第17話 双頭VS二頭

【数時間前のバグ島の続き】


「凄いね……こんなに強いなんて……」


「ふん、『ベスト8』のNo.6と言えど、所詮この程度か……」


赤いポシェットの青年、赤葉 幹弘は、緑色の軍服の相手に苦戦を強いられていた。


二本の角と身体の半分を鉄でコーティングされた水牛、『メタル・バッファロー』の突進攻撃が、巨大トンボ『ギガネウラ』に突き刺さる。


「あぁ……ギガネウラ……!」


「もう終わりか? つまらん勝負だったな」


赤いポシェットの青年は、ダメージを負った蜻蛉の秘宝獣を秘宝の中へと戻す。赤いポシェットの青年は軍人へ問いかける。


「どうして鋼帝国の軍人が、ベスト8を倒して回っているんだ!?」


「敗者にそれを教える義理はない」


「っ……」


軍服の男は無表情のままバッサリと切り捨てた。そして、人物の顔と名前が書かれた手配書を確認しながら言った。


「次の標的はNo.5『オーバー・ハンドレッド』か。手応えのある相手だと良いのだが」


軍服の男はそうボヤきながら、陽光町行きの港へと向かっていった。


赤いポシェットの青年は、ポシェットから便箋を4枚取りだし、スラスラと文字を書き始めた。


(どういうわけか知らないけど、鋼帝国軍が動き始めている。他のベスト8のみんなにも伝えないと……)


赤いポシェットの青年は、文字を書き終えた便箋を一つずつ別の封筒の中に入れ、ポシェットの中にしまった。


解放リベレイト電磁甲虫エレクトロビートル!」


秘宝の中から、電気を帯びたカブトムシの秘宝獣が飛び出した。赤いポシェットの青年は、甲虫の角にポシェットを引っ掛け、指示を出した。


「電磁甲虫、この手紙を他のベスト8のメンバーに届けてきてほしい。その内の2人は多分、陽光町にいると思う」


甲虫は話を理解したのか、コクコクと頷き、翅をはばたかせ飛び立った。


(帝国が出来て以来、軍人が一般人に干渉してきたのは初めてのことだ……嫌な予感がする)


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【陽光神社—本堂—】


立派な造りの神社の一室には、広い道場のような空間が広がっていた。


筋骨隆々な屈強なハゲに、パレットと赤い髪の少年が対峙している。屈強なハゲは、わざとらしく悪役っぽい声で笑う。


「ウハハハ、またやられに来たのか?」


「僕はもう途中で逃げたりしない……!」


パレットは、赤い髪の少年の背中をバシッと思いっきり叩いた。


「痛ってぇっ!?」


「ホッブズ、特訓の成果をみせてやりなさい!」


パレットは親指を立てて言った。赤い髪の少年は小さく頷く。


あれから3日間、パレットと赤い髪の少年は陽光公園のアスレチック広場で秘宝バトルの特訓をしていたのだ。


背中を押された赤い髪の少年は、屈強なハゲと1対1で向き合った。


「ほぅ……ちったぁマシな眼になったじゃねぇか」


「そりゃどうも」


屈強なハゲは白銀色、Sランクの秘宝を取りだし、赤い髪の少年も白銀色の鍵の掛かった秘宝(旧世紀の秘宝)を取りだした。


屈強なハゲは親指の爪で宝箱の蓋を上へと弾き、赤い髪の少年は鍵を使って秘宝の鍵穴に入れて回した。


解放リベレイト岩狛犬ロックガーディアンドッグ!」


開宝かいほう、ツヴァイアサン!」


ゴツゴツとした岩のような狛犬と、双頭を持った大海蛇が、ほぼ同時に飛び出した。


どちらも『Sランク』秘宝。神様だけが保有している『SSランク』の秘宝を除くと、最上位種同士の対決だ。


「ウハハハ、先制攻撃だ! 岩狛犬、『岩枷』!」


屈強なハゲが岩狛犬に指示を与える。

岩狛犬の身体の岩から放たれた岩が石輪ストーンサークルとなり、双頭の蛇の二つの頭を繋ぐように、首輪のように締め付ける。


「ウハハハ、これで二つの首は封じたぜ」


デストラ、火炎弾!シニストラ、水氷弾!」


「なにっ!?」


双頭の蛇は、岩の首輪に繋がれながらも、左右の頭から別々の攻撃を放った。岩狛犬は炎の攻撃は耐えたが、水の攻撃でダメージを受けた。


【「ツヴァイアサン、僕の指示を全然聞いてくれないんだ。聞く時もあるけど、反応が鈍いというか……」


「ふーん、あたし思ったんだけど、それって誰に・・指示を出してるのかしら?」


「誰にって、ツヴァイアサンしかいないだろ。僕の話聞いてるか?」


赤い髪の少年は、ムッと膨れ上がる。パレットは、「そうじゃなくて」と付け足す。


「ツヴァイアサンって、二つ頭があるじゃない?」


「だからなんだよ……」


不貞腐れた顔をしている赤い髪の少年に、パレットは笑顔で指をパチンと鳴らす。


それぞれに指示を与えればいい・・・・・・・・・・・・・・・!」】


以前までのツヴァイアサンは、その硬い皮膚を活かした防御寄りの秘宝獣だと思われていた。一撃の重さはあったが、行動は遅かった。


だが、パレットはツヴァイアサンの左頭と右頭に別々のニックネームを付けることを提案した。左をデストラ、右をシニストラと名付けた。


それにより、ツヴァイアサンの思考処理の速度は格段に上昇し、機動力も身につけることを可能にした。


「やるじゃねぇか……だが!」


屈強なハゲは二つ目の秘宝を取り出した。先ほどと同じく、白銀色のSランクの秘宝だ。


解放リベレイト桜狛犬ブロッサムガーディアンドッグ!」


岩狛犬と対になるかのような、桜で身を包んだ狛犬がフィールドに降り立った。


「なっ……2体1は反則だろ!」


赤い髪の少年は眼を丸くして抗議するが、屈強なハゲは小指を耳の穴に突っ込みながら答える。


「ああん? 聞こえねぇな……」


「野郎……」


「ここは俺の道場だからルールは俺が作った。それに『2対2』、だろうが」


二つの頭の蛇と、二頭の狛犬が威嚇し合う。


果たして勝負の行方は……!?


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


『岩狛犬』と『桜狛犬』のアイデアは富小路 とみころ様より頂きました! 本当にありがとうございます(^^)

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