岩と切れ味の鋭い桜の花弁の猛攻を耐え凌ぐ。
「ウハハハ、無駄だぜぇ! 狛犬達のモードチェンジによる付加は『弱体化』!!岩のダメージは素早さを奪い、桜のダメージは防御力を削り取る!」
大海蛇はじっと攻撃を耐え凌ぐ。双頭の口の中から白い煙のような息が漏れる。
「そろそろ頃合いね……!!」
パレットは笑みを浮かべて、ポツリと呟いた。
赤い髪の少年は、大海蛇に指示を与えた。
「いまだツヴァイアサン、『水氷爆炎波』!!」
双頭の大海蛇は、
『ツヴァイアサン』という言葉は、単体への指示から双頭へ同時に与える意味合いへと変わったのだ。
「なんだと……!?」
——ドゴォォォォン
口から放たれた水氷の弾丸と炎の弾丸が重なり合い、大爆発を起こした……!!
「ケホッ……ケホッ……凄い衝撃ね……」
「下手したらお寺ごと吹き飛ぶ……」
パレットと巫女装束の女性の目の前は、煙で灰色に覆われた。
煙が晴れると、フィールドに散りばめられていた岩と桜吹雪もろとも吹き飛ばされていた。
大海蛇はその全長を最大まで伸ばし、一気に上空にいる狛犬へと一気に距離を詰める……!
「降参だぁぁっ!!」
屈強なハゲが大声で叫んだ。
「これ以上やったら本殿が壊れちまうかもしれねぇからな! ウハハハ!!」
屈強なハゲは豪快に笑い飛ばした。
赤い髪の少年はホッと息をついた。
「ミカエル! ホッブズにアレをくれてやれ!」
「わかった……はい、ホッブズ。これが道場を征した証だよ」
「お、おう……」
巫女装束の女性、天野 美香は、ホッブズの首にメダルをかけた。
「それからキミも……」
「えっ……!? あたし……?」
巫女装束の女性は、パレットにも声をかけた。
「ホッブズが立ち直れるよう付き合ってくれてたところ、ずっと見てたよ……本当にありがとう」
巫女装束の女性は、パレットから御朱印帳を受け取った。そして、御朱印帳と共に『狐』のスタンプを押した。
「へー、陽光町は『狐』がシンボルなのね」
パレットは御朱印帳を受け取り、嬉しそうに眺めていた。一件が落ち着いて、パレットはふと気がついた。
「そういえばヴァルカンは?」
「さぁ……?」
青い髪の青年は、特訓していた3日間、パレットたちのもとへ姿を見せなかった。今日もホッブズの戦う日だったにも関わらず、最後まで来ることはなかった。
「あの律儀で堅物なヴァルカネルがこねぇとはな……何かあったのかもしれねぇ……」
屈強なハゲは、不穏な台詞を残した。
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