第20話 5つ目の御朱印を求めて
【皇帝城—謁見の間—】
「2人いる? それはどういうことじゃ? 」
「そこにいる四季 彩は、この世界の正規の歴史の四季 彩だ。某が行動を共にしている四季 彩は、別の平行世界の四季 彩であり、その平行世界の背景からこの世界の四季 彩と顔や声色容姿は同じだが性格の違う四季 彩なのだ」
「いや、さっぱり意味がわからんのじゃが……」
銀色の髪の皇女は眼を点にしてキョトンとしていた。
「ようするに、この世界の四季 彩と平行世界の四季 彩が同世界に存在し、某と行動を共にしている人格の方はパレットと名乗っている。拳銃を所持しているのはパレットの方であり、そこにいる四季 彩は全く関係のない人物だという事だ」
「むぅ……そなたが嘘をつく人物ではないことは重々承知しておるが、わらわにはよく解らぬ……」
銀髪の皇女はクラっとよろめいた。
「つまりだ、その人物は鋼帝国に仇なすものでは無い。パレットも今は無害な存在だ。どうかその者を解放して欲しい」
青い髪の青年は、片膝を立てて皇女に頼んだ。
「それはできぬ」
皇女は鋭い眼光をして発した。
「何故だ」
「そなたの望みは
青い髪の青年と銀色の髪の皇女の視線がぶつかり合う。その場にいた誰もが息を呑んでじっと見守っている。
「ただし、そなたが望みを取り下げるというなら、新しい提案を受け取ってやろう」
「望みを取り下げるだと……?」
青い髪の青年は、数秒ほど考えたのち、その言葉の意味に気づいた。銀髪の皇女はふふっと笑い手を差し出した。
「鋼帝国軍に戻ってこい、ロイ・ヴァルカン」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「着いた! カリン
「テンション高いなー」
パレットと赤い髪の少年は、5つ目の御朱印を手に入れるため、そして、突如失踪したヴァルカンの手がかりを探すため、この放牧地のような風景が広がる島、カリン島へと訪れていた。
「まずは御朱印をサクッと手に入れて、それからヴァルカンの居場所を探しましょ♪ 御朱印アプリ起動!」
「ヴァルカネル様のことは二の次かよ……」
パレットはスマートフォンを操作し、アプリを開いた。画面上に御朱印の貰える場所が矢印で示され、距離が表示される。
「このルート通りに行けば迷わずに行けるわね!」
「まぁ、牧草で敷き詰められた見通しのいい島だから迷うことは無さそうだけどね」
「よぅし、走るわよホッブズ!」
「余程の事が無ければ……」
勢い任せに突っ走っていくパレットを、赤い髪の少年は遠目から眺めていた。その時、
——キィィィン
「痛っ……何この金属音みたいな音……」
パレットの耳をつんざくような音が響いた。
音のした方を見てみると、人集りに囲まれ特設ステージに乗った、赤い瞳の黄色と青のメッシュの髪をした、エレキギターを持った少女が目に入った。
「ヒューヒュー、アザトスちゃん最高っー!」
「アザトスちゃんマジ天使」
「ファンのみんな~応援ありがとう~!!」
メッシュの髪の少女は、ステージを囲っている数十人の観客に向けて愛想をばら撒く。
(何の音かと思ったら、エレキギターの音だったのね……そして……)
パレットはその人物に見覚えがあった。会ったことは無かったが、これだけ特徴的だと間違いようもない。
パレットはステージに群がる人達を掻い潜り、最前列からメッシュの髪の少女に声をかけた。
「ねぇ、あなたベスト8の一人でしょ?」
タメ口で話すパレットに、メッシュの髪の少女のファンと思わしき人物が一斉にパレットに言い寄る。
「お前誰だー」
「アザトスちゃんと話ができるのは抽選で当選した人達だけだー」
「そうだそうだー」
その様子をステージの上から頬に人差し指を当てながら見ていたメッシュの髪の少女は、クスッと笑って言った。
「ファンの皆の言う通り、私と話すには当選券を持ってないとダメなんだけど、もしかして秘宝大会での私の活躍を見て、新しく私のファンになった人なのかな?」
「ううん、別に」
「しょうがないなぁー、今日は特別にアザトスちゃんとお喋りできる権利を与えちゃおっかなー」
(聞いてないわね……)
ただし、とメッシュの髪の少女は小さく囁く。
「アザトスちゃんに秘宝バトルで勝てたらね!
