番外編③ パレット達が海水浴していた一方で……
「うう……寒い……」
「徳井は情けないのです。それでも陽光学園の新副会長なのです?」
「役職と寒さは関係ないだろ……へっくしゅん」
学校指定の制服を着て学生帽を被った男、
ここは陽光町より北に位置する島、[
「ぶるぶる……生徒会長、僕の上着を返してくれ……寒くて凍えそうだ……」
「ダメなのです」
学生帽の少年はガチガチと歯を震わせながら両腕を交差させている。
「何故だ!?」
「なぜって、緑色のブレザーは学校の規定に反するのです。紺色か黒色のものを着用するよう明記されているのです。元書記なのに字も読めないのです?」
(くっそ……やはり生徒会長は頭がおかしい……)
陽光学園の生徒会長、
頭がおかしい。
「まあこの寒さで半袖の学生服も哀れなので、上着を貸してあげるのです」
「さすがは生徒会長……! 冷たい態度の裏に見え隠れする優しさというやつだな!」
「はいなのです」
「……」
ジト眼の少女が取り出したのは、祭りで着るような半袖のハッピだ。背中には堂々と『涼』の文字が書かれている。
「陽光町の秋祭り用に発注したものなのです。とってもお似合いなのですよ。学ランの上から着れば『スズラン』なのです」
「……寒い」
学生帽の少年は、半袖の制服の上に半袖のハッピを着たが、何の解決にもならなかった。
「zzz……」
「立ったまま寝た!? 起きろ生徒会長! 凍死するぞ!」
「すぅすぅ……」
凍えるような寒さにも関わらず、ジト眼の少女は寝息を立てている。学生帽の少年は彼女の体を揺さぶる。
パチ。ジト眼の少女は急に眼を開いた。
「誰なのです? そこに隠れているのは……」
「隠れて? 生徒会長何を言って……」
岩陰から瑠璃色のローブの女性が姿を現した。
吹雪で視界不良の中、生徒会長は岩陰に隠れていた人物を見破ったのだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「驚いた。ルーシェの気配に気づける人がいるなんて」
姿を現し自らをルーシェと名乗ったその女性は、フードを脱ぎながら言った。瑠璃色の髪に、澄んだ青い瞳をしている。
生徒会長はそのジトっとした眼で彼女を睨む。
「最近よく見かけるのです、その青い瞳。陽光神社に2人。商店街に1人。その他にも2、3人。ワタシの学校の問題児もその1人なのです」
「そう……」
「あなた達はなんなのです? ……まとめて粛清対象に入れて宜しいのです?」
ジト眼の少女は、制服のスカートのポケットに手をかける。……寒くないのだろうか。
「ルーシェが求めるのは熱さだけ。ルーシェを熱くさせて」
「Sランク秘宝……」
瑠璃色の髪の女性は、白銀色の宝箱を開けた。それはこの世界でも希少な存在、『Sランクの秘宝』だ。
「
「
2人がほぼ同時に秘宝を開ける。現れたのは、黒い隻眼の豹と、白い雪豹だ。
「生徒会長!! 僕はどうすれば……」
「徳井は黙って見ているのです」
「っ……わかった!」
いきなり始まった戦闘に、学生帽の少年は戸惑っていた。両者ともSランク秘宝、さらに同じ豹同士の対決だ。
(セルブレオ……聞いたことがある。『Serenely Lurk in Blizzard Leopard。雪嵐に潜む豹』の略称だ。熱帯雨林に生息している豹の希少種が『ダムドレオ』ならば、雪原に生息している豹の希少種が『セルブレオ』)
学生帽の少年は岩場へと避難し、黙って戦いの行方を見守っている。
「ダムドレオ、『DDM《ダークダイブモード》』」
黒豹が漆黒のオーラを纏う。
(生徒会長、最初から全力か!? )
ダークダイブモードは強大な力と引き換えに、秘宝獣の体力と使用者の精神力を削る諸刃の剣だ。
だが故に、体力と精神力が有り余る序盤に使うことで初めのうちはデメリットをあまり気にせずに戦うことが出来る。
「ダムドレオ、デストロイ・ファング!」
「グルァァァァッッ!!」
「セルブレオ、雪隠れ」
黒豹の牙が白豹に襲いかかる。
——バキバキッ
黒豹は硬い岩を粉々に粉砕した。威力は申し分ないが、攻撃は外れたようだ。
(体の模様は岩場に隠れるためのものか……! 生徒会長、焦りすぎたか!?)
「ちょこまかと……」
「セルブレオ、雪隠れ」
——ガキン
「憂っとおしいのです……!」
「雪隠れ」
——ガキン
何度も何度も激しく食らいつく黒豹の攻撃を白豹は雪へ潜り岩場を転々としながら、優雅に流していく。
ジト眼の少女の額から汗が滲み出る。
「セルブレオ……ゆき……」
「そう何度も……!! 同じ手は通用しないのですよ」
白豹は雪に潜り込み、盾となる岩場を探す。しかし岩場はほぼ全て砕かれていた。
「ダムドレオ、デストロイ・ファング!」
「うっ……耐えて、セルブレオ」
「グルァァッッ!!」
——ガキン
2匹の豹が正面からぶつかり合う。そして激しく競り合った。
(実力はほぼ互角……いや……)
一見、体力が減っていて不利そうなダムドレオが押している。ダムドレオの『モードチェンジ』は基礎能力の向上だけではない。体力が減れば減るほど攻撃力が増すのだ。
「そのまま噛み砕くのです、ダムドレオ!」
——ガキン
黒豹の牙が、白豹の体を粉々に噛み砕いた。
(や、やりすぎだ……生徒会長!!)
かのように見えた。
黒豹は体力を使い果たし、その場に倒れ伏せた。一足違いでダムドレオの勝ち……
「セルブレオ、SDM(ステルスドライブモード)……」
吹雪の中から、倒したはずの白豹の姿が現れた。
「……惜しかった。セルブレオのSDMは、気配を完全に殺し、そこにいるはずの存在を認識できない状態になる。だから
最後に黒豹が砕いたのは、岩場だった。瑠璃色の髪の女性が淡々と話す。
「……けど、相当な負荷がかかるから、長時間はできない。もう少し戦いが続いていたら危なかった」
(おいおい、生徒会長を煽るな……僕の命が危ないじゃないか……)
ジト眼の少女はプルプルと震えている。そして小さく呟いた。
「またワタシより強い人……世界は広いのですね」
「そう。だから、熱くなれる」
(あの生徒会長が素直に敗北を認めた……悔しいだろうけど、確かな一歩だ)
「お疲れなのです、ダムドレオ」
ジト眼の少女は黒豹を秘宝の中へとしまう。そして去っていく瑠璃色の髪の女性と白い豹を呼び止めた。
「ルーシェ! セルブレオ! ワタシも秘宝大会、決勝まで勝ち進むのです……!」
「そう……」
瑠璃色の髪の女性は振り向かずに去っていってしまった。だが、白樺 涼 生徒会長は、真っ直ぐな瞳をしてその背中を見つめていた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
『セルブレオ』及び『冬島』のアイデアは『紅太』様よりいただきました!
本当にありがとうございます!(^^)
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