第15話 動き出す陰謀

[陽光町表通り商店街にあるシックな雰囲気の店内]


 バーの店主のような風貌の男性は、白い布を使ってキュッキュと銀色の秘宝を磨いていた。ここは『秘宝堂』という店である。


「マスターはいるか?」


 そこに、緑色の軍服に身を包んだ無表情の男性が入り込んできた。胸のワッペンには、大きく『鋼帝国軍』と刻まれている。


「やぁ、あなたでしたか……立ち話も何ですので、どうかカウンターに座ってください」


「では、失礼させてもらう」


 マスターと呼ばれる人物は、いそいそと店の外の『OPEN』と書かれた看板を裏返し、『CLOSED』の文字を表にして店内へと戻った。


「マスター、悪いが曲を止めてくれ。クラシックを聞いていると胸がザワザワする」


「普通の人は落ち着くはずなのですがね……」


 マスターと呼ばれる人物はそう言ってレコーダーを止めた。軍人のような男は、ふーっと長い息を吐き、話始めた。


「日々の『鋼帝国』への情報提供の任、ご苦労であります。情報提供により、我々鋼帝国軍も速やかな処置を行えております」


「それほどでも……」


 マスターと呼ばれる人物は秘宝を白い布で磨きながら答える。


「しかし昨今、不躾な輩が陽光町付近に出没していると存じております。これは先日、カイナン島で撮られた写真であります」


 軍服の男は、2枚の写真をカウンターの上に置いた。1人は鋼でできたゴーレムのような生き物に乗った黒髪の少年。


 もう1人は、レッグホルスターに黒い拳銃を装着した、金髪の少女の写真だ。


「一人は確信犯として現在指名手配であります。鋼帝国の初期型プロトタイプ、RMG《レアメタルゴーレム》と酷似しており、帝国から盗んだことは明らか……」


 軍服の男は話を続ける。


「もう一人の金髪の少女。彼女が身につけているものは、既にこの世から根絶したはずの『拳銃』と呼ばれるものに酷似しております」


「この金髪の少女は……」


「何か存じておりますかな?」


 そう、以前この秘宝堂に訪れた、パレットである。


「ええ、確かこの、『白銀の狩人』の写真に興味をもっていました」


「ベスト8か……ただのファンなのか、あるいは交友があるのか……」


「いえ、そこまでは……」


「もし交友があるのならば、秘宝大会運営委員に働きかけ、菜の花 乃呑の身柄を拘束する。そして金髪の少女に自首するよう働きかけよう。それが最善の策だ」


 軍服の男は、片手で頭を抱えながら言った。

 マスターも秘宝を磨く手が止まっている。


「もしまた店に来たら、真っ先に鋼帝国軍に通報します」


「ご協力感謝する。鋼帝国も全力を持って、この黒髪の少年と金髪の少女の身柄を抑える。では……」


 ——ガチャン


 軍服の男は、カウンターに写真を残したまま外へ出た。


 それを見届けたマスターは、店の看板を速やかに『OPEN』へと戻した。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「3つ目の御朱印ゲット~♪ 帰ってきました陽光町~♪」


 カイナン島から帰ってきたパレットは、ご機嫌な様子で青い髪の青年と陽光町の商店街を歩いていた。


 パレットが手に持っている御朱印帳には、新たに亀のスタンプが押されていた。


「パレット、浮かれすぎるのもほどほどにな。秘宝大会に出るには、まだあと4つの御朱印が必要なのだ」


「うーん……それもそうね。っていうか、全然バトルせずに御朱印帳埋まってるけど、こんな感じでいいの?」


 パレットは首を捻る。


「御朱印集めは『島を巡り見聞を深める』ことが目的なのだ。最終的な出場資格は、道場で勝利すること、それだけだ」


「主催者もまどろっこしいわね。どっちか片方だけにすればいいのに」


 それを聞いた青い髪の青年は、真面目な顔つきになる。いや、普段から硬いのだが。


「御朱印巡りは秘宝使いとして正しい倫理観を養うためのもの。そして道場は誰でも参加可能な参加者をふるいにかけるためのものだ。それゆえ自ずと正しき強き者が秘宝大会には集まる」


「ふーん……たしかに、いくら強くても悪人が優勝でもしたら大会主催者の面子も丸潰れかもしれないわね」


 そんな話をしながら、ある店に向かっていたパレットたちだが、その店の看板には『CLOSED』と書かれていた。


「むっ……からの秘宝を補充しに来たのだが、今日は閉店のようだな」


「どうするの? ヴァルカン」


「日を改めよう。今日はこのまま4つ目の御朱印を貰いに行く」


「4つ目? 昨日カイナン島いったばかりじゃない。少し急ぎすぎじゃない?」


 島巡りは結構な距離を徒歩で移動する。そのため疲労も意外と溜まりやすい。


「まぁ問題ない。4つ目の御朱印はここ・・にあるからな」


「where?」


「ここだ」


 青い髪の青年は、商店街の隣にある公園を指さす。あの無駄に広い陽光公園だ。


「Oh~……」


 パレットはそれを聞くと、ネイティブなリアクションをとった。「あー、そういえば確かにこの公園の中に陽光神社っていう神社があったっけ」みたいな顔をしている。


「そういうわけだ。神社へ向かおう」


「これがいわゆる『灯台下暗し』ってやつね」


 パレットたちはまだ気づいていない。もう一つの『灯台下暗し』の影が、忍び寄りつつあることに。

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