第14話 超爆走!秘宝獣レースGP

【「さぁ、今シーズンの秘宝大会予選、その名も、『超爆走!ひほうじゅうレースGP』もいよいよ佳境へと入りました。


立ちはだかる障害は海に張られた氷のフィールドと直線コースを残すのみ! 本年度春シーズンはいったいどのような展開ロマンスが待ち受けているのでしょうか!? ワクワクしますね雅野さん!」


「はい。今年の先頭陣はかなり秘宝獣にバラツキがありますね。トンボにマンタ、フェンリルにヤマタノオロチ……決勝リーグでも面白い戦いに期待できそうです」


「ほーほーなるほど。さすがは解説の雅野さん、秘宝獣にお詳しいですね」


「はは、それが本職ですから」


秘宝大会春シーズン、今年の予選は秘宝使いと秘宝獣が10kmのコースを駆けるレース大会に決まった。


私は一番お気に入りの秘宝獣、『フェンネル』に乗って、先頭組になんとか食らいついていた。


去年までの私だったら、大会に出ようなんて絶対に考えなかっただろう。


同級生の顔色を伺って、適当に合わせる。学級委員として、クラスの人気者として上手くやってきた。


けど、そこに本当の私はいなかった。上部だけの関係。愛想笑い。誰も信用してない。


けど、私の親友、『鴇 愛佳』はそんな私を救ってくれた。純粋に手を差し伸べてくれた。


秘宝大会に優勝したら、この気持ちを愛佳に伝えよう。


この、大好きっていう気持ちを……


そんな私の純情は、ヤツ・・によって粉々に打ち砕かれた……


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「出ましたー! 本予選最大の難所、氷のフィールドです! 上空行こうとするオマエ、翼が凍っても知れねぇぜ?」


実況のTKC《タケシ》の言う通り、強い寒波の影響で、今まで空を飛び障害を上手く避けてきた者にはかなり不利なフィールドだった。


テレビの演出上、ドンデン返しを狙った配置設定だろう。趣味が悪い。そしてTKC《タケシ》じゃなくてTKS《タケシ》だろ。この実況大丈夫か。


私の実況者嫌いは、この時から既に始まっていたのかもしれない。


「おおっと!? 先頭陣が氷で足を滑べらせる中、一人だけ優雅に上空をけている選手がいるぞ!?」


「あれは白鳥選手の白羽鳥しらはどりですね。元々雪原地方に生きている鳥なので、この寒さでも平気なようです」


「まさに鳥秘宝獣の生態を知り尽くした男! この男に鳥名人バードマイスターの称号を送りたい!」


大きな白鳥が私の上空を通り過ぎようとしている。けど、そうはさせない……!


「フェンネル!!」


私は、私を乗せている白銀の狼、フェンネルに指示を与える。6つのファンネルの銃口が一斉に白鳥へと向く。


ファンネルから次々と赤色のレーザーが放たれる。その一つが白鳥の羽にあたり、大きく体が傾いた。


「よしっ!」


私はその隙に一気にトップへと躍り出た。同じく雪原で暮らしていたフェンネルは氷のフィールドも何のその。


「やむを得ん……A–Z《エーゼット》氷面を叩き割れ!」


私に抜かれた青い髪の人が、赤いザリガニに謎の指示を出した。いったい何を……


氷の一部を砕き、ザリガニが氷の海へと飛び込んだ。その時私は、この大会のルールを思い出した。


秘宝使いと秘宝獣、同時にゴールにたどり着く必要は無い。どちらか片方がゴールインすればいいんだ。


この人、後は全てを秘宝獣に委ねるつもりだ……それに気づいた時には、赤いザリガニは氷の下の海へと消えていた。


「逃がさない!! フェンネル!」


「ワオォォン!」


再度フェンネルがファンネルを機動する。

レーザーは氷のフィールドを貫通し、その下の海へと突き刺さる。


どこ……? どこにいるの……?


フェンネルはスピードを落とさず氷のフィールドを駆ける。でも私は氷の下の見えない敵に焦りを感じていた。


「おーっと!! これは激しい怒涛の追撃!! フェンリルに乗った少女が、見えない敵にやとらと攻撃をカマしているぞー!? 名付けるなら……」


こうなったら、奥の手しかない。私は白銀色の秘宝を胸に当て、気のようなエネルギーを送り込む。そして、秘宝をフェンネルに向けた。


「フェンネル、BM《バーストモード》!!」


白い光がフェンネルを包み込み、バラバラだった6つのファンネルが一体となった。


「いっけぇぇぇ!!」


——ドゴォォン


一筋の特大レーザーが氷面を直線に薙ぎ払った。


ザリガニには当たらなかったけど、その衝撃で後続を追っていた人たちは、ポカーンと足を止めていた。


「止むことのない攻撃の嵐!! この少女に『白銀の狩人』の称号を送りたい!」


えっ……狩人? 白銀の妖精とか、そういう可愛い感じじゃなくて? 私の思考は一瞬だけ止まった。


予選を1位で突破した私は、それから周りの人から『白銀の狩人』と呼ばれるようになった。


……あの実況者、次会ったら締めてやる


私の奥から熱い感情が沸いてきた】


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「あっ、乃呑ちゃん気がついた?」


「愛佳……!? って近っ!!」


栗毛色の髪の少女は、ずっと気絶していたポニーテールの少女の顔を覗き込んでいた。


ポニーテールの少女は顔が真っ赤になっている。


「そっか、私意識を失って……野生の秘宝獣は?」


「黒城くんと一緒にいた、青い髪の人が捕まえてたよ」


「そう、ヴァルカンが……」


激しい激闘の末、青い髪は一つだけ持っていた銀色の秘宝を使い、リーフシードラの捕獲に成功した。


その後、彼らとパレットはこの島の御朱印を貰いに向かい、もう時期帰ってくる頃合だ。


「よかったぁ。乃呑ちゃん、急に倒れたから私すごく心配したよ」


パレットの時もそうだったが、栗毛色の髪の少女はずっとポニーテールの少女の介抱していた。


秘宝使いでも無く、天使でもない。ましてや別の世界から来た人間でもない、ごく普通の中学生。


パレットやポニーテールの少女には、『帰るべき場所』や『守るべき人』が存在するのだろう。

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