メッシュの髪の少女は、ゴシックカラーの短めのスカートから銀色の宝箱を取り出して開けた。
秘宝の中からは雷をまとった
パレットもステージの上にあがる。
「秘宝バトルね、その方が話が早いわ!
——ブウゥン
パレットもすかさず銅色の宝箱から、アローホーネットを解放した。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「なっ!? やっぱり面倒なことに巻き込まれてやがる……」
赤い髪の少年も追いついたが、パレットの好戦的な性格からだいたいこうなるだろうとは予測していたようだ。
(銀色、Bランク秘宝ってことは様子見かしら……? だったら……)
「アネット、突き刺す攻撃!」
パレットは小型の巾着袋を、蝙蝠の足元へと投げ飛ばした。
「
「きゃっ!? 何これ、柑橘系の香水……?」
パレットとアネットはまだ、意思の疎通ができない。そのため、雀蜂の柑橘系の香りに釣られる習性を利用して、命令を与えるバトルスタイルを確立した。
雀蜂が蝙蝠の元へ飛んでいく。
「へー、なかなか面白い戦い方するね! でも、私には通じないよ! ブレダマオス、『羽ばたき』!」
蝙蝠はバサバサと翼を羽ばたかせ、香水の匂いを吹き飛ばした。雀蜂も強風によって吹き飛ばされる。
「アネット……!」
「続けて
蝙蝠の口から超音波が放たれる。雀蜂の動きが鈍くなっていく。
「どうする? もう降参しちゃう?」
「この……アネット、
雀蜂は体内にある弦状の器官を引き絞り、尾の針を飛ばした。
「
しかし、音波の衝撃により勢いを失い、蝙蝠に当たる直前に、小さな針は地に落とされてしまう。
(やっぱり強い……さすがはベスト8、全国大会決勝リーグ進出者……)
パレットはその実力の差を肌で感じていた。これまで何度もベスト8と称される人達の戦いを目の当たりにしてきたが、戦ったことは1度も無かった。
「いいぞーアザトスちゃん!」
「強いぞーカッコイイぞー!」
(このまま続けても、アネットが傷を負うだけ……)
パレットにとっては完全なアウェイな状態だった。パレットはギュッと拳を握った。
「こうさ……」
「あー、さっきの攻撃がまさかブレダマオスに直撃していたなんてー」
パレットが降参宣言をしようとき、メッシュの髪の少女はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。
(……? 急にどうしたの?)
雀蜂の、アネットの攻撃は確かに当たっていなかったはずだ。
「私の負けだー」
メッシュの髪の少女はその場にへたり込みながら甲高い声で叫んだ。
「うおー、アザトスちゃんが負けたー!?」
「
ファンの人達はみな、頭を抱えながら悶えていた。
(かよわい……?)
誰がどう見ても、状況はパレットの劣勢だった。だが、どういうわけかメッシュの髪の少女はいきなり降参宣言をしたのだ。
「約束は約束だからね、知ってること教えてあげる。関係者に話は通しておくから、後でステージの舞台袖に来てね」
「え、ええ……」
メッシュの髪の少女はそう告げて、ステージの裏へと入っていってしまった。
(それにしてもどうして急に降参したのかしら……)
赤い髪の少年はパレットの元へと駆け寄る。
「パレット、なにしてんだよ」
「あー、ホッブズ少し待ってて。あの子ともう少し話してくるから」
「おい……ったく」
パレットはホッブズをその場に残し、特設ステージの舞台袖へと走って行った。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ブレダマオス」のアイデアは人間の触覚様より頂きました!ありがとうございます!
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