第13話 リーフシードラの罠

「おっ、いらっしゃい」


「……焼きそば一つ。それからソフトクリーム2つ」


「はいよ、600円と、400円2つで1400円だよ」


「高いッ! 高すぎるわッ!!」


「ヒィッ!?」


黒髪の少年の腰に付けている虹色の宝箱から、青い鳥がひょこっと顔を出して言った。


気押しされた屋台のオジサンはフライ返しを両手に持ったまま尻もちをつく。


黒髪の少年こと『黒城 弾』と、青い鳥こと『ピーちゃん』もまた、偶然にもパレットたちと同じ日にカイナン島を訪れていたのだ。


「焼きそばの原価なんて100円くらいでしョ!? ソフトクリームの原価だって、10円くらいのもんじゃないッ!?」


青い鳥はピィピィと早口で続ける。


「海の家だからって何してもいいのッ? こんなのぼったくりよッ! ソフトクリームじゃなく、ぼったクリーム・・・・・・・!!」


「ヒナコ、こういうのは雰囲気代みたいな……」


したは黙っててッ!」


「……」


「もういい、今日はアタシがこの店をキリモミするわッ!」


「そ、そんな~」


困り顔のオジサンを他所に、自己主張の激しい青い鳥は、海の家を一羽で制圧した。


「今から焼きそば100円ッ! ソフトクリーム10円ッ! イカ焼きもかき氷もあるわよッ!」


「100円!? マジか!!」


「やっすーい! 小鳥さん、焼きそば3つ下さい!」


「かき氷10人分! イチゴ味で!」


「アタシに任せなさいッ!」


こうして海の家を乗っとった青い鳥の采配により、安い・早い・旨いの三拍子が揃った海の家の商品は大盛況。


あっという間に完売した。


「ふぅ、みんな最っ高に喜んでたわッ! いいことした後って清々しいわねッ 」


青い鳥は翼で額の汗を拭う。


「……へー、すごいすごい」


黒髪の少年は無表情で、青い鳥にパチパチと賞賛を送っていた。


「ブツブツブツブツ……」


屋台のオジサンは海の家の隅で体操座りになり、何かを唱えていた。


来年からはきっと大人気の屋台になるだろう。原価そのままの海の家として……


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「あらッ? あれって乃呑ちゃんと愛佳ちゃんじゃない? それにパレットちゃんもいるわッ」


青い鳥は、海で遊んでいるパレットたちを発見した。そしてクチバシで黒髪の少年の服の裾を咥え、グイグイと引っ張る。


「アンタも混ざってきたらッ? 典型的な巻き込まれ主人公だしッ」


「あのな、ヒナコ……今から言うことをよく聞け」


「なによッ?」


「誘ってもいない相手がいきなり遊びに混ざろうとしてくることほど気持ち悪いことは無い」


「……あー、ホントだッ」


青い鳥は心底申し訳なさそうな眼で黒髪の少年を見つめていた。


渦潮うずしおだー」


突如、海で遊んでいた男が大きな声でそう叫んだ。


「助けてくれー」


海で遊んでいた男は、犬かきをしながらバシャバシャともがき助けを求めている。


「黒城ッ!」


青い鳥が名前を呼ぶ前に、黒髪の少年は誰よりも先に行動していた。


行け、黒城。


助けろ、黒城。


お前が真の主人公だ。


——ザッパーン


黒髪の少年は、勢いよく海へ飛び込んだ。


「こらー、飛び込み禁止って看板が見えないのかい」


黄色いメガホンを持ったパーマのオバチャンが、大声で叫んだ。


「もがもが……(すみません)」


「こんのアホンダラァ! 仕事増やすなぁ」


パーマのオバチャンはメガホンを投げ捨て、服も脱ぎ捨てヨボヨボでグラマラスな水着姿になった。


そして浜辺から助走をつけて海へ飛び込み、バタフライで黒髪の少年を追う。


絶対絶命の黒髪の少年。


あと少し……


あと少しで助けを待つ男のところまで手が届くのに、海流がそれを妨げる。


「おんどれぇ、待たんかい」


鬼のような形相で迫りくるパーマのオバチャン。「くっ……」黒髪の少年の顔が引きつる。


「ハーブ、『サウンドウェイヴ』!!」


甲高い超音波が、海全体に響き渡る。


超音波は波紋のよう広がっていき、男の溺れている渦潮をかき消した。


「黒城、あんたこんなところで何してんの……?」


「菜の花……」


ピンクのイルカの背に乗った紺色のスポーツブラのような水着姿のポニーテールの少女は、冷たい眼で黒髪の少年を見下ろした。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「おかしいな……」


「どうしたの、ヴァルカン」


川辺から戻ってきた青い髪の青年は、顎に手を当ててパレットと共に海の様子を眺めていた。


「この辺りの海流は普段とても緩やかだ。それゆえに人気の観光スポットとなっているはずなのだが……」


渦潮の発生源は、自然なものではなさそうだ。


青い髪の青年は腕を組み、目を閉じる。


「ちょ……ヴァルカン、あれ!」


「いきなり慌ててどうした……」


青い髪の青年が目を開くと、海上に巨大なタツノオトシゴのような生き物が現れていた。


「なっ……野生のリーフシードラ!?」


青い髪の青年は、秘宝を取り出して臨戦態勢に入る。


「知ってるの!?」


「ああ、捕獲難易度Bランクの秘宝獣だ。これは少々厄介だぞ」


捕獲難易度Bの秘宝獣ということは、以前遭遇した電磁甲虫エレクトロビートルと同等ということだ。


相性しだいではベスト8のエース秘宝であるAランク秘宝さえ打ち負かしてしまうほどの力を秘めている。


それがしも参戦する!」


「ちょっとヴァルカン!?」


青い髪の青年はテント付近を離れ、海辺へと走った。


海辺では既に、黒髪の少年とポニーテールの少女が、巨大なタツノオトシゴと交戦していた。


パーマのオバチャンは砂浜に打ち上げられている。


卿等けいら、手を貸せ。共にリーフシードラを迎撃する」


「……言われなくても」


黒髪の少年は、超巨大な鋼鉄製のゴーレム、R・M・G《レア・メタル・ゴーレム》の手のひらに乗り、指示を与える。 ゴーレムはその右鉄拳を力強く振るう。


「やってるでしょ……!」


ポニーテールの少女はピンク色のイルカに指示を与える。イルカの口からバブルリングが衝撃波として放たれる。


「ふっ……それは失敬だった」


青い髪の青年は金色の宝箱を開ける。


解放リベレイト! A–Z《エーゼット》!」


秘宝から赤いザリガニが飛び出す。


「おいあれ、『白銀の狩人』と『蒼界の使者』じゃないか?」


ポニーテールの少女の耳が、ピクンと反応する。


「うおー、本物のベスト8が2人も!」


「もう一人の黒髪のやつ誰だ? なんか強そうな秘宝獣使ってるけど……」


浜辺にチラホラと危機感のない野次馬が集まってきていた。


それに対して、青い髪の青年は、顔をしかめる。


「おい、危険だ近づくな! 白銀の、モードチェンジは使えるか? 一気に決着を……」


言いかけたところ、ピンク色のイルカに乗ったポニーテールの少女の顔は、燃え尽きた真っ白な灰になっていた。


「どうした、白銀の……しっかりしろ」


「ふふっ……白銀の狩人……可愛くない……あの実況者許さない……」


ポニーテールの少女はそのまま、ガクッと意識を失った。


「白銀のォォォ!!」


青い髪の青年は叫んだ。


「菜の花……」


「白銀の……」


黒髪の少年と青い髪の青年の目つきが変わった。


「「かたきは必ずとる!!」」


果たして次回、挽回なるのか!?

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